識者連載
インフラ未来へのブレイクスルー -目指すは、インフラエンジニアのオンリーワン-
4.さいごに
今回の連載では、我が国で進めている予防保全型管理の現状を国が公開している情報を基に分析を行い、分析結果を踏まえ、悲惨な崩落事故発生を未然に防止するために必要不可欠なことは何かを、親日国のブラジルで起こったOliveira Bridge崩落事故を事例に重大な教訓である ( 明日は我が身、「人の振り見て我が振り直せ」 )を示すことで、私の連載を読む読者に対し、重要なことは何かを読者に示した。
ここで本連載の最後に、これまで示してきた話題提供とは全く違った話を今回の連載の「締め」としてしよう。
今年の広島でNEXCO西日本の高速道路現場で足場落下事故が1月27日(月曜日)に発生した。事故は、図-16、17に示す位置する中国自動車道鷹の巣橋の床版取り換え工事中(工事件名:中国自動車道(特定更新等) 鍛治屋橋他 1 橋床版取替工事)に吊り足場が落下し、作業員5人が転落、2人が死亡、3人が重傷を負った大事故である。図-18に足場が落下し、地上に散乱した状況を示す。NEXCO西日本が発注した床版取り換え工事の詳細、足場の固定方法等の人為的なミスの詳細は、R2SJにおいて、別途詳細に示しているので参考にすると良い。
図-16,17 中国自動車道・鷹の巣橋
図-18 中国自動車道・床版取替工事の足場落下状況
事故後のNEXCO西日本の対応は、岡山大学、大阪大学及び神戸大学の専門家による「技術検討会」を設置・開催し、事故原因の究明と再発防止策の検討を行っている。また、事故を受けて、NEXCO西日本は協力会社を対象に緊急の安全講習会を開催し、安全管理の徹底と事故防止の再確認を行った。
推定される事故原因は、足場を固定するアンカーの設置位置の不備、吊り足場の張り出し部において、吊りチェーンが未設置の状態で足場設置が進められた施工手順の不備及び足場上への資材搬入計画が不明確のまま進めれた資材搬入計画の不備などと言われている。今回示す足場落下事故は、以前にも同様な事故を起こしているNEXCO西日本であることから、単に技術的な設計・施工ミスだけではない、組織的・構造的な要因が複雑に絡み合っている。
図-19 吊り足場固定装置及び固定アンカー抜け落ち状況
本質的な理由としては、私がNHK放映でも説明しているが、第一には、安全管理書類の形骸化や現場パトロールの質の低下など、現場における形式的な安全管理の横行が考えられる。第二には、吊り足場の計画書と現場状況のミスや「実績主義」及び「経験則」の優先による施工計画と実施工の乖離があげられる。第三としては、直接受注者のゼネコン、一次下請け、二次下請け、孫請けと分業化される現場の中で、足場工やとび職が最下層でありながら構造的な判断を迫られる構造や担当技術者が現場を「技術的に理解して管理する」ことが減少し、机上の管理者と現場で作業を行う作業員の理解の乖離などの多重体制の多層下請け構造があげられる。第四としては、職人教育が「作業手順」の反復に編重し、構造力学的な背景を理解する機会が少なく、実機を用いた訓練不足など教育と訓練の不足がある。第五としては、元請けが提出された計画書を「一応確認」するだけで、構造解析や荷重検討等を行わない、形式的な施工計画書チェック体制及び本体構造の高度なFEM解析などに比して、仮設構造(足場・支保工)の安全性検討が経験値依存となりやすい仮設構造に関する軽視があげられる。我々が忘れてはならない最も重要なことであるが、上記以外に突貫工事の常態化や人出不足による多能工化(熟練足場工が不足し、他業種との兼任や未熟な人員による対応せざるを得ない環境)などの時間・予算・人手不足による工程圧縮が大きな原因である。
私は我が国において同様な事故が発生するたびに指摘していることがある。何度も同様な事故が発生するのは、事故が発生するたびに「事故調査委員会」や「事故対策委員会」を設置し、結果的には事故原因を「個別の技術ミス」として片付ける体制にある。真に事故の再発を防止するためには、改善対象である組織構造、教育、管理方法や契約制度について、近年抱えている企業や発注者のそれぞれに対する課題全体を構造的に見直すことが重要であり、これに取り組まなければ同様な事故は必ず発生する。近年、急速に発展しているICT技術を解決策として考えると、今回の事故発生に直結した仮設工事等で使用する種々なアンカーや資材配置について、センサー等必要な個所に設置して、それらをAIによってリアルタイムで監視するなどの新たな監督体制作りも必要である。
今回の連載は、我が国の予防保全型管理に向けた取り組みの現状分析から始まり、ブラジル・Oliveira Bridgeの崩落事故を主題とし、そして最後にNEXCO西日本の仮設足場落下事故と国内外の事故発生を受けて、直ぐにでも取り組むべき課題を具体的に示した。本稿が、我が国の社会基盤施設の建設、管理、維持管理及び修繕等に有効に機能し、事故防止に繋がることを期待して止まない。(次回は10月1日に掲載予定です)