日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会 施工実績は昨年度比17%増の476,977㎡

日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会 施工実績は昨年度比17%増の476,977㎡
2025.08.28

名古屋で中間報告会を開催

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防食
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 143社・1団体の鋼橋を主とした鋼構造物の塗膜除去およびブラスト施工を行う組織が加盟する日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会は、22日、名古屋市のANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋で中間報告会を開催した。会員会社74社100人が出席した。同工法の2024年度の施工実績は昨年度比17%増の476,977㎡に達した。(井手迫瑞樹)

私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。 鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。

『ショットピーニング』工法を循環式ブラストと融合させながら、防食+疲労対策を行える工法として提案

協会設立10年の節目 会員のいない都道府県は残り2県に

『ショットピーニング』工法を循環式ブラストと融合させながら、防食+疲労対策を行える工法として提案

 令和7年度上期事業報告・下期事業予定などのほか、令和6年度施工実績、ベトナム技術訓練学校経過報告及び配属状況報告、循環式ブラスト機の鉛専用機・PCB専用機の区別(識別)の徹底、PCB措置法に基づくPCB廃棄物の処理に関する対処について、各会員のPCB専用機保有台数の報告、ベトナム人実習生の配属後の現状報告などが行われた。

 特別講演は、木下幸治・福岡大学教授が『循環式ショットピーニング工法について』というテーマで話した。

 山田博文会長(右写真、井手迫瑞樹撮影)は冒頭のあいさつで、「当協会は今年度から10期目を迎えた。また、(前身的な組織である)循環式エコクリーンブラスト研究会設立からも15年を迎えた。ごみを減らして世界を変えるという志のもと循環式ブラスト工法を拡げてきたが、会員の皆様のご尽力もあり、47都道府県のうち、会員がない都道府県は2県を残すのみとなり、全都道府県で施工実績を積み上げることができた。工法開発以前は砂を用いたブラストを主に使っていたが、こんなことではブラスト施工時における建設廃棄物の発生は抑制できないと考えたのが開発のきっかけであった」と述べた。さらに「建設廃材の削減や廃棄物処理法について、最重要テーマとなっている廃棄物の排出抑制にどれだけ寄与できるかということを追求してきた。開発時に特許フリーを選択したことで工法の全国普及が促進された。類似工法も出てきたが、ごみを減らすという観点からすれば、貢献していると好意的にとらえている」と語った。

 その上で、「我々はパイオニアとして、廃棄物を抑制しつつ高品質のブラストを提供できるように、140社を超える会員の皆様と団結していきたい。そして、さらなる普及・工法の標準化、技術の向上、顧客に対する信頼性向上に努めていきたい。さらに、他工法との差別化として「橋をたたいて強くする」『ショットピーニング』工法を循環式ブラストと融合させながら、防食+疲労対策を行える工法として提案していきたい」と語った。
 
 また、その後に行われた今年度の施工実績報告では、施工実績件数は374箇所に及び、上位10箇所で363,275㎡に達する一方、小規模な現場においても多数施工され、普及が着実に進んでいることが明らかとなった。


循環式ブラスト施工例(養生足場設置、実際のブラスト工、ブラスト材の回収状況)

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施工実績件数は374箇所、小規模な現場でも採用実績増加

順調に進むベトナム人実習生の受け入れ 今後は技能実習から特定技能への在留資格の移行も

 また、その後に行われた今年度の施工実績報告では、施工実績件数は374箇所に及び、上位10箇所で363,275㎡に達する一方、小規模な現場においても多数施工され、普及が着実に進んでいることが明らかとなった。

 ベトナム技術訓練学校経過報告及び配属状況報告については、今年6月までに6期生68人の配属を完了、さらに7期生を9月、8期生を12月にそれぞれ14人ずつ配属し、その後の配属計画も着々と進めていることも報告された。

 新入社員は施工会員6社が加盟した。加盟社は、有限会社中川塗装店(代表取締役 中川 好幸氏)、株式会社サトウ塗工社(代表取締役 佐藤 慎一氏)、株式会社宮下塗装店(代表取締役 宮下 昭造氏)、信州建装株式会社(代表取締役 江取 研二氏)、矢木コーポレーション株式会社(代表取締役 矢木 健一氏)、鹿島工業(代表取締役 小山 永司氏)。

 さらに会員会社である岐東建設の鑪(たたら)氏(左写真、井手迫瑞樹撮影)から、ベトナム人実習生の受入れ状況報告も行われた。

 同協会では「慢性的な人手不足の解決策の一つとして、現地に開設されたブラスト技術訓練学校で訓練が終わったベトナム人技能実習生を採用しているが、同社では社長が現地に足を運び、面談を行った上で24年、25年に2人ずつ採用した」(同社)。

 採用後は、現場でのOJT、毎週1回の語学講師を招いた日本語学校の勉強を行い、作業に必要な用語や日常会話による意思疎通ができるようにし、現場での即戦力化を図っている。

 また、実習生は、橋梁塗装工事におけるブラストの養生、実際のブラスト施工、ブラスト材の回収作業、刷毛やローラーでの塗替え施工、材料作成など幅広い工程を担当しており、さらに鋼橋塗替え工事が無い時も、炭素繊維シート貼り付け工、アスベスト除去工などについて適切な指導を受けながら、技術の研鑽に努めている状況などを説明した。特にブラストについては、「各工程の特性を把握し、除錆度、表面粗さなど良好な品質を残す成果を齎している」(同)と現状を語った。

