国土交通省近畿地方整備局 長谷川朋弘新局長インタビュー
能登半島の教訓 紀伊半島の道路盛土補強はやっておくべき
住民一人ひとりの「マイ・タイムライン」の作成を推奨
――近年、水害による河川氾濫や土砂崩壊のリスクも無視できません。こうした状況に対し、道路や河川の損壊を防ぐため、どのような予防保全的対策を行なっていくべきとお考えでしょうか。のり面や自然斜面、河積阻害率の高い橋梁の架替えなどのハードウエア対策なども含めてお答えください。
長谷川 気候変動に伴い、激甚化・頻発化する気象災害に備え、社会の重要な機能を維持することができるよう、防災・減災、国土強靭化の取り組みの加速化・深化を測っております。近畿の場合は近畿独自の災害があります。高潮時での台風の直撃や南海トラフの津波、この二つが非常に心配なところです。平成30年の台風21号の時には堤防の天端付近にまで水位が上がってきてしまい、陸閘を閉鎖し凌ぐことができましたが、対策を進めていく必要があると考えます。また、地下鉄や地下街への浸水対策も進めて参ります。ハード面の整備はもちろんですが、浸水した場合、住民の方々にはいち早く安全の確保をしていただきたいと思っております。そのため、住民一人ひとりの「マイ・タイムライン」(防災行動計画)の作成の推奨をしております。
淀川大堰閘門整備
一人ひとりのマイ・タイムライン作成を推奨
橋梁の耐震補強を進め、災害時の道路啓開計画を策定
能登半島の教訓 紀伊半島の道路盛土補強はやっておくべき
――近畿地方は和歌山を中心に南海トラフ地震の影響を受けやすい地域といえます。近年でも熊本地震や能登半島地震の記憶も新しいところですが、こうした地震災害の備えとして、道路や河川、港湾といったインフラのハードウエア的対策、ソフトウエア的対策をどのように進めているかを教えていただけますか
長谷川 ハードウエア対策に関しては、地震災害の備えとして災害時の救急救命活動や復旧支援活動を支えるため、緊急輸送道路上の橋梁について、耐震補強を推進しており、落橋防止構造、橋脚全体の補強や支障部の補強などの対策を行なっております。
ソフトウエア対策に関しましては各府県で、道路啓開計画を策定しております。河川に関しては重要な施設の対策を進めております。樋門や水門等の構造物の耐震対策に関しても引き続き対策を推進しております。
河川の耐震対策(左:水門や堤防の耐震化、右:樋門の遠隔操作など)
――今回、能登半島地震で盛土がやられたという話をよく聞きました。紀伊半島は巨大な能登半島だという話をよく耳にしますがその辺りの対策については
長谷川 盛土の点検はやっていくべきだと考えています。能登半島地震でも過去に対策を行なったところや新しい基準で締め固め率を90から95に上げたところに関しては軽微な被害で済んでいるので点検、対策は重要だと考えております。
直轄国道の舗装の定期点検においても点検支援技術の活用を原則化
奈良市道登美ヶ丘中町線鶴舞橋で直轄権限代行として橋梁修繕工事に着手
――基礎自治体の財政力の低下とインフラの老朽化が進んでいます。近畿地方整備局が点検代行や修繕代行を行なった例としては(十津川村)猿飼橋などがありますが、現在進捗中のそうした構造物について教えてください。また、今後の傾向や基礎自治体のインフラマネジメントの保全支援についても、整備局として行なっている効果的施策や新しい取り組みなどがあれば教えてください。
長谷川 建設後50年が経過した橋梁の割合は10年後には約65%に急増しており、全国の地方公共団体で修繕等が必要な約40,000橋の措置が完了しておらず、これまでの予算水準では予防保全への移行まで約20年が必要となります。
令和4年度から、直轄国道の橋梁とトンネルの定期点検の一部項目において点検技術の活用を原則化、さらに5年度からは直轄国道の舗装の定期点検においても点検支援技術の活用を原則化しております。この取り組みにより、定期点検の高度化・効率化を図り、他の道路管理者に新技術の活用を促すとともに民間企業の新技術の開発も期待しております。
道路施設の高齢化・老朽化状況(近畿地整管内)
橋梁の点検・修繕状況
2014年度より5年に一度実施している定期点検では健全性を4段階で診断しており、住民の方が見られるよう、オープンになっております。こちらはインターネットの地図上で見られるようになっております。
現在進捗中の権限代行としては、奈良市が管理する「市道登美ヶ丘中町線鶴舞橋」の直轄診断を令和3年2月8日より実施しており、令和4年度に修繕代行事業として新規事業化しております。令和6年度より橋梁修繕工事に着手する予定となっております。
補助事業や、直轄修繕代行などで自治体が保有する道路構造物の維持管理も進めている
