橋梁四方山話

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2026.01.01

第5回 部分プレキャスト化による主桁断面最適化

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透明素材により内部を見える化したボルト防護用キャップ 全てのコンクリート構造物の調査・診断・補強・補修に関する総合エンジニア ねじ摩擦圧接式あと施工アンカー FWアンカー
>春日 昭夫氏

三井住友建設株式会社
エグゼクティブフェロー

春日 昭夫

1. 測量に追われた支保工施工

 前回は小田原ブルーウェイブリッジ(1994年完成)の話をした。その現場では、筆者はメイン部だけでなく東側のアプローチ部も担当した。3径間の広幅員3室箱桁ラーメン橋で、支保工施工ある。1980年代は支保工といえばビティー枠や四角支柱を使用し、会社が資材を保有していた。この頃経験した二つの現場では、職員自ら支保工の計算をし、図面を描いていた。しかし、1990年代の小田原ブルーウェイブリッジのころは、既に支保工は組立効率の良いシステマチックなレンタル資材となっていた。計算も図面も全てお任せである。

 そのような状況でも、支保工施工での若手職員の仕事はとにかく測量に追われる。支保工の基部になるH鋼敷設時、支保工支柱を立てた後の天端の高さ、底板型枠の設置時、PC鋼材のシース高さ、床版型枠高さ、コンクリート打設天端高さ、等々、レベル測量に明け暮れると言っても過言ではない。これに曲線桁の構造中心位置の測量が加わる。正直、支保工は二度とやりたくないと思った。

それから15年、近畿地方整備局発注のデザインビルド案件である茄子作地区高架橋(2009年完成)を受注した。橋長790mの20径間、幅員は約15m、2主箱桁の上下線である。基本設計は支保工施工であった。筆者には小田原の経験どころではない現場の苦労が想像できた。「何とかしたい。」と考えた末が、U桁リフティング工法であった(図-1)。


図-1 プレキャストU桁のリフティング


 基本設計が普通の箱桁であり、外形は変えられなかった。したがって、Uコンポ橋に比べると桁の幅が広く、重量も重い。幸い桁下が自由に使えるので、場内の製作ヤードから架設地点まで、プレキャストのU桁をベンツのトレーラーで運搬した(図-2)。そして、2点で支持して直上に吊上げた。桁を架けた後は、プレキャスト板を設置して上床版コンクリートを打設する。


図-2 プレキャストU桁の場内運搬


 これは想像以上にうまくいった。当初半信半疑だった所長も「これはいい。」と途中でほめてくれるようになった。支保工施工に比べ、職員も作業員も各段に少なくて済む。このU桁リフティング工法は、このあと同種の橋でも多く採用された。現場で「支保工施工は二度とやりたくない。」という経験が生んだヒット商品である。

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2. 残業のない現場

 筆者の会社が波形ウェブ橋に取り組むようになったころ、高速道路の橋は全外ケーブルの時代であった。最初の波形ウェブ橋が小犬丸川橋(2001年完成)である。支間長81mの橋であるが、工費が随分と嵩んだ。ウェブは波形鋼板だが、とにかく手間がかかる橋であった(図-3)。「次までに何とか施工を合理化しなければ。」という焦燥感に駆られた。


図-3 従来工法の架設作業車内の施工状況


 波形鋼板には上下にフランジがついているが、コンクリートのクリープにより拘束されるのを嫌って、フランジは不連続であった。そして、これはフランスのカンプノンベルナール社(現在のVINCI)の特許であったために、日本の企業は実施料を払いながらこのディテールを使用していた。しかし、解析してみるとこの拘束の影響が小さいことが判明したので、フランジを毎回ボルト接合して、波形ウェブを架設時の構造部材とすることにした。そして、張出し先端のセグメント(n+1)では波形鋼板の架設、接合、その一つ手前のセグメント(n)では下床版の施工、そして、さらに一つ手前のセグメント(n-1)では上床版の施工というように、三カ所に分けて張出し施工を行う工法を考えた(図-4)。我々はこれを「Rap-Con」と呼んだ。この改良で、特許の実施料が回避できたことは言うまでもない。

 架設作業車も従来と異なり、波形鋼板のフランジの上に設置する特別なものを製作した(図-4)。大きな省力化は上床版の施工である。波形鋼板のフランジ上にプレキャストのリブを置き、その間にプレキャスト板を敷いて場所打ちの上床版を施工する(図-5)。手間のかかる外ケーブルの定着はリブに設け、現場作業を最小限にした(図-6)。上床版の作業は鉄筋と横締めPC鋼材を配置するだけで、かなりの省力化になった。ある時、同じようなことを考えていたという他社の方が、私に「やられた!」とぼやいた。新しいアイデアは、同じことを考えているものが世界に3人いると言われる。まさに「思い立ったが吉日」である。


