コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2025.06.01

⑤北海道の寒中コンクリートの現場を歩いてみた

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コンクリート打設は失敗から学ぶ
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超厚膜無溶剤系セラミックエポキシ樹脂塗料『Brushable-S』 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア 新技術への挑戦 常にチャレンジする精神を忘れない

北海道の北部内陸部でマイナス 35℃の記録を持つ地域のコンクリート

  4 つ目の現場は北海道の北部内陸部でマイナス 35℃の記録を持つ地域となります。(写真4-1)から横方向に打重ね線が不規則かつ大きな波を打って残っている事から、1 層当たりの高さ管理と締固めはしておりません。ここでの締固めは、一部もしくはほとんどが横流しであったと断言できる痕跡が残されております。白かったり黒かったりの濃淡について推測しますのは、高スランプのコンクリートを横流ししたことから、大量のブリーディングが多く偏ったところが白く残っているのだと考えられます。こうした雑な駆体でありますが、驚くことに凍害を受けているのは天端(写真4-2)に集中していることからも分るように、天端は締固めが不十分となり易く、そうしたことでルーズな状態で固化したために大きな空隙となり、そこに水が浸入した後に凍害を受けたと考えられます。新しいコンクリートですので凍害は小さいですが、年を追う毎に損傷が深くなり、その範囲も大きくなるのは間違いないと思います。


(写真4-1)雑なコンクリートの水がかり

(写真4-2)締固め不足の天端だけで凍害を受けている


 どのようなコンクリートも、天端は締固めてもコンクリートの自重がかからないので、とくに丁寧に締固めて密実に仕上げる必要があります。ほとんどの施工者はスランプ10cm以上の高スランプを採用しているはずです。高スランプであるほどに、ビンガム流体による締固め効果によって、たまたまコンクリートが綺麗に仕上がり易いことから品質が向上したと勘違いをし易いのですが、高スランプは見た目が良くても品質は良くないと考えられるひび割れ等の不具合が数年後に顕著となってまいりますので注意が必要だと思います。

 4つ目の事例では、特にルーズな天端が凍害を受けているのが確認されましたが、もし、水が侵入しにくい密実なコンクリートであれば、そもそも凍害はあまり生じないのではないかと想像できたのではないでしょうか。

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徹底した締固めにより、吸水の程度が極端に改善された現場の紹介

 ここで、徹底した締固めにより、吸水の程度が極端に改善された現場(写真5-1)(写真5-2)を紹介したいと思います。紹介する2つの写真は同じ場所にあり施工者も同じです。違いとして(写真5-1)はスランプ 8cm の上限要求であり締固め時間は 5〜15 秒だったそうです。


(写真5-1)スランプ8cm上限要求で雑に仕上げている(熊本県芦北町)


 (写真5-2)はスランプ 7cm 以下で締固めを丁寧に実施、ブリーディングは全て廃棄してコンクリートを入替え、加えて天端の締固め時間は通常の 3 倍としたものです。雨上がり後、路面が少し濡れている状態で同じ時間に撮影したものが(写真5-1、写真5-2)です。


(写真5-2)スランプ7cm以下を丁寧に仕上げた(熊本県芦北町)


 ルーズなコンクリートは雨水を吸水して乾きが遅く、密実なコンクリートは吸水がほぼなく乾きが極端に早い状況が分ると思います。(写真 4-1、写真4-2)のようなルーズなコンクリートですら吸水しても凍害は天端だけですので、紹介しました(写真5-2)のような吸水が少ない密実なコンクリートが凍害を起こすリスクは極めて限定的となるのではないかと推測できます。蛇足ですが (写真5-2)で波線のように見えるのはコンクリートが硬くて剥離剤が抜けなかったものと推測しております。念のためにこの擁壁完成して2ヶ月以上経過した時点で透気試験を行い、不具合が生じ易い天端を中心として、波線等を含む箇所91箇所測定しましたが、透気係数全体で最大値がKT値0.034であり、KT値が0.01を上回った箇所は7箇所のみで、KT値0.01を下回ったのは84箇所となりましたので、波線や色むらなど全ての箇所で高品質であることを確認しております。


 ここで透気試験実施に際し、ご注意いただきたいことは、ひび割れ抑制剤や含浸剤を塗布したコンクリートは、その薬剤の効果が利いているうちは水分が散逸せずに残留していると思いますので、水分や薬剤の影響で透気係数は良いと思います。

