高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
第1回 KOSEN-REIMが行うインフラメンテナンスのリカレント教育
舞鶴工業高等専門学校
社会基盤メンテナンス教育センター
センター長
玉田 和也氏
~はじめに~
皆さんは「高専」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。高専ロボコンなどで、活発に手を動かしながら課題に取り組む若者たち、あるいは産業界の金の卵として、ものづくりの第一線で活躍する高専OBの姿を思い浮かべるかもしれません。皆さんの職場でも現場の技術者、管理職、経営者層の中に一人は高専OBの名を挙げることができるでしょう。
高専にはそのように地域の若者を技術者の卵に育てる機能がありますが、それと同時に、既に現場の実務に携わっているが専門教育を受けてこなかった、または受ける機会に恵まれなかった地域の人々に、レベルに応じた教育を授けることが、高専の使命であると私は考えています。
この考えの元に私が立ち上げた舞鶴高専の社会基盤メンテナンス教育センターや、それを全国に展開しようとしているKOSEN-REIM事業を始めとするインフラメンテナンスの人材育成について、この取組みに関わる人たちでリレー連載をしていきます。まずは私が高専で社会人にインフラメンテナンスを教えることになったきっかけについて述べてみたいと思います。
~地元の橋は地元で守る~
私が、「地元の橋は地元で守る」をモットーに活動を始めたのは、橋梁メーカーから舞鶴高専の教員に転職して2年目の2009年でした。当時は橋の長寿命化修繕計画策定の機運が始まったばかりで、京都府中丹東土木事務所から橋のメンテナンスについての研修会を一緒にやろうと話を持ち掛けられたのが始まりでした。準備等をすませて2009年11月に第1回目の「京都府北部・橋梁維持管理研修会」を実施しました。この研修会は対象を橋の維持管理に係る京都府の技術職員と北部に位置する7市町の技術職員とし、1年間に約10回のカリキュラム(技術講習、現場実習、現場見学等)で開催することとし、2024年の現在も125回を超えて継続しています。
この研修会を始めてわかったこととして、自治体の技術職員の方々の仕事が多岐に渡っていること、そのため橋梁に詳しい人材が稀であり、各市町で長寿命化修繕計画を策定することの困難さがありました。予算を付けて都市部のコンサルタントにお願いすれば、計画を策定したという体裁は装えます。しかし、そこに持ち主である自治体の意思を反映することについては、かなり怪しいものになるのではないかと危惧しました。
どう考えても、今後は維持管理に多くの予算が振り分けられる方向に進むことから、橋をはじめとする社会基盤の維持管理を地元で回せるように自治体も地元企業も変革していく必要があると考えました。そういう意識を持って自治体職員への技術講習会を進めていったのですが、2009年当時は「勉強会には付き合いますが、全部の橋を点検して計画を立てるなんて無理、国も2~3年したら諦めるでしょう。」という意見が多くの自治体の本音だったように思います。一方、地元企業には、点検や計画の策定ができるコンサルタント、修繕工事に長けた施工会社はなく、維持管理関係の予算の恩恵や技術力向上の機会を逸することになっていました。
私が活動を始めた5年後に「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」が出ました。そこから5年周期の定期点検が2巡した現在、自治体および自治体職員の意識は確実に転換しており、技術レベルの向上への意欲も強くなっています。予算振り分けの方向転換が一番大きな要因ではありますが、自治体が保有している社会基盤の老朽化の発現を目の当たりにする機会が増してきているからだと思われます。加えるならば、京都府北部・橋梁維持管理研修会が継続していることの影響もある、と信じたい、かな。
残念なことに、点検や計画策定の業務は依然として都会のコンサルに流れており、地元で維持管理を完結するまでには至っていません。また、地元建設会社においても依然として新設工事や災害復旧が主な業務になっており、修繕工事は企業内での柱になり得ていない状況にあります。
このような状況下において、舞鶴高専の社会基盤メンテナンス教育センターでは、学生、自治体職員、民間技術者を対象とした技術講習会を継続しています。
技術者の卵である学生には初期段階で維持管理のマインドを仕込み、職場移動が頻繁な自治体職員に対しては、自治体職員全員が受講することを目指し、異業種からの参入の多い民間技術者に対しても維持管理の技術とマインドを伝えることを目指し、その先にある「地元の橋は地元で守る」ことのできる地域を構築していきたいと考えています。
~5つの高専でKOSEN-REIMを設立~
高専における橋のメンテナンスに係る取り組みは、香川高専(当時・高松高専)が嚆矢であり(2008年8月)、11高専が参加した「橋の老朽化対策研究会」(2010年8月発足)により高専間の連携・情報共有をすすめていました。
その中にあって、舞鶴高専において高専改革経費として社会基盤メンテナンス教育センター(iMec)設立事業が採択され、2014年1月にセンターを設立しました。iMecでは、橋の老朽化対策研究会に参画している高専の学生を対象とする試行を繰り返し、教材の開発や講習会のノウハウを獲得し、学生はもとより地域の官と民の技術者にも橋のメンテナンスに係る講習会を開催できるようになりました。この講習会では、少人数で目の行き届く、受講生のレベルに合わせた、対話を重視した講習を心がけました。また、実物を目で見て、手で触れることを重視し、そのため全国各地から劣化し撤去された橋梁の部材を、地元の自治体はじめ多くの関係者の協力により、収集・展示していきました。
さらに、2016年度から事前学習としてeラーニングを必須とする「e+iMec講習会」をスタートさせました。橋の維持管理に関する基礎知識を事前にeラーニングで学習した上で対面の講習会に参加することで理解度の向上をめざしました。現役技術者にとってeラーニングの導入は、隙間時間の活用や講習会後の振り返り学習が可能となるなど効果が大きいことが確認できたため、iMecで開発する教育コンテンツは全て「e+」の形態をとることにしています。
舞鶴高専で構築したiMecの教育コンテンツを全国の高専に展開するべく「KOSEN型産学共同インフラメンテナンス人材育成システムの構築」事業(KOSEN-REIM事業)が文部科学省に採択されました(2019年11月)。これにより、福島高専、長岡高専、福井高専、舞鶴高専、香川高専をリカレント教育拠点として整備すると共に、5高専が協働で教育コンテンツの拡張を行い、准橋梁点検技術者、橋梁点検技術者、橋梁診断技術者、実務家教員の育成を実施しています。また、文科省事業終了後の事業継続(経済的支援)のため、2023年6月に一般財団法人高専インフラメンテナンス人材育成推進機構(KOSEN-REIM財団)を設立しました。
現在5高専が実施するe+iMec講習会は、受講生からの受講料とKOSEN-REIM財団からの経済的助成によって成立しています。「地元の橋は地元で守る」を実現するための地道な講習会の開催を5高専で継続していくとともに、全国の高専(高専の所在地は田舎にあることが多い)にリカレント拠点校を広め、地域への貢献と高専の土木系学科のプレゼンスの向上を目指していきたいと考えています。
【写真-1 2008年5月当時の餘部鉄橋、餘部鉄橋の架け替えによる撤去部材(トレッスル橋脚)が
舞鶴高専iMecにおける最初の実物劣化教材の収集となりました。】