NEXCO西日本 高知道仁淀川橋耐震補強で既設支承を残置しつつ新設支承を設置

NEXCO西日本 高知道仁淀川橋耐震補強で既設支承を残置しつつ新設支承を設置
2024.08.29

最大3.91倍に達する耐震不足の超過を解消

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NEXCO西日本 WJ 耐震補強
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 西日本高速道路は、高知自動車道仁淀川橋他5橋の耐震補強を進めている。中でも四国有数の大河を跨ぐ仁淀川橋は鋼5+6径間連続箱桁(上下線合わせて2箱構造、床版はRC)であり、橋長は907mに達する。桁下が仁淀川であり桁下に足場が作れず、暫定2車線の橋梁であることから、耐震補強に必要な資材は全て路面上から吊り降ろさねばならないため、そうした作業は高知自動車道高知IC~須崎東IC間の夜間全面通行止時に施工している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)



補強一般図(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

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橋軸直角、橋軸方向とも許容変位量を超過、最大で3.91倍

中間支点部には水平力分担構造を設置、端支点部は支承を取替

 同橋は平成14年9月に供用された。設計道示は平成2年であり、阪神淡路大震災の知見が反映されていない橋梁である。橋脚数は12基(P19が架違い部のため、支承線は13)あるが、耐震補強は今回が初めてである。既設橋を現行の基準に合わせて照査した結果、橋軸直角、橋軸方向とも許容変位量を超過する部分があった。P20~P23の4基については、橋軸方向の残留変位が最大1.07倍を超えており、他の7橋脚についても直角方向の水平力が許容耐力を超える状況にあった。また、全支承で橋軸方向の支承変位量が桁の移動可能量を超えている状況も確認され、最大のP19では3.91倍に達していた。

 上記のような耐震性能の不足を補うため、P14(隣接RC橋との)架違い部、P19(鋼桁同士の架違い部)、A2(端部、隣接は盛土部)の性能をP14で5,000kN(現行4,620kN)、P19、A2で4,000kN(現行3,600kN)と1割程度許容耐力を向上させた(4支承線8基)新しい支承を配置することにした。新しい支承にはスライディングプレートを設置しており、橋軸方向に300~400mm移動できるようにした。


支承取替図(P14橋脚)


 また、本橋では中間支点部の支承について水平力分担構造を設置することで可動から固定に変えた(9支承線36基(上下線2基ずつ))。水平力分担構造は横河ブリッジの鋼製ストッパーを、前後に支承を挟む形で設置している。

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鋼製ブラケットを設置して新しい支承を設置

既設塗膜はがしには塗膜剥離剤(ペリカンリムーバー)を使用

 通常、既設橋の支承を取替える場合は、ジャッキアップして既設支承を撤去し、そのスペースを改良して新しい支承を挿入して設置する。しかし、桁下と橋脚天端間のクリアランスが最小で300mmと極めて狭いことから交換を断念し、鋼製ブラケットを橋脚の前後に設置し、その上に新しい橋軸方向可動ゴム支承を設置した。既設支承は残置する。新しい支承の部材高さは200mmであるため、鋼製ブラケットの上にさらに高さ調整用の台座を設置し、その上に支承を置く構造にした。上側の支承と桁は鋼桁の内部からボルトで止める構造としている。


残置する既設支承(右および左写真奥と新設支承(左写真))(井手迫瑞樹撮影)

水平力分担構造(井手迫瑞樹撮影)


 また、水平力分担構造は、中間支点部の前後に、支承取替と同様に鋼製ブラケットを設け、鋼製ストッパーをその上に置き、桁と縫い付けて固定する。鋼製ストッパーと下部工ブラケットのボルト接合は温度による伸縮量を想定し、下部工側のボルト孔を現場で明けることにした。孔明時期もずれを最大限防ぐため、鋼製ストッパーを取り付ける直前とし、ずれや孔明の再施工を防いだ。


鋼製ブラケット(井手迫瑞樹撮影)


 新しい支承、水平力分担構造を設置する部分は、それぞれ設置部周辺の桁を補強した。こうした取り付け部材や添接部などの施工を行う際は、既設塗膜を剥がす必要がある。既設塗膜は鉛を含んでいることが確認されたため塗膜剥離剤(ペリカンリムーバー)を使用して塗膜を剥がし、2種ケレンを施したうえで部材を取り付けた。


支承取付け前状況(井手迫瑞樹撮影)


