新しい時代のインフラ・マネジメント考

新しい時代のインフラ・マネジメント考
2024.05.16

②「道路橋点検要領」の改訂について

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>植野 芳彦氏

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人 国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

1.はじめに

 新年度も始まり、1ヶ月が過ぎました。大型連休があり人々の動きは、かなり多い。そんな中、最近不安なことがある。新幹線や電車がすぐ止まる(止めるのでしょう)。これは管理者の判断で適切に行われていると思うが、予定の時間に着けるのか不安になる。乗換に間に合うのか? 約束の時間に遅刻しないか? 先日、地震で大宮付近で止められた。説明がない。情報がないと、不安になる。情報は的確に迅速に伝えるべきである。どういう考えかわからないが、この国の危機管理が、危ういところは、こういうところに有る。

 今回は「道路橋点検要領」の改定について、書いてくれとの編集者からの要望があり私の考えを記述する。あくまで個人の意見であるので、もっと細かいことを希望される場合は別の話をお聞きください。

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2.「道路橋点検要領」の改訂

 「道路橋点検要領」(令和6年3月)が改訂された。私は改訂作業に関わっていないので、改訂の詳しいところは分からない。これまで全数近接目視を10年間、2順した結果からさらに進化させる考え方だと思う。

中身は至極当たり前
特に自治体が問題


 世の中では騒いでいる方々もいるが、中身は至極当たり前の話である。こういったマニュアル類も改定していかねば時代遅れになっていく。2巡目までの課題として、①評価Ⅲの割合の状況が自治体によってばらつきがあること、②修繕率が低いこと。があると言われている。特に自治体が問題なのである。しかし、予算もなく技術者もいない自治体では当たり前の話であり、全国一律とはいかない。ばらつきは当たり前だと思う。地理的地形など自然状況も違うし、管理者の体制や精神が違う。自治体によって、違って当然である。
 自治体がそれぞれ、しっかりした思考に基づき、決定したのならば、何ら問題は無い。このⅠ~Ⅳの評価は、指標である。ただこれが、交付金申請や予算を取っていくための便宜上の事項となっていると言うことが懸念される。

 点検を実施し診断し、その精度をどう確保するか? これは難しい問題である。点検や診断に関わる、技術者と管理者の技量がかかわってくる。ここは研究とは違うので実際の現場での状況も勘案される。また、見えない部分の判断をどうするのか。1巡目の時に疑問に思ったのは、点検を委託したコンサルから点検結果と診断案が上がってきてはいるが、「あれ?ここはどう見たのかな?」と言う部分が結構あった。何よりも「点検の結果、分からない部分が有るので詳細調査をしたい」と言うのが1巡目には1件も出てこなかった。おかしな話である。


よくある点検の様子


 皆さんそんなに、技術力が高いのか? ならばそんな技術力を有している技術者を使うのであれば、発注額を上げなければならない。技術経費も上げなければならない。点検診断を、効率的に行うには、委託していくしかない。しかし、委託先の技術力が問題である。自治体の職員を見ているとコンサルの言うことはよく聞く。納得しているが私はそうではない。すべてわかるはずはないのだ。

表面しか見れていない点検
素晴らしいと思えるのは原因を明らかにすべき記録の追加


 現在の、(今回のも含む)点検要領は結局、表面だけしか診れていない。近接目視、打診では、表面だけの点検である。いわば、擦り傷と浅い切り傷を診ているだけ。軽傷を見て喜んでいる。これで、大の大人、技術者だと威張っているが、ひび割れが有るのは幼稚園児でもわかる。それを見つけて大騒ぎして、ひび割れ注入を行い、補修が終わったと思っている方々もいる。ここで、修繕率も変わってくる。


 治せばよいというものでは無い。問題はもっと深い。そして、この表面しか診れていないという現実を理解できなければ点検をやる資格はない。その辺を割り引いて考えるべきでもあるのだ。表面だけ見てわかると言うよりも総合的すべてを見通せる高度な技術力を持った人間は、めったに居ない。日本の橋梁の歴史を見ると、多くの方が専門に分かれる。コンクリートと鋼である。この2つともわかる人間は少ない。ましてや、木材などの特殊な材料になるとめったに居ない。自治体にやたらコンクリート橋が多いのは、地元に鋼の分かるコンサルが居ないからである。

