コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2025.07.07

⑥技術者は事務職ではない、品質向上への挑戦を諦めるな

Tag
コンクリート打設は失敗から学ぶ
Share
X Facebook LINE
鋼構造物の再生と環境の調和 循環式ブラスト工法、循環式ショットピーニング工法 インフラを技術で守る 道路下面施工が容易で発泡ウレタンの圧縮変形特性を活かした非排水用乾式止水材 プレスアドラー
>平瀬 真幸氏

株式会社ファインテクノ
コンクリート品質改善部
部長

平瀬 真幸

マニュアルと現場力

 最近、ネットにおいて建設業で全国的に工期を守れないとの記事を見ました。学生時代の講義で、日本の凄いところとして、「工期を守るというのが世界的に見て最高レベルにあり、加えて世界中のどの国も出来ない高い技術レベルの事が日本ならできる。」ということを聞いた記憶があります。当時は世界の常識など知りませんので、「日本だから当たり前」程度の感想でしたが、先生の工期を守ることの重要性と熱意はとても印象に残っております。

 当時と比べますと時代も情勢も大きく変化しています。加えて建設業は業種問わず入職者が減少し、現場では熟練技能者の大幅減少、さらに監督者の現場技術力も低下しているように思います。新技術や材料等の進歩で補おうとしている試みもこれからのように感じておりますが、新技術を施工者が効果的に使いこなせているのかというと結果が芳しくないこともよくあるように思います。こうした新技術についての評価は、今は知見等を蓄積しながら、将来を見越して挑戦と改善を見守る期間なので実行していく事が重要なのでしょう。どんな新技術も最初から完全という事はあり得ませんし、今後のために施工者がフィードバックできるようになっており、そこで詳細な意見を寄せていただけると改善が期待できますので、そうした詳細な意見をする施工者には通常以上のインセンティブがあれば施工者は真剣に対応を考えるのではないかと思います。施工者にとって、新技術は評価を得る事と利益向上が主な目的で、国としては使ってもらって良い技術をブラッシュアップしつつ有用な技術はさらに広めたい思惑があるはずですが、施工者の目的と発注者の目的が大きく違うので、寄せられるフィードバックがあたかも有用な技術であるかのようなものばかりではないかと想像しておりますが、そこは今後の課題かも知れません。

 現場の技術力低下について戻しますが、ここで何度も主張しておりますように、誰が悪いという事ではなく書類に追われて現場に出る時間が限られることが原因だと思います。私が建設業へ入ってきた時代でさえ、優秀とされる者が大きな組織へ就職しますと、現場へ行く時間が少ない状況に追い込まれることが多い印象でした。現場へあまり出られずに書類を早く作る、利益を上げる者ほど立場は強く、現場で高品質なモノを造る職員はあまり評価がなかった状況は昔からで、その傾向は年々強まっていると感じます。現場より書類、技術より知識、品質より利益・効率化といった事を彼方此方で痛感しておりますが、こうした状況は技術者個人と属する組織は良いでしょうが、発注者は持続が困難になるだろうと思います。

 今までの経験から技術者個人と属する組織の利益を優先することが長年継続されてきたように感じますし、個人のほとんどは属する組織の評価が生活に直結する以上、その流れは今後さらに強まり、技術者は保身の為に一層基準やマニュアルで判断して責任回避するようになると思います。そうした事について、一部では危惧があるのではないでしょうか。そもそも、誰でも理解できるよう作られたものが基準・マニュアル等であり、熟練度に応じてその中身は個人で更新していく前提があるはずですが、何故、基準・マニュアルを更新しないのでしょう。

 憲法・法律等ですら情勢や条件に応じて変えていく立て付けであり、それに付随する基準やマニュアルが臨機応変であると考えるのはごく自然の事です。当然、更新を続ける事がさらなる社会貢献・スキルアップへとつながり易くなりますので、基準の解釈による条件別対応、マニュアルの加筆修正は私たちの存在価値の一部ではないかと思います。土木技術者として日々研鑽してきたのであれば、自分で立てた仮説を検証し、仮説の修正、現場での改善も可能なので技術者にとって腕の見せどころです。現場に多くの時間を費やすはずの施工者が、あたかも現場事務員に転職したかのように書類作りに追い込まれ、さらなる効率化を求められてきましたが、その後の働き方改革等によってさらに現場へ行けなくなりました。

 今まであちこちで何度も主張まいりましたが、基準・マニュアルは煩雑にならないよう、また読み易くするために最低限のものが記載されていると思います。基準・マニュアルは各々が公益を守るよう良心に従って使う事が前提としてあり、ストック効果を最大化する事についての記載はヒントにとどまっている事からも個人で考える余地がかなりあるはずです。

