能登大橋の応急復旧と新橋建設について
国土交通省北陸地方整備局金沢河川国道事務所は、のと里山海道の能登大橋について、損傷した現橋を応急補修して供用しながらも、西側の用地を利用して新橋(迂回路橋)を建設する工事を進めている。現橋は2024年元日の地震で大きく被災し、橋台背面部に大きな段差が発生、金沢側の橋台本体にも大きな損傷が発生、桁にも部分的に損傷が発生したが、昨年9月には、応急復旧を完了している。しかし、大きな地震が起きれば、再度被災することが予想されることから、早期の開通を目指し、新橋(迂回路橋)の建設を進めているところだ。昨年元日に起きた損傷の内容、その応急復旧内容、そして新橋の構造と進捗状況について取材した。(井手迫瑞樹)
A1橋台は水平方向に大きなひび割れが発生、最大ひび割れ幅100mm!
現橋 4径間部は各支間の中央部にゲルバーヒンジ構造がある橋梁
外桁のコンクリート剥離が大きく、鉛直方向の力が支承に伝わらない状況
現橋は橋長430m、幅員10.7mの単純ポステンT桁橋+4径間連続門型PCTラーメン橋である。4径間部は各支間の中央部にゲルバーヒンジ構造がある橋梁となっている。A1橋台側の単純ポステンT桁橋が大きく損傷を受けた。2024年元日の地震により桁が前後左右に大きくゆすられて、桁に大きなコンクリート剥離などが生じた。
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2024年元日の地震による損傷状況(金沢河川国道事務所提供、以下注釈なきは同)
4月当初は外桁のコンクリート剥離が大きく、鉛直方向の力が支承に伝わらない状況であったことから、損傷した外桁に輪荷重を伝達させないように橋の中央部だけを利用して車を通すようにした。ある程度、桁の補修が進んだ段階で、対面通行できるようにしている。また、全般的に落橋防止構造や支承など橋梁の端部の構造に多くの損傷が生じた。ゲルバーヒンジ部も大きな揺れによる衝突でひび割れていることから補修を施した。
とりわけ、一番ひどい状況であったのが、A1橋台だ。写真で見られるようなすさまじい規模の水平ひび割れが発生しているのに加えて、橋台背面の盛土部が大規模に崩壊した。橋台背面盛土部の崩壊は以前の地震(平成19年に生じた能登半島地震)でも生じており、今回も同様の崩壊が生じた。同箇所は複雑に沢地形が入り組む集水地形であったことから、地下水の影響もあって、大規模に地滑りを起こしたと思われる。

A1橋台の水平ひび割れおよびコンクリート剥離
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橋台背面の盛土部が大規模に崩壊

実は平成19年の震災時にも同様の損傷が生じていた
生じた段差の規模は、A1橋台側は90cm程度、A2橋台側も135cmに達した。ただ、A2橋台側の方は、A1橋台側で生じた大規模な崩落のようなものはなかったため、段差をすり合わせて通行できる状態にすることができた。
A2橋台側の変位制限装置は、桁が衝突した影響で、せん断破壊しているような状況になった。
ヒンジ部は下床版が割れた。地震時の縦横の動きに追随して大きく桁が揺れた際に生じたものと思われ、ヒンジ部から箱桁内部にもひび割れが進展する形で生じた。
A1橋台は水平方向に大きなひび割れが発生、最大ひび割れ幅100mm!
アングル材等で隙間を埋め、段差の進行を抑制
さて、応急復旧である。
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応急復旧
A1橋台は水平方向に大きなひび割れ(最大ひび割れ幅100mm! 橋台前面方向に4㎝程度ずれが生じており、しかも背面まで貫通した箇所もある!)が生じてしまったため、大型のH形鋼を橋台前面に上下左右に配置してせん断補強対策の処置を行い、ずれ止めの対策を施している。さらに計測器を取り付けて、変位モニタリングもリアルタイムで行っている。

