新しい時代のインフラ・マネジメント考

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2024.10.16

⑥ぬけているもの

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生まれた時から虚弱体質なものを無理して長寿命化もできないし、免疫力のないものに予防保全もできない

 2000年に韓国の高速道路のPFI事業で韓国に赴任していた時に、最初の1年間は、すでにできていた設計の照査から始めた。橋梁は105橋あり、トンネルは13本だった。この時、韓国の設計方針は、許容応力度の余裕を、70から80%程度に抑えた設計を実施していた。念のため韓国道路公社に確認したが、それが通常だという。「なんと、日本に比べて合理的か!」と感心した。設計は、数字の遊びではない。もっと深いものがある。しかし、日本では今も数字の遊びになっている。

 設計は計算すればよいというものではない。先ほどの断面構成の話と細部構造と、この2つが構造物の寿命を決めると言って過言ではない。それが理解できなければ維持管理は無理である。つまり、生まれた時から虚弱体質なものを無理して長寿命化もできないし、免疫力のないものに予防保全もできない。この辺は、理解できないと、余計な予算を使っていくことになる。

 つまり最初からある、ひび割れを数十年たってから、老朽化によるひび割れだと評価しても正しい診断ではないし、評価ができていないことになり、間違った補修につながる。脆弱な構造物を作ってしまえば、長寿命化なんて無理である。これは、設計だけでなく施工にも言える。手抜きやミスにより、結果的に不良品を世に出しても、それを評価できる検査員が存在しなかったりする。これは、まずい体制である。最大の罪は税金の無駄遣いとなり、国民や市民への不遜な行為というか犯罪に近い。

 工程として設計時も施工時も、きちんと評価し、厳しく検査していく必要がある。私は「鬼の検査官」が必要だと言っているが、役割上いやでも厳しく見ていくのが検査官の役割である。嫌われたくないものはやらなければよい。全体を統括する管理職も同様である。監督する側は、「好かれよう」とするのではなく「嫌われても仕方がない」のである。

 現在の老朽化対策、維持管理は、当該構造物が健全であったが経年変化で老朽化が進行したことが前提であるが、生まれた時からの不良にはまた違った対処法がある。診断の正しさの問題も指摘されるが、正しい診断ができる人間は、限られる。必ず、点検を請け負った企業に存在するか?というと疑問である。役員でも部長でもほんとうにできるかというと、居ない。「わからないと言ってくれたほうが、親切である」とすら思っている。

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4.まとめ

 近年、物を作るという責任感が薄れているのではないだろうか?それぞれの工程からもそれは見えてくる。結局は初期品質がどうかという問題である。それには、絶対にあってはならないのが、「計画ミス」「設計ミス」「設計不備」「設計上の配慮不足」である。これによって構造物の寿命は実は短くなっている。自然環境、地域や地形、交通量(過積載)などによっても大きく異なるはずである。しかし、一律でやろうとしていることが問題である。まあある適度な標準化は必要である。しかし、標準ヵの考え方を間違ってはいけない。


 あまり物事を考えない方々が机上で議論しているから、「長寿命化」「予防保全」などの不可能なことをのんきに言っている。これに惑わされている人たちも多い。プロとして情けない。万物には寿命があり、有限であるということを言わないと、適切なマネジメントはできない。

 そしてこれらは、コスト、財政とトレードオフにあり、長寿命化・予防保全を重視すればコストは上がるのが一般的である。現在までの「経済設計」と言われたものは、イニシャルコストしか考えられてこなかった。維持管理性が非常に悪くなったもの、制作過程において人工(加工手間)が非常に上がってしまうものをたくさん見てきた。はたして、今、そこに重点を置くべきなのか? これは、人によって意見が分かれるだろう。先に検査の話をしたが、官側においてこれは非常に難しい問題である。疑問に思えば確認すればよいのだが、プライドのためか遠慮してしまう。経験も乏しい人間が、間違いを探したり、ミスを見抜くには、かなりの実力や経験時間が必要である。


技術の伝承のためにも! 新規事業の必要性


 本来のインフラ・マネジメントとは、様々なリスクを勘案した計画・設計・制作・施工・維持管理の長期にわたる、マネジメントである。特に初期のリスクマネジメントは、かなり重要であるが、意外と気を使っていない。どうも、この国ではイニシャル・コストばかりが議論されてきたきらいがある。安かろう悪かろうなものを作れば維持管理は大変になる当たり前の結果が今来ているのである。

 若者が夢を持ってこの土木の業界に入ってきて、仕事をしながら自分を磨いていくわけであるが、まずどんなに優秀な人間でも、土木の世界は、経験が重要な要素である。経験を積みながら、技術を磨いていくのである。デジタルの世界のように、一気に画期的なシステムを構築できるような天才的要素はなかなかこの世界では難しい。こういうと、年功序列を助長しているように見られるかもしれないが、時間をかけるべきところとそうでない部分がある。当たり前な部分は、生産性が重要であり創意工夫も必要であるが、本当に経験がものをいう部分がある。だから30代、40代では、天才的な能力や高学歴な人間でも無理な部分が存在する。

 私は、優秀な人間ではない。技術力も、さほどない。「あいつよりも自分のほうが技術力は上だ」と思っている方も多いだろう。これは、話していると、実はよくわかる。世の中には、うがった技術力を気にする人たちは多い。なので、私は細かなところは見ないようにしている。さらに、学術的な部分も、避けるようにしている。私のようなものが発言しても聞いてはもらえない。そういう方々がやればよいだけである。しかし、聞かれれば答えるが。

 物事をマネジメントしていくためには、それぞれの専門家を集めて。取り組めばよい。できる人にやってもらうか聞けばよい。そして全体をまとめるマネージャーがいればよい。しかし、世の中はどうもこの両方をやろうとしてマネジメントができない人間が多い。

 働き方改革と言われている。しかし、労働者にとって働き方は自分で決めればよい。転職に関しても、いろいろ言われているがこれも自分の価値観だ。そこにとどまる価値があるのかないのか? だけである、リスクがあるのは当たり前で、自分を見誤れば仕事がなくなって当然である。そのくらいのリスクは覚悟のうちであるはず。私は、そこでの仕事に大儀を感じなくなったり、その企業がだめだと思ったら辞めてきた。これは、我が国においては損な生き方であるが、精神的には非常に良かった。リスクのない事業はない。人生も事業である。当然リスクはあって当たり前。

 これまでの、身に着けたものを誰かに伝承したいが、なかなか難しい。前回お休みをいただいたのは、「疲れた」からである。「もう書いても仕方がないな」と感じている。みなさんも、お忙しいと思うので、読みたいものを読み、価値がないと思うものは見る必要はない。

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