道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~

道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
2024.08.01

③建設省土木研究所の国広橋梁室長のRC床版の問題点に関する論文を読んで

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道路橋床版の高耐久化を求めて~床版の革命的変化を追求した半世紀~
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劣化が進行している構造物の補修・補強を調査川工事施工までトータルで管理いたします 技術をもって社会の発展に貢献する わたしたちは 橋梁・コンクリート構造の専門家です!
>松井 繁之氏

大阪大学 名誉教授
大阪工業大学 客員教授
工博

松井 繁之

(1)国広室長の論述への松井の意見

 ※前回まではリンク先を参照してください。

 グレーチング床版の研究を進めていた最中の昭和42,3年頃から、RC床版においてひび割れ損傷が進んでいるとの情報が入っていたので、文献検索を続けていたが、国土交通省土木研究所の国広哲夫橋梁室長が専門雑誌「土木施工」(1972年11月、12月号)に書かれた「床版のこわれ方、なおし方」が見つかり、これらを読んだこと思い出し、この文献を再読したくなり、本箱等を探したが、2回の整理中に廃棄したようで残念ながら発見できなかった。こうなると益々読みたくなり、文献探しをR2SJ の井手迫氏に依頼したところ、(一般社団法人)国際建造物保全技術協会理事長の植野芳彦氏にお尋ねになったようで、幸い植野氏は国広氏を神様とも呼ばれる程にご親交が深くて、私のお願いと判り、早速に処々に尋ねて頂いた。一度廃版になったようだが、最終的に国会図書館に行けばあることを突き止めていただき、コピーを入手した。

 その内容は、そのままでここに掲載してもよいと思うほどである。国広室長は床版に関する造詣が深く、輪荷重走行試験による情報が無いなかで、ここまでお書きになったことに、改めて感嘆している次第である。改めて私の脳裏に国広さんの名前が刻み込まれていた理由を確認することができた。

 そこで、表3.1に上記の国広室長の論述を紹介し、それに対応した私の意見を述べていきたい。


上記表は拡大可能です

写真3.1 1972年5月(昭和47年)に阪神高速道路で床版抜け落ち事故発生

  表3.2 我国の高速道路の建設と大イベントとの関係

    図3.1 実測輪荷重1t以上の累積軸重分布

    図3.2 松井の床版下面の主鉄筋方向ひびわれの開閉により計測した大型車後輪軸重分布

    図3.3 車輪通行位置と激しい損傷との関係(3枚)


図3.4 S39示方書における鉄筋の許容応力度の規定

    図3.5 示方書の変遷による床版主鉄筋断面の断面二次モーメントの変化

未来をつむぎ人とのつながり 確かな技術で社会基盤の発展に貢献する スクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代へ

(2)RC床版の直交異方性を正しく評価しているか

 この論文とグレーチングの実験を通じて、コンクリート系床版ではコンクリートにひびわれが発生すると、内部の鋼材の影響を受けて、例えば、鉄筋コンクリート床版では直交2方向で曲げ剛性が異なる異方性が発現する。しかし、わが国では古くから床版は等方性版(板を用いないのはコンクリートを打設して製作した複合構造であるため)として取り扱われてきた。永久使用できる近代床版として戦後一気に活用されてきた。明治時代まで寺社の庭園橋では厚板の木材を横に並べて牛車を通行させていた。縦方向に荷重を分配しない梁で牛車の荷重を担ったいた(笑い!)。

 それでS39示方書で設計した床版を含めて昭和43年の道路局長通達に従った場合や、表3.1で述べたような異方性度を1.0よりも大きくしたものの解析を行い、土木学会論文集に投稿した。その研究の概要を述べたい。

 図3.6に示した現行のRC床版は主鉄筋を車両進行方向に直角に、上下2段に配置し、その間に橋軸方向の配力鉄筋を2段で配置するものが一般的になった。


図3.6 床版の配筋方法


 主桁間の支間中央に横桁を配置するが、上のRC床版を支えないので、床版の長さは桁長に近い長さを持つが、支持する主桁間に比べると軸方向に長い長方形型になり、一方向版と呼ばれている。上記のように内部に2方向の鉄筋を配置しているが、それぞれの断面の中立軸に関する断面二次モーメントや、それにコンクリートのヤング係数を掛け合わせた曲げ剛性は大きく異なる直交異方性版となっている。この異方性版の基本微分方程式は式3.1で表すことができ、ある輪荷重を受けた床版の2方向の曲げモーメントやたわみなどが計算でき、床版設計の基本式である。


