八代復興事務所の現場を歩く
国土交通省九州地方整備局八代復興事務所が進めている、令和2年(2020年)7月豪雨により被災した球磨川に架かる10橋の架替え工事が、下部工までの工程をほぼ完了し、上部工工事が進んでいる。上流から西瀬橋(熊本県道人吉水俣線)、天狗橋(人吉市道中神大橋線)、沖鶴橋(球磨村道沖鶴線)、相良橋(県道遠原渡線)、松本橋(球磨村道松本大坂間線)、大瀬橋(球磨村道大瀬吉松線)、神瀬橋(県道球磨田浦線)、鎌瀬橋(国道219号)、坂本橋(県道松本人吉線)、深水橋(県道小鶴原女木線)である。西瀬橋は橋長174mのうち、P2~P3間の43mが落橋、流失したが、いち早く20年9月に仮橋で復旧、23年2月19日には同支間の本復旧を完了した。坂本橋、鎌瀬橋、相良橋など、地域交通上必要性が高い橋梁については。2021年5月にいち早く仮橋で復旧し、現在は下部工をほぼ完了し、一部上部工にも着手している。その現場を同事務所の協力を得て取材した。(井手迫瑞樹)
沖鶴橋 橋長182m、鋼重約590tの2径間連続鋼床版箱桁に生まれ変わった
西瀬橋 既設桁と遜色なく架け替え
最初に訪れたのは西瀬橋である。記者は被災直後、さらに仮橋がかかった後に訪れたが、本復旧後は初めてである。既設桁と遜色なく架け替えられている。なるほど西瀬小学校は、橋を渡ってすぐの箇所にある。仮橋仮設の必要性として子供たちの通学困難が挙げられていたが、納得の距離感である。しかし、2020年7月の河川の暴れっぷりを目の当たりにした記者としては拍子抜けするほど、球磨川は静謐な河川であり、その水面は美しい緑に彩られている。この河川が洪水になるところに地球温暖化の影響の凄さが改めて感じられる。九州は球磨川だけではない、筑後川支流、山國川支流、阿蘇山ろく(滝室坂)、白川支流など至る所で水害が起きている。球磨川もまた、備えを怠れば、同様の水害が起きる。今堤防上の道路(国道219号)のかさ上げや強化、県道などの高さを上げることなどを急ピッチで行っているのはそのためである。
西瀬橋(井手迫瑞樹撮影、以下注釈なきは同)
天狗橋 A2橋台を大きく堤防の位置まで引く
P2~A2間に1径間52mの鋼床版箱桁を新設
さて、次いで、天狗橋を望む。左岸側堤防が崩壊し、A2橋台背面の土砂が流された橋である。そのため、今回はA1~P2間について、橋はそのままに地覆や高欄などの取替や塗装の塗替えなどは行う。また、既存橋の構造は、堤防が橋梁部のみ突出しており、それが河積阻害を引き起こしていた状況を鑑み、本工事はA2橋台を大きく堤防の位置まで引き、P3を造らず、P2~A2間に1径間52mの鋼床版箱桁を新設することにした。現在は新設部上部工の工場製作と既設上部工の補修を進めている状況である。新設橋梁部の製作・架設は名村造船所、橋梁補修工は塗装も含め、米田塗装店が担当している。
天狗橋
沖鶴橋 橋長182m、鋼重約590tの2径間連続鋼床版箱桁に生まれ変わった
架設は先端にたわみ処理装置の付いた手延べ桁を配置
次に向かったのが沖鶴橋である。旧橋はPC4径間T桁であった。頑強な橋梁は、しかし、洪水による浮力には勝てず、おそらく浮いてさらに流れのまま落ちた。古くは大森大橋(北海道開発局小樽開発建設部管内にかつて架かっていた)、東日本大震災でも見た光景だが、大きな浮力により桁が浮けば、落ちるのである。以前、九工大の幸左賢二教授(当時)も話していたが「算数の問題でより大きな力が働けば、PC橋といえども流される」のである。下部工も大きく損傷していた。
落橋時の旧沖鶴橋(国土交通省提供)
その橋は、写真のように橋長182m、鋼重約590tの2径間連続鋼床版箱桁に生まれ変わった。
沖鶴橋
全幅員は6,200mmであり、トレーラーに載せるのは幅が広すぎる。そのため、陸送時の輸送を考慮して、鋼床版ごと半断面に分割して輸送し、縦目地は現着後地組を行う際に箱桁部は高力ボルトで連結し、鋼床版部は溶接でつなぐことで一体化した。長さ方向は9m弱で運び、輸送時の1ブロックごとの重量は14t程度に抑えた。同様に横目地は、箱桁部は高力ボルトで添接、鋼床版部は高力ボルトと溶接でつないだ。
沖鶴橋の仮組状況(横河ブリッジ提供) / 半断面の箱桁を高力ボルトで添接(井手迫瑞樹撮影)
鋼床版はUリブ(トラフリブ)構造とした。板厚は16mmとし、さらに負曲げが生じるP1部近傍は18mmとしている。
新しい沖鶴橋の概要図(横河ブリッジ提供)
支承はA1、P1、A2全てアウトリガーを張り出し、その下に設置する構造とした。これは、主桁ウェブ位置に支承を配置した場合、橋軸直角方向地震時に大規模な負反力が生じ、支承の成立が困難なため、アウトリガー構造とすることで負反力を低減し支承を成立させるものとしたためである。
アウトリガー構造(左:橋台部、右:橋脚部)
支承の外側には支承隠しを設置、さらに排水は直落としとしたが、これも管を下流側に配置している。これらはラフティングなど水上スポーツが盛んな球磨川観光に配慮し、景観性を向上させるためである。橋梁の配色もこげ茶色を選択し、周辺環境と溶け合う主張の少ないものとした。
支承の外側には支承隠しを設置
こげ茶色を採用(国土交通省提供提供「第6回球磨川橋梁復旧技術検討会 検討会資料 」より抜粋)
さて、架設である。架設は先端にたわみ処理装置の付いた手延べ桁を配置し、それに1径間約90m分の鋼桁を接続して、送出した。3月27日搬入を開始し、2カ月超で1径間分の地組を完了。6月5日に1回目の送出しを行った。送出し長は90m程度であるが、地組時に少しA1橋台からはみ出る形で施工しているため、送出し完了位置はP1~A2側に30m進んでいる位置で完了とした。次いで約3か月間かけてもう1径間の地組を行い、9月4日に2回目の地組を行い、大方の送出しを終えた後、手延べ桁を切断するための小規模な送出しを行い、9月14日には送出しを完了した。
架設ステップ図(横河ブリッジ提供)
送り出し状況(横河ブリッジ提供)
たわみ取り装置を先端に設置することで、送出し時に生じる3.7mのたわみ(垂れ下がり)をジャッキ操作やサンドルの積み下ろしなどを行うことなく施工できるため、1日で1径間の架設をスムーズに行うことができた。
手延べ機先端のたわみ取り(横河ブリッジ提供、※同技術は横河ブリッジ・オックスジャッキの共同特許)
その後、3.2m高のジャッキダウンを行ったが、その際も施工時にもし地震が起きても落橋などの最悪の事態を防ぐため、「地震時の橋軸、橋軸直角方向のずれに留意して、安全に水平力を保てるようにした」(元請の横河ブリッジ)としている。
上部工工期は1月末まで。盛土工や舗装工などを行った上で、3月16日に完成供用する予定だ。
同上部工の元請は横河ブリッジ。一次下請は汐義建設工事(架設工)。鈴木塗装工務店(塗装)、オックスジャッキ(送出し設備工)、支承はビー・ビー・エム。