首都高速道路 1号羽田線 東品川桟橋・鮫洲埋立部にみる段階更新と恒久足場
2025年10月22日、首都高速道路株式会社は、1号羽田線・東品川桟橋~鮫洲埋立部更新事業の下り線への交通運用の切替を目前に控え、報道関係者に現場を公開した。本記事では、この現場公開で示された説明や見学内容をもとに、塩害や地盤不安定といった既設構造の課題を背景に、交通を確保したまま更新を進めるために採用された段階施工の考え方、プレキャスト化による施工の合理化、維持管理を前提に組み込まれた更新構造の特徴について整理し、都市高速道路の更新工事がどのように進められてきたのかをレポートする。

塩害・地盤不安定への対応と、迂回路を前提とした段階施工の選択
交通を確保したまま更新に至った経緯
塩害・地盤不安定への対応と、迂回路を前提とした段階施工の選択
2025年10月22日、首都高速道路株式会社は、1号羽田線・東品川桟橋~鮫洲埋立部更新事業の下り線切替を目前に控えた段階で、報道関係者向けの現場公開を実施した。本事業は、首都高速道路の大規模更新事業における第1弾として2016年に工事着手され、約10年にわたり段階的に工事が進められてきたものである。

図は全て首都高速道路提供
今回の現場公開は、可能な限り「交通を確保したまま更新する」という制約条件の下で、どのように構造計画、施工計画、維持管理を前提とした考え方が組み立てられてきたのかを、実物を通して説明することを目的として構成された。インフォメーションセンターでの全体説明に続き、本線上、鮫洲埋立部内部、東品川桟橋部へと進む見学を通じて、事業全体の流れと更新の考え方が示された。

冒頭、事業を所管する更新・建設局が更新事業の背景とこれまでの経緯を説明した。首都高速道路全体では大規模更新8.8km、大規模修繕76.5km(https://www.shutoko.co.jp/company/enterprise/road/plan/)が計画・実行されている。東品川桟橋~鮫洲埋立部区間はその一部で、延長約1.9kmを占める。この区間は、都心側約1.3kmが海上桟橋構造、南側が埋立構造で構成されている。供用開始は1963年からで、東京オリンピックを控えた短期間で整備された経緯を持つ。海面に近い位置にRC構造が配置された桟橋部では、飛来塩分や潮位変動の影響を受けやすく、コンクリートの劣化や鉄筋腐食が進行していた。潮位の影響を受けるため、点検や補修に充てられる時間が限られるなど、維持管理上の制約が顕在化してきたことが、更新に至る大きな要因として挙げられた。

一方、鮫洲埋立部では、過去に路面のひび割れや陥没が発生している。これは、埋立構造内部に設置されていた既設タイロッドの破断により鋼矢板が変形し、土砂流出が生じたことが原因とされている。これに対しては、グラウンドアンカーによる補強が実施され、一定の安全性は確保されてきたものの、構造形式そのものが抱える不安定要因を根本的に解消するには至らなかった。

説明の中で繰り返し強調されたのが、可能な限り「交通を止めない」という前提条件である。1号羽田線は1日約7万台の交通量を担う都市高速道路であり、長期の通行止めを伴う更新は現実的ではなかった。このため本事業では、仮設の迂回路を構築し、交通を切り替えながら既設構造を段階的に更新する方式が採用された。


最初の段階では、護岸とのわずかな隙間を活用して迂回路を構築し、都心方向の交通を移行させた。これにより既設上り線が空き、その区間を更新構造物に置き換える施工環境を確保した。続いて、完成した構造物を暫定的に下り線として供用し、旧下り線の更新を進めることで、上下線とも将来形の構造物を段階的に完成させてきた。今回の現場公開は新設された下り線への交通運用の切替を目前に控えたタイミングで実施されたものである。
段階的切替と桟橋部の防食計画
供用を維持した更新と100年先を見据えた構造対応
インフォメーションセンターでの説明後、実際に本線上へと移動した。ここでは、段階的な切替がどのように実現されてきたのかが、周囲の構造物を指し示しながら説明された。工事は、まず護岸側の限られた空間に迂回路を構築し、既存交通を段階的に切替えながら進められた。交通を迂回路へ移した後、旧構造物を更新し、完成した新構造物へ再度交通を戻す。このような交通運用の切り替えを繰り返すことで、常時供用を維持したまま更新を進めてきた。当日、参加者が立っていた位置は新設された下り線に相当し、切替後には下り線を車両が通行することになる。隣接する道路は暫定的に運用されてきた下り線であり、最終的には上り線として本来の役割を担うことが説明された。段階施工に伴う交通運用の変遷は複雑であるが、ドライバーの視点では「走行しながら自然に新しい構造に移行する」よう計画されていた点を担当者が述べた。