 課題もある。複雑な言葉が通じないゆえの安全対策については、シンプルな表現をできるだけ追求し、さらに実際の動作を交えて指導することで、安全意識の向上に努めている。

 「今後は、経験を積み重ね、技能実習から特定技能への在留資格の移行を考えてもらい、将来的には現場の中心的な存在として、さらには帰国後は人材ネットワークの要としても絡ませていきたい」(同)考えだ。

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循環式ブラスト装置、研削材においては、稼働中の装置はPCB廃棄物に該当しない

スチールグリットやホースは基準値以上の数値が出ればPCB廃棄物として処分

 PCB措置法に基づくPCB廃棄物の処理に関する対処については、2027年3月31日に処理期限が迫るPCBを含有した塗膜についての対処について、報告がなされた。処理期限近くになると処理施設も混雑し、処分費も高くなることを踏まえ、 PCB汚染機器の清掃・洗浄処理の必要期間を発注者に伝えることの重要性についても言及した。

 PCB処理の最終段階として、循環式ブラスト装置、研削材においては、稼働中の装置はPCB廃棄物に該当せず、廃棄物処理法の適用外であることを環境省や各自治体に確認済みであり、同様にスチールグリットもPCB汚染物ではないことを確認している。

 一方で、ダスト回収装置のフィルターは、最後の現場において発注者がPCB廃棄物として処分する必要があることや、装置本体は、ノルマルヘキサンで拭き取り清掃後、表面拭き取り試験をセパレータ、ホッパータンク・CSVタンク・ダスト回収装置・ダスミックで行い、確認することが必要であること、スチールグリットやホースは、清掃後に含有量試験を行い基準値以上の数値が出た場合は、PCB廃棄物として処分する必要があることが示された。

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『循環式ショットピーニング工法について』、木下教授が論じる

耐疲労性の等級を1~2等級向上させ得る

 特別講演は、『循環式ショットピーニング工法について』、木下教授が論じた。

 木下教授(右写真、井手迫瑞樹撮影)は、循環式ブラスト工法の他団体にない付加価値技術であり、橋梁の疲労対策としてのショットピーニングを中心に、現場適用状況、メカニズム、品質管理、実証データ、経済性、今後の展開などについて現状を論じた。

 まず、ショットピーニングについて、表面に機械的打撃を多数与え、表層に圧縮残留応力場を形成することで、圧縮場がき裂の発生を抑制し、またはき裂進展を遅延・停止するのがピーニングの効果であり、その圧縮残留応力が導入される原理は分かりやすく示すと「群衆に人が割り込むと周囲が押し合い圧縮され、圧縮の場が形成されることを思い浮かべればよい」と述べた。 また、「同工法は、耐疲労性の等級を1~2等級向上させ得るため、既存疲労に対して不適格な鋼橋であっても、現在基準以上の疲労性能へステップアップすることが可能である」と語った。ただし、品質をきちんと管理するためには必要な深さまでの圧縮場形成を行わなくてはならず、その品質を確保するため事前にピーニング材の投射角度や離隔を細かく確認しておく必要があり、そのため、「実験ではハイスピードカメラで投射時の速度・角度など当たり具合を可視化し、溶接止端等への確実な投射の検証・最適化を行った。」と述べた。


ショットピーニングの施工状況

ハイスピードカメラで投射時の速度・角度など当たり具合を可視化


 さらに、「疲労亀裂は溶接部等の部材形状が変化している応力集中する箇所に生じやすく、繰返し荷重下で成長する。溶接部周辺では、微小な亀裂が発生し、幅方向・深さ方向に半楕円状に進展するが、目視が難しいマイクロスケールで発生するものであり、可視化された段階では既に危険域に達している場合が多い」ことを話した。今後、疲労亀裂が可視化できる程度に成長する前段階に予防保全として同工法を施工することで耐疲労性が飛躍的に向上することを示した。

 その上で、品質管理された循環式ショットピーニングにより、実際の橋梁の現場で「極めて高い耐疲労性が必要な航空機品質」に匹敵する耐疲労性を実現する圧縮残留応力場の付与が可能であり、施工後8年間の追跡調査でも圧縮残留応力の持続を確認し、長期の疲労寿命向上効果を実証されたことが述べられた。具体的には、携帯型X線残留応力測定により、表層から0.5mm程度までの圧縮場を確認し、表面近傍0.1から0.2mmでは-300~-400MPa規模の圧縮残留応力を付与し、鋼材降伏域相当の強い圧縮場を形成すると共に、施工から8年後に同部位をX線で残留応力分布を計測し、深さ方向の圧縮残留応力分布が概ね維持されていることを確認した。

 木下教授は、「溶接欠陥が起きていない条件では更に大きな、耐疲労性の向上も期待できる。まずは、塗替え施工時に、疲労亀裂が生じやすいところに対して、目視や磁粉探傷試験などを行い、極めて早期の劣化、あるいは起きてなくても、疲労損傷の可能性がある所は、積極的に本工法を提案し、腐食だけでなく、疲労にも対応することが予防保全の観点からは望ましい。循環式ブラストを基にした循環式ショットピーニング工法の開発は、世界的に見ても我が国発のオンリーワンの技術である」と語った。

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