 免震的な補強を施したことで、主桁や橋脚部の補強は不要となっている。

1,310本ものアンカーでブラケットを設置

鉄筋の損傷を防ぐため約200本はWJで削孔

 本現場の施工の際、一番難しかったのが、ブラケットのアンカーボルト設置工と路面からの部材搬入である。アンカーボルトを挿入するために既設橋脚に削孔する必要がある。ブラケットは最大5.5tに達するため、アンカーボルトはD51を用い、削孔径は61mmとした。事前に電磁波レーダー(SIR-EZ)を用いて鉄筋位置を調べた上で、基本的にはダイヤモンドコアで削孔した。


コア削孔状況


200本ほどはWJを用いて削孔した


 しかし、1つのブラケットで29~48本のアンカーボルトを設置しなければならず、これが36基、全体では1,310本に達する。どうしても電磁波レーダーでは確認することのできないラップしている鉄筋などもある。施工までにはアンカーボルトの座標計測に写真撮影データをCAD図面に出力させるソフトを使用し、計測ミスの解消に努めたが、それでもコア削孔による損傷・切断を防ぐため、「約200本は日進機工の固定式WJを用いて削孔した」(ショーボンド建設)。

 アンカーボルトを定着させる際には、鋼製ブラケット孔と同位置に孔明けしたコンパネを作成してアンカーボルトを固定し、そのずれを防いでいる。

河川部の部材搬入はラフタークレーンを用いて夜間吊り降ろし

足場はクイックデッキを採用

 路面からの部材搬入は、直下にクレーン足場を設けられない河川内橋脚の施工時にのみ夜間全面通行止時に行った。夜間全面通行止めは春と秋の年2回実施される高知道リフレッシュ工事にタイミングを合わせた。記者が今回取材した支承取替は、河川内橋脚においては、5月末~6月20日までの20夜間を夜間全面通行止めして行い、スムーズに施工することができた。「高知IC~須崎東IC間は交通台数1万台弱(大混率は10%)であることや、並行する国道56号があるため、交通の切り回しについても特段配慮する必要はないと判断している」(NEXCO西日本)ということだ。


夜間施工状況①(鋼製ブラケット)

夜間施工状況②(左2枚は鋼製ブラケット設置状況/右2枚は鋼製ストッパー仮置き状況)

夜間施工状況③(左2枚は支承設置状況/右2枚はダイアフラム設置状況)


 部材搬入には、部材の最大重量が5.5tであることに対応して、吊り能力13~25tのラフタークレーンを用いて吊り降ろした。足場内にはギアトローリーを設け、横引きして設置した。夜間施工であることを鑑み、本線上からの部材搬入・設置に当たっては最大限の照度確保に努めて施工している。

 P14やA2などの高水敷では、昼間施工が可能である。直下からクレーンで部材を吊り上げ、その後は同様にギアトローリーにより横引きして設置した。


昼間部材取込状況


 現場の作業用吊り足場は、日綜産業の『クイックデッキ』(搭載荷重350㎏/m2)を使用した。仁淀川という大河を渡河する橋梁であるため、下道からのアクセスや本線規制が限られていること、補強部材や仮設材などの重量物を足場上に載せる必要があること、設置する補強部材も最大2.5mに達するためだ。


クイックデッキ設置状況


 クイックデッキは、「吊りチェーンピッチが比較的広く、規制が不要で人力施工ができ、施工しながら拡幅が可能」(同)。橋脚周辺の足場は前後に補強部材が設置されるため、脚を加工用にコの字型に設置した。クイックデッキの足場面積は全体で1139m2に達している。

 6月末までにメインの支承や水平力分担構造の設置については、ほぼ完了している。これからは添接部などの塗り替え塗装と、検査路の設置、鋼製ストッパーの調整を行ったうえで、足場を解体していく。

 夏場の施工のため、熱中症対策には意を砕いた。現場休憩所および規制内工事車両には飲料水や塩分(飴など)を常備することはもちろん、廉価熱中症対策自動販売機の整備、休憩所へのエアコン配備、大型扇風機、空調服、冷却スプレーの活用などのハード対策のほか、ソフト対策として現場の気象状況(WBGT)を適切に把握、熱中症予防情報メールサービスやスマーフォンアプリなどを活用し、朝礼・昼礼・作業中に休憩や水分補給を促している。

 仁淀川橋の現場では最盛期(支承取替時)で34人が作業に従事していた。

 設計は日本構造橋梁研究所。元請はショーボンド建設。一次下請は来栖工業(足場工)、愛媛カッター工業(コンクリート削孔)、ツノ工業(アンカー工)、黒潮興業(水平力分担構造)、宝永(支承取替工)。

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