コンクリート打設は失敗から学ぶ
5.密実なコンクリートの見分け方
コンクリートが密実であればこうした不具合のリスクは小さいので、密実となっているかについては、ここで何度か紹介しておりますが、雨天時にコンクリートがどのように濡れるかによって、表層品質の傾向がある程度掴めるかと思いますので紹介します。写真を見ると分り易いですが、密実なコンクリート(写真-5)は水が侵入できず弾かれて直線的に下へ流れています。逆に空隙が大きいコンクリート(写真-6)は、水を一定量吸収し飽和状態となってから下方へ流れようとします。水が下方向に流れる速度はコンクリートの空隙が大きいほど遅く、そうした状況は目視で確認できます。ご興味がある方はご自分で施工状況を確認したコンクリートで観察いただけたら良く理解できるかと思います。

(写真-5)密実なコンクリートに水が侵入できず下に流れる
(写真-6)空隙の多い箇所に水が浸入し続ける
紹介しました遊離石灰ですが、1年4ヶ月前(写真-2)は1つも生じていなかったのですが、最近11箇所も発生(写真-3)していました。原因は重複しますがコンクリート打込み当日に高スランプによって駆体の内部にみず道が生じたこと、打込み当日、時間経過と共に水分が抜けた後にコンクリートの沈下が生じ鉄筋近傍や拘束物付近に隙間が生じたこと、これを再振動で解消できなかったからだと思いますが、高スランプを使用するとその現場条件によってここで挙げた以外の不具合リスクがあることは想像できるのではないでしょうか。
私の失敗を過去に何度かお話していますが、新入生の頃は上限要求や加水を繰り返し、それが当然と考えておりました。多くの技術者の認識として、上限要求・加水等をしなければ、水セメント比をクリアし強度がクリアできて安全と考えているかと思います。しかし試験室の強度をクリアしても、そのコンクリートが実構造物においても強度が確保され耐久性が高くなるとは限りません。
現場では日々条件が変化しますので規準を守れば大丈夫ということなく、自分で施工したコンクリートが時間軸によってどのように変化するのか観察してみるとどのような条件で施工すれば耐久性にとって良いのか想像できるようになると思います。関心がありましたら、小さな構造物から試しに高スランプと低スランプを施工して比較し、成功体験に従って大きな構造物でも施工してみることをお薦めしたいと思います。
6.ボックスカルバートの損傷事例
関連して高スランプであろうコンクリートの仕上がりで、私が手抜きの典型だろうと考えているボックスカルバートを紹介します。この駆体ですが、見た目がとても悪く不具合だらけで補修箇所が数字で管理されておりました。その不具合の種類と大きさ等がチョークでマーキングされ、その数は200箇所以上となっております。大きなひび割れの代表例としては沈みひび割れが最大幅1.5㎜を超えており、全体でひび割れ、ジャンカ、一部で剥落と書かれており、新設コンクリートで剥落とは理解できませんが、通常の不具合では理解できない惨状であっただろうと想像いただけるのではないでしょうか。問題はここからでして、補修が終わって2年以上経過している先月に確認したところ、頂版にあったブリーディング痕(写真-7)の多くでひび割れ(写真-8)が追加発生していました。

(写真-7)ブリーディング痕

(写真-8)ひび割れ(赤線)
通常、ボックス内側の水分は日光が当たらない事もあり、含水率が下がりにくい傾向(複数箇所で確認)がありますので、こうした乾燥収縮によるひび割れは年数が経過してから顕在化すると考えておりました。このような若い構造物で顕在化した場合、これからひび割れは成長するだろうと思います。参考までに完成から1年半経過したあたりで、ボックスカルバートの出口付近で含水率を無作為に5箇所計測(写真9~13)したところ、4.8~5.9%でしたのでこれから乾燥し駆体は収縮しますので、今後もひび割れが拡大傾向であるのは想像できると思います。