 しかし、それをもってコンクリートの品質が改善して良いという訳ではないと思います。実際、薬剤でコンクリートの水分散逸を抑制してコンクリートの水和反応が促進していると思いますが、締固めが不十分ですと透気係数が極めて良くてもひび割れだらけとなった事例もありますので、私はひび割れ抑制剤や含浸剤を塗布したコンクリートの透気試験の扱いは報告書にそうした文章を入れるようにしております。そもそも丁寧に締固めたコンクリートは、含浸剤等を塗布しなくとも透気係数が良いのが当たり前ですので含浸剤等を使わないよう指導しております。また、含浸剤等が使われると、発注者・設計者はそのコンクリートの劣化因子・劣化速度の整理が不正確になるので将来的なことを考えると薬剤は良くないという側面があると考えております。

 ここで悪い事例 4 現場と熊本県の良い改善事例を見ていただきましたが、いずれの凍害も施工が悪い、コンクリートの配合が不適切、またはその両方であり、その程度が深刻なほどに凍害を受けやすく壊れ易いと推測できたのではないでしょうか。言い換えますと、生コン打設当日にやるべきことをやるだけで凍害はかなり防げたのではないかと思うのですが、皆さんはどのように感じられたでしょう。

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同じ場所・同じ条件でも、凍害を受けるとは限らない 結局コンクリートの品質次第

 今回、凍害を受けている構造物を見て、材料や施工について傾向があってとても勉強となりました。

 記事において、もしかしたら一部の技術者から、「寒冷地で気温が低いのは内陸部、海沿いの構造物は内陸部と比較すると気温が下がらないから損傷は小さいはず」と考える方もおられると思います。しかし、凍害は凍結と融解を切り返し受ける条件下で促進されると思いますので、寒さの厳しい内陸部でマイナス 40℃程度の記録を持つ地域等においては、一度凍結したら融解することが少ないと考えられ、そうした凍結状態が長く続く条件においては凍害が小さいはずで、気温だけをもって凍害レベルを単純に推測できるものではなさそうです。

 学会で出されている凍害危険度マップの解釈について、例えば最高に凍害リスクが懸念されている凍害危険度 5 が、北海道の道北・道東と岩手県盛岡市周辺で指摘されており、直接確認しましたが、同じ場所・同じ条件でも、凍害を受けるとは限らず、その程度も品質の悪いコンクリートを中心にバラツキも様々である現状を確認してきました。

 凍害危険度マップの意図、それをどう考えるかについて、4つの事例で紹介しましたように、それは凍害危険度が高い地域で、施工と材料などの対応を間違うと凍害が大きくなるといったことではないかと感じております。

 よって、凍害危険度が高いから凍害が発生するのは仕方ないということは当てはまらないのではないかと思った次第です。

 今回、北海道のコンクリートの調査としては、初挑戦でしたので分らないことだらけでした。
そういうことで記事にするか思案しましたが、全国で共通していることとして、初期欠陥や
手抜きがあると劣化・損傷が早いのは共通のようでしたので執筆したものです。

 実を申しますと、北海道には 25 年程度前に 3 回くらい観光に来ておりましたが、当時の私はコンクリートについて全くの無知でしたので、恥ずかしながら凍害という初歩的現象を知らないばかりか言葉すら聞いた記憶がない状態で、当然ながら凍害に全く気付きませんでした。立場が変わり様々な失敗を経験し、コンクリートのストック効果の最大化について真剣に考えるようになった結果、新設時の品質がもっとも重要であることに気付いたことからこうした調査をするようになり、そこで試行錯誤と仮説をたてて検証等して今に至っております。今回、自分の目的意識によって見方がここまで変わるということをあらためて思い知らされたことはとても大きな収穫でした。

 若かりし頃、コンクリートの全てに鈍感なことから初歩的な失敗を引き起こしたものですが、あらためて反省するとともに、今が成長期と思いますので挑戦の日々は続きそうです。

 この記事について専門の技術者であれば物足りないこともあったかと思います。凍害について、「教えてあげるから一緒に考えよう」等、また、ご意見があるという方がおられましたら編集者へお伝えいただけたなら後日連絡しあって、可能であれば伺いたいと思います。

 最後に、(写真5-2)の現場は熊本県葦北郡芦北町において(当時)九州地方整備局八代復興事務所(現在近畿地方整備局) 山田勝輝氏の監督下、施工者(株)佐藤産業等の尽力によって施工されたものです。あらためてここに感謝申し上げます。

 今回もお付き合いくださりありがとうございました。

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