パシフィックコンサルタンツ 社会インフラにおけるレジリエンスの強化に向けた様々な取り組み
パシフィックコンサルタンツのデジタルサービス事業本部は、社会インフラにおけるレジリエンスの強化に向けた様々な取り組みを行っている。とりわけ、①ドローンやCCTVの映像解析をAIで行い、異状の有無を検知して、災害時の初動対応に寄与する技術、②ソフトバンクと協力し、携帯電話の位置情報を基にしたビッグデータを用いて人流を把握し、今後の避難計画の改善や、復旧をスムーズに行うための適切な拠点の位置を決めるための技術などが有望である。その内容についてレポートする。(井手迫瑞樹)
固定的な遠隔監視とドローンにより収集した映像や画像を独自に開発したAIで解析
CCTVカメラ 1直轄河川に100箇所程度設置
初動において、詳細に目視確認を行う箇所を限定
両技術とも、根底には災害が生じた際の情報収集や状況把握を迅速に行い、さらにその情報を適切に解析して、正確な情報を自治体や国に伝え、公共機関が初動対応を迅速かつ効率的に行うことで、少しでも多くの人命を救えるようにするシステムの提供を目指している。
①については、固定的な遠隔監視(CCTVなど)とドローンにより収集した映像や画像を独自に開発したAIで解析する(冒頭資料のイメージ)ことで、異状の有無を検知するものである。とりわけ、ドローンは災害直後においては救助ヘリなどが優先されるため自治体からの要請がなければ使えないが、固定されたCCTVカメラは「1直轄河川に100箇所程度設置されている」(同社)ため、全ての画像を目視で監視することが困難であることから画像解析技術を用いることで防災業務の支援を行う。画像解析によって得られる情報は、異状が発生した可能性のある箇所の検知というスクリーニング程度の情報であるが、それでも初動において、詳細に目視確認を行う箇所を限定できるため、防災業務の効率化に大きく寄与する。画像解析AIに加えて、より広範囲に現場を確認できる衛星画像や、より危険な箇所に事前に設置されているセンサー類などの情報をリンクさせることで「より、大きなエリアから場所を絞り危険個所を限定的に抽出」(同社)していき、より広範囲をスクリーニングする技術の確立を模索している。
とりわけ、小規模な自治体においては「事前に危険個所の復旧計画をつくることはできておらず、災害による被害状況を早期に把握して対策を講じることに寄与」(同社)することができそうだ。
携帯電話の位置情報を活用
災害時の人流や車の流れ、物流を把握 一般道が冗長性の点で重要なことも裏付け
②は、子供も含めて、携帯電話を多くの市民が保有する日本では極めて効果的な技術といえる。総務省によると携帯電話の契約数は、2024年6月末時点で2億1,605万契約と人口の2倍弱に達している。この状況を利用して、同社はソフトバンク(携帯電話シェア20%強)と協力して携帯電話による位置情報を用いて、交通手段まで把握可能な人流データを作っている。
その技術を、災害の事後ではあるが、最初に用いたのは、令和元年に起きた千曲川の豪雨水害である。ここでデータ解析したところ、「最初の警報が出た際は、避難所に逃げるが、雨脚が弱くなるといったん、自宅に帰り、さらに真夜中の1時頃にサイレンが鳴ると、再び家を出て、避難所に向かっている人が少なからずいたことが確認された」(同社)。夜間の移動はもちろん被害を拡大してしまう。避難対象者の行動や心理、なぜそうしてしまうか(避難所の設備や体制も含めて)を考慮するに格好のデータといえる。さらには、こうしたデータは「時間と位置情報のみが記録される」(同社)ため、亡くなられた被害者の情報も残る。どの地点が危険なのか? ということを推定するにも重要なデータが収集できるといえる。
千曲川の豪雨水害でのビッグデータ活用事例
②は、パシフィックコンサルタンツが業務受注したある調査でも、効果を発揮した。地震で新幹線が長期間運休を余儀なくされた場合の人流調査である。ここでは、地方ブロック間のいわゆる長トリップでの人の移動は新幹線だけでなく高速道路でも減少した一方で、ブロック内の短トリップの移動はむしろ大きく増加した。それも高速道路だけでなく、一般国道や主要県道での移動も特に沿線市町の住民において増加したことが分かった。「推定ではあるが、日常生活に加え救助や必需品輸送など親戚や知人を助ける際の移動が増加したことが伺われる。特に住民ともなると何度もお金を出して移動するということは難しく、そうした理由で一般道へ交通量が転移したのだろう。一般道が冗長性の点で非常に重要であることが裏付けられ、今後の道路改良や維持管理などの優先順位を決める点でも大きな材料として使えるといえる」(同社)。
防災・復旧拠点の位置決定や、道路の強靭化の優先順位決定に用いる
予算の確保・市民へのアカウンタビリティ両面において重要なエビデンス
さらに、能登半島地震においても同社は独自で②を使った調査を行ったが、初動においてはボランティアが非常に多く発災地に来訪している状況や、道路途絶の影響も含め、穴水町が移動における結節点となっていることが分かった。
能登半島地震でのビッグデータ解析結果
穴水市内も被害が出ていたが、それでも移動における結節点になっていた(井手迫瑞樹撮影)
これらのデータをどのように活用するか? だが、同社は防災・復旧拠点の位置決定や、道路の強靭化の優先順位決定に用いる点を挙げている。これらのデータは何も災害時だけではなく、通常の人流も捉えることができるため、道路の使われ方がより事実に即した形で、しかもリアルタイムに近い形で把握できる。そのため、「IC周辺の状況や土地の脆弱性などを考慮しつつ、復旧・防災拠点の位置を決められる。また、最低限どこまでを優先的に強靭化すれば良いか? ということもデータに即して決められる」(同社)ため、予算の確保・市民へのアカウンタビリティ両面において重要なエビデンスとなり得る。
同社は、インフラマネジメント部門とデジタルサービス部門が連携して、橋梁やトンネル、道路付属物、港湾、公共建築物などインフラ維持管理を行っている。そこで点群データや3Dデータも活用したデータベースを構築し、運用する技術も有している。それらを用いることで効率的な保全や復旧にも寄与していきたいと考えている。
公用車のドライブレコード映像を用いて道路の安全性を調査
新潟県三条市で実証
一方で、同社は職員不足や予算不足に悩む自治体向けに公用車のドライブレコード映像を用いて道路の安全性を調査するシステムを新潟県三条市などで実証している。主に舗装の損傷状況や街路樹の繁茂による道路の危険性の調査に用いられており、ドライブレコーダーの位置情報と取得映像をAIで解析することによって、補修や剪定の優先順位を決められるもので、今後は他の自治体にも適用を図っていく方針だ。