NEXCO東日本北海道支社 道央道337号橋でRC中空床版橋を大規模更新
NEXCO東日本北海道支社札幌管理事務所は、道央自動車道江別東IC付近の国道337号と交差する箇所に架かる337号橋(下り線)について大規模更新工事を行っている。同橋は橋長31.1mの2径間連続RC中空床版橋で、コンクリート上面の劣化因子を除去できるところまで、かつ既設鉄筋裏のあきが確保できる深さまでWJにてはつり、同部分を打換える工事を行ったものである。その現場について取材した。(井手迫瑞樹)
2003年まで床版防水未設置 かぶりの厚さが場所によって異なる
2003年まで床版防水未設置 かぶりの厚さが場所によって異なる
鉄筋が錆びて損傷、床版上面に土砂化に近い損傷状況、一部では円筒型枠の浮き上がりも確認される
同橋下り線は昭和53年(1978年)道示に基づき、1983年11月に供用された橋長31.1m、有効幅員15.312~16.514mの2径間連続RC中空床版橋である。
337号橋(NEXCO東日本提供、冒頭写真も含め、以下全て同)
直橋で、縦断勾配はほとんどなく、横断勾配も2%程度である。凍結防止剤散布量は1日最大80g/m2と多いが、上端鉄筋近傍の塩化物イオン量は0.16kg/m3と発錆限界値以下であった。しかし、同橋は床版防水を2003年までおよそ四半世紀設置していなかった。損傷は、P1橋脚直上部を中心にかぶりの小さい箇所が散見され、そうした箇所では鉄筋が錆びて膨張しており、コンクリートのひび割れ、浮き、剥離が生じていた。さらに詳しく見ると、鉄筋が過密配置されているA1橋台ないしA2橋台側の桁端部では上部のかぶりが厚く、鉄筋が比較的疎なP1橋脚付近はかぶりが小さい状況になっており、それが損傷状況の違いとみられる。また、一部では円筒型枠の浮き上がりも生じていた。
舗装損傷状況(左2枚は1次施工部分、右2枚は2次施工部分)
損傷部では鉄筋近傍でコンクリートの浮きが生じている箇所が散見され、一部では土砂化に近い損傷状況になっていた。こうしたことから床版上面の打換えを選択したものである。
床版下面の状況
床版上面の損傷状況 かぶりが無い状況が分かる
床版上面140~170mmを主にWJにてはつる
P1橋脚支点上で円筒型枠の浮きが確認される
今回、打換えを行う床版面積は全部で562㎡である。床版厚(中空床版厚)は900mmであるが、このうち上部140~170mmを主にWJにてはつることにした。同厚さはNEXCO東日本の設計要領第二集橋梁保全編に拠ったもので、同要領でははつり深さの設定を「構造物を劣化させる要因を除去できる深さ、かつ既設コンクリートと既設鉄筋のあきが確保できる深さ以上」としている。既設鉄筋裏のあきを30mmとして、事前に電磁波レーダーや試掘を行って調査した推定かぶり厚から、はつり厚を140~170mmと設定したもの。
電磁波レーダーによる点検
試掘による点検
はつり厚が大きい箇所は工期短縮のために上層の15mm(P1橋脚付近)~35mm(A1橋台、A2橋台付近)は切削機にてはつり、その後下層125mm(P1橋脚付近)~155mm(A1橋台、A2橋台付近)をWJにてはつった。 その結果、当初は円筒型枠上面まではつる予定が、実際には円筒型枠の浮きが生じていることから「P1橋脚支点上のはつり部で円筒型枠の天頂部が少し出る状況で、A1、A2では円筒型枠の上面20mm程度が出る状況まではつることになった」(同社)。
路面切削状況
ロードジッパーを使ってフレキシブルに車線を確保
時間帯別車線切替規制で渋滞を回避
施工は、追越車線⇒走行車線の順に半断面ずつ打換えの施工が行われている。
車線規制により渋滞を発生させないためには、ラッシュアワー時において上下4車線のうち3車線を常時確保しながらの施工が必要となる(下左図)が、朝夕で渋滞の起きる方向は異なる。そのため、ロードジッパーを用いて時間帯別車線切替規制を行った(下右図)。具体的には午前に下り線(旭川方面)、午後に上り線(札幌方面)が、それぞれ片側1車線では渋滞発生の恐れがある1,400台/hを超過してしまう時間帯が発生する。そのためロードジッパーを使うことで3車線のうち、渋滞発生の恐れがある方面の時間帯の車線数を2車線確保するフレキシブルな車線運用により工事を実施した。
