Interview

国土交通省近畿地方整備局 長谷川朋弘新局長インタビュー

2024.11.20

インフラの整備は国家100年の計

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国土交通省
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>長谷川 朋弘氏

国土交通省
近畿地方整備局
局長

長谷川 朋弘

 近畿地方整備局の局長に長谷川朋弘氏が就任した。親族に土木や建築分野で働く方が多く、同分野は非常に身近だったという長谷川氏は、東大で藤野陽三研究室に学び、国道2号の岡山立体事業など道路橋分野のプロジェクトにも携わっている。一方で、耐震部材用鋼製ブラケットの施工不良問題などに携わるなど専門家として、対応が難しい分野でも能力を発揮し善後策をまとめるなど、非常に高い問題解決能力を有している。その長谷川局長に道路分野のみならず河川事業や港湾事業、インフラメンテナンス分野や危機管理など広く近畿地整の取り組みを聞いた。(井手迫瑞樹)

インフラを技術で守る わたしたちは 橋梁・コンクリート構造の専門家です! 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア

地方整備局勤務のうち3回は近畿地整

祖父が土木エンジニア 父も橋梁に関係

東京大学では藤野陽三教授に師事

――長谷川整備局長が建設分野に興味を持たれたきっかけは

 長谷川局長 母方の祖父が戦前の内務省の土木エンジニアで、父は機械のエンジニアでクレーンや荷役機械などの設計をしていました。また、母の兄弟は住都公団や道路公団に勤務しており、土木や機械は身近なものでした。それがこの業界に入った理由の一つです。東京大学の卒論では藤野陽三名誉教授の橋梁研究室で学びました。

鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 高耐久・塩害に強い塗装により長期防食が可能な補修塗装 パシフィックコンサルタンツ株式会社

「和歌山は我が家のふるさと」

地方整備局勤務のうち3回は近畿地整

 ――当時の建設省入省後のご経歴は

 長谷川 建設省に入省し、和歌山県田辺市に赴任しました。周りは田辺弁、関西弁の世界で私は全く喋れませんでしたが、職場の皆さんに温かく受け入れていただき有り難かったです。私の妻は田辺出身で子供たちも含めて和歌山は我が家のふるさととなっています。今回で、地方整備局の勤務は4回目となりますが、そのうち3回は近畿地方整備局となります。「大阪都市再生環状道路」という概念、呼称は2回目の赴任であった道路計画第二課長時代に始まったものとなります。近畿地方には馴染みがありますので、着任早々からしっかりとインフラ整備及び管理に取り組んで参りたいと思っております。

国道2号岡山立体では地元対策に苦心

鋼製ブラケットの施工不良問題でも問題解決を成し遂げる

――長谷川局長に最初に取材したのは、中国地方整備局岡山国道事務所長をされた当時の国道2号岡山立体事業でした。同事業は都市再生事業の目玉事業の一つでした。その後も耐震部材の鋼製ブラケットの施工不良の際にも、当時の国道・技術課のメンテナンス室長を務められていましたね。その時にも丁寧に応対していただきました

 長谷川 岡山立体は10万台を超える日本有数の渋滞箇所である岡山市内の国道2号の交差点を立体化する事業でした。工期もかなり限定され、地元の調整も極めて難しい事業でしたが、施工会社(三菱重工業(現エム エム・ブリッジ)・戸田建設JVのすいすいMOP工法を採用した)や事務所職員が頑張って頂き、なんとか事故繰越しをまぬがれ、無事に上部工架設まで終えることができました。

 鋼製ブラケットの施工不良はなかなか厳しい事案でした。私はそれ以外にも多くの災害や事故への対応を行うなど、非常事態対応の業務が結構自分の仕事の中で少なくないエリアを占めているような気もします。

千曲川堤防決壊には衝撃を受ける

インフラ整備を怠った国は必ず衰退していく

 ――心に残っている現場を教えてください

 長谷川 令和元年の台風19号により長野県で千曲川の堤防決壊が発生した際、長野県で建設部長をしており、水災害の恐ろしさを改めて感じました。それが一番心に残っている現場です。


千曲川では水害によって大きな被害が生じた


 ――就任の抱負は

 長谷川 インフラの整備は国家100年の計と考えています。100年先、200年先を見越して、あるいは社会構造の変化に合わせて新しいインフラを整備していく必要があります。それを怠った国は必ず衰退していくというのが私の考えです。
 今やるべきことというは、昨今の災害の激甚化・頻発化に備えるためのインフラ整備です。また、経済活動を支える国際標準規格の道路や港湾の整備も日本が国際社会の競争を生き抜いていくためには極めて重要と考えます。

 このほか衰退してしまった地域交通を救うカギになるかもしれない自動運転技術を道路側で支援するインフラや2024年問題を解決するための自動物流道路の整備、都市の魅力を更に高めるまちづくり等、社会構造の変化に合わせてやるべきことは山ほどあると思います。

 地域の皆さまと一緒になってこの近畿地方を発展させ、様々なインフラ整備に全力で取り組んで参りたいと思っております。

直轄国道1,952km、河川約851kmを管理

大阪湾岸西伸部の早期開通に向け事業を進捗

 ――次に近畿地方整備局の2024年度の道路、河川、港湾の管理状況と、近畿という地域特性を踏まえた事業計画について、予算規模と、概要と主要事業を教えてください

 長谷川 直轄国道は1,952km、河川は10水系約851kmを管理しています。港湾は、国際戦略港湾2港、国際拠点港湾3港、重要港湾3港、避難港1港で事業を実施しています。
 今年度の予算は直轄が約3,095億、補助・交付金事業が約7,166億で合わせて約1兆262億円、ゼロ国債を含め全部で約1兆738億円です。


