まちづくり効果を高める橋梁デザイン

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2026.01.01

Vol.9 新春エッセイ:若者が心惹かれる橋を日本中に

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半透明なシリコーンで内部を可視化した防錆ボルトキャップ 人々の豊かなくらしと夢の創造の実現に貢献 鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法
>二井 昭佳氏

国士舘大学 理工学部 
まちづくり学系 教授

二井 昭佳

はじめに

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

 みなさんは、どのような「橋との出会い」を重ねてきているでしょうか。最初に設計した橋、難しい工事だった橋、あるいは名橋と呼ばれる橋、青春の思い出とともにある橋など、みなさんの人生の物語には、節目節目にいろんな橋が登場すると思います。

 新年を迎え、これまでの橋との出会いに想いを馳せ、新たな気持ちで橋の仕事に向かう時間をとるのはいかがでしょうか。そのきっかけになればと思い、僕自身の橋との出会いを振り返ってみたいと思います。

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橋をはじめて視た日

大学3年の時、講義名は忘れてしまいましたが、研究室のゼミを体験する授業があり、景観に興味を持っていた僕は齋藤潮先生(東京工業大学名誉教授)のゼミを選びました。

 その課題は、土木構造物を選び、設計の経緯を調べ現地で観察することで歴史やデザインの特徴をまとめ、自ら撮影した写真とともに美しくレイアウトするというものでした。

 僕が選んだのは、お茶の水駅からよく見える聖橋です。先生に写真を褒められたのが嬉しかったのもあって、何度も現地に通い、より美しく眺められる場所を探して歩き回りました。

 また当時の文献を調べることで、聖橋は、関東大震災の復興橋梁として復興局によって架けられた橋であること、その名は湯島聖堂とニコライ聖堂を結ぶ位置にあることから名づけられたこと、デザインは当時新進気鋭のモダニズム建築家で、後に日本武道館や京都タワーを手掛ける山田守さんであること、構造設計は復興局橋梁課の課長補佐で、勝鬨橋などを手掛けた成瀬勝武さんであることなどを知りました。

 今思えばそんなことも知らなかったのかと恥ずかしい限りですが、当時は、特定される個人としての設計者が存在することや、設計者の思想や場所の読み解きが形として現れたものであること、当時は建築家と橋梁エンジニアが協働していたことなどを知り、橋への興味がどんどん深まっていきました。

 そして、自分自身に大きな変化が起こります。それまで特に気に留めることがなかった橋が、気になって仕方ない存在になってしまったのです。今思えば、課題の真意はここにあったのかと感じ入るばかりです。ひとりの若者が聖橋をじっくりと視る機会を得て、橋に対する関心が開かれた。課題がきっかけではありますが、聖橋の持つ力も大きかったはずです。「若者が心惹かれる橋を日本中に」。日本の橋の未来を思う時、若者の心をしっかり掴む橋を、みなさんと一緒に目指していきたいと思っています。


写真1:当時撮影した写真は先生に推薦いただいたことで土木学会誌の表紙に使っていただきました

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実物のもつ力

 その後、本を通じてさまざまな橋に接するようになったわけですが、やはり実物が見たい。学生の頃は、ゼミ旅行の前後や長期休みを利用して、橋を中心に日本の風景を巡る旅をしていました。備讃瀬戸大橋にしまなみ海道の橋梁群、錦帯橋や関門海峡大橋、九州の石橋の数々、天草五橋に牛深ハイヤ大橋、別府明礬橋やイナコスの橋なども訪ねました。

 そして、レオンハルト先生の「ブリュッケン」を入手し眺めるうちに、ヨーロッパの橋を見たい気持ちが高まり、修士1年の夏にヨーロッパ5週間のバックパックの旅に出ることになりました。

 僕は、土木工学科ではなく、都市計画的な学科に所属していましたので、じつは構造力学や橋梁工学の授業を受けていません。ですから、実際の橋に接してから、橋の理論を学びました。でも今考えると、実際の橋に触れることが重要だったと感じています。

 というのは、橋はあくまでも一品生産であって、架橋場所と切っても切れない存在だからです。設計は”そこに”どのような橋を架けるのかを考えることから始まり、そのアイディアの具現化を支えるのが理論です。”そこに”どのような橋を架けるのかを学ぶ最良のテキストは、実際の橋です。その橋にみられる考え方や工夫を自分なりに消化し蓄積することで、構想・計画の力がついていくのだと思います。

 さてここからは、僕が出会い、橋の考えを形作っている橋の一部を紹介していきたいと思います。

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まちのメインピースをなす橋

 ポルトガルの国名の由来になった港町ポルトは、ポルトガル北部に位置し、ドウロ川に開けた美しい街です。1996年に川沿いのポルト歴史地区が世界遺産に指定され、その後、2016年にはドン・ルイスⅠ世橋と修道院が新たに世界遺産に追加されました。

