パシフィックコンサルタンツ むつざわスマートウェルネスタウンでの取り組み

パシフィックコンサルタンツ むつざわスマートウェルネスタウンでの取り組み
2026.03.13

BIM/DXを活用した維持管理・防災・運営の実践

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 近年、BIM/CIMやDXの活用は設計・施工段階を中心に進展してきた。一方で、完成後の運営や維持管理、さらには災害時対応といったフェーズにおいて、それらの技術がどのように活かされているのかについては、具体像が十分に共有されているとは言い難い。特に、長期運営を前提とするインフラ分野では、日常業務と非常時対応の双方を支える情報の持ち方が、重要な課題となっている。千葉県長生郡睦沢町に整備されたむつざわスマートウェルネスタウンは、道の駅を核に、住宅、防災、エネルギー、健康、子育て等といった複数の機能を重ね合わせた複合拠点である。PFI方式により、設計・施工から運営・維持管理までを一体で捉え、約20年にわたる長期運営を前提として計画・実装されてきた点に特徴がある。


 本事業では、開業直後に相次いで発生した台風対応を契機に、設計図面から構築した三次元モデルや、維持管理・運営状況に関する各種データの位置付けが見直された。災害時に現地へ容易に立ち入れない状況下で、どのように情報を把握し、判断を下すか。その経験を踏まえ、業務を理解した内部従業員主体によるDX推進体制を立ち上げ、三次元モデルを核とした施設管理支援システムの開発や、IoTセンサーを用いた運営データの活用に取り組んできた。本稿では、むつざわスマートウェルネスタウンの成り立ちと台風対応の実態を起点に、運営フェーズにおけるBIMDX活用の具体像を追う。施設管理にとどまらず、インフラ分野にも通じる視点が、現場の言葉としてどのように語られ、実装されてきたのかを整理する。

資料:むつざわスマートウェルネスタウン(株)

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むつざわスマートウェルネスタウン構想の背景と成り立ち

防災拠点としての実効性と、台風対応の現場

 千葉県長生郡睦沢町に整備されたむつざわスマートウェルネスタウンは、「道の駅むつざわ つどいの郷」を中核に、住宅、防災、エネルギー、健康、子育て等といった複数の機能を一体的に整備・運営する複合拠点である。2019年の開業以降、地域住民の日常利用に加え、災害時には防災拠点として機能するなど、平常時と非常時の双方を視野に入れたインフラ運営が行われている。

 本施設の計画は、睦沢町が長年抱えてきた人口減少や高齢化、地域内に明確な交流拠点が存在しないといった課題を背景に始まった。行政施設や商業機能、防災機能が分散していたことで、日常的な利便性に加え、災害時に住民が集まり支援を受けられる拠点が十分に整っていないという問題意識があった。

 そこで町が構想したのが、「日常的に使われ、非常時にも機能する拠点」である。単なる道の駅整備ではなく、直売所や飲食施設や温浴施設等による集客機能、防災拠点としての役割、さらに子育て世代の定住を促す住宅機能を重ねることで、平常時と非常時の双方で価値を発揮する施設を目指した。

むつざわスマートウェルネスタウンの住宅エリア


 事業方式としてPFIが採用されたのも、この考え方と深く関係している。施設を建設して終わりとするのではなく、約20年にわたる運営期間を通じて「どう使い、どう維持するか」を重視するため、設計・施工・運営・維持管理を一体で担う体制が求められた。初期投資だけでなく、将来の更新や運営コスト、利用の変化まで含めて検討された点が、本事業の大きな特徴である。

  本施設の取り組みが注目される契機となったのが、開業前後に相次いで襲来した台風への対応である。周辺地域では長時間の停電が発生し、交通網や通信にも大きな影響が出た。施設では、自家発電設備や電線地中化といった事前対策が機能し、電力供給を維持することができた。その結果、地域住民への給電やシャワー提供などの生活支援が行われ、防災拠点としての実効性が確認された。

 一方で、現場対応は決して容易ではなかった。最大の課題となったのが、現地の状況を正確に把握できない中で判断を迫られた点である。台風通過中や直後は、職員が自由に施設内を巡回できる状況ではなく、どの設備が正常に稼働しているのか、どこに異常の兆しがあるのかを即座に確認することが難しかった。外部からの問い合わせや支援要請が増える一方で、内部の状況を言葉や写真だけで説明することには限界があった。特に電気設備、給排水、温浴施設など、設備が複雑に絡み合う領域では、位置関係や影響範囲を正確に共有することが難しく、判断に時間を要する場面も少なくなかった。「設備自体は持ちこたえていたが、どこがどういう状態なのかを説明するのが一番大変だった。現地に行けない人に、言葉だけで状況を伝えることの難しさを強く感じた」と担当者は当時を振り返った。この経験を通じて、ハードの強さだけでは不十分であり、迅速な判断を支える情報基盤の重要性が強く認識されるようになった。

