PCaPC床版の新たな継手工法ESCON TPジョイントを開発
前田建設工業、飛島建設、佐藤工業、エスイーの4社共同開発
100N/mm2の圧縮強度を有するESCONを使用
前田建設工業、飛島建設、佐藤工業、エスイーの4社は共同で、高速道路のリニューアルにおける床版取替工事の工期短縮と疲労耐久性向上を実現する、機械式定着鉄筋(TPナット)と高強度間詰材(ESCON)を組み合わせた新たな床版継手技術「ESCON TPジョイント」を開発した。同技術は、継手筋の頭にTPナットを付け、支圧力により引き抜き耐力を向上させ、さらに間詰め材に100N/mm2の圧縮強度を有するESCONを使用することで、応力伝達を強化し、間詰め幅を従来の半分以下の140mmまで狭めることに成功している。また継手鉄筋は2段配置であり、標準継手であるループ鉄筋のようなふくらみがないため、被り厚を考慮しても床版厚を従来の標準である240mmから220mmに薄くすることができ、床版の軽量化、ひいては施工時の重機の軽量化や、桁に対する荷重を減らし、補強量を減らすことにもつなげることができる。間詰め幅の極小化によって、間詰めに掛かる工期の短縮やコスト縮減を図ることができ全体的な施工効率の向上も期待できる。4社は今後、設計・施工管理要領をまとめ、早期の現場適用を図っていく方針だ。(井手迫瑞樹)
間詰め幅を従来の半分以下の140mmまで狭めることに成功(4社より提供、以下同)
橋軸直角方向の配筋も簡素化
TPナットで引抜き耐力を向上
同技術は、床版の継ぎ手部にTPナットを配置した継手鉄筋を2段重ねにして前後の床版の継ぎ手を千鳥配置する構造である。TPナットの先端部から床版端部までは20mm、継手鉄筋のラップ長は100mm、上下鉄筋のクリアランスは64mmとしている。継手鉄筋にはD19を採用している。また、橋軸直角方向にD16の鉄筋を1本ずつ2段入れる必要があるが、これは両方ともTPナット鉄筋の外側配置としており、下段継手に配置する橋軸直角方向の鉄筋はあらかじめ組んだ状態にしておき、上段継手に配置する同鉄筋は上に載せて固定するだけで済むため、配筋の手間が少なく済む構造となっている。
接合部概略図
ESCONを打設して前後のプレキャストPC床版を一体化
間詰め幅は140mmと狭く、これにVFC(高強度繊維補強セメント系複合材料)であるESCONを打設して前後のプレキャストPC床版を一体化させる。継ぎ手部に傘状の鋼材を付けているため、その近傍に対し、間詰め材が回るのか? という懸念があったが、「ESCONはモルタルフローで300mmほどの設計としているため、自己充填性が高く、傘上になっている部分の裏側にもきちんと充填される」(エスイー、下写真は切断した間詰め部断面)ということだ。
一方でESCONは圧縮強度が100N/mm2のモルタルであるため、自己収縮により発生する引張力によって、母材部にひび割れが生じる可能性がある。そのため予め膨張剤を添加するなどして収縮量をコントロールした配合としている。
なお施工時のESCONの製造は、従来の移動式プラントで練り混ぜができ、特別な機械を必要としない。
輪荷重走行試験も良好な結果示す
漏水も確認されず 終局破壊も母材で生じる
同技術は、既に輪荷重走行試験および同試験後の水張り試験、さらにはESCON TPジョイントの曲げ疲労試験も行っている。
輪荷重走行試験状況
10万回走行時までの各走行回数におけるたわみ推移
床版中央たわみの変位状況
前者においては、輪荷重を最大400kNまで段階的に増加させ、合計38万回の輪荷重走行試験を行った。接合幅は140mm、そこにESCONを間詰め材として打設するもので、プレキャストPC床版は50N/mm2の圧縮強度とするなど本施工と変わらない条件で製作した供試体を使用した。その結果、床版たわみは輪荷重10万回時点でも残留たわみ、活荷重たわみとも1mm程度しかなく、その後もたわみの急増や接合部の角折れは確認されず、十分な疲労耐久性を有していることが確認された。
さらに接合部界面の開きに着目すると、10万回走行時の開き量は0.069mmしかなく、有害なひび割れ幅とされる0.2mmと比較すると非常に小さくこの点においても耐久性には問題がないことが確認された。また、鉄筋ひずみも10万回走行時の鉄筋引張ひずみは412μで、引張応力度に換算すると82N/mm2となり継手鉄筋の降伏強度(414N/mm2)に対して十分に安全側であることが確認された。走行試験後(10万回走行時および38万回走行時)の水張試験でも漏水は確認されず、100年以上の十分な耐久性を有することが認められた。
接合部界面平均開き量の推移 / 接合部主鉄筋に生じるひずみの推移
水張り供試体概要と水張りイメージ図
輪荷重走行試験10万回走行後の水張り試験状況
同38万回走行後の水張り試験
さらにESCON TPジョイントを配置したRC梁試験体を用いて曲げ疲労載荷試験を行い、累計50万回の動的載荷を加えた後に、静的載荷による終局荷重載荷試験を行った。その結果、終局時の圧壊は母材部で発生し、間詰め部が先行破壊を起こさないことを確認した。
曲げ疲労載荷試験機概要図 / 同載荷試験結果
同試験状況
上面および側面から見た供試体の状況 終局時の圧壊は母材部で発生
現場での品質管理を徹底するため施工管理マニュアルを策定へ
構造性能は確認されたが、今後必要なのは、その性能が現場でも担保できるかどうかである。現場は温度、天候、湿度(乾燥状態)、施工条件(勾配変化や斜角など)など多様性に富む。間詰め材には、自己充填性、セルフレベリング性が求められる反面、横断勾配を有する場合の対応や可使時間、母材との接着の確実性などが求められる。
施工においては、ドライアウト(界面が乾いていることでモルタルの水分が逸失することによる性能低下)対策として、適切な水分が界面に存在しているかが重要である。さらに大きな勾配変化に対しては施工の仕方の工夫や可塑性剤の投入などを行い、確実な施工を行う必要がある。4社ではそうした施工上の課題も認識しており、引き続いて施工管理マニュアルの策定を進め、高い品質の確保を目指していく。