式3.1 異方性版の基本微分方程式


 この式で4辺単純支持の一方向版に輪荷重勝ち床版中央に載荷した時の荷重直下の主鉄筋および配力鉄筋に作用する曲げモーメントの発生状況を異方性度Dy/Dxを変数として求めたものが図3.7である。S39示方書書では等方性版で解析し、それで求めた主鉄筋量を決め、配力鉄筋量は主鉄筋量の25%を入れるだけで設計してよいと決めていた。そこで問題ある。このようにして求めてた鉄筋を配置してDy/Dxを求めると約0.3となるので、図3.7よりは配力鉄筋断面に作用する曲げモーメントは0.67程度で安全側になるが、主鉄筋断面に作用するモーメントMxは1.22倍となり、大変危険側になる。これが問題として土研が中心となって鉄筋量を70%に上げ、さらにS43年の暫定基準で配力鉄筋曲げモーメント式を与えて鉄筋量を設計するようになったわけである。


図3.7 異方性を考えた単純版の解析結果


 それでも図3.8や図3.9に示すように示方書どおりに設計しても依然として異方性度は0,6程度になる。これでスパン長をかえても異方性は0.6程度で安定しているから良い、となっているのが問題と考えている。


 図3.8 現行示方書設計した床版特徴
  (上)My/MxとDy/Dxの関係  (下)Dy/Dxと床版厚の関係

図3.9 現行示方書の曲げモーメントとDy/Dxの関係


 私としては、RC床版を基本的には等方性版と考えることにした。その仮定を大前提とするならば、解析によって得られた配力鉄筋方向のモーメントで配力鉄筋量を求めるのでは無く、Mxで主鉄筋を設計し、その後、Dy/Dx=1.0になるように配力鉄筋量を決めるべきと考えた。図3.9を参考すると、現在でも実床版では横軸Dy/Dx-0.6の曲げモーメントで設計しているが1.0の場合に比べて、まだ主鉄筋モーメントは過大になっている。Dy/Dx=1.0になるように設計すると主鉄筋曲げモーメントが減り、図3.10に示すように、主鉄筋および配力鉄筋とも10~12%程度の安全の余裕が出ると言える。


図3,10 Dy/Dxを変数としたMx,Myの変化状況


 直交異方性版で桁支持された場合(図3.11)についても解析を行い、支持桁の不等沈下を考慮した曲げモーメント式も誘導したが、詳述は誌面の都合上は割愛する。興味のある方は、(土木学会論文報告集大第252号,『道路橋RC床版の設計曲げモーメント式に関する一考察』)をお読み下さい。


図3.11 RC床版を複数本の主桁で支持した床版解析モデル

(3)阪神高速の床版陥没に対する技術議論と努力

 写真3.1に示したように、1972年に供用開始から5年で床版陥没事故が発生したので阪神公団内で技術検討会が立ち上げられた。委員長に京都大学の岡田 清教授が任命され、委員は図3.12に示した材料・施工に詳しい京都学派と構造解析や橋梁技術から意見をもとめられる大阪工業大学の岡村宏一教授、大阪市立大学の園田恵一郎教授、大阪大学松井繁之助教授が選ばれた。この委員会の目的も図3.5に示したように事故原因を究明し、合理的対策をみいだすことであった。


図3.12 コンクリートスラブ技術委員会


 初めから大変活発な気論が飛び交った。これが技術委員会かと興奮したもので、会議は会食もあったが、大阪組は会議後、毎回夜遅くまでお酒をかわしながら反省会をやったこと記憶に残っている。

