高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
第15回 橋梁診断技術者が備えるべきICTに関する基礎知識を学ぶ専門特修講座「建設ICT」
「建設ICT」の講習会について
ICT(情報通信技術)は、インターネットやモバイル技術の発展により、私たちの生活やビジネスに大きな変革をもたらしてきました。近年では、AIやIoT、クラウドサービスの普及により、業務の効率化や新しいサービスの創出が進んでいます。ICTは急速に進化しており、それに伴い国土交通省の関連施策も継続的に見直されています。このため、講習会の内容についても将来的に改訂が行われる可能性があります。本稿では、2023年度に実施された「建設ICT」の講習会を基準として、その概要と特徴について述べます。
建設ICTの講習会では、橋梁診断技術者が備えるべき建設ICTに関する基礎知識、および橋梁メンテナンス実務でICTを活用するために必要な知識と技能として、①建設ICT(AI、IoT等)に関する基礎知識、②橋梁メンテナンス分野における新技術に関する知識および技能、③データ活用型インフラメンテナンス【インフラメンテナンス2.0】に対応するための必要な知識および技能の修得を目指すものです。
「建設ICT」のカリキュラムを図2に示します。図2に示すとおり、受講者はまず事前学習として約6時間のeラーニングで基礎知識を修得し、その後2日間の対面講習に参加します。初日は座学を中心に、建設ICTの基礎知識、橋梁メンテナンス分野における新技術、データ活用型インフラメンテナンス、さらにBIM/CIMの活用方法や導入による効果について学びます。2日目は、AIを活用した演習および実用化新技術に関する演習を実施します。
図2 建設ICTのカリキュラム
前述したとおり、建設業界は依然としてアナログ的な性質が強く残っています。そのため、受講者にはまず事前学習としてeラーニングによりデジタル技術の基礎を修得していただきます。学修内容は大きく4つのテーマに分けています。第一に、社会における変化やAIの活用可能性、さらにAIがもたらす将来社会について理解を深めます。第二に、国土交通省が推進するi-Constructionの取り組みや、建設・維持管理分野における新技術を学びます。第三に、AIの利活用事例として画像処理技術を取り上げます。最後に、実践演習として手書き数字を識別する簡易的なAIプログラムや橋梁形式を判別するAIプログラムを実行し、基礎的なアルゴリズムの理解を促します。
建設ICTの講習会でも、KOSEN-REIMで実施している他の講習会と同様に、アクティブラーニングといわれる参加型・体験型学修が特徴になります。建設ICTでは、参加型・体験型学修として「実用新技術演習」と「AI演習」を取り入れています。
実用化新技術実習は、橋梁の近接点検を支援・代替する新技術を中心に、開発者や実務家の全面的な協力を得ることで、体験した受講者が実務に活かしやすい講座となっています。具体的には、「タブレット点検システム(写真1)」「ひびわれの画像診断(写真2)」「点検支援ロボット(写真3)」「パノラマ画像管理システム(写真4)」などを体験します。
写真1 タブレット点検の体験
写真2 ひびわれの画像診断 現地撮影の様子
写真3 点検支援ロボット 操作体験の様子
写真4 パノラマ画像管理システム 変状調査の様子
AI 演習は、舞鶴工業高等専門学校で開発されたAIプログラムの概要と基礎理解を目的とした教材を用いて実施します。受講者は、e ラーニングにおいてデータセットを含むファイルのアップロード、環境設定、プログラミングおよび解説をとおしてAI プログラムを構築します。写真-5に示すように、講習会では講師の指導のもと、受講者がeラーニングで構築した橋梁形式を判別させるAIプログラムを中心に実行し、教師データおよび検証データに対する正答率の推移を理解するとともに、ハイパーパラメータの調整方法を学びます。これにより、わずかな調整の違いが正答率に影響を与えることを体験し、AIが万能でないことを認識させることも目的のひとつとしています。
写真5 AI演習の様子
最後に、グループワークとして、実用新技術演習で体験した機材を対象に、受講者が具体的な実務において新技術をどのように活用できるか、導入による効果、想定される課題や懸念事項について議論し、発表を行います。写真-6はグループワークの様子を示しています。このプロセスを通じて、受講者が現場で応用可能な知識とスキルを習得することを目的としています。
写真6 グループワークの様子
まとめ
新技術の導入により、点検や診断の効率化が期待されています。しかし、これらの技術を適切に活用できなければ、その効果は十分に発揮されません。そのため、単なる操作スキルにとどまらず、例えばAIが提示する診断結果を正しく評価し、最終的な判断を下せる技術者の育成が不可欠です。本講習会では、デジタル技術の基礎習得に加え、AIに依存した診断ではなく、技術者自身が最終判断を行う重要性について学びます。
なお、本講習会はICT技術の進展や国土交通省の関連施策の見直しにより、内容を随時更新しながら発展させる予定です。開催は年1回、舞鶴工業高等専門学校で行われますが、「建設分野のデジタル技術を学びたい」「社員研修として参加させたい」という方には、診断講座受講生以外でも参加可能な枠を設けていますので、ぜひご検討ください。
謝辞
本講座の開発にあたり、AIリテラシーに関する動画をご提供いただいた放送大学の皆さまに、心より感謝申し上げます。さらに、講習会において新技術の実演のご協力いただいた、長岡高専井林教授、有限会社神輝興産、株式会社キナン、株式会社IHIインフラシステムの皆さまにも、深く御礼申し上げます。
また本講座は、福島高専講師・浅野 寛元氏、日本ミクニヤ株式会社(当時舞鶴高専特命助教)・掛 園恵氏を中心に開発されたものであり、本稿の執筆にあたっては浅野氏の協力を受けました。感謝いたします。
舞鶴高専e+iMec講習会カリキュラム
https://www.maizuru-ct.ac.jp/imec/curriculum.html
KOSEN-REIM財団
https:///www.kosen-reim.or.jp/
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