コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2025.09.04

⑦「造ったモノがどのように壊れるか確認し、設計と施工を考えなければならない」

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コンクリート打設は失敗から学ぶ
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超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』 高分子系浸透性防水材(ハイブリッド型) FRPによる既設床版延命化工法
>平瀬 真幸氏

株式会社ファインテクノ
コンクリート品質改善部
部長

平瀬 真幸

はじめに

 この記事を執筆している最中、全国的に線上降水帯線の影響で大変な水害に遭われた方々にここでお見舞い申し上げます。

 私の育った町において、12時間あたりの降水量が450㎜として全国放送されましたが、その被害として河川堤防の一部決壊に伴い国道の橋台背面洗掘、複数箇所で法面崩壊等で道路があちこち寸断されておりましたが、九州にとどまらず全国各地で同じような被害が複数報じら続けております。ここで休むことなく災害復旧に関係いただいてくださる方々に深く感謝申し上げます。

 執筆している記事に対し、皆さんから直接ご意見をうかがえない事から気になっておりました。前回記事を掲載後、初めてお会いする方から「記事面白いですね」等々の反響を複数いただけたことはとても嬉しかったです。恥ずかしい話しですが、ここで申し上げておりますように、学生時代からコンクリートは難解な事から避けてまいりましたので、当時は良かれと思って軟らかいコンクリートで綺麗に仕上げるといった事でその場を凌いでおりました。そうしたやり方は、小さな物件では通用していたのですが、それが全く通じない失敗に直面し、ひび割れだらけとした情けない経験からコンクリートに向き合うようになり、今こうして失敗談を反面教師として披露するにいたっております。

 どんな人もいつか必ず失敗すると思いますが、事後の対応が良ければ奇貨となる訳ですので、失敗した時、何故失敗したのか原因を追及し、次の成功に生かせばそれは成功の道であったと言えるものになるかと思います。

挑戦する企業体質のもと人と環境を大切にし、感動的な価値ある技術の創造を目指します。 土木資材のことなら、弊社にお任せください! 国土を守るプロフェッショナル

1.現場へ出ましょう

 失敗した時、どこでも釈然としない事に直面しがちです。それはどういう事かと申しますと、コンクリートの不具合に監督員が気付いた時、施工者に原因を聞くとします。多くが「何故か分らない」等という不思議な答えに直面する事が多いのですが、施工者の大小問わず同じような事ですので現場にいながら、何故原因が推測すらできないのか、おそらく後ろめたい事情を隠していると思うのですが。

 後日監督職員に不具合についての報告書が提出されますが、不具合を調査する技術士にしてもコンクリート資格保持者にしても、知識は豊富ですが現場経験が少ないからでしょうか、報告書は現場条件特に施工状況の記載をあたかも誠実に施工したか、意図的に外した上で専門書のコピペを一工夫したようなものが多く、ほとんど参考になりません。報告書が提出された後に、それを作成したコンサル等が不具合の補修方法を記した協議書の中身を作成するのですが、発注者が最も気にしているのは次回の対応が安心できるモノであるか否かであると思います。

 しかし、次回の対応策も専門書のコピペ+αのものがほとんどで期待外れのものばかりだと思います。私は施工者出身ですので施工側の苦悩が想像できるのですが、施工者はコンクリート工事に従事していても、多くの書類に追い込まれて現場どころではなく、生コン打込みは図面通りコンクリートを流し込むだけ、そこには技術力など不要とばかりに下請け任せ、運が良ければ多少の不具合は指摘されないという経験と期待があると思います。よって、最初から「コンクリートの在るべき姿」など考えもしないからではないでしょうか。どんな事をするにしても想像力があれば備えができますし、結果的に失敗したとしても、頑張った結果であれば次の対策や工夫につながります。真剣である技術者ほどに想像力深く、予算が許す範囲で対策も能力の限りを尽くしますので、そうした技術者が失敗すれば何が悪かったのか足りなかったかについて心当たりがあって次につながるものです。経験上、失敗した時の施工者の台詞「頑張っているんですが・・。」アピールなのか言い訳をよく聞かされます。では、成功する人間は頑張っていないと言いたいのでしょうか。結局、どれだけ現場でやってきたか、常にマニュアル通りやっていればあまり経験となりませんし、マニュアルを絶対視して失敗しますと専門書に頼りっきりとなりかねません。

