コンクリート打設は失敗から学ぶ
はじめに
冬となり寒くなりましたが、九州では10月20日まで最高気温が30℃を超え、同日に北海道においては積雪のニュースもあり、くづく日本は大きな国だなと感じております。
職業柄でしょうか、四季の中で特に夏の気温を気にしております。理由はコンクリート工事に関することで、気温が高いとスランプロスが大きいこと、その対応を間違えるとそのまま初期欠陥となりやすい傾向があるからです。過去のコンクリート打込み現場では、不具合を起こさないようスランプロス対策に加え、作業の効率化を期待してJIS規格を外れるのではないかという上限要求が多くの現場でなされていました。加えて近年では、高スランプ化と上限要求の組合せなのでしょうか,不具合の程度が不自然なコンクリートも多くなっているように感じております。それに関して現場の不具合につながるであろう、フレッシュコンクリートの受入検査の事例について触れたいと思います。
1.邪な意図あってのヒューマンエラーを指摘
ある現場での出来事、毎日実施される受入検査で最初の1台目だけ規格上限側で検査をパスする施工者がいました。私の認識ではそうしたことは全国的になされていたと思います。ただ、この現場では2台目以降、規格外を大きく上回るのではないかという軟らかいコンクリートを使っておりましたので特に注意しておりました。
そんなある日のこと、受入検査でスランプの上限を大きく外れそうな状況に遭遇しました。ここで、試験者は一番都合の良いところに検尺を当て、規格上限値ピッタリで黒板に記載して立会を要請してきました。こんな事もあろうかと、あらかじめ印刷していたスランプの試験方法を見ながら、「検尺がコンクリートに当たっておらず浮いていること、JIS で定めている検尺を当てる位置も故意に都合の良い所に当てて合格したかに偽っていること、コンクリートの高低差も規格外であることを黙っており、故意に3つの規格外が隠蔽されています。再試験しても規格に入らないでしょうが規定通り実施していただけないでしょうか。私の言い分に間違いがあれば教えてください。」と伝えましたが、試験者・施工者から反論はなく、再試験を試みるも規格の上限値より2.5cm外れて不合格となりました。(写真-1)
(写真-1)再試験不合格(設計Sr15cmが20.5cm)
遡って、それまでの施工日においても同様の事が常態化していたので、施工者・試験者は規格に入らなかった状況を想定したと思うのですが、堂々と複数の不正を隠したことから、「いままで全日のコンクリートの2台目以降が、今回試験で不合格だったモノより極端に軟らかいことを初日から全て記憶しています。偶然としては説明出来ない法則性があり、今まで規格外と疑っていたものが確信へ変わりましたが、それは違うなどの意見はありますか。」と施工者と試験者に聞いたところ、黙ったままで反論はありませんでした。コンクリートの受入検査において上限要求する現場においては、監督員の立会は写真撮影するだけで形骸化しているように思いますが、そうした状況では堂々と不正をしてしまう可能性がありますので、立会される監督員・補助員の方はご用心いただければ幸いです。とにかく現場へ行かなければ不正は見抜けませんし気付きは得られませんので、受・発注者の全プレイヤーは現場へ行って関心を持って観察していただければ大きな抑止力になると思います。
結局その日、2台目以降も全て規格を大きく外れて不合格となり現場へ持ち込まれた5台全て返却となりました。元請は5台目の試験が終わり、「プラントが品質を安定させないことから、6台目以降も合格となるかも分らずリスクがあるので施工を中止しました。」と言ってきました。施工者自身が上限要求しておきながら、さもプラントが悪いかに印象操作し施工中止するのは納得いきませんでしたが、ひと昔前ではコンクリートの不具合についてコンクリートの品質が悪いとプラントに責任転嫁する施工者が少なくなかったので、そうした言い訳が通じると思ったのだったのでしょう。
ここでの施工者は、1台目だけは規格に入るようプラントに指示していたつもりが、プラント側がうっかり2台目からの規格外を1台目から適用してしまった、そういう邪な意図あってのヒューマンエラーだったと言ってよいと思います。
2.品質不良はプラントのせいではない。施工者がしっかりとイメージを伝えることが大切
