ESCONを国道で初採用
国土交通省近畿地方整備局和歌山河川国道事務所は、国道24号の岩出市内の岩出市と紀の川市の境に近い溝橋の歩道において、劣化したカルバート頂板全体をはつり、ESCONを用いて打ち換える工事を行った。同材料は特殊な撹拌機などを必要とせず、通常のアジテータ車で練り混ぜることができる。気温が40℃超える過酷な状況での施工で、現場の縦横断勾配も設計ではレベルであったのが、実際は、路肩に向かって上り勾配であるなど、厳しい条件下での施工を強いられた。(井手迫瑞樹)
通常のコンクリートの5倍以上の強度 圧縮強度が150N/mm2、曲げ強度が20N/mm2
通常のコンクリートの5倍以上の強度 圧縮強度が150N/mm2、曲げ強度が20N/mm2
直下は水路が走っており、湿潤雰囲気や乾湿繰り返しによる損傷が想定
ESCONは、圧縮強度が150N/mm2、曲げ強度が20N/mm2と通常のコンクリートの5倍以上の強度を有する超高強度セメント系複合モルタル材料である。超微粒子であるシリカヒュームなどが添加されたセメントにPVA(ビニロン)短繊維と水、混和剤を練り混ぜて製作する材料である。また、緻密な構造であるため、水や塩化物イオンなどの有害物質を通さず、中性化や凍結融解などの損傷も生じにくい高耐久な材料である。可使時間は2時間程度と長くセルフレベリング性を有している。一方で、他のUFC系材料と同様に非常に高い粘度を有しているため、施工には注意を要する材料でもある。
今回の現場は国道24号の歩道部の頂版を打ち換えるためにESCONを用いた。直下は水路が走っており、湿潤雰囲気や乾湿繰り返しによる損傷が想定され、耐久性の高いESCONを使うことで、長期耐久性の向上を図ったものである。
規模は道路軸方向に2,400~2,986mm、横断方向に1,724~3,500mmに変化する台形形状である。版厚は通常部が250mm、両壁部との接合部は400mmで打設量は2.25立米に達した。
位置図(エスイー提供、拡大して見てください)
補修一般図(同)
頂版コンクリート打替工図(同)
まずこの劣化したコンクリート部分をブレーカーによりはつり、鉄筋をはつり出す露出させる。新旧の打設界面はエポキシ系のひび割れ充填プライマー(KSプライマー)を塗布し、マイクロクラックの補修を行った。
プライマーの塗布(井手迫瑞樹撮影、写真は以下同)
2液を攪拌混合しKSボンドを製作
さらに30分程度養生した後、エポキシ系接着材(KSボンド)を施工し、その上でESCONの打設を行った。KSボンドを界面に付着させたのはKSプライマーを塗布していることや、炎天下での施工であることを鑑み、通常、超高強度セメント系複合モルタル材料でもちいられる水による結合が、早期の蒸発によりままならなくなる可能性を鑑みたものである。
KSボンド塗布状況
プレパックドした砂・セメント、水、PVA短繊維を練り混ぜ
専用機械を必要とせず練り混ぜ可能
さて、ESCONの内容である。ESCONは砂とセメントをプレパックドしたトンパック(一袋375kg)を6袋、水452kg、PVA短繊維1.7vol.%分をそれぞれ用意し、砂およびセメントは6袋全体を入れたうえで3分、さらに水を入れて10分、さらにPVA短繊維を入れて10分、合計23分、アジテータ車により練り混ぜた。なお、水結合材比は16%である。専用の練混ぜ機などを必要とせず、通常のアジテータ車で練り混ぜできる点は「特殊な機械を必要としないという点において、他の同種の材料にないメリット」(エスイー)ということだ。
通常のアジテータ車で練り混ぜできる
砂とセメントがプレパックされたトンパック(左、中左)、それをアジテータに投入(中右、右)
スランプ確認試験状況 ビニロンファイバーがダマにならず分散していることが分かる(右)
施工日は酷暑で午前10時の段階で気温は40℃、湿度は58%という過酷な状況であったため、現場でのスランプ値はフローで250~260mm程度と通常よりも小さめであったが、材料分離やファイバーボールもなく練上り状態は良好であった。
ビニロンファイバーや混和剤、水を投入
補修材料はあくまで半製品 施工前の現場チェックを厳しく行う必要
酷暑や勾配対応へのフレキシビリティの確保が今後の課題
現場は厳しい施工条件であった。当初ほぼレベルであった想定が、僅かに路肩に向けて上り勾配であったためだ。それだけであれば、まだよかったが、型枠2か所から漏れが確認され、上り勾配部分にうまくESCONが流れていかなかった。最終的には型枠の漏れ部分の硬化が始まった段階で、それが栓のような機能として働き、全厚を打設することができた。また、上り勾配の最も厳しい場所では、ある程度のかき揚げを必要とした。補修材料はあくまで半製品であり、全製品として機能させるには、設計を鵜呑みにしないこと、施工前の現場チェックを厳しく行う必要があることが改めて示されたように思える。
打設状況①
また、酷暑がESCONに与えた影響も打設時の流動性低下が早期に生じた可能性がある。今後はより厳しい気温条件や現場の状況に対応して、混和材の量を変える、もしくはセルフレベリング性をある程度解除して、形状に呼応できるなどのフレキシビリティも必要になってくるであろう。
打設状況②
ただし、ESCONを含むUFC系材料を使用する場合には、高い強度特性を活かし、断面のスリム化をはかるなど合理的な設計とすることが一般的である。今回のように最大400mmの全厚をESCONで現場打ち打設することは「稀」(エスイー)である。今後、現場打ちの主戦場となるであろう床版上面劣化部の薄層施工においてどのように施工性を確保していくかが重要であり、今回の温度や施工条件への挑戦は、その貴重な資料となりそうだ。