H鋼による補強(井手迫瑞樹撮影)
損傷した支承部は、アングル材等で隙間を埋め、段差の進行を抑制した。

アングル材による補強を施した支承、ベタ置きの状況である(井手迫瑞樹撮影)
A1橋台背面の崩落した盛土は現場発泡ウレタン軽量盛土工法を用いて、基礎地盤や橋台への影響を最小限にしつつ自立できる材料で復旧させた。
背面盛土 軽量盛土と鋼管杭を用いて段階的に復旧
ゲルバーヒンジ部 内部から斜材付きのアングル材を取り付けて補強
背面盛土は、一気に全幅員を復旧させたわけではない。いったん、北側への一方通行を復旧させる際、桁の補修補強状況と合わせるように橋梁の中央部に1車線分のアプローチを構築した。次いで、本来の北行きの車線部となるラインよりさらに外側に軽量盛土を施工し、同ラインに交通を振った後、前に通していた中央ラインの一部を施工ヤードとして用い、これ以上の地すべりを防ぐための鋼管杭を打ち込んだ。さらに、復旧した真ん中の軽量盛土部分と鋼管杭の間に、軽量盛土を施工し、上下2車線を最終的に確保した。
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A1橋台背面盛土の復旧図
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盛土部の復旧ステップ
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発泡盛土の設置及び、鋼管の施工が完了し、一車線ついで対面通行が行えるようなった状況
ゲルバーヒンジ部で剥離損傷を起こした箇所については、断面修復を行い、内部から斜材付きのアングル材を取り付けて補強し、さらに外面は下から剥落防止シートを貼り、落下防止のためのネットも設置した。
また、A2橋台の変位制限装置が損傷していた箇所には断面修復した後に、その側面にアラミド繊維シートを貼って補強した。鉄筋の破断などもあったため、鉄筋の補強も考慮してアラミド繊維シートを用いた。橋面では伸縮装置の損傷による段差も生じていたことから、舗装による擦り付けを行って復旧供用した。
西側の用地を使って新たな橋(迂回路橋)を建設
まず必要なのは工事用道路
以上の状況から既存の能登大橋は恒久的には使えない。そのため、西側の用地を使って新たな橋(迂回路橋)を建設することになった。
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補修による本復旧(上図)ではなく、う回路橋による本復旧(下図)を目指すことにした
まず必要なのは工事用道路である。現在供用中の現橋を工事する際、幅は狭いが作業道路を構築しており、その跡地が今でも残っていた。迂回路橋の着工前には、まずその作業道路があった箇所を草刈りしたが、その段階で道が崩れ、木が倒れていたりしており、「どこに道があったかもわからない状態」(国土交通省北陸地方整備局金沢河川国道事務所)であった。しかし、草木などの障害物を除去してみると、道床が確認された。その道を修繕しつつ、現場までの工事用道路を構築していき、さらにその道路を利用して、迂回路橋用の工事用道路の構築を進めている状況である。
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赤枠内がう回路橋建設予定図 / 建設が進む工事用道路

草木が生い茂っていた状況を(井手迫瑞樹撮影、2024年5月)



それを取り除きつつ道を切り開いていった(2025年6月撮影)

A1橋台およびP1橋脚部近傍 / A1からA2橋台方面を見る(井手迫瑞樹撮影、2025年6月撮影)
具体的には、復活させた古い工事用道路の延長に迂回路橋工事用道路を建設するための道路を整備し、腹付する形で盛土を行って、工事用道路を山の方に振り、迂回路橋の作業を行うヤードを確保した。
構造はほとんどが盛土である。使用する土は地震で生じた崩土を利用し、セメント系固化材を使って改良した土で盛土を構築する。
橋梁工事用道路をつくるためのアクセス道路であるため、重機やダンプが十分すれ違えるような道路にしなくてはいけない。ただ、1車線ずつ確保するような道路ではなく、あくまで仮設道路なので、退避箇所を2か所ほど確保した1車線道路になる。延長は400m弱である。
施工は真柄建設が担当した。A1橋台~P8橋脚までの工事用道路を真柄建設がつくり、P9橋脚~A2橋台までを三井住友建設・姥浦建設JVが構築する予定だ。構築した工事用道路は迂回路橋供用後も、管理用道路として使用する予定である。





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