 最初に訪れたのは1999年、その目的はギュスターヴ・エッフェルさんによるアーチの鉄道橋マリア・ピア橋と、かつてエッフェルの会社のパートナーだったテオフィル・セイリグさんによるドン・ルイスⅠ世橋をみるためでした。

 マリア・ピア橋は、1875年のコンペでエッフェル社の案が選定され、1877年に竣工しました。錬鉄製の2ヒンジアーチで、アーチスパンは当時最長の160mにもかかわらず、わずか2年で完成していることに驚きます。1991年まで現役でしたが、同年に代替橋となるサン・ジョアン橋(PCラーメン橋)が竣工し、現在は原位置での保存がなされています。


写真2:手前の橋がサン・ジョアン橋、奥がマリア・ピア橋



写真3
:マリア・ピア橋のヒンジ


 マリア・ピア橋もさることながら、僕が惹かれたのはなんといってもドン・ルイスⅠ世橋です。1879年にコンペが実施され、1881年に着工し、1886年に竣工しました。橋長385メートル、アーチスパンは172メートルです。

 コンペの設計条件だった2層構造の橋は、今なお現役です。上層デッキはLRTと歩道、下層デッキは車道と歩道です。マリア・ピア橋が装飾のない橋であるのに対し、ドン・ルイスⅠ世橋は決して派手ではありませんが、都市の顔に相応しい装飾をまとっています。


写真4:ドン・ルイス1世橋とポルト歴史地区



写真5:ドン・ルイス1世橋の桁側面の装飾、螺旋階段にも注目


 これまで多くの橋を視てきましたが、ドン・ルイス1世橋ほど、まちにとってかけがえのない存在になっている橋をほかに知りません。右岸から左岸までぐるりと展開する屏風絵のような大パノラマの風景は、両岸をつなぐドン・ルイス1世橋あってこそです。
 この橋がなくなってしまったら、ドウロ川沿いの街並みの魅力が半減してしまうのではないか。そう感じさせるほど、まちのメインピースを構成しています。シンボルになる必要はありませんが、まちにとって欠かせない橋。目指していきたいですね。


写真6:右岸下流から見たドン・ルイス1世橋、まるで一幅の絵のよう

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地形を守り風景を高める橋

 続いて取り上げるのは、スイス・レマン湖畔に浮かぶシヨン城の付近に架かるシヨン高架橋(Chillon Viaducts)で、スイスの高速道路A9に位置しています。1966年に着工し、1969年に竣工した全長2210メートル、最大支間104メートルのPC箱桁ラーメン橋です。 2014年からUHPFRCによる床板の修復補強がなされたことでご存じの方も多いと思います。
 この橋もコンペで選ばれた橋で、ローザンヌのジャン=クロード・ピゲさん(Jean-Claude Piguet)の提案が採用されました。ちなみに、ピゲさんをルーツに持つ会社は現在もローザンヌにあります(MONOD – PIGUET + ASSOCIES Ingénieurs Conseils SA)。

 レオンハルト先生のブリュッケンで、湖畔の景観を守るために、地形の改変を避ける線形を選定し、掘削の少ない基礎とプレキャストセグメントで施工した橋であることを知り、橋の美しさの背後に存在する橋梁エンジニアの心意気と技術に感動したことを覚えています。
 念願叶って訪れたのは入社して2年目、橋梁設計でコンビを組ませていただいていた先輩との二人旅でした。湖越しに眺めると、まるで自然に生えてきたかのように地形に収まっています。しかし橋脚の足元を歩けば、地形を丁寧に読んで設計した工夫の賜物であることがよくわかりました。
 そして実際に視て感じたのは、橋自体がレマン湖の風景の魅力自体を高めているのではないかということです。橋そのものがシンボルになることを目指していたり、地形を大きく崩していたら、こうはならなかったでしょう。場所に寄り添い、スケールや形を工夫しているからこそ、風景の魅力を高めることができたのだと思います。
 場所の風景の魅力を高める橋は、僕のテーマのひとつですが、シヨン高架橋での実感が地肉になっていることを感じます。


写真7:シヨン高架橋、写真中央の古城がシヨン城 



写真8:シヨン高架橋、橋脚のコンクリート厚はなんと80cm 



写真9:シヨン高架橋、湖畔の集落とも馴染むスケール 


 スイス・フランスの高速道路の橋を見て回る旅はとても刺激的で、この時にフランスの高速道路A40にあるコンクリートのダウルワーレントラスのウェブを持つグラシエール高架橋(Viaduc de Glacières)とシラン高架橋(Viaduc de Sylans)にも感動しました。構造に大きく寄与しているのはフランジですが、視覚的に寄与するのはウェブだと強く感じました。それにしても美しい橋ですよね。


写真10:グラシエール高架橋、シラン高架橋も隣接している

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