名古屋高速道路公社 大規模修繕計画は75%進捗
INDEX
北部路線で塩害による損傷が発生
北部路線で塩害による損傷が発生
壁高欄内面や地覆、床版下面を補修
――塩害、アルカリ骨材反応などによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、またその対策工法などを具体的な橋梁などを挙げてお答えください
稲垣 凍結防止剤の散布量の多い北部路線の1号楠線、6号清須線の一部と、高速11号小牧線、高速16号一宮線においては、高欄の内面塗装が施工されていなかったことから、地覆や壁高欄内面部において浮き、はく離、鉄筋露出が生じています。令和2年度からそうした箇所はWJではつり(ミストJET工法)、表面処理したうえで、断面修復や吹付塗装工(ST-Swinger工法)を施しています。従来の人力による研掃作業と比べて、騒音抑制及び工事の効率化が図られています。
ミストJET工法
ST-Swinger工法
また下面においては、まず小牧線において、令和3年度から床版下面の修繕工事(はく落防止シート施工)を損傷が確認された一部区間で実施しており、床版の健全性確保及び第三者被害の防止に努めています。
ASRについては、建設年次の古い路線(大高線、環状線、万場線、東山線)の一部橋脚にて、塩害及びアルカリ骨材反応の劣化が確認されていますが、劣化程度としては、構造物の安全性に支障をきたすものではありません。主な対策工法としては、クラック補修+ケイ酸塩系含浸材を塗布し、表面被覆を施しています。
名駅近くの鋼桁で、名高速初の1種
循環式ブラストなどを採用
――2024年度の鋼橋塗り替え予定(橋数と面積)と、2023、22年度の鋼橋塗り替え予定実績(同)は。また塗り替えの際の全体的・部分的な用途でもいいので溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。また、PCBや鉛など有害物を含有する既存塗膜の処理についてどのような方策をとっているのか教えてください。加えて、名高速では長らく、3種ケレン相当での塗り替えを行ってきましたが、このほどいずれかの工区で、1種ケレン相当の下地処理を行ったうえで塗り替えする事例が進捗していると聞きました。この理由と今後の塗り替え方針、実際の塗膜処理方法、施工している場所、面積を教えてください
稲垣 今年度は東山線3.6万㎡、楠線5.5万㎡の合計9.1万㎡で塗替え工事を発注しました。過去においては22年度が都心環状線8.6万㎡、小牧線6.6万㎡、一宮線3.6万㎡の合計18.8万㎡、23年度は小牧線7.6万㎡を発注しております。いずれも工事完了までは3~4年程度を見込んでいます。
1種ケレンを、当社で初施工するのは令和2年度に発注した都心環状線の名駅付近2万㎡が対象です。理由としては建設時塗装の下地に用いていた無機ジンクリッチペイントが凝集破壊を起こしており、塗膜が剥離していることが確認されたためです。
無機ジンクリッチペイントが凝集破壊を起こしており、塗膜が剥離
他工区は、今まで同様、3ないし4種ケレンで塗替えを行います。塗替えには高塗着スプレー工法を標準として用いています。
――既存膜厚はどれくらいですか
稲垣 標準は250μm程度です。
――それほど厚くないですね。既設塗膜にPCBや鉛は含まれていますか
稲垣 PCBは調査した結果、使用されていないことが確認されていますが、鉛については現地の塗料を採取し、具体的に調査した結果次第で、鉛が一定量含まれている場合はあります。今回の1種ケレンの現場では、環境に配慮した循環式ブラストを用いています。
ブラスト施工の際は、仮設防音パネルを設置する
循環式ブラストで施工
――2種ケレンは具体的にどのような工法を用いるのですか、施工に際し、塗膜剥離剤は用いないのでしょうか。また、養生はどのような設備を用いますか
稲垣 今回の2種ケレンでは、非常に研磨材として堅い刃物が工具の刃先に装備されていることが特徴となる工具(マクトル)を用いて塗膜を撤去しています。
マクトルの施工状況
塗膜剥離剤については、保管方法や施工方法に課題があり、小断面の塗膜撤去の際に使用することがあります。
足場内の養生については、飛散防止のためにシートで足場内空間を区切り、バキュームで削り取った塗膜片などを吸引することで、作業環境を保全しています。
初めて小粒径ポーラスを表層に試験施工 面積は1,280㎡
床版キャッチャー もう少し精度が必要
――令和3年度からの5か年で対応する「名古屋高速道路公社インフラ長寿命化計画(行動計画)」が4年目を迎えますが、その具体的な進捗状況や点検で分かってきたことなどについて教えてください
稲垣 「行動計画」に基づき策定している「個別施設計画(下表)」において、点検結果等に基づき、損傷箇所の修繕方法・時期を計画し、大規模修繕工事等にて順次工事を進めております。
進捗状況については、毎年の点検結果等を踏まえ適宜計画を見直しているため、具体的な数値で示すことは難しいですが、大規模修繕工事の進捗によって、健全性の診断区分Ⅱ及びⅢの数は着実に減少しています。
また、現行の「行動計画」は令和7年度までとなっていますが、次回の更新では、この5年間のフォローアップに加え、定期点検2巡目(令和5年度完了)の点検結果及び先行する高速道路会社の取り組みを踏まえ、今後の名古屋高速道路の長寿命化の方向性を検討し、所要の反映をしていく予定です。
――今年度のリフレッシュ工事について施工区間や延長、どのような補修補強を行うか、どのような技術を用いて施工するか、など詳細を教えてください