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設計段階で整備された三次元モデルの継承と再定義

「インフラ分野」への応用は可能なのか

 むつざわスマートウェルネスタウンでは、設計図面からLOD400相当の三次元モデルを構築していたが、必ずしも施設管理における日常業務で参照されていたわけではない。台風対応を経て、この三次元モデルは運営を支える情報基盤としての可能性が見出された。現地映像と三次元モデルを組み合わせ、オンライン会議を通じて関係者間で共有することで、設備の位置関係や系統を遠隔から把握できる仕組みがあれば、遠方にいる専門家がモデルを確認しながら助言を行い、現場スタッフが対応を進めるといった運用の可能性が実証された。三次元モデルは常時利用するためのものではなく、判断が求められる場面で確実に参照できる状態にしておくことが重視された。設計成果物を完成時点で終わらせず、運営・維持管理段階に引き継ぐという考え方が明確になったという。


オンライン会議を通じて設備の状況を関係者間で共有した(出典:澁谷 宏樹,小澤 一雅:”道の駅の施設管理のための統合プラットフォームの概念実証~むつざわスマートウェルネスタウンを対象として~”,令和3年度土木学会全国大会第76回年次学術講演会講演概要集,Ⅵ-825,pp.1-2,September 2021,優秀講演者表彰 受賞)


 三次元モデルの活用について説明が進む中で、記者が「こうした使い方は、施設管理に限らず、道路や橋梁といったインフラ分野でも活用できるのではないか」との問いを投げかけると、「日常の維持管理をすべて三次元で行うという話ではない。普段は図面や台帳で十分な場面が多い。ただ、災害時やトラブル時など、現地にすぐ入れない状況で判断が求められる場面では、立体的な情報があるかどうかで状況把握の質が変わる。これは建築施設に限った話ではなく、インフラ分野でも同じだと考えている」という。また、点検履歴や対応記録の扱いについては「紙や台帳として情報が整理されていても、位置関係を説明する必要がある場面では言葉や図面だけでは伝わりにくい。どこで、何が起きて、どう対応したのかを空間と一緒に、施設常駐者と非常駐者、専門家と非専門家の間で共有できることは重要だ。施設管理でもインフラでも変わらない」と説明した。


 台風対応で得た知見を踏まえ、三次元モデルと台帳情報を連携させた施設管理支援システムの開発を、オートデスク株式会社のソリューションプロバイダーである応用技術株式会社の技術支援を受けながら進めた。台風対応の経験を踏まえ、三次元モデルと台帳情報を連動させた施設管理支援システムの開発が進められた。本システムでは、施設や設備ごとに点検履歴、補修記録、トラブル対応内容を紐付けて管理している。すべての情報を網羅的に扱うのではなく、運営判断や対外説明、引き継ぎの際に参照頻度が高い情報に対象を絞っている点が特徴である。日常業務への負担増を避け、長期運営に耐える仕組みを目指し、入力項目を必要最小限に抑えている。


三次元モデルと台帳情報を連携させた施設管理支援システム 出典:澁谷 宏樹,小澤 一雅:” 未経験者による中規模組織のFM支援システム開発の評価”;土木学会論文集 F5 土木技術者実践,2024 年 80 巻 11 号


 こうした情報基盤の整備は、設備管理や業務効率化にとどまらず、施設全体のエネルギー運用や防災対応を支える基盤としての活用も期待できる。むつざわスマートウェルネスタウンでは、ガスコジェネレーションを中心としたエネルギー供給システムを構築し、太陽光発電および太陽熱と組み合わせることで、電気と熱を面的に供給している。地元で産出される水溶性天然ガスについては、ガス採取後に発生するかん水をガスコジェネの廃熱で加温し、温浴施設で利用する仕組みが採用されている。発電と熱利用を組み合わせた熱電併給により、地域産天然ガスを無駄なく100%使い切る運用を実現している点が特徴だ。

 同エリアは国の重点道の駅および防災拠点にも指定されており、非常時にはガスコジェネレーション設備と自営線によってエネルギー供給を継続できる体制が構築されている。自営線の整備にあたっては、託送料金の抑制効果などを踏まえた事業性評価が行われており、エネルギー供給の安定性確保とあわせて投資回収を見据えた計画となっている。また、自営線は景観向上と防災性向上の観点から、すべて地中化されている。エネルギー運用面では、供給側のエネルギーマネジメントにより系統への逆潮流を発生させない制御が行われている。加えて、需要側でもエネルギーマネジメントを行うことで、外部からの受電を最小限に抑え、エリア全体としてのエネルギー自立性を高めている。地域資本による新電力が、熱電併給を前提とした面的エネルギー供給を行う国内初の事例とされている。