上下4車線のうち3車線を常時確保しながらの施工 / ロードジッパーを用いて時間帯別車線切替規制を行った
壁高欄も更新⇒DAK式プレキャスト壁高欄を採用
WJはコリジョンジェット工法を採用
さて、施工はまず、張出床版部と壁高欄を切断・撤去した後、床版上面を切削し、さらにWJにて上面をはつる。その後、張り出し床版部も含めて現場打ちコンクリートで上面の打換えを行い、DAK式プレキャスト壁高欄を4mスパンで設置する。最後に高性能床版防水(グレードⅡ)、舗装を施し、完了という施工手順としている。DAK式プレキャスト壁高欄を使ったのは施工日数短縮と高耐久化を図ったものである。
DAK式プレキャスト壁高欄の設置状況
WJにははつり深さを高精度に制御でき、鉄筋裏側のコンクリートを除去できるコリジョンジェット工法を採用した。
WJ施工前の準備状況
WJ(コリジョンジェット工法)工法を用いた施工状況
WJ施工完了状況
以前、同支社で施工した中空床版橋のはつり工事では、円筒型枠内部に予め、発泡ウレタンを注入して補強した上で、WJにてはつっていた。しかし、「コストが非常に高くなる」(同)ことや円筒型枠が損傷しなかったため、今回は発泡ウレタンを注入せずに床版上面をはつることとした。その結果、一部で、WJの水圧により穴が開いてしまうなどの損傷が生じた。そうした箇所については厚さ1mmの曲面加工した鋼板を当て板として用い、エポキシ樹脂系接着剤で接着させて修繕した。
床版上面はつり完了後の円筒型枠の状況
WJによるはつり施工で円筒型枠が損傷
円筒型枠の損傷箇所の当て板設置状況(当て板をエポキシ樹脂系接着剤で固定)
はつり施工に際しては、半断面で施工することや中空床版橋上面をはつることで、鉄筋が露出し橋体の剛性が低下し、特にP1橋脚上でひび割れ発生モーメントを超過することとなる。そのため、1径間に1箇所ずつベントを設置することで、荷重を支えるだけではなく上向きの支保工反力を与え、剛性低下した部分に生じる曲げモーメントを低減させた。
床版打換えの施工に当り床版を仮設ベントで支持
床版の張出し部のみ型枠を設置して、地覆立ち上がり部まで一体的に打設
はつり後は打ち換えコンクリートを打設するが、WJ施工後の上側鉄筋は戻り錆を防ぐためにすぐに鉄筋ケレン作業を行い、さらに防錆剤「ガード21」を用いて防錆処理を施した。
中空床版上面の配筋状況
鉄筋防錆剤の塗布状況
コンクリートは30-12-20Hで水結合材比50%のコンクリートを用い、それに膨張材20kg/m3、高性能AE減水剤を投入してひび割れ抑制に努めた。さらにコンクリート打設時の締固めについて工夫した。「鉄筋が密に配置されてコンクリートが回りにくい箇所を図面に明記し、その箇所は特に念入りに小口径振動機も使って締固める」(元請の戸田建設)など、品質向上に努めた。
コンクリート打設手順は一次施工(左図)と二次施工(右図)でやり方を変えている
コンクリート打設状況
小口径振動機や表面仕上げ用バイブを使って念入りに締固め
また、床版の張出し部のみ型枠を設置して、地覆立ち上がり部まで一体的に打設し、DAK式プレキャスト壁高欄はその上に設置した。半断面施工のため、追越車線と走行車線間には打継ぎ目ができ、同箇所が最大の水みちとなるため、打継ぎ目処理後に打ち継ぎ目部にエポキシ系接着剤を塗布し、界面の一体化を図る。またその後の防水工の重ね継手位置は床版打ち継ぎ目とずらす形で施工した。
床版打継ぎ目部への接着剤塗布状況
防水工の施工状況
最盛期は15人の元請技術者、30~40人の技能者、2台のWJを用いて施工した。現在は全ての工事が完了している。
設計コンサルタントはいであ。施工元請は戸田建設。一次下請は第一建興江島、川元建設、大成ロテック、保工北海道、北海道マテック、宏陽など。主要二次下請はコンクリートコーリング、源架設など。DAK式プレキャスト壁高欄の製作はドーピー建設工業が行った。