静岡県 日掛大橋 最小曲線半径が60m、最大縦断勾配7.5%の桁を架設
静岡県が事業を進めている国道362号本川根~静岡バイパスの中山間地(榛原郡川根本町富士城地内)に建設中の日掛大橋(仮称富士城11号橋)は、橋長219.0m、最大総幅員9.896m、鋼重784tの鋼4径間連続曲線箱桁橋で、最小曲線半径が60m、最大縦断勾配7.5%という特徴を有する橋梁である。また、床版厚にも特徴があり、A1~P2・P3間の途中までは190mm、P2・P3間の途中からA2までは540mmという厚さになっている。現在は桁架設を終えた段階でこれから床版工の施工に入ってくる状況である。その現場をお届けする。(井手迫瑞樹)
カウンターウェイト代わりにA2端部側の床版厚を厚くし、桁内部にもコンクリートを充填する
国道362号本川根~静岡バイパスの中山間地
橋脚高も高く最大のP1で53mに達する
現場は険しい山の中にある。未供用の馬路トンネルを経ると、いきなり勾配がきつい道路が現れ、その先に建設中の日掛大橋がある。線形は、A1側右斜面をさける必要があり、A1~P1は外側にR=160m、そしてP1~A2は内側にR=60mという複雑な線形を有している。さらに縦断が7.5%もの勾配、横断は3~6%(6%部はP1・P2径間途中からA2まで)の勾配を有している。その高さを稼ぐため、こうした曲線が必要になっている。

未供用の馬路トンネル(井手迫瑞樹撮影)

A1~P1は外側にR=160m、そしてP1~A2は内側にR=60mという複雑な線形
(井手迫瑞樹撮影)

A1~P2、P2~P3、逆側から見たP1橋脚前後、曲線も横断勾配も複雑だ(井手迫瑞樹撮影)

A2側から見た日掛大橋曲がって下っている(井手迫瑞樹撮影)
谷間に架かる橋梁のため、橋脚高も高い。最大のP1で53mに達する。そのためベント高も高く、最高地点で43mの高さに設置し、仮桟橋(エムオーテック)を構築していた。上部工にとって幸いなことに仮桟橋は下部工施工時に建設されており、上部工としては新たに仮桟橋をつくる必要はなかった。

橋脚高はとても高く、桁を支えるベントもかなりの高さまで建て込む必要があった(井手迫瑞樹撮影)
P3-A2間のみ著しい不等径間
P3-A2で端部が外側に浮き上がろうとする負反力
さて、上部工の施工である。径間長はA1側から56.5m、65m、66m、29.15mとなっており、P3-A2間のみ著しい不等径間となっている。これがのちに大きく効いてくる。

日掛大橋橋梁概要 P3-A2間のみ著しい不等径間となっている(髙田機工提供、以下注釈なきは同)
さて、曲線桁の場合、通常は外側に倒れようとする力が働く。そのためスパンごとのキャンバーも外側に倒れようとする力が働く。その結果、本橋ではP2-P3間の一部にねじれが生じる。具体的にはP2-P3間の外側の桁が沈もうとする力が働き、その力が跳ね返って、P3-A2で端部が外側に浮き上がろうとする負反力が生じる。そのため、それを抑え込むカウンターウェイトが必要となる。
その一部が冒頭に記した540mmという通常は必要ない床版厚である。さらにこの床版厚だけでは負反力を抑え込めないことが明らかであるため、A2側(端部から15mまで)のG1桁箱桁内にさらに充填コンクリートを打設し、負反力を抑え込む手法を採用した。箱桁内部に打設するコンクリートは下部の800mmは全幅(1,800mm)で充填する一方、その上面の750mmは中央部の600mmを開ける形で両側に打設し、メンテナンス時の通路を確保している。また、P3-A2間の桁高は横断勾配に合わせてG1側(外側)を2,610mm、G2側を2,250mmとし、G1側を高くし、路面の水平性を確保している。また、A2側支承は、よりG2の外側に反力がかかることを解析し、支承位置を外側にずらした。

A2側支承は、よりG2の外側に反力がかかることを解析し、支承位置を外側にずらした(井手迫瑞樹撮影)


桁内部への充填コンクリート打設状況(中、右写真は井手迫瑞樹撮影)
さて、床版厚を厚くし、桁が下に逃げる構造とし、負反力を抑えられる反面、その力は桁と打設するRC床版に剥がれる力が懸かるということになる。そのため、スタッドのピッチを220mmと通常よりも100mm程度短くしている。

補強断面図および平面図

スタッドのピッチを220mmと通常よりも100mm程度短くしている

A2側はスタッドのピッチが短い(井手迫瑞樹撮影)