 もし、完全無欠に近い、ストック効果最大化を果たすマニュアルが存在するとするなら、そのマニュアルは発注者が求める耐久性を含む性能毎、環境条件毎、材料毎・手順毎等々詳細となり、それらを全て乗じたもので細分化されます。当然その量は膨大、内容はとても複雑となり、それを読み解くには現場経験値と知識が膨大に必要となって手に余ります。様々な解釈等をするにあたって、主に大学の先生レベルの有識者・研究者に加えて、特別な現場経験を持つ外注の技術者を加えて共に考えなくてはならないでしょう。そして運良く大学等が請け負ってくれたとして、多くの時間を費やして基準・マニュアルを読み解いたとしても、現場は日々条件が変わり、その都度対応が変わるはずです。例えば前提条件にはない事象に遭遇した時、そこで多忙な先生に連絡しても、会議・講義・研究等で連絡がつかない事が多いので、対応するのはおそらく夜遅くからであり、結論は何日後かもわからないと考えると、基準・マニュアルが最低限の事が記されていて、あとは当事者の力量で詳細を考えて対応する必要があることが分っていただけるのではないでしょうか。現場で起きる事のほぼ全てが特別な事を除いては現場技術者だけで解決する、そのような立て付けで基準・マニュアルが作られていると考えるのはごく自然の事ではないでしょうか。

 ですから、基準・マニュアル等の運用はそのまま使うのではなく、技術者個人が主体となって倫理観・技術力・閃き等、善なる思考・行動・経験値等が前提条件としてあると思いますが、そうした基準等を読み解く力の多くは現場で挑戦して培われると思いますので、まずは現場に出て前提条件等を考える、そして挑戦しながら検証し改善する事が土木技術者の本来在るべき姿だと思います。

セメントの脱炭素の力 私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。 JFEスチール ステンレスクラッド

国益に照らしてどうにか挑戦する技術者がいて欲しい

 ここで頭が痛いのは、前回記事で取り上げました人手不足に加え、働き方改革等で現状をどうしたものかというところだと思います。行き詰まった今、「国のいう事だから仕方ない」として諦めるのか、それとも協議してでもどうにかするのか。経験上ほとんどのプレイヤーは諦めて妥協すると思いますが、ここで国益に照らしてどうにか挑戦する技術者がいて欲しいと願うばかりです。

 挑戦や失敗する事の意義、それは挑戦しない者から得られるモノと比較して数倍、時には数万倍以上も国家に有益な事が成し遂げられるのは歴史が証明しております。もし、人類が今まで何も挑戦せず生きてきたなら、私たちは毎日自給自足しながら生きていたでしょうし、生まれた地域で一生を終えていたはずです。現代に生きる私たちが享受している豊かな生活、その全てが先人達によって気が遠くなる長い年月、絶えることなく挑戦して築いてくださった結果だと考えますと、我々も先人達同様に挑戦しない事について合理的理由がないことに気付かされます。

 ここで勇気を持って挑戦する時、留意いただきたいのは、簡単で結構ですので、その前提条件を記録する事でしょうか。改善するにもしても記録があれば整理が簡単で、成功失敗に関わらず様々な仮説も立てやすいので、それなりの成果が期待できると思います。

 私の記事を読んでいただいております方々のご意見で、「あんなこと自分では無理」、「本当にできるのか」等の否定的意見が圧倒的のように聞いております。

 紹介しております現場技術の難易度について申し上げますと、まず、特別な者だけしかできない技術・技能が前提では広く伝わらないと考えて、誰でもできることで成立しており、特別難しい条件下で成し得たものではありません。それを証明するために、先生方・発注者立ち会いのもと、最初は私が手本を見せながら取組んで、それを作業員に真似してもらい、誰でも出来る事を複数回確認いただいております。このような挑戦をするに当たって、もし施工者に求める条件があるとしたら、「日本語が理解できて、社会貢献した事を褒められたら嬉しく感じる程度の良心、健康が最低限必要でそれ以外は特にない」と伝えております。そもそも私が若い頃、良かれと思ってコンクリートの上限要求や加水していたレベルでしたので、その頃の自分に教えるようなイメージを持って現場で取組んでおります。そうしますと、ほとんどの技術者は昔の自分のように思えて分らない事を丁寧に助言できますし、監督者・作業員と意気投合しながら盛り上がることも珍しくありません。

 ここで、この記事を見ていただいている皆様に、極劣コンクリートの現場について、発注者・施工者と協働して一定の成功を収めた1つの事例がありますので、挑戦前の施工者と現場がどのような有様で、それがどのように変化したか、分りやすく紹介したいと思います。

セメントの脱炭素の力 私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。 JFEスチール ステンレスクラッド

