高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
人口減少は加速、もう間に合わないかもしれない
少なからぬ縁のつながりで私が理事長をお引き受けしたことについて述べましたが、もう一つの理由は使命感からということになります。
高度経済成長期に急速に建設を進めた我が国のインフラも、いずれ老朽化して維持管理負担が急増することについて警鐘を鳴らし、既設構造物に対しては長寿命化を、新設する構造物にはライフサイクルコストの最小化を呼びかけてからちょうど30年が経過しました。(西川:道路橋の寿命と維持管理、土木学会論文集Ⅰ1994.10)
やや時間はかかりましたが、構造物の定期点検は法定化され、ライフサイクルコストの考え方も浸透するなど、予防保全による長寿命化に向けて順調に歩みだすかと思いました。しかしここで技術者、技術力の不足という問題が浮上します。
私自身も道路橋の設計活荷重が25トンになった1994年、当時の(財)道路保全技術センター主催の橋梁点検技術者研修会を立ち上げ、2014年には(一財)橋梁調査会で道路橋点検士制度にその活動を引き継いで、現在では受講者数延べ約16,000人、道路橋点検士資格保持者約9,000人を数えるまでになりました。点検士の国家認定資格については、様々な団体が参入したことで、数の上では充足しつつあるのではないかと考えています。
問題は診断士です。最近、橋の維持管理についての講演を依頼されると、「橋の定期点検の法定化から10年が経過しました。目標である予防保全への移行は進んでいますか?」というスライドから始めることにしています。思うように進まず困っているという声をよく聞くからです。その理由としてインフラメンテナンスを担う人材が不足していることはもちろんのこと、その技術力についても必要なレベルに達していないこと挙げられています。実態を見ると、技術力不足の問題は診断にあり、適切な診断ができていないために補修を行っても早期に再劣化を生じることが多く、これが予防保全への移行を妨げていると考えられます。
診断については、点検士制度を立ち上げた後、あと3年あれば道路橋診断士制度を立ち上げることができるのではないかと考えていたのですが、残念ながら国交省を退官した後にも人事異動があり、土研・国総研の所管財団である(一財)土木研究センター理事長に移ることになって、挫折してしまいました。ところがさらに1年半後、親元の国立研究開発法人土木研究所の理事長交代の時期に当たり、これも縁あって再度異動することになりました。ただし今回は、構造物メンテナンス研究センターのセンター長を兼務することになり、さらにAI活用の機運が高まったこともあって、エキスパートシステムを用いた診断AIシステムの開発に取り組むことになりました。もう一度、違う形ではありますが、不足する診断士の補完と育成を実現する可能性が出てきました。
診断業務は一定の責任を伴いかつ易しくない仕事であり、診断士の育成には点検士とは異なるプロセスが必要だと思っていました。さらに、診断士によって診断結果が異なることは、可能な限り避けなければなりません。KOSEN-REIMでの教育課程と、これまで積み上げてきた私なりの診断員育成方法の整合は図れるのだろうか。あまり口外していないことですが、理事長を引き受けるにあたって、この点に危惧があり、逡巡してしまったのがもう一つの理由です。
図は我が国の人口の推移と予測について表したものですが、総人口は2007年あたりをピークに減りはじめ、すでに2%ほど減少しています。一方15~65歳のいわゆる生産年齢人口は、1995年にはピークを越え、約17%、2割近く減少したことになります。ところが、いわゆる団塊の世代が、65歳を超えて高齢者になっても引き続き職場を支えてくれていたため、社会への影響はそれほど深刻になりませんでした。ところがその世代も75歳を超えるようになり、さらに次の世代は母数が少なくなっているため、もはや高齢者の労働力には頼れません。本格的に生産年齢人口の減少が加速する時代に突入しています。
加速する人口減少、失敗している暇はない
人口の増加が当分見通せない状況となったといっても、インフラの老朽化が収まるわけではありません。これまで以上に確実で効率的なメンテナンスが求められます。できることは何でもしなければならないと考えるに至ったのが、最終的に理事長就任を決断した理由になります。
私が人生でやり残した地方の支援、地元の橋は地元で守るというKOSEN-REIM
建設省に入省し、土木研究所橋梁研究室に配属されてから、研究室から離れた後も常に橋をいかに長持ちさせるかを考え続けた46年間だったと思います。国土交通省を退官し、現在の(一財)橋梁調査会で道路橋点検士制度を立ち上げ、橋梁調査会の診断員のスキルアップ手法を見出し、実証できたところで、直轄国道以上の橋のメンテナンスには一定のめどがついたと感じていたが、地方自治体の管理する橋について、これをサポートする仕組みの確立に手が回らなかったことが心残りでした。CAESAR構造物メンテナンス研究センターでの診断AIの開発は、地方自治体をサポートするためのシステムを目指したことは言うまでもありません。
診断AIシステムについては、ほぼ形が出来上がったところで退任することになりましたが、研究は継続しており、今年度から希望すれば、部分的にではあるが試行的に使用することもできるようになっています。診断AIシステムは使っているうちに多くを学べる仕組みになっています。一方のリカレント教育は、「学校教育を終えた後も、必要なタイミングで学び直しを行い、就労と学びを繰り返すこと」ですから、ステップアップ型の講習を受け、実務との間を行き来しながら橋梁診断者資格の認定へ進むという慎重な姿勢は、私が考えていた診断士育成の考え方となじむのではないかと思います。
KOSEN-REIMの活動に対しご支援をお願いします
これからKOSEN-REIMの5つの高専は、目的に向けて邁進することになります。そして(一財)KOSEN-REIMは、設立趣旨に沿って財政支援をしてゆかなければなりません。R2SJをご覧の方々の、財政面でのご支援を心からお願いする次第です。
次回は再び玉田先生にバトンをお返ししたいと思います。(次回は12月1日に掲載予定です)