コンクリート打設は失敗から学ぶ
4、打込み時にコンクリートを駆体中央部に落として表層部へ横流しする事例
参考までに、高スランプで良く見られる失敗として、打込み時にコンクリートを駆体中央部に落として表層部へ横流しする事例があります。すると水セメント比が高い脆弱なモルタル成分を多く含んだ表層(写真-5)で仕上がります。
写真-5 駆体中央から横流しブリーディング集積痕
見ていただきますと、ブリーディングが集積されて固化しておりますが、こうした脆弱層の強度は1.0(N/㎜2)を下回る事が少なくありません。比重も水より軽い事が多く、こうした脆弱層をテストピースに採取し水に入れると浮き上がる事がありますので、軟らかいから横流しが簡単で施工が楽だと考えると危険です。この不具合、実はいまだ全国の新しい駆体で見られますが、不具合が大きすぎて工期内に問題になる事が昔から多かったのでご注意ください。写真の箇所は補修してませんが、この写真を撮影した駆体郡は初期欠陥の宝庫である事からこれより酷い駆体は大きく補修しているため、補修後では欠陥が分らないので今回は比較的軽微な欠陥の紹介となっております。
5、示方書の意図を考え、現場対応するのが前提
今回紹介しました高スランプの現場は2つ、1つは失敗例でもう1つは示方書の締固めに関する記載を「在るべき姿」とする創意工夫で高品質へと昇華した好事例となりました。
標準示方書には、文字通り標準的な記載があるだけで、個別の条件に対応した記載はありません。どういう事かと申しますと、例えば、スランプ0cmとスランプ12cmで締固め時間が同じはずがない訳で、そこで示方書の記載通りの締固時間としますと不具合は避けられず、それをクリアするために我々が個別の条件に合わせて示方書の意図を考え、現場対応するのが前提としてあると思います。
通常、低スランプでは長時間の締固めとなる傾向で、高スランプでは材料分離等のリスクがあるので短時間の締固めとなる傾向ですが、(写真-3・4)の駆体は長時間締固めを実施し、材料分離を促進しブリーディングを駆体内側へ入れ込み廃棄、ビンガム流体の性質を応用した締固めを実施し密実としたものです。ここで言える事は、過振動による材料分離は対応が悪ければ欠陥となりますが、ブリーディングを廃棄するなどの適切な対応がなされたなら品質は良くなります。何故、材料分離・過振動が悪いのか?それは施工者がブリーディングを廃棄せず、そのまま駆体に残すことで横割れや脆弱層となり劣化の供給源となりますので、想像するに、考えられる妥協案としてブリーディングを抑制するために締固め時間を短くして空隙を等分させているに過ぎないと思います。そのような時代背景等を良心に従って解釈し、示方書が伝えたい意図を考え「‘在るべき姿」を追求する為に我々は土木工学を学んできたはずです。
ここで何度もお伝えしたように、私はコンクリート工学が難解な事から、「コンクリートは優秀なモノがやれば良い」とギリギリで単位を取得しました。数年前に知ったのですが、私が通った学校は日本コンクリート工学会で会長をされた先生がおられたようで、そんな事は数年前まで知りもしないくらい無関心でした。それくらいコンクリートに恐れと申しますか、難しいことから考えたくもありませんでしたが、現場での失敗と反省と挑戦により、示方書を個人で解釈し現場で挑戦するに至り、事後評価も良い状態まで何とか出来そうなレベルまで来られたように感じます。
これは私の人生の前提条件が定まる幼少から、「人の役に立つ人間になりなさい」等々の教育があったからであり、努力とは全く違うモノだと思いますが、人を動かす動機がどれだけ大切か、今になって良く分るようになりました。
6、「効率化」そのものが目的になってはいけない
土木技術者は国家の重要なインフラを担うモノです。示方書や難しい専門書が分らないのは誰でもある事ですので恥ずかしい事ではありません。ですが、示方書の通りで施工すれば楽だとか儲かるといった事で示方書を都合良く解釈するのは全く同意できませんし、それは示方書が私たちに伝えたい事ではありません。実は私も今もって現場ばかりで専門書はあまり勉強しないので常識を知らない事もあり、その都度教えていただくレベルですので偉そうな事は言えません。
いま、人手不足と働き方改革により、非常に厳しい環境となっております。効率化も急がれておりますが、今まで古今東西、効率化が目的となって成功した事例はないと思いますし、目的達成できる範囲で効率化する事が求められているに過ぎません。
歴史を紐解くと中国の戦国時代、秦王政(後の秦始皇帝)は、とにかく効率化に熱心だったそうです。天下統一に向けて最大の敵である楚との戦いを前に、全将にどれだけの兵隊が必要か聞いた時、効率化の意図を知っていた将軍の李信は「20万で充分でしょう」とし、最も実績ある王翦将軍は意図を理解しながら「60万の兵なくして不可能」と答えた事から、秦王は「王翦将軍も老いた、臆病になった、李信将軍こそ正しい」と言われ恥ずかしめを受け、居場所のなくなった王翦は隠居伺いを出し、許可され故郷へ帰りました。会議において、王翦は秦王と全将軍の前で、身の危険を承知で、効率化しては天下統一という目的は達成できないと暗に示したのですが、多くの将軍達にとっては「空気を読まない馬鹿正直」と思われたかも知れません。
そして李信は蒙恬を伴い大国楚を討伐に出征したところ、楚軍の策により早々に壊滅させられます。秦王政は李信に大激怒したといわれ、急ぎ自ら馬に乗って王翦の隠居先に出向いて謝罪し、条件を全て聞き入れる事を約束、引退後の報償も思うがままだとして、条件の全てを受け入れたと伝わっています。しかし秦王政も名君、常に挑戦し、失敗を認め、あらためて挑戦し、成功した事から、いかに優れたリーダーであったかと思います。
ここで、将軍王翦は、効率化を求める秦王政の不興を買ってでも大国楚討伐に60万必要と主張し顰蹙を買いましたが、軍人として「在るべき姿」「効率的な必要最低限の楚攻略の兵力」を主張し、それは天下統一へ大きく貢献しました。
私たちに当てはめるとコンクリートのスランプ選定と打込みがどれだけ国家に影響を与えるのか、今後どのような選択肢があるのかという事を、現場を預かる技術者として「在るべき姿」「ストック効果最大化こそLCC効率化」である事を主張すべきだと思うのですが、皆さんはどのように考え発言し行動するでしょうか。
国や学会がいうからと、その意図を考えず、保身の為にストック効果を無視し、都合の良い所を切り取って効率化するのは、2250年前に命を賭けて王へ発言した王翦将軍と比較して私たちも考える余地が多くあるのではないでしょうか。個人的にコンクリートの未来が人手不足と効率化と働き方改革等の複雑な条件によって取り返しがつかないフェーズに入ったと考えております。少なくとも皆さんの行動でコンクリートのストック効果は何倍にもなりますので、挑戦を続けていただきたいと思いますし、今後、私も微力を尽くしたいと思います。
今回も独り言にお付き合いくださりありがとうございました。