たのしい土木
和歌山県 サンブリッジの耐震補強に着手
コア削孔+ブレーカーによる人力はつり併用工法を採用
コア削孔+ブレーカーによる人力はつり併用工法を採用
併用により騒音を30dB程度抑制 コア削孔は千鳥施工
施工フローは別表のとおりである。
施工フロー
A1、A2側の桁補強に際して最大の違いとなるのは、A1側にカウンターウェイト代わりのコンクリートが充填されており、各種耐震補強部材を取り付けには、それをある程度撤去しなければならないことである。
当初設計では、人力はつりによる撤去を計画していたが、変更設計し、コアと人力はつりを併用した撤去工法にした。
変更した理由は、箱桁内でのブレーカー作業について、騒音が大きく、作業従事者への騒音障害の懸念があるためだ。厚労省からはつり作業に従事する労働者の騒音障害の防止ガイドラインがでているが、本工事ではそれを敷衍して、騒音を小さくすることを目的とした試験施工を実施した。試験内容は、ブレーカーを用いたはつり作業と、コア削孔を用いた撤去作業、また静的破砕材を用いた撤去方法を用いた。
ここで問題となったのはカウンターウェイトに用いていたコンクリートが無筋ではなかったことだ。「静的破砕材を使ったのですが、実際は鉄筋が結構入っていた。静的破砕材がうまく作用しなかった」(元請のショーボンド建設)。鉄筋はD16、D19相当のものが入っいていたが、おそらくひび割れ抑制を目的として入れていたものと考えられ、工事前にも照査した結果、鋼桁を合成効果で補強するような意図はなかったとして、鉄筋も撤去して問題ないことを確認したうえで施工している。
次善の策としてコア削孔を用いることにしたが、全量コア削孔だと「コストがかかりすぎる」(同)。最終的には人力はつりとコア削孔を併用した工法に変更し、施工に臨むこととした。
WJもなかったのか? という記者の問いについては、「WJも考慮したが、箱桁の中に様々なライフラインの添架管が走っており、思うように振り回せないことと、0.15㎥/1班/日ぐらいしかはつれないという検討結果が出た」(同)。ブレーカーはつりとコア削孔併用工法あれば、「ブレーカーで2人はつりのガラ出し2人で大体1㎥、さらにコアでも2人コア削孔で、0.8㎥ぐらい施工できることが分かり」(同)コスト及び効率の点からブレーカー+コア併用工法を採用することにした。
一方で、ブレーカー斫りの発生音は桁内で127~130dbに達する。コア削孔を併用することで100db程度に抑制することができる。施工量はコアで約8㎥、ブレーカーで約18㎥です。ブレーカー施工の際は耳栓をしてはつっており、耳栓をすることで、大体-37dBまで従事者に伝わる音は抑制できる。
はつりの施工手順はコア削孔を先行して施工する。コンクリートの中には縦リブが橋軸方向に約360mmピッチ、橋軸直角方向に2,200mmピッチで入っている。当初はφ160のコアを使って、2列でコアを抜くように計画したが、最終的にはコスト面も考慮し、最初と最後のみは並列配置でコア削孔するものの、そのほかは千鳥配置で抜くことにした。
深さ方向には箱桁の下フランジ上面にタッチするような形で施工した。コンクリートの厚は平均470mmに達する。削孔本数は全部で751本となった。コア削孔後、残った部分をブレーカーではつり取った。
コア削孔 千鳥施工
ブレーカーによるはつり
はつりが完了後は、ダイヤフラムを箱桁内に増設し、さらに補強桁も配置した。増設したダイヤフラムの下に水平力分担構造を、下部工ブラケットに挟まれる形でA1とA2に2基ずつ設置した。水平力分担構造のサイズは高さ2,160mm×橋軸1,000mm×橋軸直角2,400mmである。その後、ダンパーのブラケット、段差防止工、横変位拘束構造を、水平力分担構造の設置とほぼ同じタイミングで施工していく。
ダイヤフラムの設置状況
並行して行う橋台補強工が完了したのちに、ダンパーを設置した。
A1橋台のみ補強 コンクリートを189㎥充填し、既存橋台と一体化
ダンパーに作用する力に耐えられる構造に補強
橋台補強工は、A1橋台のみとする。A1橋台のみとしたのは橋台に作用する曲げモーメントはA1側の方が大きくなっている。そこで一部空洞となっている橋台内部に現場打ちRCを約189㎥充填施工し、約700本のアンカーボルト(D22)で橋台本体と一体化させることによって、ダンパーに作用する力に対して橋台を持たせられるようにするものである。コンクリート打設高は5100mm、打設長は3,700mm×打設幅は左側が6,222~3,891mm、右側が4,569~6,900mmと平行四辺形のような形状になっている。
橋台に開口部を設けて、コンクリートを充填していく。橋脚の壁厚は800mmほどあり横方向にはつらなければならないが、「800mm厚を人力で斫るというのは少し現実的ではない」(同)ため、コアビットを使ってはつった。開口部のサイズは800×800。
開口部
施工にあたっては橋台部には水が溜まっていたため、その水を抜くところから始めなくてはならなかった。建設時の竣工図と現実の橋台内の断面が図面と違っているため新たに測量し、設計し直す必要があった。「現在の開口部だと橋台の最下部まで6mほどあり、照明がない現場では降りるのが怖い状態」(同)であるため、今後は今のGLに近い位置に試験的に明けていった。また、コンクリート打設においては型枠も配置していく必要があるが、狭い開口部ないし桁内でどのように型枠を配置していくかは、今後検討していく必要がある。
開口部は最終的にフレアー溶接で鉄筋をつなぎ直したのちにコンクリートで打設し、閉塞させ復旧する。
今次の耐震補強工は第1期工事の位置づけであり、次期工事以降は、①主塔への座屈拘束ブレースの設置、②A1~P1間中央付近への水平力分担を目的とした中間橋脚の設置、③主塔RC橋脚のRC巻立て補強、④主塔部の当て板補強――などを行う予定だ。
とりわけ②は新たな構造物の施工が必要となるが、水平力分担橋脚を橋台前面に設置することで、橋台部での桁変位を桁遊間以下にすることが可能となり、ライフラインの添架管に配慮でき、さらにダンパーのエネルギー吸収効果を確実にできる。さらに桁の応答断面力を著しく抑制できる結果、桁の補強規模を小さくでき、桁内コンクリート充填部への当て板補強を不要とすることが可能なことから、その設置を決定した。
設計会社は長大。元請はショーボンド建設。一次下請は耐震補強工がビーアイジー。ダンパーは川金コアテック。橋台部足場はIqシステム(タカミヤ)を用いている。海岸近くであるが足場は風を通しやすい構造にすることで通年施工を可能にしている。
最盛期は元請け2人、下請10人の体制で施工している。