NEXCO大規模更新シリーズ⑦ 中国自動車道 小郡IC・JCT~山口JCT間 リニューアルプロジェクトが本格化

NEXCO大規模更新シリーズ⑦ 中国自動車道 小郡IC・JCT~山口JCT間 リニューアルプロジェクトが本格化
2025.10.22

その1工事は完了。本線迂回路復旧・耐震補強・断面修復などを順次施工中。2027年12月の完了を目指す

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NEXCO西日本 PC 維持管理 大規模更新 耐震補強
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 NEXCO西日本・山口高速道路事務所が進める、中国自動車道 小郡IC・JCT~山口JCT間のリニューアルプロジェクトが本格化している。本工事では、床版取替え(椹野川橋〔上下線〕、下九田川橋〔下り線〕、上九田川橋〔下り線〕)、床版防水、さらに地蔵前高架橋・椹野川橋・権現堂高架橋における耐震補強など、多岐にわたる改修が行われる。


 本稿では椹野川橋(ふしのがわきょう)をはじめとする区間における床版取替工事、床版防水工事、耐震補強工事を紹介する。あわせて、昨年に実施されたプレスツアーの模様も交え、現場の取り組みを紹介する。

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プレキャスト壁高欄の採用で工期短縮

工事の背景

ヒビ割れや腐食などの劣化から道路環境を維持し耐久性を高める

 中国自動車道は昭和48年11月14日に開通し、今年で50年を迎える。老朽化が著しく、橋梁などの構造物についても40年以上経過したものが多数を占めている。大型車両などの長年の通行により、床版には疲労が蓄積し、ひび割れなどの損傷が顕在化している。こうした構造物の老朽化や損傷の状況は、路線区間ごとに異なる。山口JCT〜六日市IC間(72.4km)は4車線区間で、交通量はおおむね3,000〜5,000台と少なく、標高500m以上の山間部を通過する積雪地域に指定されている。一方、山口JCTから西側の約64.1km区間は開通後40年以上が経過しており、1日あたり2万4,000〜3万2,000台が通行する九州地方との結節点として、交通の要所となっている。この西側区間が、今回の工事対象にも含まれている。


 経過年数の増加に伴い、構造物の経年劣化が進行している。また、使用環境の変化として、車両の大型化や大型車交通量の増加が挙げられ、さらに総重量違反車両による構造物への影響も懸念される。加えて、寒冷・積雪地域特有の劣化要因として、スパイクタイヤが使用されなくなった一方で、凍結防止剤の使用量が増加しており、かつて33tだったものが現在では53tに達している。こうした状況を踏まえ、将来にわたる安定的な維持管理のため、高速道路リニューアルプロジェクトが平成28年度より開始され、根本的な対策として、橋梁の桁および床版の取り替えといった大規模更新が進められている。


 主な変状は床版に集中しており、路面のひび割れや穴あきが発生しているほか、防水層をはがすと床版上面でコンクリートの欠損や土砂化が確認された。床版下面にはひび割れや漏水が見られ、床版内部にも水平ひび割れ、下面のコンクリート剥離などが発生している。これらは、ひび割れを通じて雨水や凍結防止剤を含む水分が上面から浸入・拡散し、内部の鉄筋にまで達した結果と考えられる。交通荷重によるひび割れが鉄筋に到達し、鉄筋の腐食および剥離が進行。下面ではコンクリートの落下も確認されている。これまでにも、定期点検とともに床版増厚(SFRC)を行ってきた。増厚履歴は、下九田下り:H9年度、t=5~10cm、上九田下り:H9年度、t=5~10cm、椹野上下:H8年度、t=5~9cm。床版増厚後には防水工事を行なった履歴もある。また、床版断面修復、床版ひび割れ注入等の修繕も行ってきたが、構造物全体としての長期的な安全性および耐久性の確保が困難な状況にある。このため、今後も安全・安心な道路環境を維持することを目的に、橋梁床版の更新工事を順次実施している。



工事概要

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【その1工事】概要

椹野川橋の既設床版の撤去(引き剥がし)からPCa版架設は9日間で実施

 工事では、3箇所同時に床版取替を行っており、対面通行規制のもとで作業が進められていた。まず、路面の舗装を撤去し、床版を撤去するために桁と床版を切り離す。切り離した床版にはクレーンで吊るすための吊り穴をコアボーリングであけ、幅2.0mから5.5mに細かく切断。横方向と縦方向の切断にはコンクリートカッターを使用し、クレーンで吊り上げ、床版を撤去する。床版撤去後の鋼桁上フランジ上面ケレンの一部を従来の人海戦術によるグラインダー工法に代えて自社開発品の自走式ウォータージェットシステム工法(以下、自走式WJシステム)を実装した。また、自傷事故防止の観点から開発された「ウォータージェットハンドガンシステム(以下、WJハンドガン)」のデモンストレーションも、架台にセットした状態で行われた(見学会時には展示も行われた)。


