新しい時代のインフラ・マネジメント考
1. はじめに
先月11月は、異常に講演依頼が多く、スケジュールが混んでいて非常に疲れた。もう若くはないと感じたが終盤になってきたら逆に調子が良かった。忙しく動いていると調子が良い。何とも貧乏性で悲しい性質を感じた。何とも古い人間だ。最近の若者の動きを見ていると、大体、木曜日から週末に多くの方が動いている。これは格好から見て個人的な旅行などである。
我が国も変わったなあと思う。余裕というかゆとりが感じられる。
例年担当している、JICA沖縄研修所の研修もあった。この講座には各国の若手の官僚の皆さんが来ている、参加国は例年減っているという印象であるが非常に熱心である。話していると、途中で質問があり、それに対し議論がはじまる。「うちの国ではこうだけどどうだ?」とか「こんなこともある」という具合であり、今年は塩害に関する議論になった。あまり日本では見られない。素晴らしい。
わたしの投稿は、「写真が少ない。」とコメントをいただくがこれは現役ではなく、あまり写真を撮れないからである。お許しください。
2.何度も書くが・・・
12月1日に、家田先生が八潮の事故後の検討委員会の結果から、提言書をまとめて国土交通大臣に手渡した。「信頼されるインフラマネジメントの戦略転換」である。俗に第3次提言である。
「新技術の積極導入」と「マネジメント」がインフラマネジメントにおいては肝である。そして、モメンタム。これらが理解できなければ、対応は難しいであろう。ここで注目すべきは、「長寿命化」「予防保全」ではなく「マネジメント」と言う言葉を使っているところである。私は15年以前前から、マネジメントという言葉を使ってきたが、やはりこれが適切であると思う。全てにわたってマネジメントは必要ではある。
単体での対応ではないということである。よく「○○の設計技術」ということを言うがそうではない、設計も含めたマネジメントである。設計や施工・維持管理とすべての面において考えていくことが重要である。
新技術において、ドローンということが、マスコミでもよく出ているが、これは使い方である。使えない場合が結構ある。制約・制限が多いのである。しかし、新技術=ドローンと思っている方々が多い。ドローン神話は健在である。なんともはや、情けない。どういう場合にどういうふうに使うかとかいうことがわからないで使おうとしている。これも単体技術に固執する、日本人の悪いところである。マネジメントという観点からすると、ドローンでスクリーニングやあたりを付けて、より確実な調査手法を考慮して実施することが重要なのである。新技術は、ほかにもたくさんあるはずである。それの価値がわからなくて使わないのは、非常にもったいない。非破壊検査技術や、計測技術にも皆さんが理解できていない活用法はある。とらわれすぎて、新たなものに目がいかないのは、実は今始まったことではない。これは何が悪いのか? マネジメントができていないからである。
私が、これまで、提唱しても、さんざん批判されてきたことが、ここにきて着目されだした。そうするとまた今度は分かったようなことを言い出す輩がいる。「あれ!あなたはこの前まで批判してなかったけ?」まあ、そうやって後追いでも考えてもらえれば構わない。しかし、またそこにケチをつける連中がいる。そういう方々はやらなければよいのである。そしてどうなるかは自己責任である。やってもやらなくても。取り組んでも取り組まなくても、結果はすべて自己責任。それもマネジメントである。
少し乱暴なことを言おう。インフラマネジメントがうまくいかない要因で大きいのは、いまだに昔のままの考えだからである。「作る時代」「成長期」の考えでやっている。意外と街づくり系は、うまくシフトしてきているが建設系はできていない。これは感受性が悪いのか、首長さんや議会が古いのか? 職員自身が何も考えていないのか?
やはり、組織というものは重要である。1人ではできない。高度成長期は終わり縮小社会に向かう中で、組織も変われないようでは、先はない。大きな組織ほど難しいのであろうが、変えなければ、変われない。意思表示も重要である。みなさん他人の言葉尻をとらえて批判するのは得意である。私が様々な施策を打ち出すたびに「ネーミングが悪い」ということで批判された。しかし、その裏にある、変えようと言う、意志表示を見落としている。今までできていなかったものをやろうという心意気である。これが重要なのだ。マスコミでさえも批判気味な書き方をしてきた。
新技術の話から飛躍したが、新技術は、それを理解するだけの基礎知識がないから理解できないのである。例えば、ドローンをやるにしても、それなりの知識や技術力がいると言うことを忘れている。他の技術も同様である。結局、ドローンは制約が多すぎるので状況を十分に検証する必要がある。構造体全体はドローンで調査できても部材の詳細は、別に調査しないと危険であると言うことを理解したうえでの使用であれば、よろしいがそうではない場合は、細部の問題が残ってしまう。維持管理とは全体の見通しも重要であり細部詳細の点検も必要になる。ここが理解されなければ事故は繰り返される。
「新技術が導入されない」という話をよく聞くが、もしかして一方通行になっていないだろうか? すぐに飛びつく者もいる一方、理解できずに採用されない場合もある。こういう場合は理解されるような努力が必要である。技術を売り込むと言うことは大変なことである。また、わたしの関係する協会でもよくあるのだが、協会に入ってさえいればなんとかなると思っている人たちがいる。こういう考えは高度成長期の考えである。今はみな慎重になっている。特にインフラメンテナンス関連は税金を使うのでより慎重であるべきだ。効果のない物を使って失敗するのは良いが、その後どうするのか?きちんとした実績と、それを世の中に示さなければならない。世の中に示す方法も多々あるが、口先だけというのはもっともまずい。きちんと活動をして報告をしないと実績とは認められない。報告とは学界や専門誌などに論文や工事報告を掲載し公にすることである。ブラックボックスというのはもっともまずい。
