日本ウォータージェット施工協会 設立30年が経過、より安全かつ確実な品質を確保
概要動画Overview Video
日本ウォータージェット施工協会(以下、JACON)は、設立後30年を超す、土木分野を中心としたWJ施工関係各社をまとめた協会である。記者がウォータージェット(以下、WJ)工法を初めて取材したのは、当時JHの宇都宮管理事務所で、PC定着部近傍が塩害に冒された可能性があった日光宇都宮道路(現在は栃木県に移管している)の清滝高架橋である。通常のはつりではマイクロクラックが入ることにより、より損傷を悪化させる懸念があることから、当時、同事務所で同橋の管理を担当していた藤原博氏(現在は川金コアテック所属)などが検討し、WJを用いて損傷部をはつった工事である。文中にもあるが、JH、その後のNEXCOが大きく活用したことによって、普及は促進されている。なによりマイクロクラックを生じせしめないことは、桁端部だけでなく、橋脚の補強や、床版の補修などの健全な施工に大きく役立っている。その反面、施工時における水処理の問題や、なにより高圧水を使うことによって生じる安全面の課題は古くて新しい問題を突き付けている。そうした内容を國川正勝会長に聞いた。(井手迫瑞樹)
会員はここ数年1年10社単位で増加 110社で構成
会員はここ数年1年10社単位で増加 110社で構成
NEXCOの補修工事における床版補修分野の増加が効く
――協会の設立経緯および概要と協会はどういう構成員で成り立っているのかっていうことを教えていただければと思うのですが
國川会長 ホームページにも書いてありますが、協会は1992年(平成4年)に立ち上げています。目的は、高圧ウォータージェットの建設業における利用を推進するためという大前提で、各種基準の統一、技術の円滑な水平展開、専門業者の早期育成、機器情報の共有化を目指すというのが設立目的です。
会員は、元々これ大手ゼネコン、専業者、機械装置、各種関連メーカーなどによって作って現在110社で構成されています。内訳は、正会員100社(WJ施工業者)、特別会員3社(ゼネコン)、賛助会員(機器メーカー)7社です。
専業は、洗浄だけの会社、はつりまでできる会社とやれることにばらつきがあります。会員数は仕事の増加に従って増勢傾向にあります。
この2年、コロナで総会はできませんでした。それにもかかわらず一昨年前から1年に10社単位で増えています。仕事量の増加に伴い入るメリットがあると思われているのでしょう。とりわけNEXCOの補修工事における床版補修分野の増加が効いていると思います。
ハンドガン講習や安全教育などに非常に力を入れる
UHPFRCや低弾性断面修復材を用いた上面補修による延命化にWJが使われると予想
――最近は東北ではファルヒの技術を使った会社とかも出てきていますがこうした業者も入っていますか
國川 入っています。
東北ではファルヒの技術を使ったWJの施工例(置賜建設提供)
――かなり大きな組織になりつつあるということですね
國川 そうですね。この2年で急激に増えて、コロナが明けて新しく入りたいという会社が増えています。協会としてはハンドガン講習や安全教育などに非常に力を入れており、そうした活動への応募が多くなっています。新入会員は資格を持ってない会社ですから余計にそうした講習を受けて受注につなげたいのでしょう。
--特にその道路とか鉄道へのウォータージェット適用状況は。
國川 鉄道の実績はまだまだ少ない状況です。軌道内での仕事はやはり時間的制約が厳しくなります。2時間程度の時間で、それだけの機械を持ち込んで水処理までしてっていうとなかなか厳しい状況です。
それでも、トンネルではこれを使っていきたいのはあるんですけど、要は道路と違って、トラックに積んですぐに降ろして施工できるわけじゃないんで、軌陸車に載せて準備してってなると、なかなかやっぱり時間との戦いもあって普及してないのかなと。
――饋電停止から始発までの間の極めて短い時間しか鉄道補修は許されていませんものね
國川 そうです。
道路の場合は、NEXCO3社が施工総研とともに、コンクリートのはつりや表面処理にウォータージェットを使うことを決めてから久しく、技術も向上しつつ、普遍的になっています。大規模更新の床版取替えは全国で数多く出ていますが、大規模更新までに橋梁の床版を維持するため、床版補修という形で、部分補修する際にウォータージェットで劣化部を除去し、断面修復する市場も大幅に拡大しています。とりわけ今後はUHPFRCや低弾性断面修復材を用いた上面補修による延命化がなされるケースが増えることが予想され、WJの有用性はますます高まっています。
