まちづくり効果を高める橋梁デザイン

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2025.08.04

vol.7 維持管理と景観の両立を目指す。 まずはこの5つを日本のスタンダードにしませんか

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CORE技術研究所 インフラを技術で守る 橋台背面の段差を抑制 可撓性踏掛版
>二井 昭佳氏

国士舘大学 理工学部 
まちづくり学系 教授

二井 昭佳

はじめに

 みなさま、梅雨が明けて本格的な暑さがやってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。今回もご覧いただきありがとうございます

 以前から「〇〇と景観の両立を目指す」というシリーズを書きたいと考えていました。といいますのは、優れた橋を生み続けるには、橋に関わるさまざまな分野の専門家、なかでも対立する(と思われている)分野の専門家が意見交換し、双方にとってメリットのあるアイディアを蓄積することが大切だと考えているからです。

 そこで今回は勇気を出して、維持管理に注目したいと思います。

 僕の専門は景観デザインですので、維持管理については調べた上で書いてはいるものの、間違っている点があると思います。お読みいただいて、ここは間違っている、こう考えればもっと良くなるといったことがありましたら、ぜひご指摘いただけたらありがたいです。必要に応じて掲載した原稿を修正したり、ご本人の許可を得た上でご意見を紹介したいと思います。僕のメールアドレスはこちらです(niiアットマークkokushikan.ac.jp)。

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景観アドバイザー協議で感じたこと

 国や市町村の景観アドバイザーを務めている関係で、橋についてもデザインアドバイスをすることがあります。その際によく言われるのが、「デザイン的には良いのかもしれませんが、維持管理上難しい」という回答です。

 僕も維持管理に劣る橋にしたいわけではありませんので、どこが課題なのかを聞き、代わりの案を出します。時には、相手の方がアイディアを出してくれることもあります。こうしたやりとりをいくつかの橋で経験するなかで、感じたことがふたつあります。

 ひとつは、必ずとはいきませんが、アイディアを出しあい議論することによって、維持管理的にも景観的にも満足する落とし所がみつかることです。これは、僕にとって嬉しい経験で、向こうも同じように感じてくれていれば最高ですが、いずれにしても、維持管理と景観は必ずしも相反せず、協働できることを実感できました。

 もうひとつは、橋梁点検への対応が、過剰あるいは形式的になっているのではないかということです。点検に必要な施設が、逆に橋の劣化を引き起こすことにつながっているのではないか、と感じています。これは、ぜひ維持管理の専門家のみなさまのお考えをお伺いしたいところです。

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橋梁点検への対応が形式化している?

 かつて30年ほど前、景観がブームのようにもてはやされた時期があります。その頃ちょうど学生だったのですが、いろいろと奇妙なものも造られました。そのひとつに親水護岸があります。親水護岸は、その名の通り水辺に親しむための施設ですから、それ自体は歓迎すべきものです。しかしだんだん形式化して、人がほとんど行かない場所にも親水護岸が造られるようになってしまいました。親水護岸は大事らしいから、とりあえず親水護岸にしておこうという発想です。こうしたことが、多くの良識ある土木エンジニアの目にどのように映ったことでしょうか。その後、景観分野に訪れた反動を見れば、その答えは一目瞭然です。

 橋梁点検にも同じような危うさを感じています。その例として下の写真をご覧ください。山形県のとある市の調査に向かっている途中で見かけ、衝撃を受けた橋です。


写真1 衝撃を受けた橋


 鋼2主箱桁橋が上下線で架かっています。主桁の間に検査路があり、かつ両側の桁外側にも検査路がついているので、ひとつの橋に3本、2橋で計6本の検査路が橋軸方向に配置されています。

 たしかに全ての桁側面を迅速に検査することはできるでしょう。しかし張り出し幅が大きくないので、桁外側の検査路は雨がかりしそうで、かえって劣化の要因をつくってしまっていると感じました。加えて検査路が邪魔をして、地上からの目視も難しくなっています。

 東北地方整備局の設計施工マニュアルを確認してみると、「こ線部や交通量の多い交差点上の上部構造では、各主桁間へ検査路を設置することも考えられるが、各主桁間への検査路設置等、検査路を過度に設けたために橋梁下からの日常点検が難しくなってしまうような状況をつくらないような配慮も必要である。」とあって、このような橋が増えてしまったことへの対応のようにも読み取れます。

 橋梁点検は、橋梁の長寿命化にとって必要不可欠なものです。だからこそ、形式的に対応するのではなく、この橋の橋梁点検をおこなう上で本当に必要な方法は何かを真剣に考えていきたいものです。

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維持管理と景観の両立に向けて目指したい(とりあえず)5つのスタンダード

 橋梁の長寿命化に関する行政資料を見ると、その基本として、定期的な検査によって壊れる前に適切な補修をおこなうことが掲げられています。その前提として、設計段階で、橋を劣化させる要因をできるだけ排除することが重要なのだと思います。そこで、この原稿では、設計段階に注目し、維持管理と景観の両立を探っていきます。

