国土交通省北陸地方整備局能登復興事務所 橋梁の段差防止工にプレキャスト踏掛版を採用
国土交通省北陸地方整備局能登復興事務所は、輪島道路ののと里山空港IC橋および隣接する洲衛高架橋(下記工事箇所諸元参照、国土交通省能登復興事務所提供)で、国土交通省で初適用となる橋台と盛土の境目にプレキャスト踏掛版(コッター式)を用いた段差防止工を行っている(同プレキャスト踏掛版は、ガイアートが開発した「延長床版プレキャスト工法」で使われている『コッター継手』を用いた踏掛版である)。従来のプレキャスト踏掛版とは違い、パーツがいくつか分かれていて取り外しができる構造になっている。同タイプのプレキャスト版はもともとコストが現場打ちの約2.8倍と割高であったが、車道部の段差防止効果を確保しつつ路肩端部を砕石にしてサイズを統一化した結果、型枠製作にかかる費用など約4割程度のコスト縮減を可能にした。今後、寸法の標準化による型枠の転用が可能となれば、さらなるコスト縮減が期待される。また、部分的に取り外し可能であり、再度災害が生じても、通行させながら片交でも損傷部を取り替えられる柔軟性がある。継ぎ手もコッター継手を採用しており、現場打ちの作業がほとんどなく、養生時間も削減できることから工程も短縮できることが特徴である。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
既存踏掛版を撤去し、プレキャストRC構造(コッター式)の踏掛版に交換
地震により橋台背面の裏込め土が沈下、最小で10cm、最大では30cmの段差
のと里山空港IC橋と洲衛高架橋の上下線8か所で採用
今回の現場は、冒頭に示した通り能越道ののと里山空港IC橋と洲衛高架橋の上下線、A1、A2の8か所の既存踏掛版を撤去し、プレキャストRC構造の踏掛版に交換する工事である。既設の踏掛版は幅約10m×長さ約8m×厚さ50cm(のと里山空港IC橋A2橋台のみ長さ約5m)というサイズである。今次の能登半島地震では、既存踏掛版自体は損傷していなかったものの、橋台背面の裏込め土が沈下しており、最小で10cm、最大では30cmの段差が生じた。「隙間に土を埋める手法は工期が長くなり、交通への影響を考えると難しい」(能登復興事務所)ため、既設の現場打ちRC踏掛版を撤去し、生じた段差に再度盛土を構築して均し、その上にプレキャストRC構造の踏掛版を用いて段差防止構造を再構築する手法を採用した。
裏込め土の流失状況と沈下状況(能登復興事務所提供)
段差は最小でも15cm、最大では30cm生じていた(井手迫瑞樹撮影、以下注釈なきは同)
左は実際生じていた段差、これを右のように舗装で擦り付けて応急復旧していた(能登復興事務所提供)
現場打ちRC踏掛版に比べて工期を2カ月短縮
幅1.5×長さ8mのプレキャスト版を縦配置、コッター継ぎ手でつなげる
施工工程は以下の通りである。
まず、舗装を撤去し、コアドリルとロードカッターで踏掛版全体を1m真四角のサイコロ状に切断する。コアドリルはφ180mmの機械を1か所につき8台ほど使っていた。すなわち橋梁のジョイント側と左右の高欄側はロ―ドカッターでは際まで到達できないため、コアドリルで50cm全厚を孔明けし、それ以外の部分はロードカッターで切断していく。ロードカッターも1枚の刃では50cm厚全てを切断できないため、刃のサイズを何種類か変えて徐々に大きくしながら切断していった。切断には約3日を要した。
端部はコアドリルで切断
その他はカッターにより切断した
刃のサイズを何種類か変えて徐々に大きくしながら切断した
次いで撤去はバックホウで行った。端部はフックを付けられるような設備を踏掛版側に設け、吊り撤去し、それ以外はバックホウで抱え込む形(写真)で順次撤去していった。1ブロック当たり1t程度の重量を3t程度の能力を有するバックホウを用いて撤去しており、既設踏掛版1箇所あたり1日ですべてのブロックの撤去を完了していた。
既設踏掛版の撤去状況
撤去後は砕石を用いて路盤の修復、均しを1日かけて行い、プレキャストRC踏掛版を設置していく。プレキャストRC踏掛版の幅は1.5m×長さ8m(のと里山空港IC橋A2のみ5m)×厚さ30cm(のと里山IC橋A2部のみ24cm)でこれを6枚縦に敷設する。敷設後のプレキャスト版同士の継ぎ手はコッター継手を用いるため、ほとんど継手幅は必要ない。左右の路肩部は0.5mずつ開けるが、タイヤは載荷しないため、段差防止構造の阻害要因とならず、むしろ路肩を開けていることによって、「地震時に崩れている部分や空洞を横から視認でき、点検しやすくなるという利点がある」(杉本敦所長)ということだ。
設計で留意した点(能登復興事務所提供)
橋梁の伸縮装置部との隙間も広いところで幅3cmほどしかなく、そこはモルタルで埋めて、設置完了となる。プレキャスト版の敷設で半日、グラウトと注入で1日、その後の舗装で1日と、現場打ちのRC踏掛版に比べて「養生期間がいらない分、一か所(上下線1橋ずつ)に付き2週間、合計2カ月の工期短縮を図ることができ、交通開放の時間を早められた。これにより交通規制費を約2割縮減できている。また、型枠工や鉄筋工などが現場で不要なことから、省人・省力化にも寄与した。路肩を明けて良いという柔軟性があるため版製作時の型枠を統一でき、製作コストを大きく下げることができた」(元請のガイアート)としている。
工程と実際の工期短縮イメージ
プレキャスト踏掛版の製作状況
プレキャスト踏掛版の架設状況
継手はコッター継ぎ手を採用した
継手の締め付け状況とグラウト充填状況(能登復興事務所提供)
プレキャスト踏掛版の設置状況(両横の砕石設置前)
左右の隙間埋め戻し状況 / 踏み掛け版設置が完了し、舗装を敷きならした状況
とりわけ路肩の左右に隙間を許容するという冗長性と損傷部のみ交換できるという再度災害時における施工の容易さは、今後のプレキャスト踏掛版の設置拡大にとって大きなメリットとなりそうだ。
同タイプのプレキャスト踏掛版(コッター式)の施工実績は10件(NEXCO9件、その他1件)ある。また、別途NETIS登録されているプレキャスト踏掛版(CB-230028-A)は6件(国土交通省2件、その他公共機関3件、民間等1件)の施工実績を有している。
元請はガイアート。一次下請はカッターが堀川道路サービス、プレキャスト版の取付は大伸建設、カミナカ、クレーン工は米原商事。最盛期で元請側技術者3人、一次下請の技能者17人が従事した。