「ウォータージェットガンシステム(WJガン)」のデモンストレーション


 自走式WJシステムは、川田建設がスギノマシンと協業して開発した工法である。遠隔操作によって台車の走行やWJの噴射が出来る装置で、上フランジ上面の残コンやサビの除去からケレンまでを一括して行える。床版取替えの現場でクリティカルな工種の一つになるのが、鋼桁上面のケレン工である。とりわけ例えば鋼合成桁では、ジベル筋が密に配置されており、さらには馬蹄型ジベルという非常に切断が難しいものもある。また、鋼桁には添接部があり、ボルトやリベットが密に配置されている。そのような箇所ではコンクリートやサビの除去が困難であり、さらにその後のケレン工も煩雑になる。そのため、残コンをチッパーなどで手斫りした後、鉄筋を切断し、さらにケレン工を行うのが一般的であるが、そのうちの手斫りとケレン工は人海戦術で施工する必要があった。また、打撃機器を用いた手斫りでは、鋼桁上面、添接部のボルトやリベット(椹野川橋はリベット構造を有する)を損傷させてしまう懸念点がある。さらに手斫りは桁を伝った振動や騒音が近隣の住環境に悪影響を及ぼす可能性もある。
自走式WJシステムによるコンクリート斫りと鋼桁ケレンは、それらの日数と工数の減少だけでなく、適切な水圧力、流量を設定することにより、鋼桁を損傷せずにコンクリートやサビを除去する選択的なコンクリート除去処理が可能である。また、手斫りに伴う振動や騒音の発生を抑制できる特徴を有している。


自走式WJシステム(川田建設提供、他現場の参考例)


ケレン前とケレン後(川田建設提供、他現場の参考例)


 その後、既存床版を撤去した箇所には、あらかじめ工場で製作されたプレキャスト床版を現場に運搬し、架設を行った。PC床版は全66枚で、1枚あたり長さ11.4m、幅約2m、重量約13t。このプレキャスト床版には、防食性および付着性能に優れた高付着型エポキシ樹脂鉄筋(エポザク)が使用されており、長期的な構造性能の確保に寄与している。撤去と架設には220tクレーンを2台使用し、作業全体は9日間で実施。1日あたり6枚から10枚程度を架設した。


 PC床版の架設が終わると床版と桁がずれないようにスタッドジベルを主桁の上部に溶接する。プレキャストPC床版パネル間は300mmの隙間があるため、鉄筋で繋ぎコンクリートで埋めた。打設後の養生については、プレキャスト床版(PcaPC床版)は工場での製作時に蒸気と湿潤を併用し、間詰め部については現場で湿潤養生を行った。さらに本工事では、床版取替に加え、橋梁の耐震性能向上を目的とした補強工事も実施された。支承の取替(36箇所)、落橋防止装置の設置(8箇所)、横変位拘束構造の設置(12箇所)を行った。



工事の流れとイメージ


橋梁構造概要




施工内容ダイジェスト


 川田建設の現場担当者によると、最も苦労した点は、当初から対面通行規制期間が短く設定されていたことに加え、さらに工期短縮すべく、床版取替期間中は厳格な時間管理が求められたことだという。特に第2期工事では3つの橋を同時に施工しなければならず、時間外労働の上限規制や週休2日制の遵守といった条件の下で、人員や機械、車両の確保には入念な調整が必要であった。また、対面通行規制区間にはインターチェンジ(IC)が含まれていたことから、中央分離帯の改良が3箇所に及び、迂回路の整備も多くなった。加えて、「ランプの流入出に関わる一般車両の安全配慮や案内対応にも細心の注意が払われ、現場は高い緊張感の中での工事が続いた」と語る。

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【その1工事】工期短縮の工夫と安全対策

工期短縮のためプレキャスト壁高欄を採用

 工期短縮にも工夫を行った。中国自動車道では、山口JCT以東(六日市~山口JCT間)の交通量は少ない一方、山口JCT以西(山口JCT~下関IC間)は交通量が多い。そのため、夏季の混雑期間終了後に、大規模規制を伴う昼夜連続の中央分離帯規制および対面通行規制による大規模工事を実施した。

 また、11月下旬から3月末までの冬季雪氷対策期間中は、対面通行規制区間での凍結防止剤散布や除雪作業が困難となるため、11月下旬までに規制を解除する必要があった。これにより、工期は約3ヶ月と非常にタイトなものとなった。1日でも早く規制を解除する必要があったため、今回の工事ではプレキャスト壁高欄を採用した。プレキャスト壁高欄を採用することで、通常の壁高欄施工(施工日数約30日間)に比べて20日間の短縮が可能となり、10日間での施工が実現した。

床版取替スケジュール(イメージ)


工期短縮の取り組み


 安全対策としては高速道路を使用する車の安全と併せて、工事の安全も確保しなくてはならないため、撤去した床版や新たな床版を架設する際に走行される車線にはみ出さないように監視員を配置するだけでなく、レーザー監視システムを設置している。レーザー監視システムのレーザーバリアに触れた場合には警報が作動する。

安全安全対策の取り組み


 床版取替の施工に携わった人員は、職員26名(事務員含む)、下請負約110名(規制含む)耐震の施工に携わった人員は職員4名、下請負約10名(最繁忙期。1日当たり)となっている。

 その1工事の元請けは川田建設株式会社・コーアツ工業株式会社(JV)。主な一次下請は、さいとうPC建設株式会社、株式会社カイセイ(床版取替・壁高欄)、コンクリートコーリング株式会社(床版切断)、株式会社吉村(床版撤去・架設クレーン)、日進工業株式会社(WJ)、株式会社佐藤渡辺(防水・舗装・迂回路)、株式会社SDC工業(耐震)が担当した。

 その1工事の工事量や施工箇所が増加したことに伴い、主に耐震工事の一部を「その2工事」として別発注する形で進められることとなった。

 その1工事は現場作業を完了し、8月18日に竣工検査を終えた。

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