①現場溶接をスタンダードに

 ヨーロッパの橋に接していると、日本とは現場溶接に対する考え方がまったく違うことに気がつきます。向こうでは、ボルト接合の橋を見かけることがほとんどないのです。著名な橋がというわけではなく、普通の橋にも当たり前のように現場溶接が用いられていて、溶接が部材接合のスタンダードなのだと感じます。


写真2: 全溶接の橋の例(ニーベルンゲン橋レーゲンスブルク、2005年)


 一方で、日本ではボルト接合が一般的です。僕は現場溶接をよく提案するのですが、「橋梁メーカーの方が嫌がりますよね」と行政や建設コンサルタントの方に言われることが多い。ですからてっきり、現場溶接の橋が少ない理由は橋梁メーカーがやりたがらないからだと思い込んでいました。しかし、あるプロジェクトでご一緒した橋梁メーカーの方に同じように聞いてみたところ、「そんなことありません。現場での風防設備や工期などの条件が整えば、現場溶接できますよ。例えば新東名の鋼橋はすべて全溶接です。」という答えが返ってきたのです。この話を、上記の発注者の方にしたところ、同じように驚いていました。

 こうしたやり取りで感じたのは、どちらの意見も正しいのですが、残念ながら次のような負のループになっているのではないかということです。橋梁メーカーとしては現場での風防設備や工期などの条件が整わなければ、現場溶接は困難だと言わざるを得ない。それを言われた行政や建設コンサルタントでは、現場溶接は難しいという話が内部で広まっていく。あるいは、現場溶接を発注したことがない、工期などの不確定要素のリスクを無くしたいと考える場合があるかもしれません。

 結果として、現場溶接にできる可能性が高い橋でも、ボルト接合で設計する。施工者も、現場溶接が強く求められていなければ、あえて変更する必要はないと考える。現場溶接にこだわる発注者や設計者がいなければ、現場溶接の橋が生まれない構造になっています。新東名の橋がすべて現場溶接だったのは、厚板の使用もあったのでしょうけれど、ネクスコ中日本が現場溶接でやると強い意志を持って進めたことが大きいと思います。

 溶接の方が鋼重は減り、応力伝達の観点でも優れていると言われています。維持管理の観点で見ても、ボルト接合の腐食劣化やボルトの検査手間などを考えると、溶接のほうが優れているのではないでしょうか。

 また景観の観点でいえば、圧倒的に溶接の方が優れています。リベット接合のように橋全体にリベットが使われる場合と違い、ボルト接合では部分的にしか接合部がでてきません。これが、ツギハギの印象を与えることになります。ボルト接合に見慣れた目で現場溶接の橋を見ると、桁の美しさを実感できると思います。

 名高速の東山線は、全体からディテールまで丁寧にデザインされた日本を代表する高架橋のひとつだと思いますが、なかでも白川出入口から吹上東出入口の2.7㎞区間は、全て溶接となっています。やっぱり全溶接の橋は美しいですよね。

写真3:名古屋高速東山線の矢場町付近


 近年では、厚板の増加や防食の観点から、現場溶接の事例が増えていると言われています。現場溶接をスタンダードにし、現場での風防設備に必要な協議や、現場溶接の可能な工期設定を当たり前にすれば、現場溶接の橋を飛躍的に増やすことができそうです。

 構造的にも、維持管理的も、景観的にも溶接の方に軍配があがるなら、日本でも溶接をスタンダードにしていくのはいかがでしょうか。

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②溶接+密閉構造の鋼箱桁をスタンダードに

 駅前のデッキや歩道橋のプロジェクトに関わっていると、桁高を抑えた鋼箱桁橋を本命にしたい場合が出てきます。しかし、ここで立ちはだかるのが、箱内の検査路の確保です。大抵の場合、1.4mの桁高を確保したいと言われます。

 つまり構造的には1mの桁高で十分でも、1.4mの桁高の鋼箱桁橋になってしまい、時には鈑桁よりも箱桁のほうが、桁高が大きくなるという構造的な矛盾が生じてしまいます。

 こうした経験から、鋼箱桁の密閉構造がもっとスタンダードになればよいのと感じています。密閉構造による箱桁内の状態については、藤野先生たちの研究1)をはじめ、漏水がなければ箱内の健全度は高いという結果が示されています。

 下の写真は、ドイツのレーゲンスブルクのシンボルとも言えるシュタイナーネ橋にとりつく歩道橋です。橋脚は以前の橋を再利用しているので太いですが、上部工は30cm程度の鋼箱桁にコンクリート床版を載せた構造で、区間によってプレキャストと現場打ちを使い分けています。非常にすっきりしていますよね。

 箱内検査が必要と言っても、たとえば鋼管トラスの鋼管内は目視による検査ができないわけですし、桁高が小さければ、箱内に入って検査することを必須にしなくても良いのではと感じます。

 溶接+密閉構造がスタンダードになれば、低い桁高の鋼箱桁が可能になり、コストや景観にも優れたペデストリアンデッキが増えると思っています。


写真4,5:レーゲンスブルクのシュタイナーネ橋のランプ橋

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