新しい時代のインフラ・マネジメント考
5.維持管理の本丸は?
実際に、笹子から10年が経って「第2ステージ」と言いながら、点検の話がいまだに主体であり、次の議論に行かないのはいかがなものか? 点検は重要であるが、本来の維持管理は、どう直すか? 運用は可能か? この先どうするかの判断と対応が重要であるはず。
しかし、現在は補修の材料や工法、その効果、耐久性など、先の議論ができていない。物を作れば、それを運用し、監理していかねばならないこれが今まで軽んじられてきた。そして、こちらのほうが財政的には圧倒的に、支出が多くなる。点検の10倍から100倍は違ってくるだろう。そして、果たして直し続けることが、財政的にベターなのかを考えなければならない。馬鹿みたいに、何でもかんでもひび割れを見つけてひび割れ注入していても、これは、維持管理でもなんでもない。補修として効いているのか? どうか、十分な耐久性が発揮できているのだろうか?
今「新技術導入」ということが言われているが、ほとんどが点検部分の話である。これは、私は「いまさら」という感想である。補修材料や補修工法。撤去解体技術。新たな架設工法、やそれに関連する機材、足場などの本来必要な話が出てこない。おかしな話である。
「長寿命化」「予防保全」を行うには、かなりの労力と財政投入が必要になると考えている。運用をなかなか止められないNEXCOさんなど高速会社や、JR、国道などは、利用者を考えるとそういう方向になっていくのが順当であると考えるが、地方自治体は違ってくる。
まずは、財政的にそれをやっていくとおそらく破綻する。しかし最近よくJRは止めているが、日本の国民は我慢している。これらはライフラインと言われるインフラも同様であり、止めれば利用者の我慢を強いることになる。しかし、市道などは、うまく考えればそうはならない。そういう意味で、財政との関係に密接に関係してくるので、10年前に「橋梁トリアージ」と申し上げたが、理解されず、だいぶ馬鹿にされた。net上でも批判されたが、これができなければ、自治体は破綻する。それがやっと最近一部の方々に理解されだした。まあ私のようなものが言っても、採択はされず、権威ある方々が言えば注目されていくので、これからの日本には必ず必要なので、ぜひ考えていただきたい。
これに関して、問い合わせも、富山市には増えているそうだ。しかし、皆さんおかしいのは、富山市に問い合わせても、回答するのは考案者ではない。考案者は私なのである。こういうところも、この国は面白い。この国というか役所の面白いところだ。個人を軽んじる。物事の多くは伝言ゲームなのである。伝えているうちに思想も精神も変わってくる。
それで、なかなか議論になってこないのが、「架替え、更新」である。これは、長寿命化とか予防保全というのが言われてしまうとなかなか声を上げにくい。かつて永久橋と言われたもの、PC橋や鋼橋、コンクリート橋の現在はどうだろうか? さらにはメンテナンスフリーということで売り込まれていたPC橋やRC橋はどういう状況だろうか?
現在の点検を見ていると、これらのひび割れを拾って喜んでいる。本来PC橋にひび割れはないはずである。そして、馬鹿みたいにひび割れ注入。これで補修が終わったと喜んでいるが、これも10年前から「再劣化が起きますよ」というと、「それはない。そういうことは言うな。」と言われたが、実際はどうだろうか? 大本営発表をいつまでやるのか?
駄目なものはだめなので、架替えや更新の議論をしていかないととんでもないことになる。それを考えるのも「橋梁トリアージ」で、必要なものは残す。場合によれば早期架け替えが重要となる。なぜか?人口減が予想よりも速いスピードで進んでいるからだ。ということは、より財政が厳しくなるということ。早いうちに必要なものを架け替えていくような手立てをうまくとっていかないと、荒廃してしまうのだ。それが、インフラのマネジメントである。財政状況をしっかり鑑みて、自分の市はいつまで耐えられるのかを考えないとならない。
6.まとめ
先日で68歳になった。当初の予想と反して、意外と、まだまだ元気である。それまで、極力やめていた酒を、5年ほど前に完全にやめた効果もあるのだと思う。しかし、最近、夜はつらい、20時くらいになると眠くなってしまう。そのかわり朝は早い。大体4時、早いと3時には起きてしまう。昔上司が「年を取ると、寝るのにも体力がいる。」と言っていた。それで、現役も終わり、あとどれくらいの時間が残されているのかわからないが、これまでの取り組みをまとめたいと思っている。後継者を残すことも考えたが、それはあきらめた。相手があるから迷惑をかける。「インフラ五輪の書」と「自治体インフラ・マネジメント論」(どちらも仮題)を考えている。
国や学会、研究会など多くの先生方などは、中央の考えを地方に生かそうと考えていると思うが、それはある意味正しくて間違っている。自治体には自治体の問題が存在し、一概にはできない。これがわからないと、日本のインフラは地方から崩壊していく。自治体特有の課題があり、それを乗り越え解決していくためには、中央とは違った手法が必要である。
マネジメント手法が違うのである。「自治体のことが良くわからない」とよく言われる。当たり前である、入り込んで経験していないからである。やはり現場の感触を肌で感じないと、無理である。社会が進むと、虚業や理論が先行し、実務がおろそかになる。そういう社会は、よく間違いを犯す。
先日11月7日の、一般社団法人 木橋技術協会の総会において、会長に就任した。そもそもが、20数年前に、木橋技術基準検討委員会に協力してくれたメンバーで構成した教会であるが、富山市に赴任したために活動を控えていたが、復活したのでまたこちらもよろしくお願いしたい。木橋は、構造物の劣化を学ぶのに非常に役に立つ。永久橋と言われるものに対し、劣化のスピードが速いために、そのための工夫が必要だ。非常に学ぶべきところが多い。そして最後は自然に帰る。まあ、人それぞれ評価は違うと思うが、残さなければならない技術である。そして、現在の点検においても、木橋や木造構造物を、知識のないものが実施、問題を起こしていることや事故がある。木橋技術協会では、「木橋点検士」「総合監理士」という資格を創設し実施している。これはいわゆる、国土交通省の「みなし資格」の1つに認定されている。
高知県梼原町の「御幸橋」木橋技術基準策定(木橋技術基準検討委員会)
⇒劣化の激しい木材の、インフラへの使用。国土交通省のモデル木橋
先日、JICA国際センター(那覇)で、海外の官僚の皆さんに講義をしてきた。10年くらいやっているが、私の役割は、道路維持コースの「橋梁マネジメント」講座である。見ていると、さすが各国の官僚の皆さん、熱心に聞いていて質問が鋭い。導入しようという意欲が感じられる。
JICA沖縄研修所で講師をしてます。担当は、「道路維持コース」の「橋梁マネジメント」
この道路維持コースの受講者は、最初のころは15人くらい居たが最近、毎年減ってきて特に今年は4人であった。これは、日本の国力の低下で、学ぶ価値を感じなくなったからではないだろうか?(次回は2025年1月16日に掲載予定です)