Interview

名古屋高速道路公社 大規模修繕計画は75%進捗

2024.10.22

今年度のリフレッシュ工事は約83,000㎡の舗装を打換え

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WJ 名古屋高速道路公社 床版
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>稲垣 了史氏

名古屋高速道路公社
メンテナンス事業部長

稲垣 了史

 名古屋高速道路公社は、9路線81.2kmの管理を行っている。そのうち橋梁は約9割を占め、30km強が供用後30年を経過している。橋梁における省令に基づく健全性の診断区分Ⅲとなる損傷状況は、主にコンクリート構造物では、床版・橋脚梁部・橋台のコンクリートの浮き、流出石灰、鉄筋露出が生じており、鋼構造物では、鋼床版部の溶接き裂が生じている。環状線においては鋼床版部の溶接き裂、コンクリート橋脚梁部・橋台のコンクリートの浮き、鉄筋露出、万場線ではRC床版下面の浮き、漏水、流出石灰、鉄筋露出、小牧線は鋼床版の溶接き裂、一宮線はコンクリート床版の剥離、鉄筋露出が生じている。 また、北部に位置している路線を中心に壁高欄内面の損傷も顕著に生じており、床版防水の支障となる路肩コンクリートが残っている箇所では、リフレッシュ工事の際その除去も行っている。古い路線を中心にRC床版のアラミド繊維による下面補強を中心とした大規模修繕も進んでいるほか、上面からの断面修復、床版複合防水の設置も進めている名古屋高速道路の保全の現状について稲垣了史メンテナンス事業部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

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技術監を新設

技術監を新設

他都市高速との交流も増やす

 ――名古屋高速道路公社は設立から54年、初供用から45年が経過しています。30年以上が経過した路線は、実に4割弱に達しますが、そうした課題に対して、技術的、人材育成的、機構(組織)的にどのように対応しようとしているのか教えてください

 稲垣部長 現在の快適な道路環境を末永く提供していくことが当公社に定められた使命です。特に高架橋の多い点が名古屋高速道路の特徴ですが、そうした特徴に対応した人材育成を図っていかねばならないと考えています。とりわけ、平成25年に、当時最後の建設路線となる4号東海線六番北~木場出入口(3.9 km)間が供用されてからは長らくメンテナンスが主たる業務となっており、なかなか新設で技術者を育てるということが難しくなっています。そのため今年度現場着手する都心アクセス事業の新設工事現場において、現場での経験をベテランが若い人に伝えるということを重要視すると共に、メンテナンス業務で得た知見について研究発表を積極的に行うことにも取り組ませています。さらに外部との都市高速道路会社、とりわけ首都高速や阪神高速との交流も増やしています。

 今年度からは技術管理室に「技術監」という部長級のポストを新設し、そこにプロパーの技術者を就任させるなど、技術力を重視する方針を公社全体で顕かにしています。

 新規採用は土木職で毎年3~4人程度行っています。組織強化としては施設職なども毎年採用していきたいのですがなかなか難しい状況です。

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鋼橋が98%を占める

30年以上経過している橋梁は30km強

 ――現在の管内の橋梁・トンネルの内訳は

稲垣 全延長81.2kmのうち、橋梁が74.9㎞、半地下構造が3.1㎞、トンネルが3.2kmとなっています。鋼橋の連数は1,140連です。

 橋梁の橋種別割合は鋼橋が98%、PC橋が2%です。トンネルは全数がNATMとなっております。

 構造物の供用年次別延長は、40年以上経過している構造物が10.9㎞(全数橋梁)、30年以上40年未満が19.4km(同)、20年以上30年未満が橋梁16.7㎞、半地下構造3.1㎞、トンネル3.2km、10年以上20年未満が27.9km(全数橋梁)となっています。

 路線別の延長は、都心環状線が10.3km(全数橋梁)、2号東山線が橋梁4.0㎞、半地下構造3.1㎞、トンネル3.2㎞、3号大高線が12.1㎞(全数橋梁)、4号東海線が12.0㎞(同)、5号万場線が6.8㎞(同)、高速6号清須線が7.0㎞(同)、高速11号線小牧線8.2㎞(同)、高速16号一宮線8.9km(同)となっています。このうち30年経過路線は、都心環状線の東新町~東別院間、東別院~名駅間、1号楠線の名二環と楠JCT接続部、3号大高線の高辻~大高間、5号万場線の名古屋西JCT~白川間となっています。