図-4 Rap-Conの架設作業車

図-5 上床版のプレキャスト板敷設と補強鋼材組立
図-6 リブに内蔵された外ケーブル定着体


 この工法を最初に採用したのが、ともに2004年完成の信楽第七橋(図-7)と津久見川橋(図-8)である。この後、筆者の会社ではほとんどの波形ウェブ橋は、このRap-Con工法を採用した。そして、内ケーブルが解禁になってからも、様々なバージョンのRap-Conが生まれた。筆者は、津久見川橋の竣工時に言われたベテラン所長の次の言葉が忘れられない。「春日さん、この現場は残業をしない初めての現場でした。」我々は、20年前に既に働き方改革を実践していたのである。労働時間の法的規制の再考が議論されているが、橋梁技術者には創意工夫で省力化に挑戦する余地がまだ残されている。


図-7 信楽第七橋

図-8 津久見川橋

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3. 万能なコア断面先行施工

 橋の部材を部分的にプレキャスト化することは、施工の合理化の上で非常に有効な方策である。部分的なプレキャスト化は、現場の揚重機を従来工法とほとんど変えることなく施工できるので、コスト的にも不利にならない。また、筆者の会社は全国にコンクリート工場が七つあるので、部分プレキャスト化を採用する時は大いに助けになっている。

 施工の合理化の大原則は「架設する荷重をできるだけ減らして、架設機器の軽量化を図ること」である。そして、一部の部材で構造系を完成させて、それを足掛かりにして残りの部材を施工する「コア断面先行施工」はこの原則に則った工法である。筆者が最初にこの工法を採用したのが揖斐川橋(2000年完成)の東側の側径間施工であった。157mの側径間は揖斐川のスーパー堤防を跨ぐので、(嫌いな)支保工施工は不可である。そこで考えたのが「斜材併用逆張出し施工」だ。揖斐川の幅員は33m。メイン部はプレキャストセグメント工法で、台船で海上輸送を行い、リフティングで架設する(図-9)。当然、側径間はこの工法は使えない。5mのリブ付き張出し床版を有する33mの主桁は、そのままでは巨大な架設作業車による場所打ち工法となるので、早々に選択肢から消えた。


図-9 プレキャストセブメントの吊上げ装置


 結局採用した工法は、幅9mのコア部を斜材併用逆張出し先行施工とし(図-10)、メイン部と連結後、残りを施工済みの主桁に荷重を負担させて施工する工法だ(図-11)。張出し床版部は、プレキャストリブの上にプレキャスト板を敷設し、上床版を場所打ちで施工する工法をここで初めて使った。この揖斐川橋の経験が、「コア断面先行施工+プレキャストリブとプレキャスト板による場所打ち床版」という数々の合理化施工につながる原点となった。その好事例を二つ紹介する。


図-10 側径間コア断面の斜吊併用逆張出し
図-11 連結したコア断面部を利用した側径間の施工


 一つ目はスパンバイスパン工法で架設された古川高架橋である(2002年完成)。住宅街を走る1.5kmの高速道路で、プレキャストセグメントを工場で製作して、架橋地点まで100kmの距離を運搬する初めての工法であった。鍵は如何に架設重量を減らすかである。全断面から上床版を場所打ちにするリブ付きU型コアセグメント断面に変更した(図-12)。これにより、セグメント長が1.9mから2.6mに、セグメント数が1800から1300に、そして架設桁重量が900tから330tに改善されたのである。結果的にコストが2.5%削減されたので、そのお金で開断面の実物大実験を実施することになった。上床版コンクリート打設時に発生するねじりモーメントの管理値を決めるためである。この時、厚さ30cmのリブが開断面のねじり剛度に寄与することも分かった。


図-12 リブ付きU型コアセグメントのスパンバイスパン架設


 二つ目の事例は押出し工法で架設された桂島高架橋である(2005年完成)。この橋も架設時の軽量化が求められた。広幅員である第二東名は、通常の断面では押出し時の反力が大きく、鉛直ジャッキが1ヶ所当たり2セット必要であった。当然コストも通常より高く、何とか押出し時の桁重量を軽量化できないか策を練った。そして、ここでもコア断面先行施工を採用した(図-13)。波形ウェブのコア断面先行施工により押出し時の反力は半減し、鉛直ジャッキは1セットで済んだ。張出し床版はリブ+ストラット構造で、押出し完了後にプレキャスト板を敷設し、場所打ちコンクリートを打設する工法である。このリブ+ストラット構造が次に紹介する山切1号高架橋でも活躍することになる。


図-13 リブ+ストラット付きコア断面の押出し架設

「これでいい」から「これがいい」にしませんか。その選定、より良くする余地があります。 PL-CF工法 アウトプレート工法 never-ending challenge

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