ガスコジェネ発電機


 そのほか、「道の駅むつざわ」では、レストランや温浴施設における環境センサーの活用が行われている。飲食機能を担うレストランでは、CO₂濃度、温度、湿度、窓の開閉状況を計測する環境センサーが設置されており、換気や空調運用の判断材料として活用されている。混雑状況や時間帯に応じた環境調整(特にコロナ禍)に役立てられており、数値を監視すること自体を目的とするものではなく、店内の状況を把握するための材料として使われている。温浴施設では、浴室や脱衣所の温度・湿度、設備稼働状況を把握するためのセンサーが設置されている。これらのデータは、冬場のヒートショックの抑制と換気のバランス確保など、利用者の快適性確保に加え、設備異常の兆候を把握するための指標として活用されている。「温泉施設は設備が多く、トラブルが起きたときの影響も大きい。異常の兆しを早めに把握できれば、対応を前倒しできる。すべてを自動化するのではなく、判断材料として使うことを重視している」と施設の担当者はいう。さらにIoTの活用についても「センサーの数値だけで判断を完結させる考え方は取っていない。現場が状況を把握し、対応を判断するための材料として使っている。異常の兆候を早めに把握できれば、対応の選択肢が増える。すべてを自動化するのではなく、判断を支える情報として使うという考え方は、インフラ分野でも共通する」と説明した。

むつざわ道の駅の内製された施設管理支援システムの一部(出典:澁谷 宏樹, 小澤 一雅:FM支援用IoTシステムの内製開発の効果,土木学会論文集,81 巻 (2025) 10 号〔https://doi.org/10.2208/jscejj.24-00114〕)


レストラン「Trattoria Due」内観と設置されたセンサー


むつざわ温泉つどいの湯の露天風呂施設写真と脱衣所に設けられたセンサー(資料:むつざわスマートウェルネスタウン(株))

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内製化を前提としたDX推進という判断

運営現場にもたらされた効果と変化

 本事業におけるDXの大きな特徴が、“できることは自分たちでやる“という内製開発の考え方も取り入れた推進体制である。システム構築やアプリケーション整備のすべてを外部ベンダーに委ねるのではなく、施設運営を理解する担当者が主体となり、必要に応じて外部の専門的支援を受けながら、要件定義は自ら行ってきた。また、簡易なIoTシステムやデータ分析アプリは自分たちのみでアジャイル的に開発してきた。

 この判断の背景には、PFI事業として約20年にわたる長期運営を前提としている点がある。運営期間中には、利用状況の変化や設備更新、制度改正などに伴い、業務内容や管理方法が変化することが想定される。そのたびに外注による改修を行うと、調整コストや時間的ロスが生じ、現場の改善スピードが低下する懸念があった。「最初から完成形のシステムを作ることは考えていなかった。運営していく中で、使いにくい点や不要な機能が必ず出てくる。そうした改善を自分たちで回せる体制を作ることが重要だった」と担当者はアジャイル開発や内製開発の可能性について述べた。内製開発といっても、すべてを自前で開発しているわけではく、基盤部分や専門性の高い領域については外部の知見を活用しつつ、日常業務に密接に関わるアプリケーションやデータの扱い方については内部で調整・改善を行っている。「現場で使われない仕組みを作っても意味がない。実際に使ってみて、必要なものだけを残していく。そのためには、手を動かせる人間が中にいることが重要だ」と担当者は話す。

これらの取り組みにより、業務効率化や省エネルギーといった定量的な効果が確認されているだけでなく、運営現場の意識にも変化が生じており、新たな課題に対してもICTを活用しようとする発想が現場から生まれている。

 むつざわスマートウェルネスタウンの取り組みは、道の駅という一施設の事例にとどまらない。三次元モデルを設計成果物として終わらせず、運営・維持管理や災害対応まで含めて活用するという考え方、センサーを判断材料として用いる姿勢、内製開発の考え方を取り入れたDX推進体制はいずれも、インフラ運営に共通する課題に向き合った実践である。BIM/DXの価値は、導入の有無ではなく、完成後にどのような情報が残り、誰がそれを使い、次の判断につなげられるかにある。むつざわスマートウェルネスタウンで積み重ねられてきた実践は、運営に根差した取り組みとして、土木分野のインフラ運営にも通じる示唆を含んでいる。


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