2024年度 近畿地整管内予算


 主要事業につきましては、道路は京奈和自動車道の一般国道24号大和御所道路において改良工事、橋梁上下部工事等を実施し、(仮称)橿原JCT(大阪方面接続ランプ)の令和8年春開通に向けて事業を推進しております。一般国道158号中部縦貫自動車道の大野油坂道路(和泉・油坂区間)や近畿自動車道紀勢線の一般国道42号すさみ串本道路の事業を進めて参ります。また、一般国道2号大阪湾岸道路西伸部(六甲アイランド北〜駒栄)の早期の開通に向けて事業を推進しております。


主な道路事業一覧(令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

中部縦貫自動車道 大野油坂道路(和泉・油坂区間)(令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

左から新子馬巣谷橋(橋長204m、鋼上路式ローゼ橋)、新林谷橋(222.5m、鋼3径間連続非合成箱桁)、
箱ケ瀬東高架橋(橋長119.0m、PC3径間連結コンポ橋)・下半原西改良、
入谷橋(98.5m、PC3径間連結コンポ橋)・東市布TN(1,161m(貫通済み))

左から新多母谷橋(68m、PC2径間連結コンポ橋)、東市布法面対策、
大谷TN・箱ケ瀬西高架橋(155m、鋼3径間連続合成少数鈑桁橋)、大谷TN(2,853m)

京奈和自動車道 大和御所道路(令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

大和御所道路 (仮称)橿原JCT(大阪方面接続ランプ)の施工状況

同JCT付近床版工の施工



大阪湾岸道路西伸部(六甲アイランド北~駒栄)(令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

同下部工施工状況


淀川左岸線延伸部(令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

近畿自動車道規紀勢線 すさみ串本道路 (令和6年度予算の概要について 近畿地方整備局 R6.4.1)

すさみ串本道路熊谷川第二橋上部工事(169.0mm、
PC3径間連続ラーメン箱桁橋)

(左2枚)和深西トンネル(445m)、(右2枚)東地トンネル(833m)

星野西池川橋(146m、鋼3径間連続箱桁橋)、小河瀬谷川橋(183m、鋼4径間連続箱桁橋)下部工(張出式橋脚)
東雨川第一橋(112m、PC2径間連続ラーメン箱桁橋)、和深川橋( 207m、PC5径間連続箱桁橋)

左写真:二色川橋(291m、鋼4径間連続細幅箱桁橋)、
中写真:二色川橋(手前)~高富川橋(354m、鋼6径間連続細幅箱桁、真ん中)~釜郷原川橋(148m、鋼3径間連続箱桁橋、奥)
高富トンネル(164m)


 河川についてはこれからどこで大きな水害が発生するかわからない時代だと思います。北陸道や、国道8号、305号など起こる場所が悪いと交通が寸断されてしまいます。奈良に関して申し上げますと、奈良盆地で大量に降雨があると全て大和川に流れ出てしまいます。


近畿地方整備局内の河川事業

大和川流域治水の取組み / 大和川高規格堤防の整備


 そのため、水害対策として遊水地を整備しております。現在計画されているもののうちの保田・窪田地区の整備を進めています。保田遊水地では、町がローラースケート場としての利活用を予定される等、普段使いのできる遊水地となる予定です。併せて、川西町唐院地区と田原本町西代地区の一部を全国で初となる貯留機能保全区域として指定しました。これは、土地が持つ貯留機能を将来にわたって保全するため、貯留機能保全区域の指定をして開発を抑制するものとなります。さらに大和川左岸において、阪神高速、堺市まちづくり事業と一体となった高規格堤防の整備を引き続き推進いたします。


水害対策として遊水地を整備している保田・窪田地区


 阪神なんば線の淀川橋改築に関しては、洪水などの被害から大阪中心部を守るため、阪神なんば線淀川橋梁の架け替えを国、大阪市、阪神電気鉄道株式会社と連携して行なっております。本事業により、洪水流下時の阻害となっている河川内橋脚の本数を39本から10本に減らすことで洪水時の水位を下げるとともに、現在、堤防よりも低い位置に架けられている橋梁を約7m高く架け直すことで、高潮による浸水を回避することが可能となります。



阪神なんば線の淀川橋改築

2024年9月末の進捗状況


 港湾に関しては新型コロナの影響による世界的な物流混乱の経験も踏まえ、我が国に立地する企業の国際物流に係るリードタイムの短縮のみならず経済安全保障を確保していくためにも、国際基幹航路の維持・拡大の重要性がいっそう高まっているところです。そこで引き続き「集貨」、「創貨」、「競争力強化」を三本柱として、阪神港の機能強化に取り組んでおります。


阪神港の現状と整備状況


 例えば、集貨施策として、西日本及び日本海側の港湾から内航フィーダー航路で阪神港に貨物を集める取り組みを行っています。

 創貨というのは倉庫に保管するだけではなく、加工作業やラベル貼りなどの作業を行える高機能な倉庫をたくさん建て新たな貨物を創出することにより、港の魅力が高まるような取り組みです。民間企業が倉庫を整備する事業に対して無利子で貸し付けを行なっています。

 また、神戸港では、入港するコンテナ船の大型化が進んでおり、水深16メートル岸壁背後のコンテナターミナルの整備によってさらなる競争力強化を図っています。

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