高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦

高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
2025.05.01

第9回 長岡高専でのREIM事業とインフラメンテナンスに関する研究

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低騒音・低振動コンクリートはつり装置 AUTOCHIPPER 下地補修ができる浸透型防水工法 キレイに、未来へ
>井林 康氏

独立行政法人国立高等専門学校機構
長岡工業高等専門学校
環境都市工学科
教授

井林 康

はじめに

 全国5高専から成るKOSEN-REIM事業は2019年度に始まり、福島・福井・香川・長岡の4高専は先行する舞鶴高専に倣って、実物劣化教材の収集・展示などのインフラメンテナンス教育環境の整備を進めてきました。長岡高専では2021年にリカレント教育の実証講座、2022年から本講座を開催し、現在までに橋梁点検を中心に延べ100名以上の受講者に参加いただいています。

 またREIM長岡高専にはKOSEN-REIM財団を通じ、新潟県内の企業から多額の支援をいただいています。これにより事業の安定的運営、教材の維持管理を行うことができています。深く感謝申し上げます。

 本稿では、前半で長岡高専でのREIM講習会のプログラムについて紹介し、後半では我々が取り組んでいるインフラメンテナンスに関わる研究例を紹介します。

国土強靭化への第一歩! 超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』 コンクリートを”はつる”

REIM長岡高専・講習プログラムの紹介

 KOSEN-REIMの講習会は、基本的に全国一律のカリキュラムに基づき行われています。eラーニングで基礎知識を身に付けた後、2~3日間の講習会で実物に触れて確認したり、ディスカッションやプレゼンテーションで言葉を発したりすることにより、自分の体に染みついた知識とします。最後に到達度確認試験を行い、所定の到達度に達した受講者に対して国立高専機構の名で技術資格を交付します。この仕組みは各高専での指導内容が一律で一定水準に保たれていることが前提となりますので、根幹を変えることはできません。

 そのような中で、各高専の個性や地域性、教員の研究分野や保有設備を駆使して、いかに魅力ある講習を作っていくかが腕の見せ所ともいえます。

 長岡高専では現在「橋梁点検(基礎編)」の2日間のプログラムを、専門性を生かした4名の講師で回しています。橋梁工学、コンクリート構造物の劣化、非破壊検査、橋梁点検等、それぞれの講師が経験と学識を生かした講習を行っています。4名の講師のうち2名は舞鶴高専の「実務家教員育成研修プログラム」を修了した民間所属の講師であり、話し方、教材の見せ方、受講生とのコミュニケーションなどで工夫を見せてくれています。

 このほかに、県内の建設コンサルタントから講師をお招きし、実践的な橋梁点検手法を学ぶ「橋梁点検(応用編)」および、本校教員が建設会社での勤務経験を活かし、高品質なコンクリート構造物の施工について実技中心の講習を行う「コンクリートの品質管理」を実施しています。

写真1 講習会「橋梁点検(応用編)」


写真2 講習会「コンクリートの品質管理」

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教材

 撤去した橋梁から切り出した桁や床版、腐食や破断により機能を失ったボルトなど、大小取りそろえた実物教材を用意しています。中でもコンクリート構造物の塩害に関する教材は、海岸線が長いうえ冬季の凍結防止剤の使用もある新潟県では必須であると考え、重点的に探索した結果、国交省高田河川国道事務所から塩害劣化したPC桁を頂戴することができました。これにより実物教材を展示した実習フィールドでは、コンクリートの主要な劣化(中性化、塩害、凍害、ASR、疲労)と初期欠陥をすべて観察することができ、受講生にこれらを自身で探索するような実習を行わせています。

写真3 コンクリート構造物の損傷探索実習


 もう一つ、長岡高専での講習会の特徴として、タブレット端末を用いた簡易橋梁点検システムの体験を取り入れていることが挙げられます。本システムの詳細は後述しますが、タブレット端末で損傷の写真を撮影しながら一問一答形式で橋梁の状態を答えていくだけで、道路橋定期点検要領に準拠した点検調書を作成できるものです。これをREIM講習会の橋梁点検実習で体験してもらい、自分の行った点検が調書になる様を実感してもらいます。受講者はおそらく「自分の点検がこんな立派な調書になって大丈夫かなあ」と不安になると思います。それが新たな学びのモチベーションにつながれば、この実習を取り入れている意味があると思います。

写真4 タブレット点検システムの体験

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受講者・受講者所属企業の声

 受講者は新潟県内の企業に所属している方がほとんどですが、首都圏から来られる方もいます。業種は「調査・設計」と「建設・メーカー」が約半数ずつで、今のところ行政からの参加者は多くありませんが、行政の方にもぜひ参加いただければと思います。受講者の枠が空いているときには、関連する研究を行っている高専生を参加させることもありますが、彼らも「大人の学び」に刺激を受けていることと思います。

 受講者からは「実際に損傷の入っているサンプルを見ながらの説明が分かりやすくてよかった」とか「グループで話し合いを行うことで、一人の意見だけでなく色々な視点で考えることができた」など、好意的な感想を多くいただいています。また受講生を送り出してくれた企業の方からも「ただ会場にいればいいような講習ではなく、能動的な講習なので知識が定着しやすかった」「eラーニングの効果はかなり高い。知識の向上にとても役立っている」などの評価をいただいています。

写真5 能動的な学びの場(維持管理計画のプレゼンテーション)

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産官学・市民との連携

「地元のインフラは地元で守る」をモットーに、産官学が連携してメンテナンス人材育成に関する諸問題を話し合う「長岡地域社会基盤メンテナンス教育推進協議会」を結成しています。地元長岡市を中心に、技術者育成のためにREIM長岡高専を活用する方策を考えてもらっているところです。

 また一般市民にとっても、インフラの老朽化は身近な問題となってきています。REIM長岡高専では2023年に「橋梁メンテナンスことはじめ」と題して、橋梁をはじめとするインフラの劣化に関する正しい知識を身に付けてもらうため、座学と実習フィールド見学から成る5回シリーズの市民講座を開催しました。マスコミでは様々な事故・障害が取り上げられますが、むやみに恐れるのではなく、正しく理解し、身近なインフラに関心を寄せる意識を持ってもらえればと思います。

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