超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強
3.オーストリアにおけるUHPFRCの適用
次に、オーストリアに目を向けると、ここでもUHPFRC構造物への取り組みは、ウイーン工科大など大学の研究に基づいていると言える。注目されるパイロット事業の橋として、ケルンテン州のヴィルドアーチ橋があげられる。
この橋のアーチ部は、グラーツ工科大のシュパロヴィッツ教授によって設計され、箱断面のアーチ斜材は、プレキャストUHPFRCとして設計・施工された。なお、斜材の中には、アンボンドPC鋼材が配置され、各格点には角度変化のためのシースが配置された。斜材基部の検討は、実物大実験およびFEM解析によって行われた。
アーチ斜材以外は通常のコンクリート工法により2007年からSTRABAG社によって施工された。アーチの施工に限っては、部材の搬入から回転工法によるアーチの形成まで、10日しかかからなかった(図-12~14)。
図-12 UHPFRC斜材によるアーチの形成
図-13 長さ16mの箱型アーチ斜材120×120㎝と接合部、斜材内部のPC鋼材配置とセンサー
図-14 UHPFRC斜材によるアーチの施工
アーチ箱断面の厚さは6cm、角部で10cm、各格点では20㎝であり鉛直柱の支持点として機能する。鉛直材にはコンクリートC70/80が使用され、アーチと床版に剛結合され、2010年に完成した。アーチ支間は70m、高さ40m、全長157m、幅14mの自動車道であり、上部工は厚さ60cmのPC版桁である(図-15)。本橋梁には、ヘルスモニタリング用のセンサーが40か所に取り付けられ、監視されている。
図-15 完成したヴィルドアーチ橋
オーストリアにおけるUHPFRCの補修分野への適用は、アウトバーンに架かるシュタインバッハ橋が最初のパイロット事業であり、ここでもグラーツ工科大で新旧コンクリートの継ぎ目や現場施工に対応した均し作業に関する種々の試験が実施された。対象橋は1980年に建設された長さ26.7m、幅13.5mの2径間連続RC版桁橋で、RC桁自体は小さいひび割れが見られる程度であったが、桁端部および橋台は、伸縮装置からの水が浸透し、鉄筋露出が顕著であった。橋の両端にはゴム支承が据えられ、中間支柱は版桁と結合されていた(図-16)。
図-16 シュタインバッハ橋側面図
計画では、軽量化を図るために30cmの舗装を撤去し、WJで床版を3mmはつってから、7cm厚のUHPFRC層で強化する方針とし、その上面に橋軸方向のスリットを入れて、直接車を走行させることにした(図-17)
図-17 施工後の断面図
なお、端部からの水の侵入を防ぐため、端部をインテグラル構造とすることにし、隅角部に発生する負のモーメントに対しては、いわゆるリュックサック構造を採用し、橋台と一体化させた。図-18の緑の部分がUHPFRC層であり、斜め踏掛版と一体化させている。この構造の採用によリ、支承周りはコンクリートで埋め込んだ。
図-18 橋梁端部のリュックサック構造 / 図-19 UHPFRC材料の現場施工
UHPFRC層の現場施工は、工場からのミキサー車を利用し、2013年11月初めに1日目は図-17の右側半分、次の日は左側半分で行ない、図-19に示す振動均し機を用いて行った。図-20aは、完成した路面の状況であり、スリットが明白である。図-20bは、2021年の状況である。
図-20a スリット入り路面の状況 / 図-20b 最近の路面の状況
なお、図-3,6,7,8はfib UHPFRC講演集2009、マルセイユ、図-4,5はBeton u.Stahlbetonbau,2006/3、図-9,10,11はBeton u.Stahlbetonbau,2018/11、図-12,13,14,15はReichel,Brueckentagung2021、図-16,17,18,19はBeton u.Stahlbetonbau,2015/2、図-20はKHPLeipzig資料2023による。
3. ドレスデン・カローラ橋崩壊事故について
9月11日深夜に起こったドイツのドレスデン・エルベ河に架かるPC桁橋カローラ橋の突然の部分崩壊のニュースは、世界中の橋梁技術者に衝撃を与えた。最後の市電が2:50に通過した後3:08に中央径間部の橋脚上からゲルバーヒンジ部までの約100mが落下した(図-21)。
図-21 C橋中央部が崩壊したカローラ橋、左95m径間のたわみも顕著、9/11
怪我人がいなかったのは幸いだった。この橋は、1971年に当時の東ドイツ規準によって設計・施工されたものであり、ドイツ統一後はドイツの橋梁点検規準によって、6年ごとに専門資格技師を長としたコンサルタントによって詳細調査が実施され、その中間の3年目時期には、管理者であるドレスデン市の橋梁保全技師によって簡易点検が実施されてきた。カローラ橋の全体構成は、上流側のA橋が全長375m幅11.65mの道路・歩道橋、中央のB橋が全長372m幅8.7mの道路橋で、落桁した下流側のC橋は40+53+120+95+58mで構成される全長366m幅11.65mの市電2車線・自転車・歩道橋(図-22)で、さらに市民生活にかかせない暖房用の温水管が取りついていた。
