オリエンタル白石・日鉄ケミカル&マテリアル PCT桁間詰め部の脱落対策工法『DiFi工法』の試験施工を公開

オリエンタル白石・日鉄ケミカル&マテリアル PCT桁間詰め部の脱落対策工法『DiFi工法』の試験施工を公開
2025.12.24

補強面積を最小限にしつつ、炭素繊維シートの1.5~2倍の高いせん断、曲げに対する補強強化を得る

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床版 PCT桁の間詰め対策
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 オリエンタル白石と日鉄ケミカル&マテリアルは12日、静岡県熱海土木事務所が所管する国道135号渚橋において、両社が共同開発したPCT桁間詰め部の脱落対策工法『DiFi工法』の試験施工を公開した。同工法は、床版下面に事前に切削した深さ22mm、幅20~25mmの溝に、軽量かつコンパクトな炭素繊維プレートを鉛直に埋め込み、珪砂入りの2液混合樹脂と一体化させることで、「補強面積を最小限にしつつ、炭素繊維シートの1.5~2倍の高いせん断、曲げに対する補強強化を得ることができる」ものだ。今次施工は同橋の間詰め損傷部で、静岡県に試験ヤードを提供してもらい、実橋梁での試験施工を行った。(井手迫瑞樹)


概要図(オリエンタル白石提供)/ 実際の施工状況(井手迫瑞樹撮影)

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1970年以前に供用されたPCT桁間詰め部の補修補強が主対象

1970年以前供用のPCT桁 鉛直に間詰め部を打設している箇所で抜け落ちの危険性

路面への影響はもちろん、第三者被害誘発の危険性も

 1970年以前に供用されたPCT桁部の間詰めは、それ以後に建設された同桁のように間詰め部は、逆台形状のテーパーを有していなく、鉛直に打設されている。また、プレテンション方式では、主桁床版から間詰め部への差筋も配置されていない。したがって、間詰めコンクリートを支える横締めPC鋼材や鉄筋が塩分や水の浸透によって腐食、破断すると間詰め部が抜け落ち、橋面上の交通に大きな危険が生じるほか、桁下においては第三者被害を誘発する危険がある。従来は鋼板接着や炭素繊維シートを張り付けることによる補修を専らとしていたが、前者では補強資材が重く、足場を必要とし、さらに床版に比較的多くのアンカーを設置しなければならず手間がかかる。また、構造や形状に応じて、鋼板をつくらねばならない。後者は全面を覆うため見えなくなるため、維持管理の視認性に欠けるほか、上面に床版防水を施していない場合、上部からの水の漏水によって、接着界面の樹脂が劣化、補強効果が落ちる――などの課題があった。

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1965年に供用されたPCT桁 PC鋼材部は破断も生じていた

溝切工具で補強に必要な部分を掘る

 渚橋(1期線)は1965年に供用された、伊東市内の伊東大川河口部に架かる橋長67.5m、幅員14mの3径間PCT桁橋である。当時の他の橋と同様にPCT桁部の間詰め部は鉛直状に配置されている。既往の点検結果では、高濃度の塩化物イオンが鋼材・鉄筋近傍から検出され、PC鋼材部は破断が生じていた箇所もあった。そのため、既に架替えの計画も進んでいる。


渚橋1期線、下流側には2期線(PC中空床版橋)が架かっている(井手迫瑞樹撮影)

橋の向こうは海である。厳しい塩害が想像できる(井手迫瑞樹撮影)


 さて、DiFi工法はディスクグラインダーを用いた溝切工具により、前述の深さ、幅の溝を橋軸直角方向に間詰め床版を挟んで主桁下フランジ下面に、補強に必要な列数掘る(今次公開補強箇所は700×950mmの範囲内に5列掘った)。間詰め部の長さは(写真の破線部に挟まれた部分)200mmであるが、両側の主桁床版部で支える必要があるため940mmの長さを必要とした。切削は3時間程度で終えたということだ。


溝切り工具(井手迫瑞樹撮影)

