コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2024.07.01

②成果は環境や教える側の動機付け等で決まる

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何事も動機が大事

 そして【指導】により、取組んだ結果を評価し結果が悪ければ改善(PDCA)、そこで大きな成果が得られれば今後のために発注者や先生方で情報共有(写真-4)いただくことで良い取組みが広報いただければ関係者も報われると思います。この現場では発注者の監督員が熱心でしたので、元請けさんはヤル気満々でそうした環境で動機付けがなされて構築されたコンクリートはとても密実で不具合がないに等しく、先生方に高い評価をいただき関係者一同とても喜んでおりました。


(写真-4)産官学で透気係数・ひび割れ等の評価(熊本県葦北郡芦北町)


 私はこうした考え行動に至る基礎の一部を小学2年時の担任から学び、学生時代に哲学の先生からは国家観を、多くの先生方や大人達から様々な事を学びました。常日頃思うのですが、私は小さな会社の技術者兼作業員でしたので特別な人間であるはずがなく、周りの仲間もほとんどが似たり寄ったりでしたので、そうした環境でも業者さんに見積段階で公共工事の在るべき姿や品質確保のコストを支払う事をお話し、仕事を受けていただいた業者さんの多くは最高と思えるような素晴らしい結果をだしてくれたように思います。

 何事も動機が大事であり、私が申し上げている事は既に2500年前に孫武が著した【孫子の兵法書】等に本質的な事が詳細に記されているようですが、意外にも【孫子の兵法書】の内訳は国家の繁栄について記されており、できるだけ戦わず国家を運営する考えが述べられております。何故兵法書となっているのか、それは戦争が絶えず起こる時代において、国家が生き残り疲弊しないよう戦争を避け、戦争が避けられない時に限り出来るだけ被害を出さずに勝利する為の戦術が記されている事から戦争が前提にあったからだと思います。もし、平和な時代に孫武が生まれていたなら、外交で戦争が回避できるよう外交術や富国に関わる書物となっていたのではないでしょうか。

コンクリートを”はつる” CORE技術研究所 私たちがもとめるもの それは豊かな未来を支える確かな技術です。

土木技術者の使命はストック効果の最大化

 ここから、前回も申し上げましたが、土木技術者の使命はストック効果の最大化1)によって国家を繁栄させることだと思います。ですから長期的なコストミニマムを考えて行動しなくてはならないと思うのですが、コンクリートの耐久性は生コン打設当日でほぼ決まると断言できますので、それが理解しやすい写真を紹介しながら解説したいと思います。

 今回は供用開始前のボックスカルバートを紹介しますが、特定が難しいように部分的な拡大写真を用いて、不具合が何故生じているかを中心に紹介します。

 翼壁の一部(写真-5)とそこを拡大撮影した水の這い上がり痕・打重ね線(写真-6)の原因について経験を基にお話します。翼壁の一部(写真-5)の不具合ですが、躯体全体で類似のまだら模様が生じておりました。(写真-6)で水の這い上がった痕、うち重ね線が確認できますが、そうした不具合は全体で発生しております。こうした規則性のない極めて質の悪い躯体では元請・下請ともに早く打設を終える事や利益・工期等の身勝手とも言われかねない特定の方達の都合に重点を置いて施工していますので、コンクリート標準示方書は全く順守されていないと断言できます。加えてコンクリートのスランプが上限要求もしくはJIS規格外のコンクリートを使っているものに加水していると考えてよいです。


(写真-5)翼壁 / (写真-6)水の這い上がり痕・打重ね線


 そもそもJISを外れても(写真-6)で見られる大規模な水の這い上がり痕が生じるのを見たことがありません。這い上がり痕のコンクリートは一部では洗い出しのような仕上がりとなっており、そうした現象はスランプ15㎝で施工しても経験がありませんので上限要求でJIS規格をプラス側で外れたコンクリートに加水したと推測するのが自然だと思います。

軟らかいコンクリートや上限要求したコンクリートは収縮量が大きく割れやすい

 (写真-7)の頂版におけるひび割れですが40㎝程度の間隔で発生しています。これも手抜きしたくらいでは生じないと思いますが、加水しすぎてコンクリート脱枠後に加水した水が表層で乾燥した時に空隙となり、コンクリートの収縮量が想定以上に増大したことでひび割れが多発したと推測できます。

 (写真-8)ではひび割れ0.6㎜の記載が確認できますが、こうしたひび割れが全体で確認できますので、軟らかいコンクリートや上限要求したコンクリートは収縮量が大きくてひび割れが生じやすいのでとても危険です。


(写真-7)頂版ひび割れ / (写真-8)水の這上がり痕・打重


 この地域のコンクリートですが、ここ数年に限っては品質が大幅に改善されておりますので、こうした不具合が問題となって何かしらの取組みがなされているのだろうと想像しております。この初期欠陥ですが受注者側としては組織の利益を考えて行動した結果だろうと思いますので、いかに動機が重要であるか理解できるかと思います。

 以上、紹介した不具合についての原因は、生コン打設当日の対応に起因していると考えられますので、コンクリートの耐久性が打設当日で決まると言う事はご理解いただけるのではないでしょうか。

 いま叫ばれる持続可能性や環境問題ですが、本気で取組むのであれば良いモノを造って、ライフサイクルコストを改善する事が最も効果が高いと思うのは私だけではないのではないでしょうか。しかし、皆さんもご経験があると思いますが、良いモノを造って社会貢献したくても、イニシャルコストが少し高いだけで躊躇してしまう厳しい環境があって、とてももどかしいです。私にできる事は小さく限られておりますが、今後もできる事を積重ねてまいりたいと思います。

 最後となりますが、小学 2 年生だった私に指導とは何か、加えて将たるに相応しい行動を示して下さった川畑彰先生、並びにソクラテスなどの偉人を通じ国家とはどう在るべきか教えてくださった大滝悟先生にここで深く御礼申し上げます。

 今回も拝読いただきありがとうございました。

 参考文献
 1) 国土交通省社会資本整備審議会・交通政策審議会交通体系分科会計画部会専門小委員会:「ストック効果の最大化に向けて~その具体的戦略の提言~」、2016.11

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