(写真-9)含水率5.0% / (写真-10)含水率5.0% / (写真-11)含水率5.5%

(写真-12)含水率5.3% / (写真-13)含水率5.9%
私は今まで彼方此方でコンクリートを観察しておりますが、綺麗であったり違和感のあるコンクリートを複数回観察していくと、毎回見る度に新しい気付きがあり、それは天気であったり、四季の変化であったり、経年変化であったり様々ですが、一回観察すれば対象物について分ったと言うことはありませんので、つくづくコンクリートは奥深いと感じます。何事においても言えると思いますが、こうした観察だけに限ってもPDCAがとても大切だと感じずにはおれません。マニュアルを絶対視する方や効率化を最優先する方が言われることの中で、「現場は施工者がやるのだから任せとけば規準通りやるから大丈夫」、「現場行く暇があれば書類した方が良い」等々の主張が多いです。
何度も申し上げてきましたが、我々は土木技術者であるはずがいつの間にか事務員へ転向したかのように追い込まれ、かく言う私も現場へ出られずに事務仕事を主体とした技術者へ転向した時期が長くありました。そうした事務仕事を主体としている技術者が造るコンクリート構造物等の多くは、打込みにおける締固めは充填までで終わることから、密実とはならず失われた技術(耐久性)のようなものへと今も移行しているのではないかと心配です。
7.国が意図するストック効果の高い効率化とは
ここで自問自答していただきたいのですが、もし、ご自分が巨額のコンクリート構造物を発注する立場で受注者を選べるとき、2つの選択肢があるとします。
1つは現代のほとんどが該当するであろう規準通り施工し事務処理が早い技術者。
2つめは規準の意図を考え、成功体験により施工はするが事務処理は遅い技術者。
のどちらかの選択肢から選ぶ時、ストック効果を高めて公益を確保すると考えるでしょう。
近年、建設業は問題が山積しとても苦しい状況です。効率化も重要で新技術も採用しなければならないでしょう。ここで私たちが考えなければならないのは、どこで、どのように新技術を使って、国が意図するストック効果の高い効率化をするかだと思います。まず新技術に関して様々あると思いますが、コンクリートに関する新技術でも使うことによって短命化するのではないかと強く疑われる技術がありました。新技術の開発者は良い技術を開発しても使われる現場の前提条件を知り得ませんので使う側がその新技術が合理的であるか良く考える必要があると思います。
それを判断するには現場経験が多いほどに良いと思うのですが、そうした判断なしに採用する技術者が今後は増えていくだろうと私は予想しております。何故か、それは全プレイヤーが忙しいことで事務処理に追い込まれているからで、そのような技術者はメーカーの性能表や数値を盲信し、前提条件も理解出来ず自分の現場でも同様の効果を期待する傾向があるからです。そうした状態が長年深刻化していると感じていますが、今後も歯止めがかからなければ規準やマニュアルを都合良く解釈する技術者が多くなるように思います。そうした未来に近づいた時、最近の人工知能は実に模範的な回答を返してくれるので、マニュアル人間や事務員と化した技術者と人工知能を入替えできないか議論される未来があるかも知れません。
25~30年くらい前だったでしょうか、世界標準だとか言われてISOの導入が始まりました。それからマニュアル化が進み、今まで当たり前にやってきたようなことも省かれ、「発注者が定めていないからやらなくて良い」といったことが多くなりました。私はその時、「我が国の技術は世界最高のはず,世界と標準化すれば多くの日本のオリジナル技術は消滅するのではないか。」と考えました。以降、表面上周りの技術者に合わせつつも、心の中では前提条件を考え行動し、様々な気付きを得ることとなりました。
ISO導入当時、「日本は世界から取り残されている」といったようなことを聞きましたが、いま考えてみても果たしてそうだったのか疑問に思っております。ISO導入以降、多忙となった現場はPDCAを回せず技術が凋落した分野が多くあるのではと。
何が正解か分りません。もし、ご自分のオリジナルがあれば評価されずともいつか脚光を浴びるかもしれませんので大切にしていただきたいですし、今の現状に違和感を覚える技術者がいれば、その答えを探す挑戦をしていただきたいと思います。
失われた技術がこれ以上増えないよう、先輩方の教えを大切にし、個々のオリジナルや考え、成功体験を大切にして、先輩方が編み出した技術があったように私たちも残していけるモノを探して現場で生かしていきたいと願うばかりです。
今回もひとり言にお付き合いいただきましてありがとうございました。今年もよろしくお願い申し上げます。