 会議が始まり、2回後辺りからあのような床版の一部が集中的に激しいひびわれ状態となり、コンクリート片が抜け落ちるのはどういう現象なんでしょうかとの質問があり、議論が紛糾した。京都学派の先生方は松井より1,2から5,6才上でしたので、新進気鋭に感じられ、私は少々遠慮がちでした。京都の先生方はほとんどは施工不良と品質が悪かったことが原因となっているとした。更に、別の委員会(設計荷重(HDL)委員会で荷重調査を行っていた)の成果から過積載車の走行が衝撃が加わったためで、局所的な破壊であると思うと発言された。しばらくは静かになり、HDL委員会の過積載車の結果が公団側から報告され、設計荷重の2~3倍の過積載車の多さに驚いていた。委員長は大阪グループはどのように考えるか質問され議論を元にもどされた。私は現場下面で発生しているひびわれパターンを見ると格子状になっており、供用後から徐々にその密度が増加していること併せてみると、年数が増加することによってたわみも増加していることから広義の疲労とかんがえられると発言した。岡村先生・園田先生も同じように思うことを、床版の解析から、ひび割れ先端において繰り返し応力によって疲労ひび割れが中立軸を超えて伸展することが考えられる、交通量が飛躍的に増加したことによる疲労と考えられる等の発言をされた。

 二回目の会議において国交省委員と園田先生から資料として提出されていた、現場から切り出した床版と配筋・床版厚・コンクリート強度を同じくして新規に作成した床版の実験結果が提出(図3.13)されていたので、松井がFEM解析による結果を乗せて提出(図3.14)し、京都学派の先生方が言われていた疲労ではないとの発言は、過去の疲労データはこの図の左側の結果に基づくもの、すなわち、一定点疲労を行ってても、たわみは静的試験の結果から僅かに増えるだけです。しかし、現場切り出し床版の結果は右側の通りであり、新規床版の3~4倍にも増加しております。ちなみに床版下に発生しているひびわれは図3.13に示したように大きな違いがあります。


図3.13 実験床版の下面ひびわれと現場床版で観察されるひびわれの違い

図3.14 実橋床版および新規床版の荷重-たわみ関係の違い


 このひびわれが格子状になるのが現場床版の特徴ですと声を大きくして言った。心の中で、このような格子状になるのが荷重の移動によるものですと思っていたが、口には出せなかった。証明する実験経験が無かったためである。

 その後、上記の荷重も移動効果を調べる方法を考えた結果、写真3.2に示したローゼンハウゼン式ジャッキの下に置いて、その下に50㎝×20㎝の載荷板(厚さ50mm)を50㎝間隔に置き、載荷点移動させる方法を考えた。この結果、荷重が設計荷重に近い程度であれば、下面のひび割れは先に示した切り出し床版と同様な格子状になった。ただし、ジャッキを5万回に移動させるには多大な労力が必要であり、学生から反発を買った。


写真3.2 定点疲労実験状況


 ジャッキを止めている固定のM40のボルト8本を緩め、締め直す作業を要するためである。今の時代ならパワハラと言われて告訴問題となる代物であろう。そこで写真3.3に示すような十字架風のはりを床版の上方にかぶせ、ジャッキを固定したままで、梁の先端をチェーンブロックで5cm程度上げて、載荷板だけを前後に移動させる簡易法を開発した。学生には大好評であった。


写真3.3 多点移動載荷実験移動を簡易化した試験法

(左)松井の載荷点   (中)園田先生の載荷点   (右)NEXCO総研・藤田氏
図3.15 多点移動載荷試験

(左)C点載荷時の橋軸方向たわみ分布変化、(右)床版中央の最大たわみの繰返し数に伴う変化状況
図3.16 多点移動載荷法による結果


 これらの経過を夜の反省会に園田先生や岡村先生に話すと、1週間もしないうちに図3.15(中)の様な27点で疲労載荷する方法で実験された。更に同じような問題意識を持っておられた日本道路公団試験研究所橋梁研究室の藤田信一氏により、右図のような載荷点での実験がなされた。このような多点移動載荷法で、一時多数の実験がなされ、抜け落ち現象の原因は輪荷重の移動によることだけは証明された。しかし、このような実験での「最終破壊は内部鉄筋の疲労破断が先行し、コンクリートの抜け落ちは再現できなかった。これらの実験では荷重の移動回数は僅かにしかならないこととコンクリートの劣化が進まないためと反省した。より実橋床版に近い現象を再現するには輪荷重1回づつ着目点を走り抜けさせなければならないことを悟った。しかし、そのような実験ができるのか?苦悩した。(8月中に掲載予定のその④に続きます)

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