稲垣 16号一宮線南行き(上り線)の北側終点から清洲JCT間約8.9㎞が対象です。現在は密粒アスファルト舗装ですが、これを排水性舗装に打換えます。打換えは1層(表層)打換えが30,460㎡、2層(表層+基層)打換え箇所が52,650㎡です。床版補修箇所は約100㎡(うちWJ 60㎡)となっております。二層打替えの箇所ではRC床版上のシート防水の除去が新たに必要な箇所があります。また、名高速としては初めて小粒径ポーラスを表層に試験施工する予定です。面積は約1,280㎡です。今後は騒音抑制効果や耐久性などを確認しつつ、採用に向けて検討を進めていくことを考えています。
――床版防水は複合床版防水を施すことと思いますが、2層打換え予定場所は全て床版防水を施工するという理解でよろしいですか
稲垣 原則、その予定です。
――床版の補修の面積が比較的少ないですね
稲垣 実際は、舗装を剥がして、打音点検をしてみないと分かりませんので、面積は増減する可能性があります。が、名古屋高速道路の中では未だ新しい部類の路線であるので、過去に実施した路線に比べて補修量は少ないと想定しております。
――名古屋高速道路公社では床版キャッチャー(電磁波レーダーを用いて舗装面から床版上面の損傷状況を非破壊検査する自走式点検システム)を用いて事前に損傷状況を把握する検討も行っていますが、その進捗は
稲垣 AI解析による損傷箇所を把握する共同研究を行っていますが、解析精度の面で、もう少し向上が必要と考えています。損傷箇所の面積が小さいと危険側に誤差が生じている事例もありますので、本格導入までにはもう少し時間がかかると考えています。
WJ バキューム式の採用を指導
基層ごと床版上面の脆弱部をはつり取る工法も採用
――床版の補修について、以前の現場ではWJを行うに際し、水が漏れ出ているケースもありました。その対策は何か施していますか
稲垣 昨年度から、バキューム式のWJを使うよう指導を徹底しています。そのため現在はそうした現場内からも大きな水の漏出は発生していません。
バキューム式のWJを使うよう指導を徹底
――WJは、新たな技術として、舗装の基層から、床版上面をはつり取るWJも採用していると聞きました
稲垣 リフレッシュ工事ではありませんが、週末の土日だけを用いて施工しなくてはならない箇所で、施工効率向上のため、万場線においてWJにて基層ごと床版の損傷部位をはつり取る試みを行いました。時間的制約がある箇所では今後も使っていきたいと考えています。
万場線においてWJにて基層ごと床版の損傷部位をはつり取る試みを行った
――今次リフレッシュ工事での路肩コンクリートの撤去延長はどのくらいありますか。また未撤去の総延長も教えてください
稲垣 今年度リフレッシュ工事を実施する一宮線の現計画では、路肩コンの撤去延長はL=9200m(区間長4600m)であり、残置する延長はL=6460m(区間長3230m)の予定です。
路肩コンクリートの撤去状況(静的破砕材の施工) / 養生後のコンクリート破砕状況
破砕後はバックホウで簡単に取れる
路肩コンクリート撤去完了状況
新技術ニーズ 鋼床版添接部における既設合材の除去及び研掃など
ウェアラブルカメラを用いた工事監督、現場支援を導入予定
――新技術や、コスト縮減策または独自の新技術・新材料などの活用について。また、DXの効果的活用による改善事例なども教えてください。また、今後は公社内外の担い手不足の問題も出てくると思いますが、それに対してどのように対応しようとしているか教えてください
稲垣 これまでの採用実績としましては、「コンクリート壁高欄内面の塩害対策に関する新技術」やコンクリート床版上面補修における「マイクロクラックの発生の抑制が可能なコンクリート床版劣化部の部分はつりに関する技術」があります。
(参考:公社HP https://www.nagoya-expressway.or.jp/kosya/houjin/technology/)
今後は交通事故対策の速度抑制に関する技術やRC床版の大規模な補修に適用可能な施工技術、鋼床版添接部における既設合材等の除去及び研掃に関する技術が当高速道路のニーズとしてあります。
公社におけるDX推進に係る取組みとしては、令和5年度より「役職員への基礎知識浸透とマインドセット変革の促進」を掲げ、様々な研修等を実施し、令和5年度末には、理事長から職員に対してDX推進の行動指針となる「トップメッセージ」を策定し発信されております。
活用事例として、統合事務システムの導入による事務作業時間の縮減や三次元レーザーレーダーを用いた逆走、誤進入検知警告システムの導入など、各分野でデジタル技術を活用した取り組みを行っております。
三次元レーザーレーダーを用いた逆走、誤進入検知警告システムの導入
現在はGISをプラットフォームとした新たなシステムを構築し道路に係る各種データの連携を以て維持管理業務の効率化を図る取組みの検討を進めております。具体的には点検や管理の情報を1つのMAP上で一元的に管理できるようにします。災害時にも手軽に入力・閲覧できるようにすることで、高速道路の安全性向上や、フレキシブルな管理性の向上に役立つと考えています。
また、今年度からはウェアラブルカメラを用いた工事監督、現場支援を導入予定であり、現場への移動時間が削減される等の効率化が図られると考えております。
交通技術DXに関しても今年度から担当部長(交通管理部 交通技術・DX担当部長 中山 裕昭氏)を新設しました。
公社内外の担い手不足に対しては、積極的に新技術・DXの導入・活用を検討しながら、国・県・市とも連携し効率的な業務改善を図っていければと考えます。
――ありがとうございました