続いて案内されたのは、橋脚部である。橋脚部については、大気部にはAl-Mg金属溶射を防食下地とした重防食塗装、飛沫部及び海中部の潮位変動を考慮した範囲に角柱橋脚のためL型の角板と平らな帯板に分けて溶接されたステンレスライニングが施されていた。ローウォーターレベルからハイウォーターレベルまでの範囲に余裕を持たせて巻き立てることで、海水による腐食を抑制する構成である。さらに、その外側には重防食塗装が施され、複合的な防食対策が講じられていた。ここで示された「100年先まで」という言葉は、単なる目標値ではなく、維持管理と一体で初めて成立する時間軸として説明された。構造材料、点検空間、アクセス動線を含めて設計することで、長期にわたり健全性を保つ計画であることが述べられた。



橋脚部に施されたステンレスライニング
恒久足場を下部から見上げる。海水面に近隣していることがよくわかる
鮫洲埋立部に組み込まれた維持管理空間
プレキャストボックス構造内部で示された点検・補修を前提とした更新思想
鮫洲埋立部では、道路構造として採用されたプレキャストボックス構造の中空部が、完成後の維持管理空間として活用されている。
現場公開では、このプレキャストボックス内部に立ち入り、点検・補修を前提とした空間構成が示された。

内部空間の高さは約2m確保されており、作業員が屈むことなく移動できる。構造内部に入った段階で、床版下面や部材の状態を目視で確認できる構成となっている。
点検は、仮設足場の設置や掘削を伴わず、構造内部に直接アクセスする形で行うことが想定されている。
プレキャストボックス内部
従来では、路面下の状態を確認するために交通規制を伴う掘削作業が必要となるケースが多かった。本区間では、道路構造そのものに維持管理空間を組み込むことで、交通を確保したまま点検・補修作業を行える点に大きな特徴がある。更新工事において「つくること」だけでなく、「使い続けること」を前提に構造を選定した点が、本区間の技術的な要点である。現場では、プレキャストボックス内部という実空間を通じて、維持管理性を重視した設計思想が具体的に示された。
内部は十分余裕のある高さに設定されている
更新事業を通じて示された技術的知見
供用下施工を成立させるための考え方
現場公開の際に現場管理者に質問を投げかけたが、工程短縮や省力化技術について問われる場面では、ITやDXが補助的に活用されているものの、決定的だったのはプレキャスト化による現場作業量の低減であったことが説明された。 さらに、施工を通じて得られた知見が今後の大規模更新事業にどう生かされるかについては、長区間にわたる恒久足場の有効性や、段階施工の工程管理手法が重要な知見として位置付けられていた。
今回の現場公開は、完成した構造物を見せる場であると同時に、都市高速道路を止めずに更新するという課題に対する一つの解答を示す場であった。プレキャスト構造、段階施工、恒久足場といった個別技術は、いずれも特異なものではない。しかし、それらを交通確保という制約条件の下で組み合わせ、運用まで含めて成立させた点に、本事業の技術的意義がある。
プレキャスト化による現場作業量の効率化を図った
現場公開後の進捗を紹介すると、今回の更新下り線の完成に伴い、本格運用の第1弾として下り線の走行ルートを新しい道路(更新線)へ25年10月29日に切り替え、運用を開始した。
今後、2026年5月9日(土)0時から5月10日(日)24時までの48時間、高速1号羽田線(下り)芝浦~勝島間において通行止を実施し、舗装改良工事を行う予定としている。(https://www.shutoko.jp/ss/higashishinagawa/)
その後の予定としては、上り線の走行ルートをう回路から新しい道路(更新線)へ切り替え、その後、大井JCT接続部をう回路から新しい道路(更新上り線)へ切り替える。大井JCT接続部の切り替えにあたっては、大井JCT連結路を通行止する予定だ。