関連して、むかし勤めた会社の同僚が、コンクリートをひび割れだらけとして問題となった現場があり応援へ行かされた事があるのですが、代理人・監理技術者はひび割れが発生した原因はコンクリートの材料品質が悪いのではないかと疑っていました。そこで、現場を観察したところ、ここで紹介する悪い事例のような惨状であり、施工が悪いことを指摘して是正したところ、脱枠したコンクリートの初期欠陥は解消し1年以上ひび割れはほとんど生じませんでしたのでプラントが悪いというモノではありませんでした。
驚くことに、監理技術者・代理人は私が行くまで滅茶苦茶な施工をしていた意識がなく、その現場では公費による試験施工まで実施していたのですが、その試験施工ですら標準示方書も計画書も守られておらず、結果、試験施工エリアで初期欠陥だらけでしたので、責任逃れの理由としてコンクリートの品質に責任転嫁することを考えており、プラントは大変だったと思います。もし、施工者がプラント側を疑う理由が少しだけあるとすればプラント毎にコンクリートには特色がありますのでプラントの癖が分らなければ品質が悪いと勘違いするかも知れません。
コンクリートはJIS認証を受けたとはいえ使う骨材は産地によって違いますのでそこを規格値の中で配合をオリジナル化しており、全国一律ではありません。例えばプラントの癖としては、ポンプにつまり易い、ブリーディングが多い等々、このような癖を掴むと施工側が打込みで何をすれば良いか、また、プラント側へ何を要望すれば良いか等の対応があろうかと思います。施工者側のコンクリートに対する無関心や不勉強が材料への不信感につながっているように思え、そのほとんどは施工者側が主体として解消する問題だと思います。ほとんどの技術者は現場経験があっても品質に対しての当事者意識が低く、マニュアルによって挑戦が抑止されていて、PDCAを思うように回せない状況が足かせとなり、それがルールだと勘違いしている技術者が多いのも問題だと思います。
ここで何故、私が製造者側の立場を擁護するかと言うと、施工者とプラントを比較しますと、プラントはコンクリートに対して真面目に応えてくれる可能性が圧倒的に多いことがあります。例えば、意図しないフレッシュコンクリートであったり、駆体の仕上がりだと感じた時、現場でプラントと意見交換するのですが、施工者側としてどのような考えで施工したいのか、私たちが求めるコンクリートと仕上がりイメージを伝え、プラントが出来ることや考えられることは何か話し合いお互い意識を共有します。すると、それ以降、驚くように材料が日々改善され文句なしの素晴らしいフレッシュコンクリートへ変化することを何度か経験したことがあるからです。結局、全てのプラント側との会話で、「施工者から上限要求等の要望はあるが、下限要求や単位水量を減らす工夫など今までほとんどもありませんでした。」等といった事でしたので、結局、施工者に求められて規格外を含めて製造を強いられているのではないかと思っている訳です。
とは言え、プラントの協力を得られなかった例外もあるのですが、それは激甚災害の地域で施工者がプラントへ品質について特別な取組みをする相談をした時、「こんな忙しい時に、面倒な事はできないから他のプラントに相談して欲しい。」と断られた事が一度だけあります。プラントへお願いする時は動機が大切だろうと思いますので、「公益に資するコンクリート構造物によってストック効果によって国家が豊かになる。そのようなモノ造りに協力して欲しい。」等々と思いを伝えますと、今まで全てのプラントから良い反応がありましたので、もし、プラントと材料について話すときは上限要求ではなく、フレッシュコンクリートのプロとして公益になる配合はどのようなものか聞いてみるとプラントはメーカーとつながっていますので改善の提案をしてくれると思います。ここで重要なのは自分が何を求めているのか、相手に熱い思いを伝えることだと思います。
施工者がプラントへ品質低下するのが分りきったスランプ上限要求をしてしまうと,運搬会社も洗い水を捨てないリスクが高まるので歯止めがかかりません。よって,施工者が上限要求した瞬間からフレッシュコンクリートの規格外はプラントの責任は小さく施工者側の責任が大きいと思います。
3.発注者に隙が無く、不正を許さない姿勢が重要
規格外のコンクリートについては、多くの施工者が長年上限要求したことで常態化し、プラントは回転がよいメリット等で助かり、運搬業者は荷卸し時間が短くアジテータ車を洗う手間も省け回転が早くなり、施工者は施工時間が短く作業員を少なく出来て効率化等でき、全ての施工関係者が目先の利益を享受できることが一致しての共謀だったと言えなくもないと思っております。こうした不正について過当競争や環境が大きく悪くなりつつありますので、もはや施工者の努力の範疇を超えているかに感じます。
