広島市 環境や観光船に配慮しつつ平和大橋を塗替え
広島市は中区の平和記念公園の東側、元安川渡河部に架かる平和大通りの一部を成す平和大橋の塗り替えを進めている。直下は宮島と平和記念公園を行き来する観光船が通るため、航路を確保する必要があり、4径間のうち2径間ずつの施工となる。同橋は1952年に供用された一等橋の単純鋼鈑桁形式の橋としては、戦後初の全溶接橋であり、全溶接での一等橋としては、恵川新橋(広島県大竹市)に続き日本で2例目の橋である。橋上はイサム・ノグチ氏がデザインした高欄や飾り柱があり、原爆で焼失した旧橋、そして広島、ひいては日本の平和を祈念した橋でもある。一方で既設塗膜からは有害物質である鉛や低濃度のポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」。)が検出されており、低濃度ポリ塩化ビフェニル廃棄物は「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」により、2027年3月31日までに処分しなければならないため、安全かつ廃棄物を減らす形で撤去するべく循環式ブラスト工法を採用している。その塗替えの現場を取材した。(井手迫瑞樹)
特徴的な高欄および飾り柱 人や車がひっきりなしに通る(井手迫瑞樹撮影)
塗替え対象面積は3,710㎡ 膜厚は700から最大で1,000μm
循環式ブラストを採用
同橋の橋長は85.55m、最大支間長21.35m、最大幅員16.6mの4径間単純6主鋼鈑桁橋で、塗替え対象面積は3,710㎡である。広島市の平和記念公園の東側に位置しており、断面交通量は30,175台、大型車混入率は4.5%(令和3年度全国道路・街路交通情勢調査)に達する重要橋梁である。
平和大橋(現在は右岸側に足場が架かっている)(井手迫瑞樹撮影)
構造的な特徴として、「鈑桁の下フランジの下にもう一枚の板が溶接されており、板厚は各支間の中央部に向けて厚くなっている」(元請の大政建設工業)。同橋の既設塗膜内の有害物質含有量は鉛が2.3㎎/kg、PCBが1.0mg/kgに達していた。また、膜厚は700から最大で1,000μmに達していた。
有害物質があり、かつ膜厚が厚い。そうした条件を満たすため、本橋では循環式ブラストを採用した。膜厚が薄い場合は塗膜剥離剤の使用も考えられるが、本橋は厚い既設塗膜に対応しつつ、非出水期内の短い工期で塗り替えを完了させるべく同工法を採用したものだ。
循環式ブラストの設備(井手迫瑞樹撮影)
循環式ブラストは耐摩耗性の高い金属系研削材を使用し、ブラストによって剥離させた塗膜くずと使用した研削材を共に回収し、両者を選別したうえで研削材を循環再利用するブラスト工法である。研削材を循環再利用することで、その量に相当する産業廃棄物の発生を抑制し、環境負荷の低減を図ることができる。ブラスト時に発生する粉塵も最小限に抑えられるのが特徴だ。
1次ブラスト(塗膜除去ブラスト)1日当たりの施工面積は60~70㎡
ブラスト施工時の粉塵などの場外への漏出は絶対に防ぐ
施工体制は1基2ノズル。1次ブラスト(塗膜除去ブラスト)1日当たりの施工面積は60~70㎡であり、一次ブラストを1径間完了後、2次ブラスト(ジンク施工が4h以内にできる範囲1回あたり300~400㎡)を施工し、ジンク以降の塗替え塗装を施す、ということを繰り返していく。
ブラスト施工状況写真(大政建設工業提供)
回収状況写真(同)
ブラスト施工完了状況写真(同)
同橋を施工するに当たって、課題となるのが安全性である。地上は平和記念公園へ行き来する通行人が常時沢山いる状況である。そのため、ブラスト施工時の粉塵などの場外への漏出は絶対に防がねばならない。一方で、(同橋建設以降に新設した)歩道部との高低差や、高欄の形状・材質を考慮した吊り支点の設置や養生が必要である。そのため、「角板で高低差が生じている部分などをある程度閉めた後、さらにエコクリーンシートを用いて吊り支点部なども包む形で密閉したうえで養生を行い、外部への漏れを防いだ」(同)。
足場内の密閉状況
「角板で高低差が生じている部分などをある程度閉めた後、さらにエコクリーンシートで密閉
場内で作業する労働者は、必ず送気マスク型のエコクリーンスーツを着用したうえで施工し、ブラストにより発生する粉塵から守る形で施工を行っている。また、集塵装置を設置し、場内全体を15分に1回完全換気し、安全性と施工性の向上に努めている。
広島湾の満干の影響を受ける汽水域 水面高が約3mも変化
作業クリアランスは約600mm
一方、場内に入ると下フランジ下面から足場までのクリアランス(600mm)が厳しい状況である。同橋は広島湾の満干の影響を受ける汽水域にあり、水面高が約3m変わる状況にあり、「足場底面と水面とのクリアランスは想定される満潮時の最大水面高よりさらに430mm程度設けなくてはならない」(同)。そのため、足場内の作業高も抑制されることになっている。
作業高も抑制
また、作業ヤードに乏しいのも本現場の特徴である。左岸側は作業ヤードが確保できないため、右岸側の平和記念公園側に作業ヤードを確保しているが、それも観光客の通行を阻害しないよう、もしくは原爆関連のモニュメントを隠さないようにするため、限定されている。「資材運搬や朝夕の作業員の車両の入退出を安全に行っていくことも非常に苦労していることの一つ」(同)ということだ。
現在は6月10日までの非出水期内に右岸側2径間を塗替えるべく工事を進めている。次の非出水期の10月末からは左岸側2径間の塗替えを行う予定だ。
元請は大政建設工業、一次下請は宮本塗装工業、二次下請は真和塗装工業、三次下請は日本サミコン、YPC、ライジング-a。