 そういう事実も勘案しながら本来はインフラマネジメントは考えていくべきである。
 今回の改定において、素晴らしいと思えるのは原因を明らかにすべき記録の追加である。診断結果が第三者にもわかるようになってきた。さらにコメントを付け加えることで様々な情報が後任者にも伝わりやすくなったことである。診断結果に至る経緯もわかりやすくなるはずである。しかし、これまで多くの、診断調書を見てきたが、このコメントが重要なはずなのに面倒だからか?わかっていないのか? 希薄なものが実に多い。

 診断後の補修、そして事後の次の3巡目から4巡目に行くについての参考となる事項を残す、という意味合いからもぜひここを充実させるべきであり、富山市においてはここのところを厳しくやってきた。測量では、現状での事実を正確に伝えればよいのだが、構造物の点検診断となるとそうではなく、事実+将来への申し渡しが重要となる(点検は事実、診断は評価)。




 ではなぜそうなってしまっているのか?であるが、

1.官(管理者)の意識の低さ
 管理者には責任がある。診断はもちろん官の責任においてやるべきであり、結果には責任が付きまとう。
 業者任せではいけないのはもちろん事後もどうすべきなのか考えなければならない。そして、官庁には転勤が付きまとうので、転勤後にも後任に正確に伝えなければならない。

2. 安易な資格制度の弊害
 現在点検業務にあたるには資格が必要となっている。しかしこれが国土交通省の認定資格、いわゆる「みなし資格」がすでに400資格近くが申請し、認められているが、じつはピンキリである。多くの資格がペーパー試験と短期講習で行われており、実際に構造物を見る実力があるのかどうかというのは疑問である。試験機関側では、多くの努力を行い実力の向上に努めているかとは思うが、果たしてその成果はあるのか? 「商売になればよい」という技術者倫理とは外れた考え方の業者も実際には存在する。しかし、それを見極めるのは非常に難しく、必ず官側が納得のいく検査、確認を行うべきである。

 富山市では、「診断協議」と言うことで職員と点検業者で、確認する工程を追加して結構な時間を割いている。それでも結構良く見れていない部分や、劣化原因の特定が困難な状況が存在する。笑い話であるが、この診断協議に私が参加するかしないかで業者の緊張感が違うとのことである。

3.技術者教育の劣化
 技術者教育をどうするかと言うところがよく話題に上る。しかし、大学での基礎教育では理論が中心になり中々実践教育は難しい。技術者、特に土木技術者で重要なのは、机上論では語り害部分があることである。どちらかというと、職人に近い部分が存在することである。なので、職務経歴や実績が臂臑に重要である。比較役スマートな設計の仕事にしても、基本知識だけでは完結しない。最近はソフトによってやっているが、検証やソフトでは対応できない部分が存在する。計算だけで設計が終わったと思っているとそうではない。ディテール(細部構造)や維持管理に関する対応、その他特殊な検討などを加えなければ少なくとも詳細設計は完結しないはずだがどうも最近その辺が希薄である。

 結局はこれらのことが現場では叩きつけられる。
 修繕率の問題もある。これも自治体間によって異なる。平均は30%程度であり、中には100%と言うところもある。自治体の予算規模を見れば通常の自治体は30%程度ではないかと言うことが推量されるが、これも国やNEXCOなどに比べ低いのは当たり前である。予算規模が全然違うからである。長寿命化、予防保全には程遠い状況である。言葉で言うのは簡単であるが、なかなか困難である。さらなる根本的工夫が必要である

 今回の要領改訂は至極当たり前で将来向けて注意事項が示され、適切であると考える。しかし、いつまでも点検の議論をしていても始まらず、補修技術や根本的な道路ネット網の考え方を見直す必要があるのではないだろうか?