私が学生の頃、先生方は日本の技術力を誇りとし、「我が国の技術は世界一であり、研究費は圧倒的」等々の夢のある話しが多く、いかに我が国が素晴らしい技術をもって国内外で貢献しているかと、多くのエピソードを聞くにつけ明るい未来しかイメージできませんでした。
先生のお一人が、「私は黒部の太陽を石原裕次郎が演じたのを観て、格好いいなと思い土木技術者になった」と言われていたのを鮮明に覚えています。最近になって思うのですが、現代の技術と法体系で、黒部ダム構築は再現出来ないのではと想像するようになりました。施工記録が残っているのに何故同じ事ができないかについて、昨年、【土木学会アーカイブ】の中で、建設に参加された大成建設OBである太田資倫氏のお話を視聴したのですが、まさに日々命がけ、そして日々条件が想定外、突発的な上に技術的難易度も高いこと、それを経験が無い状況で即断即決で試行錯誤しなければならないこと、そうした現場は発注が滅多になく現場技術の継承はできていないのではないかと思うこと、いまの法律では当時の行為を制約して、そもそも出来ないのでは? など、想像を巡らせるほどに再現できるとは思えず、今もって難しい工事だったように感じました。経験もない個人の意見ですのでそれなりの技術者なら意見が大きく違ったら申し訳ありません。前述した黒部ダムの偉業ですが、アーカイブを観るまでほとんど興味がなかった私ですら驚き・感動の連続でしたので、観ていない方がおられましたら是非、【土木学会アーカイブ 太田 資倫氏】で検索してご視聴いただけたらとても感動しながら楽しく視聴できるかと思います。他にも土木学会には珠玉の動画がたくさんありますのでチャンネル登録もお薦めしたいと思います。
以上、脱線しましたが、施工者が意図して規格を大きく逸脱したコンクリートの規格外を隠蔽した事例でした。こうした事をする施工者には雰囲気があって、皆さんも何か感じる事があるかも知れませんが、この現場ではコンクリート打設の前工程である、杭の支持層確認で、支持層の深さに到達していないのに検尺を誤魔化すという悪質な不正をしたのを指摘し再掘削したことがあったので、常に何か仕掛けてくるであろうと心の準備ができていました。この不正、もし現場へ行かなければ見つけられず是正できなかったでしょうから、現場へ行くことがいかに大切であるか日々感じております。
こうした悪質な事が起こる条件ですが、発注者が忙しくて現場にでない事が多い事業所は危険と感じておりますが、今の発注者のほとんどが多忙ですので該当するかも知れません。施工者は監督職員を見ながら施工しています。ところが監督員が来ないと分れば会社の上司からそれなりの施工(手抜等)と原価削減を強いられても断れませんので、監督員が現場へ出て不審事項を質問するだけでも抑止力が利いて結果は違うと思います。
私は上司から、手抜き工事を指示された事があるのですが、その時に、「毎年会計検査が実施されており、監督員は不定期に現場で核心や不意を突く、規準等で定めがない事を立会で確認するので手抜きは高確率で発覚し誰にとってもメリットがない。」と強く主張したところ、上司は「皆やっているしバレない、お前のテクニックがないからだ。」等と貶され孤立しました。後日、誰もが恐れている発注者の厳しい立会に上司が同席したのですが、厳しい質問に対しても何事もよどみなく対応するのを確認した上司は、「お前のいう通りだった、ここまで厳しいなら手抜きなんか絶対無理だな。」と言ってくれましたが、それは発注者に隙が無く、不正を許さない姿勢を示したからであり、私も監督員に合わせた対応をしただけでしたので監督員が現場へ来てくださると手抜きはもちろんですが良いモノが造れる環境に圧倒的プラス側であるのは間違いないと思います。
ここで、同時期に私の隣工区で他業者が手抜きをしたのですが、当日に見抜かれ施工のやり直しを指示されていました。ここから驚きなのですが、その施工者は後日、違う手抜きをして不具合が発覚し、理由として隣接工区の私たちが原因であると監督員に主張したとのことで、事情聴取のために3者が現場に会しました。そこで監督員の複数の鋭い質問に対し、不正をした監理技術者は何度か切り返すも全く根拠が示せず窮し、責任の所在を認めざるを得ませんでした。ところが、さらに衝撃的だったのは、その場で、先に挙げた不正とは別に法令違反による勝手な施工が発覚し監督員に問い詰められた監理技術者は、それも私たちが勝手にやったと言い出したのです。そこで私たちが不正をする動機が全くないことを主張し、対して隣接工区の施工者は法令違反をすることで様々なメリットがあったことから厳しく問い詰められた監理技術者は黙っていましたが、代理人が不正を認めてその施工者はそれ以降あまり揉め事を起こさなくなりました。このような施工者は現実として一定数何処でもいますので、真面目な施工者が泣き寝入りして表にでないだけという現状があり、私たちは監督員が現場へ頻繁に来られていたので被害が小さくとても助かりました。