官側は、新技術の効果を見極める目と、判断力が必要であるし民側は、説明する努力と実証、が必要である。口先でごまかすのも昔のやり方、立派な報告書のような冊子を持ってきてごまかしていくものもいるが、すぐに見破られる。
先月書いたように、官も民も勉強が重要である。これは、学生時代のような勉強ではない。どうも話していて感じるのは、すぐに答えを求めたがる傾向にあるが、新技術もマネジメントにおいても正解はすぐには得られない。これが実社会である。どうも、“実務”ということが忘れられている。実務はどんくさいのである。AIに頼る世界もそうなりかねない。
3.マネジメントは
マネジメントであるが、実際わかっている者は少ないのではないか?「マネジメント、マネジメント」とすぐに言葉に出すが、実際は分かっていない。「戦略、戦略」と言っているのと同じである。本来一番わかっていそうなゼネコンでさえわかっていない。残念なことである。

難しい理論がわかっても、マネジメントは始まらない。物事を実際にどうするかである。答えはどこにも書いてないものを、実行するのだ。「群マネ」の説明会が、県単位などで実施されている。どういう内容かは知らないが、「説明会」である。蛇足だがそのうち道路橋示方書の説明会も行われるであろう。実は、説明会には、答えはないはずなのである。それがマネジメントである。
とにかく、自分で考えないと答えは出ない。コンサルタント任せでは、役に立たないものになってしまう。最初の導入部や何をやりたいのかは自分たちで考えないとダメ。そして十分に協議して、納得のいく実行案を出さなければならない。個々は役割分担である。それが理解できていない、コンサルタントが実績作りのために暗躍している話はよく聞く。
実は群マネの手引きの中にある事例でも、やり方を間違えると何にもならない事例は載っている。これは仕方がないことである。マニュアル重視主義の結果である。自分で判断すべきである。多くの方々は、標準化ということが嫌いだが、使い方なのである。委員会などで検討し結果をマニュアルかしたがるが、これは使う側が考えないと、思うような有効な結果は出ない。マニュアル自体は良いのだが使い方を間違っている場合が多い。標準化に従った方が良い結果になる場合が多い。十分に自分たちで考えてやっても失敗する場合はある。それはそれで軌道修正すればよいだけである。これからは、協業が重要である。それぞれの役割分担で有効なシステムを構築していくことこそが群マネに求められる。
これまで、この業界では一部の人間だけしかマネジメントを真剣に考えてこなかったのではないだろうか? 考えると言うとまた難しいことを言う方々が多いが、そうではなくて「実践マネジメント」である。単発の仕事をしているとどうしても単発の話になってしまう。1事業1事業ではなくトータルで考えねばならない。忘れがちなのが、マネジメントとは、計画から始まる。計画⇒調査⇒設計⇒施工⇒運用⇒管理⇒点検⇒診断⇒対処⇒判断⇒更新・撤去⇒廃棄・処理という途方もなく長い工程を管理しなければならないと言うこと。現在のように、いい加減に作られたものを管理しろというのはリスクが大きいだけである。まずは作るところからきちんと管理することが将来の維持管理を適正なものにするわけである。現在、設計時に検討しているはずのLCCに関しても、私は非常に疑いの目を持っている。検討が甘い。何よりも甘いのがいわゆる付属物である。どうしても、本体よりも手が抜かれる可能性が高い。そして歩道橋やオーバーブリッジである。
とにかく、マネジメントは考えることである。これができなければ何もできない。これまで私の提唱してきた、マネジメント計画の中の、施策を取り上げて批判してきた方々が大勢いたが、批判されることに関しては一向に問題視しないが、「じゃあ、あなた方はどうするのか?」ということである。ただ点検し、ひび割れを拾い、維持管理ができていると思っているとしたら、相当にヤバイ! いずれ事故を起こすか、その自治体は荒廃し破綻する。この馬鹿にしてきた人たちが役所の人間ならば、単純に自業自得で、お疲れ様であるが、民間のコンサルであるならば、何も考えない連中であり、現役であったならば仕事は頼まない。そして、最近でも偉そうにトリアージについて私に講釈し説明する輩もいる。笑ってしまう。
マネジメントサイクルと皆話をするが、良く示されるマネジメントサイクルでは片手落ちである。先に書いた今年のJICA研修において私のマネジメントサイクルを、評価してくれた受講生がいた。研修の成果等アクションプラン・サマリーレポートの発表があるが、その際にサモアのティムさんが「サモアは現在、橋のメンテナンス・プログラムを開発中である。植野氏の『橋梁マネジメント』についての講義から引用したこの図表【マネジメントサイクル】は、私の重要な学習成果のひとつである。」と評価してくれたのはうれしい限りである。日本人が、短絡的なマネジメントサイクルをありがたがっている中、理解者はいるものだと思う。マネジメントは単純ではなく複雑な流れの中に様々な要素が絡み合って存在する。
まあ、とにかくマネジメントの神髄は「考えて、考えて、考えて、考えて、考えて」、そして実行し何とかすることである。