都市高速への採用は騒音対策や水処理の課題へ対応する必要がある
国や自治体への適用はコスト面がネック
――NEXCO以外の道路橋分野は
國川 NEXCO以外はあまりないですね。
――都市高速では名古屋高速の採用が目立ちますね
國川 名古屋高速はここ数年で大々的にやり始めましたね。ただ、都市高速の場合は施工時の騒音対策が完全には確立されていませんので、それが普及上のネックになっています。
都市高速での施工にもWJが用いられている例が増えてきている(久野製作所提供)
――WJの方が逆に騒音が少ないとも聞いています。流体ですから施工時の音も小さいですし、鋼桁で生じる音の広範囲な伝播もないと思いますが
國川 確かにブレーカーのような施工時の大きな音は生じませんが、それでも施工時の「シャッシャッ」という音や装置音が生じます。さらに装置が大きく場所を取ります。さらには水対策も万全にしなくてはいけません。とりわけ都市高速で使う場合は、そうした環境への対策が必要で、それが普及上のネックになっています。
――なるほど、国交省や自治体で使うケースはいかがですか
國川 国や自治体の工事で使うケースはまだ少ないですね
――やはりNEXCOが圧倒的ということですね
國川 NEXCOさんは、ロボットで床版、橋脚でハンドガンと使い分けていますが、いずれも脆弱部のはつりや表面処理でWJを積極的に採用していただいております。マイクロクラックや接着界面に対する意識は非常に高く、床版の補修や橋脚補強の下地処理として使っています。市場の規模としてはNEXCOが圧倒的ですね。
床版や橋台でのWJ施工例(第一カッター興業提供)
床版下面、床版張出部、伸縮装置部におけるWJ施工例(第一カッター興業提供)
――マイクロクラックという点では同じなのですから国や自治体が使ってもよさそうですが
國川 やはりコスト面がネックなのだと思います。NEXCOのように仕様や資格、積算も確立されていませんから。
――確かにそうですね
國川 積算が確定していないというのが国や自治体で採用する際の大きなネックだと思います。
――国や自治体ではWJの積算は未だ定まっていないのですか
國川 橋によって規模、設置位置、環境など(高速道路と比べて)条件が違いすぎて、なかなか積算しにくいというのはあると思います。当社(ケミカル工事)も地方で施工しましたが、なかなか積算が条件に合わず厳しい工事になりました。
――しかし、コンクリート躯体への影響を考えればWJではつる方がブレーカーやチッパーではつるより、その後の影響も少なく、補修後の健全性が大きく向上すると思うのですが。今でも橋脚の耐震補強の場合はそうした機械ではつりをしているのですかね
國川 そうだと思います。
――マイクロクラックを考えるとどうかと思いますが……。さて、NEXCO以外の都市高速や国、自治体に普及させるために、積算や施工条件などについて協会で何か対応していることはありませんか
國川 協会で絶対やらなくてはいけないことは安全と品質の担保です。
コスト縮減や積算、施工条件については協会としてというよりも各社が行う仕事です。協会がやるべきは施工時の安全性向上です。安全が確保されなければ、信頼性がなくなり工法自体がなくなってしまいますので、そこにこそ注力しなければなりません。特に施工時の危険性が高い、ハンドガンについては、講習はもちろん、協会独自で試験を行い、資格の付与も行っています。安全性が向上すれば自然に工法も普及します。最低品質のボトムアップについては、現場の条件によって全然違ってくるので、統一的に示すということはなかなか難しい状況です。
様々な安全講習(左、中は安全バルブ講習、右は超高圧ポンプ操作の基本研修)(JACON提供)
安全講習の座学ではわかりやすく実践的な資料を用いて説明している(JACON提供)
――最低限の品質確保は必要ではありませんか
國川 現場では基本的には発注者の意向が強く、事前のキャリブレーションや現場立会を行う中で、施工品質について承認を頂いているというのが現実ですので、「品質の基本」というものは意外と示されていないのですよ。
――NEXCOは機械とオペレーターをセットにしたはつり性能性試験を行っていますが
國川 NEXCOでは機械式WJがメインですからそうした規格があるんですが。それでも機械式だけです。