4.高スランプ化したコンクリート
話しを戻し、ここからは高スランプ化したコンクリートについて紹介します。
ここで何度か高スランプで打込んだコンクリートは、綺麗に仕上がってもその後の経過が芳しくない事を申し上げてきました。その状況が確認できるのは脱枠直後に顕在化する場合が多いですが、今回は脱枠時では分らない劣化の早さについて考えたいと思います。劣化速度は個体差が大きいものの表層品質が悪いコンクリートは早期に劣化が進行し目立つと思いますが、最近の調査で確認できたケースは想定より圧倒的に早く不具合に進展しているモノがありましたので前回記事(7回目)に補足したいと思います。
ある現場にて昨年5月頃に撮影した状態(写真-2)では、完成から1年未満で比較的綺麗な状態と言ってよいと思います。ところが、今年9月に確認すると遊離石灰が1面だけで11箇所発生(写真-3)しておりました。実はこうした不具合が生じる可能性について、大学の先生方と視察し予想しておりました。
(写真-2)スランプ12cmで綺麗な状態 完成から半年以内

(写真-3)遊離石灰11箇所発生 完成から2年弱程度
何を根拠にそのような事を考えたかですが、ここで何度か紹介しておりますが、コンクリートの仕上がりが白いことから高スランプもしくはスランプ上限要求していると考えられること、そのようなコンクリートは密実とならず、経験上からひび割れ・遊離石灰等のリスクが高いことを経験・共有していたからです。高スランプや上限要求したコンクリートは綺麗に仕上げるのは低スランプと比較して容易なのですが、低スランプのように密実なコンクリートに仕上げるのは理論上可能としても、現場では多くの困難がありそれなりの経験が必要で事実上不可能に近いです。
高スランプを密実とできる高い技術を持つ経験者は、コンクリートを密実とする場合は可能な限り高スランプを避けると考えることから、高スランプを低スランプへ協議しない技術者がコンクリートを密実とするのは事実上できないと思います。高スランプを密実とした現場を前回7回記事でも紹介しましたが、軟らかいコンクリートは水とセメントが多く、そうしたコンクリートは型枠に充填し、ある程度空気を抜くと過振動によって粗骨材が沈降するので締固めを止めざるを得ないので密実とできません。ここで締固めると、比重の軽い空気・水・ペーストが上昇しますので強度等を担保するにはブリーディング等を廃棄しコンクリートの入替えが必要となりますが、それなりの経験等が必要です。上限要求や高スランプに慣れた現代の技術者にそうした事をした技術者はどれだけいるでしょうか。例え経験があっても資金・時間・人員確保は難しい現状もあります。軟らかいコンクリートを使うと、何度も紹介している通り、時間の経過とともに汚れが目立つようになり、ひび割れや遊離石灰等の不具合に成長し易いことを何度も確認しここで紹介してきました。低スランプを使用して綺麗に仕上げれば経験上不具合が生じた事はありませんが、例え確認されたとしてもその程度は無害で全く問題にならないと思います。
参考までに、高スランプ・低スランプを比較できるようスランプ12cm(写真-3)とスランプ6cmで丁寧に施工されたコンクリート(写真-4)を確認したいと思います。

(写真-4)スランプ6cm 完成から2年程度
ここでの低スランプは高性能AE減水剤を使用していますので、水とセメント量が大きく抑制されました。締固めについては空気が出なくなるまで実施しており、Pコンの沈みひび割れは無害なモノですら1つも無い事を確認しております。低スランプで施工したコンクリートにおいても遊離石灰が生じる可能性はありますが、密実な場合は乾燥収縮によって生じた縦割れが多いはずで、その範囲も小さいと思います。対して高スランプでは遊離石灰が生じる事は珍しくなく、その発生箇所は水みちとなるPコン、ジャンカ、ひび割れ等の不具合箇所で生じる可能性が高く、その範囲も大きいと思います。原因については前回記事でも紹介したように、単位水量が多い事から天端押さえで密実とする事が不利となり、水が侵入し易いことに加え、侵入した水が駆体全体の隙間を経由して回った後に不具合箇所から水分が抜ける箇所で石灰化が顕在化し易いからです。




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