市道登美ヶ丘中町線鶴舞橋
トンネル工事で衛星ブロードバンド「Starlink」を活用
RI2MAPSをJARTICと共に開発
――国交省ではDXの推進・活用を大きなテーマとしておいでですが、新設や災害復旧はもちろん、維持管理業務においても、点検作業の効率化や立会の効率化、工事や点検などの安全向上の面(無人化技術など)など用いている取り組みを教えてください。
長谷川 近畿地整では建設業の担い手不足や生産性向上、働き方改革などの課題解決に向けて、インフラ分野のDXの取り組みを促進しています。仕事のプロセスや働き方改革、現場の安全性や効率化の向上、行政手続きなどのサービスの変革の促進に向けた検討を行なっております。BIM/CIMによる効率化、遠隔臨場・遠隔検査に関しては大野油坂道路東市布トンネル工事で衛星ブロードバンド「Starlink」を活用した遠隔臨場を実施しました。そのほか、AI技術を活用した管理道路の異常感知やダム施設の管理、ドローンを活用した管理などを実施しています。
BIM/CIMの活用事例 / 「Starlink」を活用した遠隔臨場を実施
実際に設置された 「Starlink」
災害対応として、本省にいるときにRI2MAPSというのを開発しました。道路管理者の中でしか公開されていないのですが、災害対応を効率的かつ迅速に進めるためにJARTIC(道路交通情報センター)と共に開発したシステムです。現在の連続雨量や時間雨量や降雪量、また、どこでUターンができるか、CCTVの静止画や動画、また、LINEの#9910の通報のあったところ等、そのような情報が全て一元的に見られるようになっています。これを近畿地整でも積極的に使っていきたいと思っています。
また、市民の安全のために災害時の通信の確保に力を入れています。災害時には携帯が使えなくなるため、Starlinkを活用して支援できればと思っております。また、Ku-SAT(衛星小型画像転送装置)を設備しており、災害等の発生時に被災状況や 復旧作業状況等の現地画像・動画情報、衛星を経由してリアルタイムで伝送することができます。災害時にはそのような通信を確保することが重要だと感じています。
三輪トライクを活用していく
「つながる、伝える、育てる、育つ」
――災害対応に関して他にも取り組まれていることはありますか?
長谷川 災害時は職員が現場に辿り着くのに渋滞などで時間がかかることがあります。そこで三輪トライク(右写真)というものがあるということを本省にいた頃に知り、現在関東地整で導入されております。これを近畿地整でも今年内に導入する予定です。
後ろの車輪の幅が46cm以上のものというのはトライクという部類になっていて、普通免許で運転ができ、バイクだと125CC以下は高速に乗れませんが、これは124.9CCでも高速道路も運転することができます。三輪なので、荷物も運べるのでKU-SAT(国土交通省専用衛星小型画像転送装置)が載るようなサイズの荷台にしてあります。また、三輪トライクはキーパト扱いの申請をする予定ですので、そのような運用もできるのではないかと思っています。
KU-SAT
――大阪湾岸道路西伸部や淀川左岸線など大きなプロジェクトについて言及してください。
長谷川 大阪湾岸道路西伸部に関しては新港・灘浜航路部の海上部長大橋では、令和5年8月に主塔基礎や主塔・橋桁の形状・寸法などの基本構造を決定しました。橋梁上下部工事等を実施し、早期の開通に向けて事業を推進して参ります。
淀川左岸線(2期)事業は大阪・関西万博の成功やその後の大阪、関西の発展のために重要な道路であると認識しておりまして、補助事業として計画的かつ集中的に支援をしています。
――土木学会関西支部と共同での「整備局長と話してみよう!!」は面白い試みだと思いましたがその狙いについて教えてください。また、若い技術者が土木に対してどのように魅力を持つように仕向けていくかお考えや取り組んでいることがあれば教えてください。
長谷川 「ぶら・土木」という土木学会の分会で、「つながる、伝える、育てる、育つ」をキーワードに若手土木技術者の交流と技術力の向上を目的として活動しています。①関西での若手土木技術者のネットワークを作ること②土木技術者の現状を学ぶこと③若手技術者の能力向上に必要なことを学ぶこと④土木工学を学ぶ学生への必要な支援体制を作ることの4つを柱として企画されています。「整備局長と話してみよう!!」は「ぶら・土木」の企画として2023年から実施されているものの第2回に登壇させていただきました。まだ局長に就任して間もない時だったので、今までの経験や関わってきたプロジェクト等についてお話させていただきました。
――ありがとうございました