 そこで、失敗を生かし専門書の意図について考えて挑戦し、気付きを得て考えていただければ行動が変わるように思いますが、施工者は本当に忙しいですし、現場に出るには会社の書類を優先して終わらせておかなければ評価が下がるでしょうから現状難しいでしょう。昔は発注者に経験・知識が豊富で現場で様々な質問をするような技術者がおられました。施工者にとってはとても恐ろしい存在で、そうした方がおられると、社内でも監督員のニーズに合わせる対応としますので現場へ出る理由となりました。私は何度となくそうした監督員に遭遇し鍛えられ成長しました。発注者も忙しく、難しいとは思いますが可能な限り現場へでていただき、様々な気付きを質問していただければ施工者もストック効果も劇的に良くなると思います。

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2、単位水量は少ないのにどれだけ粗雑な事をしたのか

 ここで本題としますが、いつもながら彼方此方で現場を観察している中で、個人的に高スランプ化が原因と考えている興味深い不具合がありましたので紹介させていただきます。

 この現場(写真-1)はスランプ15cm(高性能AE減水剤+膨張剤添加)で施工された駆体です。


写真-1 駆体全体で遊離石灰

写真-2 遊離石灰の拡大写真


 遠方から見ますと真っ白で均一に見えたコンクリートですが、近くで確認すると遊離石灰(写真1、2)だらけであり、完成から2年半経過で遊離石灰の厚さが最大10㎜程度、さらに遊離石灰の氷柱が長さ100㎜前後に成長しておりました。遊離石灰が生じている原因として、コンクリートの天端押さえが不十分なために空隙だらけで固化、天端から雨水が侵入し主に鉄筋を伝って下層へ浸透するに従いコンクリートの成分を吸収、途中で鉄筋近傍の空隙(水みち)とコンクリートの外部がつながった箇所から水が漏れ出して遊離石灰が徐々に大きくなったものと考えられます。

 (写真-2)の部分で遊離石灰が多い箇所については、コンクリート打込み当日に型枠の隙間からモルタルや水分が抜けた結果、コンクリートに空隙が生じた状態で固化し、天端から侵入した雨水が抜けたと考えられますが、こうした不具合は高スランプの現場で多いと思います。これが低スランプであれば、否応なしに丁寧に仕上げる確立が高まることから駆体全体が密実となり易く、そうした場合、隙間から抜けるモルタルは生じますが、全体が密実なので高スランプと比較して不具合は少なく小さいと思います。ただし、低スランプは人手が多くかかる事は言えますし、手を抜くと不具合が生じ易いです。こうした不具合に関して、個人的に感じるのは低スランプの不具合は比較的に分りやすく、高スランプの不具合は綺麗に仕上がったコンクリートだとしても実は低品質である可能性があり、経時変化を観察しなければ判断が難しい事は言えると思います。しかし、この駆体ですが、発注者が高性能AE減水剤まで設計に入れていますので、単位水量は少ないのにどれだけ粗雑な事をしたのか想像に難くなく、こうした配慮のかけらもない現場が建設業のイメージ、国益を既存していると思うと残念でなりません。

 

付け加えますと、高スランプコンクリートは事実上締固め不可能です。何故なら、締固時間が長い程に粗骨材が沈降し、ブリーディングが天端方向へ上昇累積する事から上層部は水セメント比が高まり強度が低下、固化したコンクリートの空隙も大きくなるはずですので耐久性が低下し易い事から締固めは充填と空気を抜く程度で完了せざるを得ないからです。