健全性の診断区分Ⅲ 鋼床版の溶接き裂やRC床版の損傷など

耐震補強は完了済み

 ――所管構造物の管理状況について、点検を進めてみての管内各路線の劣化状況について詳しくお答え下さい(橋種(鋼、PC、RC)、部位(桁、床版、橋脚、地覆、高欄など)ごとの損傷傾向とその理由についてお答えください。 同様にトンネルについてもお答えください

 稲垣 令和5年度末における構造種別毎(橋梁、半地下・トンネル)の点検結果は以下のとおりです(下表参照)


 1巡目から2巡目では、橋梁についてⅠ健全からⅡ予防保全段階へ、健全度が遷移していることが分かります。但し、橋梁連数で考慮すればこれほどの大きな変化は見られません。トンネルおよび半地下構造については、1巡目と2巡目で変化は見られません。

 橋梁における診断区分Ⅲの損傷状況は、環状線においては鋼床版部の溶接き裂、コンクリート橋脚梁部・橋台のコンクリートの浮き、鉄筋露出、万場線ではRC床版の浮き、漏水、流出石灰、鉄筋露出、小牧線では鋼床版の溶接き裂、一宮線ではコンクリート床版の剥離、鉄筋露出が生じています。




鋼床版の溶接部き裂状況


RC床版の損傷状況


 桁端部や橋脚の天端などでは、伸縮装置から塩分を含有する漏水により、支承も含めて錆や腐食を惹起しているケースも生じています。



RC下部工や桁端部の損傷状況


 トンネル部における損傷は、覆工コンクリートのひび割れ、漏水(浸み出し)、浮きなどが見られますが、いずれも軽微な損傷であり、構造物本体、道路機能に支障があると思われる損傷は見つかっておりません。


トンネルの損傷①(左:浮き、右:漏水)

トンネルの損傷②(ひび割れ)


 ――橋梁など耐震補強の進捗状況はいかがでしょうか。先の能登半島地震、前の熊本地震など、L2地震が短期に複数回起こるなど、阪神淡路大震災でも想定していない地震が生じています。地震後速やかに復旧できる耐震補強が未対策の橋梁残数があれば教えてください

 稲垣 平成7年1月の兵庫県南部地震による阪神高速道路橋等の被災から、その後、国により道路橋示方書等が改訂されました。

 名古屋高速道路は、改訂前に供用されている橋梁等については、国から示された復旧仕様に基づき、耐震補強工事や落橋防止工事等を平成7年度から実施し、平成16年度末までに完了しています。改訂後に設計等した橋梁等については、耐震設計となっています。

 復旧仕様での補強以降の橋梁に関しては、平成 23 年 3 月11 日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)や平成28 年 4 月 14 日および16 日に発生した熊本地震においても、致命的な被害は無かったと聞いております。今年の元日には、能登半島において大きな地震が生じましたが、今後も最新の知見を注視し、新たな耐震補強が必要となった場合は速やかに必要な対応を検討していきたいと考えています

大規模修繕計画 今年度までに80%の進捗目指す

上面補修後、下面から二方向アラミド繊維シートにより補強

 ――名高速の大規模修繕計画は主に下面からの床版補強を主としており、2029年度までの完了を目指していますが、その進捗状況と、補修補強手法の詳細について教えてください。また、下面からの補強だけでなく上面の床版防水が、高速道路全体でどれくらい完了しているのか。いずれも定量的にお答えください

 稲垣 大規模修繕計画は全体延長81.2㎞のうち、37.9㎞が対象となっています。現在までに計画延長の75%が完了しました。引き続いて今年度までに80%までの進捗を目指します。

 施工は基本的にリフレッシュ工事の舗装打ち替え時に、上面から床版補修および床版防水を施した後に、下面からひび割れ補修を行い、二方向アラミド繊維補強シートを接着し補強します。


床版裏面の断面修復


二種類のひび割れ注入工法(IPH工法とビックス工法)


二方向アラミド繊維シート補強施工状況


 合わせて、コンクリート橋脚の表面保護工や伸縮装置の止水構造の改良、桁端部における重防食塗装なども施しています。

 上面の床版防水工はとりあえず最低1回の防水工は全線で完了しています。劣化部については低弾性PCMによる断面修復を施したうえで、床版複合防水工法を施工しています。


床版上面のWJはつり状況


エンクローズド溶接


鉄筋の塗布

低弾性PCMによる補強


浸透性床版防水工の施工


 ――支承取り換えや、ジョイントの取り替えおよびノージョイント化について今年度の施工予定個所数と取替える際の工法・種類をお答え下さい

 稲垣 支承取替、ノージョイント化の予定はありません。ジョイント取替については、今年度、大高線でゴムジョイントを約80箇所を施工予定としています。

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