電動ディスクグラインダーを使って掘るため、コンクリートへの負荷を最小限に抑えて溝を形成できる
(オリエンタル白石提供)

破線部が間詰め部の範囲 / PC鋼材や鉄筋の配置を事前に調査して溝掘りを行っていることが分かる

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コスト縮減とダレ防止のため樹脂と珪砂を混錬して溝部に塗布

CFRPプレートは鉛直に埋め込み付着面積を最大にし、断面剛性を高くする

 その溝部に、エポキシ系の主材および硬化剤と珪砂からなる樹脂を用いて、左官工法で断面修復を行う。樹脂は主材2:硬化剤1で練り混ぜ、さらに樹脂と珪砂を1対1の割合で混錬した。珪砂を入れたのはコストを抑制しつつ、天頂方向に塗布することによる施工時のダレを防ぐためである。混錬後の塗布材の可使時間は1時間ほど、さらに可使温度は5~30℃、湿度は85%以下とした。現場は9℃程度で湿度も60%程度と十分に範囲内であった。


樹脂と珪砂(井手迫瑞樹撮影)

樹脂を練る(井手迫瑞樹撮影)

さらに珪砂を混ぜて練る(井手迫瑞樹撮影)

出来上がった断面修復材(井手迫瑞樹撮影)

断面修復材の塗布状況(井手迫瑞樹撮影)


使用する炭素繊維プレート材(上2枚は井手迫瑞樹撮影、下1枚はオリエンタル白石提供)


 溝部への断面修復後、炭素繊維プレートを押し込む。炭素繊維プレートは高強度な部材のものを用意しており、断面修復部の樹脂にくっつけるように幅12mm、高さ20mm程度のプレートを中央、左右に1枚ずつ3枚に配置し、これを2列にした状態で鉛直に埋め込んでいく。なお、プレートは写真のように間詰め部と両張出部との間のハンチ形状に沿ってカッティングしており、現場でもカットすることで微調整可能としている。軽量なため施工性に優れており、専用の施工足場なども必要とせず、現場によっては高所作業車などでも十分に施工できる。


炭素繊維プレート配置図例(オリエンタル白石提供)


 プレートを鉛直に埋め込むのは、「付着面積を最大にし、断面剛性を高い状態にするため」(オリエンタル白石)である。配置後は、塗布材を丁寧に仕上げて一体化し、硬化養生後は、施工した溝に沿ってウレタン系の表面保護材を塗布し、DiFi工法にとって唯一の劣化要因となる紫外線から保護して、完成となる。


鉛直に2列に左右に埋め込んでいく(井手迫瑞樹撮影)

埋め込んだ後は断面修復工で仕上げる / 試験施工の5列の断面修復工および補強工が完了した状況(井手迫瑞樹撮影)

養生シート撤去状況(井手迫瑞樹撮影)

ウレタン樹脂を塗布し、完成となる。
補強面積を最小限にしつつ、炭素繊維シートの1.5~2倍の高いせん断、曲げに対する補強強化を得ることができる。
また、施工後の視認性も最大限確保しているため、維持管理性にも優れている。(オリエンタル白石提供)

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床版防水やPC鋼材などの事前補修が無くとも、DiFi工法だけで十分な耐久性

アルカリ環境試験や疲労試験でも確認

 今回の補強仕様は「本現場においては補強箇所が鉄筋やPC鋼材が破断を生じている状態であり、それに対応するものとして使用した」(同社)。基本的には、PC鋼材のグラウト充填対策や、上面の床版防水とセットでの補修補強を提案ことを基本としている。但しそれらが無くとも、「50℃のアルカリ環境下での暴露試験やT荷重(衝撃含む)200万回疲労試験なども行った結果、変状が生じなかったことから、床版防水が無く、鋼材や鉄筋が破断した状態であっても150年相当の耐久性を有することが確認できたと考えており、DiFi工法を単独で先行して桁下面から補強しても、十分耐久性がある」(同社)ということだ。

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