線形の変化に伴い、床版厚も鉄筋段数も変わる、最大厚は540mmに達する
540mm(とりわけ打ち下ろし部は最大で630mm厚に達する)という床版厚に対応するため、同床版厚部分は、主鉄筋段数を通常の倍の4段とした。打設に当たっては、温度ひび割れが生じないか、FEM解析を実施し、その結果に基づいて540mmを3段で打ち重ね、膨張材(太平洋マテリアル)も使用することにした。床版の合成勾配は最大で10%近くになるが、施工時においては、バイブレーションと掻き揚げを強化することでしのぐ方針だ。

膨張剤の有無で温度ひび割れの範囲がかなり変わる
壁高欄打設も現場打ちで施工する。厳しい曲線に対応するため、型枠については、内外とも鉄筋で型枠を固めることを予定している。
支承は鉛プラグ入り免震支承を採用 A1→P2→A2の架設の中間状態で既に橋脚上の支承が変位
地震により支承に残留変位が生じても、変位を戻して再設置できる構造
戻って桁架設である。まずその前に支承は鉛プラグ入り免震支承を採用している。道路線形・勾配から橋軸・橋軸直角方向両方に複雑な力が懸かる構造であり、温度変化が生じた際に変化したゴムの変位を直すためには60~70tの外力が必要になる。しかし、山間地であることからそうした反力を働かせる頑丈なベントなどワーキングスペースを構築することは困難である。とりわけA1とA2橋台の支承の伸縮が一番厳しいこと、A1→P2→A2の架設の中間状態で既に橋脚上の支承が変位してしまうことが分かり、さらにA1、A2とも架け終えた状態ですべての支点上の支承が鉛直状態になっていることが望ましいが、通常の架設方法では、それができないことが分かった。

架設ステップ解析例
実際の架設計画

斜ベントの設置状況 / ベント上の桁架設状況
そのため、架設に当たっては、事前に橋脚上にサンドル代わりのH鋼を配置し、桁を30mm高めに設置して支承をつり上げ、下沓を橋脚に接地させず、浮かせた状態にすることで、支承に温度変化などによる水平力がかからない状態で仮架設した。すべての桁を30mm高く架設し、全体の桁添接を終えて閉合した後に、桁を全て一体化し、桁の位置調整を行って支承位置が設計通りになった時点で桁をジャッキダウンして降ろした。
ジャッキダウンに際しては、「支点の高さ調整を行うにあたり、一度ジャッキダウンし、支承を接地させて高さ計測をする必要があるが、接地させている時間が長いと、桁の温度変化による水平力がかかってしまう。ジャッキダウンし計測をしたのち、すぐさまジャッキアップし支承を再度浮き上がらせて、元の状態に戻した。計測データから全支点の高さ調整量を決定して、後日再度ジャッキダウンしてすぐさま沓座モルタルを打設し、支承を固めた。その結果非常にうまくいった」(元請の髙田機工)ということだ。
さらに地滑り地帯に近い箇所で橋を建設していることを念頭に入れ、地震が起きた時に支承に残留変位が生じた際、支承を取り外して、変位を戻して再設置できる構造としている。具体的にはベースプレートを2段重ねにして、変位が生じた場合は1段取り外し、クリアランスを持たせて支承位置を調整することで、支承に生じた変位を解消するものだ。反力をどこで取るかという課題はあるが、メンテナンスを考えた仕掛けを作っている。
架設はまずベントを必要に応じて合計8基つくる
張出架設が最小限になるように架設桁や斜ベントを用いた
架設には桟橋荷重に配慮しつつ、クレーン能力を最大限に上げるため、200tクローラークレーンを180tにウエイトダウンした形で用いている。

200tクローラークレーンを180tにウエイトダウン
架設はまずベントを必要に応じて合計8基つくるところから始めた。さらに単材架設をするために、桁を支える架設桁をベントの上に架けた上で本桁を架設した。曲線に対応するため、架設桁の位置を微調整し、本設桁の重心から離れないように腐心した。また、ピアの根元には斜ベントを配置して架設を行った。当初案では張り出し架設を28ブロック中16ブロックで多用する架設計画となっていたが、曲線のため、張出架設が最小限になるように架設桁や斜ベントを用いた。また、平面線形の影響で不均等荷重や負反力が生じる恐れがあるため、それを回避すべく、ベントや支点上でステップ解析を行い、架設時に事故が起こらないよう細心の注意を図っている。

施工状況① 上部工着手前

施工状況② ベントおよび架設桁の架設、橋脚上にもH鋼が見える

施工状況③ 本格的な桁架設

桁架設の終盤状況
課題はメンテナンスである。山間地のためコスト縮減を図るべく耐候性鋼材を採用しているが、開通後は凍結防止剤の散布が予想される。そのため端部の塗装はもちろん、流末処理も重要になる。本橋では塩ビと鋼製排水管を横引きし、P1、A1で水を落とす計画としているが、塩ビ管の紫外線劣化や、鋼製排水管の腐食劣化をこまめに見ていかないと、桁に腐食が生じる可能性がある。この辺は細目に点検し、速めに補修対応することが必要であろう。
詳細設計は日本工営。上部工の製作・架設は髙田機工。支承はオイレス工業、伸縮装置は日本鋳造。