図-22a 橋の構成、C橋が下流側、右側が旧市街 / 図-22b 市電が通る崩壊前の橋
歴史的にカローラ橋は1895年に鋼アーチ橋として架設され、エルベ河上59+61+59m全長340mの長さで、市電2車線、道路2車線と歩道が設けられていた(図-23)。カロ-ラは1895年当時の王妃の名から命名された。その後1945年、第2次世界大戦のドイツの敗北時にナチスによって河川部が爆破され、残りの上部工も1952年にすべて撤去された。1967年になって、同じ場所に新橋の建設計画が持ち上がり、河川部の橋脚はエルベ河を通る船舶の通行を考慮して撤去され、新市街側の橋台のみ、新橋に使用されることになった。新橋は、中央部3か所にゲルバーヒンジを有するPC箱桁とすることが決定され、箱桁の高さは1.6~5.2mと変化、1971年に完成した。
図-23 1910年当時のカロ―ラ橋
この橋の特徴として、道路橋A、B橋の上には舗装が敷かれたが、市電を通すC橋には箱桁コンクリートの上に直接、線路を受ける台座ブロックアンカーが打ち込まれていることである。C橋箱桁仮設の様子を図-24に示す。
図-24 架設中のC橋 1970
またB橋とC橋は、横梁で連結されている。詳細調査の結果、道路橋A、B橋はC橋より劣化が進んでいたため、A橋は2019/11-2021/6に補修・補強工事が実施され、B橋の補修・補強も2022/10-2024/6に終わっていた。C橋に関しては、2023年に詳細調査が実施され、箱桁下部・地覆部に数多くの腐食した鉄筋露出が確認され、ゲルバー部付近の桁下側にはひび割れが、さらに線路下コンクリートへの水の浸透が著しいと指摘され、DIN1076による採点は3.0であった。3.0-3.5の採点範囲は不満足な状況で緊急ではないものの早めの補修が望ましい、採点範囲3.6-4.0は交通安全が疑われ早急な対策が必要、採点範囲2.5-2.9は供用可の状態、採点範囲2.0-2.4は満足のいく状態、1.0-1.9は良好な状態に分けられている。2023年時点で州首都ドレスデンに限れば、2.4以下の橋が72%、2.5-2.9の橋が24%、3.0以上の橋は4%であるが、地方道では、3.0-3.4の橋が9%、3.4-4.0の橋が3%も存在する(連邦道路研bast)。カローラ橋C橋は、以上の観点から、補修・補強工事が2025/1から予定されていた。
11日夜の最終市電通過時に、路面ビデオにはC橋に軽度の異変が生じたことが記録され、その18分後に部分崩壊が生じた。翌日にはA-C橋の交通は停止され、市の専門家やドレスデン工科大コンクリート構造のマルクス教授らが現場を調査、その際に箱桁内部のPC鋼材・鉄筋など検査のために取出した。教授らは現在、連邦材料研BAMと共同で、これらの検体から新規の腐食破断の場所・数などを調査中とのことで(図-25)、12月初めまでに報告書を提出し、A橋B橋の利用の可否も判断するとのことである。
図-25 箱桁内部のPC鋼材の腐食試験体
図-26a マルクス教授によるメディア説明 / 図-26b 鉄筋の腐食状況
なお、調査は橋のコンクリート、市電線路、軌道アンカー、PC鋼材定着部など多岐に及ぶ。10月8日には、メディア向け説明会が実施された(図-26)。A,B橋に対しては、箱桁の上から残留磁気法によるPC鋼材の調査が実施され、特に異常は検知されなかった。続いて箱桁内部の鋼材検査も実施予定である。今後は、箱桁コンクリートにマイクロフォンを取り付け、騒音測定(Acoustic Emission) による新たなひび割れ発見にも取り組む。
カローラ橋C橋の撤去は、先ずは旧市街側から開始され、9/13日には中央径間から半分の桁支点部上にクローラー掘削機で打撃を与えて崩壊させていった(図-27a,b,c,d)。
図-27a 旧市街側C橋の撤去作業 / 図-27b 旧市街側C橋橋台部の撤去作業
図-27c 旧市街側C橋の撤去作業 / 図-27d 旧市街側C橋の撤去作業
しかし、エルベ河上流のチェコなどの豪雨の影響で川の水位が上昇し、一度中断せざるを得なくなった(図-28a,b)。市電は別の橋を通る路線に移し、暖房用水管も別の橋に移設させる必要があった。
図-28a 水嵩が増し変色したカローラ河 / 図-28b 新市街側C橋の撤去作業
現在、川の水位が下がったことから、河川に落ちた桁の撤去作業が進んでおり、まもなく終了する。なお、カローラ橋関連の写真は、ドレスデン工科大コンクリート研およびドレスデン市土木部の資料によった。
(本記事の図は全て著者提供です)、(次回は2024年12月ごろ掲載予定です)