抵抗の強い業者に根気強く指導

 あるとき発注者から 「砂防ダムのコンクリートが酷い、可能であれば品質改善できないか一度現場で確認して欲しい」とお話がありました。

 それから現場へ赴いて確認しますと、コンクリートが全体的にルーズで汚く、多くのアバタ(写真-1)が発生しておりました。ダムに勾配がついていますので残留気泡は仕方ないとしても、ここでは気泡の大きさと量が多過ぎましたので、締固めが不十分なことが分ります。その下のロットでは水の這い上がり痕(写真-2)がダムの下流側だけで1日の施工で13箇所も確認できました。ここで使用されたはずのコンクリートはスランプ5cm、水が這い上がる事はあり得ず、スランプ上限要求か規格外の確信犯です。下流側は人目につくので丁寧な施工をしたはずがこのあり様ですので、上流側は人目がない事から高い確率で下流側より悪いと推測できました。


(写真-1)全体でアバタ

(写真-2)水の這い上がり痕 1ロットで13箇所


 先に触れたスランプについて、当時、全国で常態化しておりましたが、受入検査の1台目だけ合格するよう調整し、2台目から規格外が搬入されていたのだろうと推測しました。その根拠として、規格上限をはずれたとしても水の這い上がりがここまで生じる事はないからで、それが1ロットで片方の下流側だけで13箇所であることを考えると、施工者が規格外の軟らかいコンクリートを意図して発注したと断言できます。そもそも、意図しないコンクリートが搬入された場合、アジテータ車のシュートから流れるコンクリートの速度を見た瞬間、もしくは現場でホッパーからコンクリートが排出される状況から数秒程度で違和感があるはずで、そこで指摘・改善すれば1日中意図しない高スランプや規格外と推測されるコンクリートが搬入されるなどあり得ないのです。

 ただ、私も若い頃に経験がありますが、知識・経験の少ない施工者は規格外含めすれすれのスランプ上限要求で注文する事が多いのですが、軟らかいコンクリートで綺麗に仕上げようと思ってやっている、もしくは資金・人手に余裕がなくて効率化していると感じましたので、誘っていただいた発注者に対し、「施工者に話して、やる気になっていただけたら簡単に良くなるでしょう。」とお伝えしました。あわせて、施工者に以下の点で気を付けていただけるようお願いしました。

 「コンクリートは硬いものを空気が出なくなるまで丁寧に締固めてください。軟らかいコンクリートは白くて綺麗に仕上がる反面ひび割れは多くなり、締固めるとブリーディングが大量に発生し不具合も多くなるので使わないよう。」

 以上をお伝えしたところ、元請より「元請のいう事は聞かないから、下請社長に直接話して欲しい」と言われ、私から直接お話したところ、「今まで言われてきた事、やってきた事と違う」等々予想外の強い抵抗がありました。確かに、今までと全然違う事を言われても納得しないだろうと思い、「うんうん、確かにそうですね」と頷きながら論より証拠、材料・施工等の前提条件が仕上がりにどのような影響を与えるか脱枠前に事前予告すればお互い理解も深まり、ここで良心のある者であればこちらを信用するだろうと思い、次回以降のコンクリートに立ち会う事をお伝えして事務所へ帰りました。

 後日、コンクリート打設を確認したところ、アジテータ車のシュートを流れるコンクリートは軟らかいコンクリートでしたので、ホッパーから排出されるコンクリートは横方向へ一定量流れる状態(写真-3)でした。ここで、同じ現場で是正されたスランプ5cm(写真-4)はどのような状態であるか比較したいと思います。


(写真-3)設計スランプ5cm(規格外が疑われるコンクリート)

(写真-4)スランプ5cm


 

 言うまでも無く両者には大きな違いがありますが、(写真-3)は規格外であり、控えめに言ってスランプ上限要求していると考えられます。ここでは下請社長さんへ硬いコンクリートで空気が生じなくなるまで締固めるようお願いしたところ、「締固め過ぎると空気の排出がとまらなくなるし、今まで過振動は不具合が生じると言われ続けてきた」等の強い抵抗を受けました。私から、押しつけるのでなく同調するかのように、「確かに軟らかいコンクリートでは指摘に近い事がある事は経験があります。ただ、硬いコンクリートの場合は締固め時間が長くても指摘される事象はなく、ひび割れ等の不具合も生じなくなりますよ。」とお伝えしました。そして、(写真-1・写真-2)が軟らかいコンクリートによって起因する不具合である事をお伝えしましたが、社長さんは釈然としない様子でしたので、早期の改善は見込めないと判断し、現場に頻繁に通いながら対応を考える事にしました。

セメントの脱炭素の力 私たちは、循環式ブラスト・ショットピーニングで予防保全型メンテナンスを推進します。 JFEスチール ステンレスクラッド

pageTop