 そうした事もあって特別な対応が必要となるのですが、基準やマニュアルに従う技術者においては、そのような経験はしていないと思いますので、臨機応変に対応できないのではないかと現場で感じております。私の想像ですが、多くの技術者は懸念があっても基準通り施工するか、そもそも懸念など感じていないのではないでしょうか。また、これが一番のハードルですが、懸念を感じたとしても私たち現役世代はマニュアルに従うよう教育されており、それを覆すにも個人で根拠を示すか探さなくてはならず、それをクリアしても予算をどうするのか考えますと諦めるしかありません。

 結局、学生時代に教わった高邁な土木哲学に従った行動などできない状況に追い込まれて「こんな筈では・・・」と疲弊していると思います。私は長きに渡り建設業の在り方に違和感がありましたが、どうして良いか分らずでした。ある現場でマニュアル通りとして大失敗した事で考えを改め、「在るべき姿」と信じる行動へとシフトしました。最初は示方書を良い方向へ逸脱するのですが、それが恐ろしくて誰にも言えませんでしたが、こっそり実施した事が概ね良い結果を得るようになってからは先生方と関係する発注者には自分の考えを聞いていただいており、そうした考えの一部はコンクリート工学会年次大会で報告したこともあります。

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3、「造ったモノがどのように壊れるか確認し、設計と施工を考えなければならない」

 では、高スランプをどのように締固めるのかと申しますと、一番簡単な方法は材料分離させずに空気をある程度抜いた状態で締固めを終了する事が手っ取り早いです。しかし、それでは密実とはならずコンクリートは数年後に水とセメントが多い程にひび割れリスクが高く、劣化因子の侵入によって寿命が短くなる事は避けられないと思いますので私はやりません。ただ、そのやり方を肯定するわけではありませんが、人手不足と限られた予算を考えるとこの方法と成らざるを得ないという施工者が多い現実があります。

 ここで考えていただきたいのは、示方書の意図を考えず、単純に記載にある締固め時間を実行する代償は何かという事でして、完成したコンクリートの経年変化を見ていただき正しい行いであったか追究できる環境が必要ではないかと思うところです。ここで私は恩師の言葉を思い出すのですが、「造ったモノがどのように壊れるか確認し、設計と施工を考えなければならない」等々。恩師はアメリカでコンクリート構造物が壊れゆく様を確認してきた研究者でしたので、年を追う毎にその言葉は重みを増し、そうした教えの一部は未だ鮮明で忘れられません。

 ここから参考になるか分りませんが、高スランプの現場において個人的に実践してきた事についてお話しますので、もし興味があり実行可能な技術者がおられたら参考になればという事で簡単に紹介したいと思います。

 高スランプコンクリートで、駆体を密実としたい時、手間をかけられる環境(予算・工期・人員等クリア)であれば、高密度配筋で締固めが難しい下層部分は高スランプ(技術に応じてスランプ決定)を使用し材料分離を恐れず徹底的に締固めます。ここで重要なのは材料分離を恐れて締固めを躊躇すると固化したコンクリートで空隙が大きくなる事で劣化が早まるリスクを負うので遠慮無く徹底して締固めます。ここでブリーディングが大量に生じますので、どの程度の処理が必要であるかについては事前にフーチング等で締固めを試行してブリーディング状況を確認し人員を考えておく必要があります。コンクリート打込み中層あたりから締固めが容易となるでしょうから、スランプを8cm以下等(技術に応じてスランプ決定)で単位水量を減じたモノに変更しつつ締固め、それでもブリーディングは生じるので可能な限り処分しながら締固めます。ここで高スランプと8cmでスランプが違う事から混ざるか不安でしょうが、スランプ5cmもあれば液状化して完全に一体化しますので心配は不要です。

