NEXCO中日本 東名皆瀬川橋 制震・免震技術をふんだんに利用した耐震補強

NEXCO中日本 東名皆瀬川橋 制震・免震技術をふんだんに利用した耐震補強
2024.07.29

工種に対応してその都度足場を組み替え

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NEXCO中日本 大規模更新 鋼橋
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 NEXCO中日本は、東名大井松田IC~御殿場IC間の皆瀬川橋(上り線)の耐震補強および塗替え塗装を行っている。同橋は橋長332mの鋼単純逆ローゼ橋である。アーチ支間は200mであり、アーチライズは40mである。今回はL2地震時における耐震性能を満たすための補強工事として、鋼桁への当て板補強、橋脚RC巻立て、制震ダンパー、座屈拘束ブレースの設置、免震支承への取替えなどを行う。また、橋梁全体の塗り替えも行っている。現在までに耐震補強はほぼ全てを完了しており、現在は塗装塗替えを行っている。地上からアーチクラウンまでの高さは40mに達し。足場高も1段につき最大で4mに達し、しかも耐震補強や塗替えといった工種、部位によってその都度足場の位置や養生などを変えなくてはいけないため、絶えず足場工をスタンバイさせなくてはならず、非常に施工面でもコスト面でも手間のかかる工事となっている。また、アーチアバットまでは大きな工事用道路がないため、橋脚の巻立て用鉄筋およびコンクリート部材などを運ぶためにインクラインや桟橋工を設置する必要があった(インクラインは現在撤去済み)。その現場について取材した。(井手迫瑞樹)

 

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支承移動可能量の2倍以上に達する

可動支承のL2地震時応答変位が350mm程度も変位

疲労による亀裂が約125か所で発生、塗装塗替えは約24,000m2

耐震補強や補修補強が必要な理由

 同橋は、可動支承のL2地震時応答変位が350mm程度も変位することが解析の結果わかっている。これは、支承移動可能量の2倍以上に達する。同様に補剛桁の固定支承は橋軸方向、橋軸直角方向共に耐力の2~3倍程度の水平力が作用する。アーチ支承に生じる上揚力は12,316kNと、設計耐力の5倍程度の負反力が作用し、いずれも許容値を超過した状態となる。さらには、桁端部ではアーチ補剛桁と橋台との衝突も予想された。

 また、上部工の鋼部材に作用する応答ひずみはアーチクラウン近辺で許容ひずみに対して6倍程度生じることも分かった。RC橋脚もせん断部や断落とし部において曲げ耐力の不足が生じることが分かった。


耐震的な不足状況


 同橋は供用後33年と、東名としては比較的新しい鋼桁ではあるが、断面交通量は約87,000台/日という重交通である。とりわけ大型車交通量は約37,000台/日と4割を超えており、疲労による亀裂が約125か所で生じていた。

 塗装は約24,000㎡すべてを塗り替える。既設塗膜にはPCBは含まれていなかったものの、鉛分は含有されていたため、塗膜除去時にはその対応を必要とした。

私たちがもとめるもの それは豊かな未来を支える確かな技術です。 never-ending challenge ラック足場

上揚力を軽減させるためアーチ両脇のP2,P3 橋脚の橋軸直角方向の支承を免震化

各支点部に橋軸方向の500kNないし1,000kN規格の制震ダンパーを設置

補修補強内容

 下部工や基礎工への影響を考慮すれば、純然たる耐震補強を全体的に施すことは困難であり、いかに免震・制震的な補強を行うことで、当て板補強の重量を落とすかが重要となる。とりわけ、上路アーチ橋は補剛桁上面のRC床版により、トップヘビー構造であるため、橋軸直角方向水平力による支点部の鉛直方向の偶力が大きくなる傾向にある。これによる上揚力を軽減させるために効果的な対策としては、アーチ両脇のP2,P3 橋脚の橋軸直角方向の支承を免震化させ、また下横構の塑性を許容するなどによる、エネルギー吸収を行うことが求められた。そのため、補剛桁直下のすべての支承(12基)を免震支承に取り替えた。交換した支承は最大反力約2,400~5,200kNの鉛プラグ入り天然積層ゴム型免震支承を用いている。これよりエネルギー吸収による下部工への水平力および鉛直力の低減を図った。


補強一般図


 橋軸方向においては、桁端部での桁と橋台の衝突を回避するため、各支点部に橋軸方向の500kNないし1,000kN規格の制震ダンパーを設置し、移動を制御した。それでも上部工の鋼部材のうち補剛桁やアーチ支柱の一部では免震・制震デバイスの設置後も主構造が塑性化する箇所が生じたため、当て板補強を行った。

 さらに橋軸直角方向のL2地震動においてアーチヒンジ支承に作用する上揚力を軽減するため、下横構60本を降伏耐力1,500kNないし2,000kNの座屈拘束ブレースに取り替え、アーチ両サイドの補剛桁支点部には橋軸直角方向に2,000KN規格の制震ダンパーを設置した。これらの対策により、上揚力は3,272kN程度に軽減されたが、リングプレートと支承付きボルトが僅かにNGとなったため、強度を上げたものに交換した。



リングプレート設置状況


交換したリングプレート


 全てのRC橋脚に対しては、ほぼ橋脚の全高に渡り、厚さ250mmのコンクリート巻き立て補強(σck=30N/mm2、SD345)を行い、せん断耐力を向上させた。とりわけP1、P2橋脚においては、最大応答変位を軽減させるため、柱頭部の軸方向補強鉄筋をフーチングに定着させた。


RC巻立て補強

15 ステップにおよぶ動的解析を実施

 これらの耐震(免震・制震)設計を施すにあたっては、15 ステップにおよぶ動的解析(下表)を実施して収束させた。


 前半では、アーチ橋を免震化させた場合の橋梁の動的挙動および耐震性向上への影響を把握し、各部に配置するデバイス関係およびRC 巻き立てコンクリートによる、鋼桁及びRC 橋脚の応答値を低減させるための最適なデバイス配置を確定させた。同段階では、アーチヒンジ支承に作用する上揚力は8,200kN 程度まで低減できたが、支承の耐力は超過しているためトライアルを継続した。

 中盤では、ゴム支承の剛性や座屈拘束ブレースの降伏軸力および粘性ダンパーの定格抵抗速度を設定し、アーチヒンジ支承に作用する上揚力の大幅な低減を図った。その結果、上部工鋼材部に作用する応答ひずみやRC 橋脚のせん断力や変位について許容値程度となるように調整した。

 動解収束に向けた最終調整では「免震ゴム支承・座屈拘束ブレース・粘性ダンパー・上部工鋼材部・RC 橋脚それぞれの耐力を同時に許容値以内に収めるための網羅的な調整に苦労した」(IHIインフラシステム)。また、各デバイス取付部については既設との取り合いにより補強材の設置スペースが限定的であることからコンパクトで効果的な補強部材の配置や形状を工夫して構造成立性を確認しながら設計を行った。「特に、免震支承を大きくしたことによる補剛桁本体との取り合い上の制約を考慮し、支承設置部の補剛材構造の成立性も併せて検討し、設置可能な設計を行った」(同)。


交換した支承

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