道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~

道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
2024.06.16

②2人の指導教官の下で行った受託研究のグレーチング床版

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2.2 ソリッドグレーチング床版の実験結果概要

 次に、鋼格子構造にコンクリ-トを充填したソリッドグレーチング床版の結果概要を紹介したい。

 その話の前に、USスチールで開発されたソリッドタイプと我国のものとの違いを述べたいことが一つある。我国では雨が多いので、RC床版と同様に鋼材を裸にせず、必ず上側かぶりを3㎝以上施すことは常識であったが、アメリカでは鋼格子床版の上側かぶりコンクリートが無い状態で使用されることが多かったと聞いていた。そのためか、アメリカでソリッドグレーチング床版が座屈によって破壊したとの報告書を見たが,英語文章を読んだ直後は理解出来なかった。アメリカの東北部やカナダでは冬季には凍結防止のために岩塩を多く撒くので、鋼格子とコンクリートとの界面に浸み込んだ塩分によって主部材のI形鋼の腐食物の体積が増加したため、床版内で大きな圧縮力が生じて座屈したことと理解できた。日本ではあまり考えられない現象であろう。

 第2番目に言っておきたいのは、床版の劣化が進んでも、ソリッドグレーチング床版ではコンリートの部分抜け落ちは発生しないと言えることである。沖縄県は我国でのソリッドグレーチング床版の最初の採用地で、今から20年位前になるが、やはり塩害によって相当に傷んでいるので、取替が行われているのとの情報が入ったが、コンクリ-トが抜け落ちたとの情報は無かった。また静岡県にある用宗(もちむね)高架橋(この橋の床版コンクリートの打設時に私も現場視察した)も5年ほど前に床版取替をするとの情報が入ったので、内部のI形鋼の疲労キレツの有無ならびにコンクリートの部分抜け落ちの有無について情報をお願いしたが、全く報告を頂いていない。

 I型鋼の疲労キレツについてはオープングレーチングの項で述べたようにI形鋼のウエブに横部材を通す孔があるのでこの穴と横部材との交点溶接部での孔形状と溶接による応力集中に起因する疲労キレツは発生することは容易に考えられるが、現在のRC床版でしばしば発生しているコンクリートの部分抜け落ちは、I形鋼の下フランジが落下を阻止していると確信できるためである。ひょとしたら上記の2橋では床版取替の必要が無かったのではと邪推していたら、つい最近、これらの床版では主部材のI形鋼の上端で水平ひび割れが入り、剥離状態となり、その上のかぶりコンクリートが一部砂利化していたようであるとの情報が入った。私も、I形鋼間隔が小さくなると、上端でかぶりコンクリートが広く剥離する実験事例を経験しているので、この情報は正しいものと思っている(このような剥離が発生しても、耐荷力の低下は大きくないのが特徴である)。また、この話題を書いている時に、ある人から用宗橋ではI形鋼間の下面に型枠として1mm厚の鋼板を用いているが、それが腐食で部分的な剥離があったとの知らせが入った。現在、新日鉄ではこの底鋼板に4.5mm厚の鋼板を使用しており、これによって鋼板コンクリート合成床版のように大きな曲げ剛度が得られ、疲労耐久性が大幅に向上していることを付記しておきたい。

 話を実験に戻すと、ソリッドグレーチング床版の耐荷力は床版厚がRC床版に比較して小さいが、I形鋼によって曲げ剛度が大きくなって、終局状態ではRC床版のような押抜き破壊は発生せず、I形鋼の塑性変形が進んでコンクリート下面のひび割れ開口が大きくなって載荷を終了したものが殆であった。よって本床版を正規の設計法で設計すれば、静的耐荷力は全く問題なく大きなものが得られる筈である。

 次に疲労試験結果を述べるが、ソリッドの場合もオープンと同様に、主部材I形鋼のウエブに横部材や鉄筋を通す孔を設け、それらの交点で施工されるスポット溶接部を発生点とする疲労キレツが発生し、I形鋼を破断に至らせる疲労現象が特徴となっている。写真2.3に一例を示した、この亀裂発生は、穴明き部の溶接部の応力で制御できると考え、図2.5に示すようなI形鋼単体の実験からS-Nデータを収集した。


写真2.3 左側の写真は疲労亀裂を発生した状況を示す。
右側は破断した断面に現れたビーチマークの例を示す



図2.5 大きな断面積の横主部材を各径間に2本ずつ入れることを提案した


1本のI形鋼に6個程度の孔部を設け、載荷点に近い方から支点に向かってキレツ発生が順次発生する機構を想定して、1個のキレツが発生したらその部位のキレツがそれ以上進展しないように1本の高力ボルトで締め付けて、順次隣の孔にキレツを発生させる効率化疲労実験法を考案した。このような部分補強が他の孔でのキレツ発生点に対して影響がほとんど無いことは確認している。

 得られたS-N曲線の一例を図2.6に示すようなものが得られた。この発生応力は式2.1に示すように、①キレツ発生点のI形鋼全体の曲げ応力と、②孔下部のT型部分のせん断力分担による2次曲げ応力および、③孔形状と溶接による応力集中係数倍、からなるもので、①、②は構造力学どおりの式で表現できるが、③については複雑なため実験的に求めなければならない。


図2.6

式2.1


 ただし、I形鋼下面では上記の応力集中は無いので、それぞれを1.0にすると、図2.7のように実測ひずみ値と式2.1による解析値は良い一致を示す。


図2.7 I形鋼の上下フランジの実測ひずみ値


 実際の鋼格子床版ではこれらのI形鋼がコンクートで覆われているので、コンクリートとの合成を考え、①および②の項をコンクリートとの合成を考えたものに拡張しなければならい。図2.8に示したコンクリートに埋め込んだI形鋼合成はりの供試体で実測した結果と解析値と比較検討すると期待どおりの式2.2で計算できることが判った。これによってコンクリート充填型のI形鋼格子床版の設計が可能になった。ただし、I形鋼内にある孔形状は本研究で採用したものに限定される。孔形状が変わると応力集中係数αとβが若干ことなるものになることに注意が必要である。


図2.8 コンクリートと合成したI形鋼の供試体

式2.2


 (3)本四連絡橋用にと考えたサンドイッチ合成床版の研究とある失敗の話
 上記のグレーチング床版に続いて、耐荷力・耐久性にすぐれた合成床版を開発する研究を行った。写真2.4は全供試体の鋼板だけを撮影したものであるが、上下面に薄鋼板を用いたサンドイッチ版であった。


写真2.4 上下面に薄鋼板を用いたサンドイッチ版


 研究時にはこの鋼殻内に充填する高流動コンクリリートは未だ開発されていなかったので、砂と砂利をミックスした骨材分を詰めこんで置き、その直後に鉄パイプを使って、セメントミルクを充填するというプレパックドコンクリート方式でコンクリートを充填する必要があった。このような特殊な時代背景があったのでこの床版に関する実験結果に関しては割愛したい。ただし、後日、超高流動コンクリートが開発されたので、このサンドイッチ版は形を変えて実用化されたことは第9話で紹介する予定である。

 次回の第3話はRC床版に関するゴンゴロ開発前の話題で、RC床版の疲労問題の序章となります。

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