橋梁四方山話

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2026.01.01

第5回 部分プレキャスト化による主桁断面最適化

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4. 究極の制約条件下の施工

 15径間連続箱桁橋の山切1号高架橋(2006年完成)は第二東名と東名を結ぶ清水連絡路に位置する。架橋地点の東側には住宅街が、西側にはミカン畑が広がる。発注は支保工施工(!)であり、下部工は既に施工済みであった。そして、最初に発注者から思わぬ難題が投げかけられた。支保工の基礎はダウンザホール工法で杭を打つ予定だったが、その施工中に騒音が発生し粉塵が舞う。これは下部施工時に経験済みで、粉塵がミカンの葉に積もると清掃しなければならない。そこで古川高架橋のような工場プレキャスト工法を採用したいが、住宅街の道路が狭すぎて、セグメント運搬用のトレーラーが曲がることができない。「いい知恵ないですか?」となった。

 これは筆者にとって、それまでの経験の中で一二を争う難しい制約条件であった。まず、ミカン畑の清掃を前提とする支保工施工は選択肢から除外した。次にプレキャスト工法だが、外から運搬できないとなると場内で製作するしかない。そして、幸いなことに北側の橋台の後ろの土工部の施工が完了していて、製作ヤードに使えそうなのである。また、発注が支保工施工だったので工期が十分あり、セグメント製作台とストックヤードは最小で済む。検討してみると、この土工部はヤードとして使えそうであることが判った。支間長は45mから50mなので、張出し施工が可能だ(図-14)。橋台側から順次施工し、セグメントは施工済みの主桁の上を運搬する。柱頭部もすべて架設桁を使って上から施工できる。発注者に提案すると二つ返事で承認された。さて残るは断面。幅員は約12mの一室箱桁であるが、架設重量を減らすためにコア断面先行施工を採用した。張出し床版は、リブ・ストラット構造+プレキャスト板で場所打ちで施工する。工期は守られ、ミカン畑は何事もなく、近隣住民の方からの苦情も一切なかった。大成功であった。


図-14 架設桁によるリブ+ストラット付きコアセグメントの張出し架設


 主題から外れるが、筆者は橋の桁下からの視点が好きだ。リブやストラット構造の張出し床版は下からの眺めが気に入っている。素人ながら橋の写真を撮ってきたが、桁下の写真が多い(図-15)。ある時、愛知工大の先生が先に紹介した古川高架橋の桁下を見て、「寺社建築の軒下のようだ。」と表現してくれた。リブやストラットの眺めは、身近な寺や神社によって培われてきた日本人の感性に訴えるものがあるからではないか、と個人的に納得している。


図-15 リブ、ストラットの桁下の眺め

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5. 施工の合理化の行く末

 筆者の施工の合理化に対する追求は、サステナビリティやライフワークバランスが叫ばれる前からのテーマである。そしてそれは、既に始まっている建設業の担い手不足のひとつの解でもある。プレキャストセグメント工法は、目地の応力度をフルプレストレスにしなければならないので、場所打ちに比べるとPC鋼材量が増える。しかし、今まで述べてきたリブ+プレキャスト板は、上床版を場所打ちにすることで補強鋼材が連続し、少なくとも上縁側はこの制限を受けない。

 プレストレストコンクリート箱桁橋は、下床版、ウェブ(例えばバタフライウェブ)、上床版に関するそれぞれの部分プレキャスト化を既に経験済みである。担い手不足が益々加速することを考えると、コスト上昇をできるだけ抑えた部分プレキャスト化は有効である。そのためにも、設計、施工、R&D、PC工場が一つの会社で完結する日本の今のシステムは大いなる強みと言えよう。事実、日本のこの独自性は、かつてそうだった欧州から見れば垂涎の的なのである。

 カーボンニュートラルの次に控えるのがネイチャーポジティブだ。盛土より高架橋を、そして、橋もできるだけ地形改変を少なくする施工法が求められる。森林を広く切り開く施工時の仮桟橋は、徐々に選択肢から消えていくかもしれない。(筆者の嫌いな)支保工施工より空中戦を、となる時代が到来するであろう。その時、橋梁技術者の責務は、できる限りコスト上昇を抑えた施工の合理化に挑戦することである。このような挑戦は今のところAIにはできない。しかし、いずれはAIが建設のほとんどのプロセスを席捲する時代が到来するであろう。我々が心がけるべきは、「オペレーターに成り下がるな。クリエーターたれ。」である。

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