撤去という選択もありうる

3.新たな動き「群管理」

「新技術の導入」と「群管理」

 国土交通省では、インフラメンテナンスにおいて、生産性を上げる対応策として「新技術の導入」と「群管理」に関する、2つの対策法を示し、モデル事業地域を公募して決定した。

1. 新技術の導入
 これは当たり前の話である。一つの目的に対処するためには、同じ手法を永遠に使うのではなく、より合理的に対処する必要がある。





新技術の導入事例


2. 群管理
 これも、インフラメンテナンスに関わってくれば、当たり前の話である。合理的に実施するために、広域で考えて行こうと言うのと、個別のインフラを考えるのではなく複数のインフラをまとめて考えていくと言うものである。

 これらの新たの動きに関する、相談が増えている。ここで改めて言っておきたいのは、インハウスエンジニアの力量も問われているということである。インハウスエンジニアには責任が伴う。使命感も必要だ。この辺は富山市で見てきて優秀ですごいと思う。他の自治体でもそうだろう。1人1人は、もともとが優秀なのだ。ただ、エンジニアの教育を、役所に入ってからあまり受けられないで育ってきているから専門知識に欠けているのは当たり前である。

 この部分を持ち出して、自分たちの方がマネジメントできると思っている、コンサルやゼネコンが居るが、そうではないことをまず言っておく。民間と行政の根本的な違いが存在することを理解することが重要である。行政から、出される仕事には委託と工事に大別できるが、まず、ここが違っている。この仕訳すら私は古いと感じている。

 群管理でも他の業務でもそうだが「マネジメント」と言うことが重要視されるようになってきた。それで、専門的には自分たちの方が上だから、何も知らない自治体職員よりも、自分たちの方ができるはずだと言うのが見え見えの方々が居るが、果たしてそうなのか?

運用維持管理時代のマネジメントの難しさ

 これまでの長い期間、造る時代であった。この造る時代は、1件1件の対応の時代である。しかし、運用維持管理の時代になると、複数の、それも膨大な量を一時に見なければならない。これに対処するのがマネジメントである。こういう経験は一部の大手ゼネコンや官庁でないと特殊な事業以外では経験できていないはずであり、官庁に居ても立場によってはできていない。さらに、地域性や住民対応、議会対応などの雑用も多々ある。

 書けばきりがないが、マネジメントとはかなり厄介である。私が言うと重みが無いが、マネジメント系の資格も多々あるが資格では表現できないと感じている。いくら著名な偉い先生がかかわっても、マネジメント力を評価するのはかなり困難である。私はマネジメント力と言うのは一つの能力であって、初めからある人間もいるが、いくら勉強してもできない人間もいると思う。

 むかし、旧国鉄の偉い方との議論の中で意見が合ったのが、「マネジメント力とは人間力である。」と言うことであった。なので、マネジメント系の資格試験では本来じっくり面接をしなければならないし、面接者はそれなりの人間がやらなければならないということになった。しかし、実際にこれをやるのは難しい。

 最近、様々な事項を1つの業務に入れなければならない。これを采配するのはマネジャーの仕事だが、1人ですべてができるはずはない。この辺をわきまえられているのかが、プロの素養だろう。最近はめっきり、プロが減った。責任感が無い。なぜ自分の会社に、仕事が来ているのかわかっていない人たちがいる。もっとも発注している方の意識もそうだ。何のために仕事を発注しているのか?

6条提案 富山市の能力が無いから断った?
業者の都合だけでは受け入れられない


 先日、ある業者から、2年ほど前に「ある業者グループが富山市に6条提案したが富山市の能力が無く断った。」と言うことを言われた。そうかもしれない。能力はないし確かにその時にはまだ検討が十分ではなかったかと思う。しかしそれは他人に言われることではない。そういう間違った情報を伝えている業者さん方は、参加資格はない。こういう短絡的な業者に発注すると、とんでもないことになる。だから、そういうことを平気で言うような業者には出さないであろう。公表できる点は富山市のHPで公表している。そして、実際の理由はプラスアルファーが有ることを理解できないようでは先はない。

 どうも話を聞いているが6条提案を出せば、受け入れられると思っている方々も多いようだがそうではない。業者側の都合で出してきた場合は、役所側が検討し評価し、意思を決定しなければならない。おそらく、市長の了解はもちろん、議会の了承も必要である。それに耐えられなければ、了承はできない。発注者側の長期的マネジメント計画もある。だから業者の都合だけでは受け入れられない。タイミングもあるし、何よりも自治体は、上位機関との関係もあるし、交付金の計画との整合もある。この辺を理解できないと公共事業に参入する資格はなく、例えば群管理なども無理であろう。

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