 上層では締固めは容易でしょうからスランプは可能な限り低いものとして、そこで生じたブリーディングは全て廃棄、同時に上層部の水気の多いモルタルも廃棄し、さらに単位水量を減じるべく低スランプ+高性能AE減水剤を使うと良いでしょうが、出来る範囲の低スランプで良いと思います。目的は低スランプを使う事ではなく、持っている技術で密実とする事です。蛇足ですが、天端は密実とすれば侵入する水が限定されますので、天端仕上げは可能な限りブリーディングを排除し、特に丁寧に締固め、天端抑えと再振動は更に注力いただければと思います。そのほかにもやる事はあるのですが、それなりの経験がないと品質低下の恐れがありますので、誰でもできる事を記載しました。分っておられる技術者には退屈な文章となりましたが、実際、上記とは少し違いますが、近い考えで打込んだコンクリート(写真-3・4)を見ていただきたいと思います。

現場周りは鋼管矢板で狭く全景を写す事ができませんでしたが、全体で見るからにコンクリートが引き締まっております。高スランプでこのように仕上げるには、強制的に単位水量を少なくする工夫が必要です。手法として、コンクリートは外周から内側に向けて落とし込み、締固めも同様に実施、外側では徹底的に締固めて材料分離を促進、意図としては鉄筋被り部分で過振動の締固めによってブリーディングを強制的に発生させて余剰水を内側へ入れ込み外側を密実に仕上げたいためです。ここでは鉄筋被り部分の単位水量を強制的に少なくした事が(写真-3・4)の仕上がりからもうかがえると思います。ブリーディングは内側へ集積し廃棄しましたが量が多くてとても大変でした。

写真-3 スランプ15cmで密実化



写真-4  スランプ15cmで密実化


 脱枠後、コンクリートの不具合がないか全体を見て欠陥が全く無かったので、Pコンに沈みひび割れがないか全て見て回りましたが、有害なモノは当然、無害なモノも見つけられずで、これだけ圧倒的なモノを見せられると賞賛するしかありませんでした。この現場は施工条件が悪すぎてポンプ長距離圧送となり、加えて高スランプとなりましたので大変だったのですが、少なくとも写真の部分は最高品質であったと断言できます。ただ、この後工程(梁部)は私が転勤して確認できなかったのですが、写真のコンクリートのような高いレベルでは仕上がらなかったと教えていただきました。ただ、与えられた環境がとても厳しかったので、普通に仕上げるだけでも素晴らしい事で関係者には感謝しかありません。先ほど、低スランプは人手が多く必要だと述べました。しかしながら、(写真-3・4)で紹介した現場では低スランプより多くの作業員を投入して施工しております。それについては目的が違うからだと言う事を説明しなければなりません。まず、全国で高スランプ化しているのは、人手不足解消や効率化も一つの目的だろうと思います。そうした場合の施工は材料分離をさせないよう短時間で締固めますので人員は少なくなり目的を一つ達成する事になります。ここで紹介した(写真-3・4)の現場の目的については、まずこの現場特性を説明しますが、海が目の前で海水の干満差が6m程度とされており、塩害を受けますのでコンクリートを密実としたい思惑がありました。しかし、使いたい低スランプコンクリートでは長距離圧送が不可能であった事から、妥協案として高スランプは仕方ないとして、そのコンクリートを密実化するために、長時間で締固めて材料分離させブリーディングを排除、強制的に水セメント比を下げるという事を提案しました。施工者がとても優れた人格者で技術力が高かったことから、快く提案を引き受けていただけました。同じ高スランプでも、主たる目的が効率化なのか、ストック効果を高める施工とするのかで全くプロセスも結果も変わる典型例です。確かに材料分離・過振動・ブリーディングという言葉はいい響きではありませんが、標準示方書の意図を理解すれば材料分離させるための長時間締固めは、私たちの技術では理にかなう最善の策であったと考えておりますが、皆さんはこうした挑戦についてどう感じられるでしょう。良ければいつかご意見をお聞かせください。

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