高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦

高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
2024.10.01

第2回 KOSEN-REIMが行うインフラメンテナンスのリカレント教育(2)

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ゴミを減らして世界を変える スクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代へ キレイに、未来へ

~想定している受講者像~

 KOSEN-REIM事業(5高専が実施するリカレント教育)では、eラーニングと対面講座を基本とした講座を展開しており、想定する受講者としては、高専生(4年生以上)を想定して講座(基礎編、コンクリートの品質管理、地盤と斜面)を構築しています。リカレント教育の対象としては、かつて土木を勉強したけれど忘れてしまったよ!という自治体職員、今まで建設工事一筋だったけど今後は修繕工事に取り組まないとね! という地元建設業の技術者、橋梁点検やドローン・橋梁点検車のオペレータ、システム開発者などインフラメンテナンスの世界に異業種から参入してきたよ! という土木の教育を受けていない方、などを想定しています。いずれにしても、導入編からのステップアップ型としており、学歴・経歴に関係なく意欲のある方にインフラメンテナンス技術を学修してもらい、インフラメンテナンス分野での活躍を後押ししたいと考えています。

 リカレント教育からは少しそれますが、夏休みには全国の高専から学生を集めて5日間にアレンジした基礎編をインターンシップとして実施しており、その受講生の多くから橋梁メンテナンスに係る仕事に就いたと報告があります。学生時代の橋梁そしてメンテナンスに係る体験が、その後の進路選択に少なくない影響を与えているのではないかと実感しています。


【写真-7 e+iMec基礎編を受講中の学生、この学生は卒業後、橋梁会社に就職し現在は鋼橋の修繕工事の設計業務に就いて活躍しています。】

コンクリートを”はつる” 橋台背面の段差を抑制 可撓性踏掛版

~土木教育未受講者への教育支援~

 私はe+iMec講習会によって1,000名以上の方に直接講習を実施してきました。その経験を踏まえると、橋梁点検業務や維持修繕業務の最前線では、正規の土木教育を受けていない方が相当数関与している実感があります。それぞれ、必要な資格は獲得されているものの、構造物の設計思想や発生する断面力、変形などの基礎知識が無いままに業務を遂行していると考えられます。実際に異分野から参入された勉強熱心な方ほど、橋梁点検や修繕工事の奥にある土木工学の基礎的な知識の欠如を実感され、それを修得する術と時間が無いことを嘆いています。舞鶴高専のe+iMec講習会に参加された方のうち、SEから地元の測量会社にUターンして橋梁点検を始めた方は、「自分の点検という仕事が世の中のためになっているという実感があり、SEの時とは全く違った充実感がある。こんなことなら大学で土木工学を勉強しておくんだった。」という話をされていました。

 高専では15歳から20歳までの学生に対して土木工学の教育を実施していますが、その教育内容も時代の変化に合わせて変容していく必要があります。その一方で、3力(土質力学、水理学、構造力学)と言われるような基礎的な専門教育と土木の根底にある社会への奉仕や技術者倫理などは土木教育の核心として教育していく必要があると考えています。

 そして、上記の部分についてリカレント教育コンテンツとして開発し、土木の正規の教育を受けていない方々に提供することができれば異分野から流入する優秀な人材を見方に付けることが出来るのではないか、それがKOSEN-REIMの次のミッションではないかと思っています。一方で、そうして開発したリカレント教育を受講する奇特な受講生は居ないんじゃないか? という話もあります。R2SJの読者の皆さんからのご意見をいただければ幸いです。

~建設業界からの支援が必要~

 最後に上記の講習会の運営について、継続的運営と教育コンテンツの更新・開発を進めるには、受講生からの受講料だけでは不足しており、外部からの助成が必要です。当初は文科省の補助金を受けていましたが、補助金が終わったからといってインフラメンテナンスを終わりにしていいわけはありません。

 そこで2023年6月に高専のリカレント教育を支援する一般財団法人高専インフラメンテナンス人材育成推進機構(KOSEN-REIM財団)を設立しました。KOSEN-REIM財団では、主旨に賛同いただける企業・団体に会員になっていただき、お預かりした年会費から高専に支援を行っています。8月末の時点で52の会社・団体および13自治体が会員となっています。ご協力いただいている皆様に深く感謝いたします。

 5高専によるKOSEN-REIM事業が実施する講習会は、高専機構や文部科学省からの貴重な国費による助成によって構築したものであり、その成果を広く地域に還元していく使命があると考えています。そのため、地道に講習会を開催して少しでも「地元の橋は地元で守る」を実現するために邁進すると共に、建設業界からの支援を得る努力も必要であり、建設業界の皆様にご理解とご協力をお願いしたいと思います。

 支援のお願いに廻った際に「出資に対する我が方のメリットは?」と必ず聞かれます。営利企業である限り、その質問は必須だと納得しています。一方で、高専や大学が実施するインフラメンテナンス技術者の育成に資する予算を持ち合わせていない国土交通省の代わりに、建設業界の皆様からご支援をいただくしか術がないという現実もあり、この辺りのご理解を賜りながらKOSEN-REIM財団への参画をお願いしていく所存です。「我が方のメリット」として、人材育成という「建設業界の未来」への投資と考えていただければと考えます。

 次回、私は一旦お休みし、KOSEN-REIM財団の西川 和廣理事長にバトンタッチいたします。

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