新しい時代のインフラ・マネジメント考

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2024.07.16

④60%に上る評価Ⅱの橋梁群

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鉄筋コンクリートを塩害からがっちり守り抜くAG-エポキシバー スクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代へ アクアジェット工法
>植野 芳彦氏

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人 国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

1.はじめに

 だいぶ暑い日々が続いている。先月までは、なんとなく忙しくしていたら、風邪をひいてしまった。咳がひどく、コロナの検査をしてもらったが陰性であった。しかし、1か月ほど咳が続いた。これも老朽化か?ところで最近、トリアージに関する問い合わせが多い。富山市にたいしても多いそうだ。

 私にしてみれば何をいまさら。である。しかしわかっていないな! もうトリアージの時期はすでに過ぎている。今や次の次元である。そんなことをしているから災害時にも遅れが出る。

 物事とは伝言ゲームである。例えばどんな重要な事項も、本省 ⇒ 地方整備局 ⇒ 事務所 ⇒ 県 ⇒ 自治体と行くにしたがって、少しずつずれて行くのが常である。これは、昔からの伝達方式としての仕組み上の問題である。ましてやポリシーまでは伝わらない。(これを言うと、怒られるかな?)なんでも当事者に聞かないと、真意のところは伝わらない。普通、政策的構想は役職で考える。そしてその人が居なくなれば少しずつ、ずれて行き衰退するのが世の常である。それではいけないと言われながらもどうしてもそうなる

CORE技術研究所 橋台背面の段差を抑制 可撓性踏掛版

2.現状のリスクと課題

 橋梁などのインフラ構造物の全数近接目視点検も3巡目となり、現在は点検実施の継続と補修工事が逐次進行されているのは、どこの自治体も同様である。しかし、「道路メンテナンス年報」によると、「道路橋点検要領」による判定の規定の 判定区分において、( Ⅰ: 健全 道路橋の機能に支障が生じていない状態。 Ⅱ: 予防保全段階 道路橋の機能に支障が生じていないが,予防保全の観点か ら措置を講ずることが望ましい状態。 Ⅲ: 早期措置段階 道路橋の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を 講ずべき状態。 Ⅳ: 緊急措置段階 道路橋の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態。)全国の自治体のⅢ評価数は全体の約10%であり、現在の修繕率も30%程度と言う状況にある。

 早急に措置を進めなければならないが、この評価Ⅲの予備群と言われる評価Ⅱは60%程度存在する。本来、今まで目標とされていた「予防保全」はこのⅡに対してどうするかと言う議論であるはずである。しかし、多くの自治体がⅢ評価のものでも対処できないという状況が現実なのである。さらに、自治体間において、どこがⅢが多いという競争的な話も出てきているが、これはおかしな話である。自治体間で、歴史や地形、地理的条件、地元業者の技術力、財政などの確保の状況がそれぞれであり、一概に比較はできないはずであると私は考えている。ましてや、地域の技術力の差は存在し、同じものでも解釈が違っていた。かかわった人間の、技術力や精神の問題で、出来上がる構造物は違っているはずである。なので全国一律と言うわけにはいかない。

 では、なぜ進まないのか? どうすればよいのか? おそらく正解値はないと考えるが、国土強靭化、老朽化対策に如何に取り組むかを考えなければ、ならないのは火を見るよりも明らかであり、国民を危険にさらすことになる。

 インフラのメンテナンスにおいてなぜ修繕が進まないのか?それを考えるために、まず、自治体の抱えている「リスク」と「課題」を考えてみる。マネジメントにおいてよく使われる「ヒト・モノ・カネ」に置き換えてみる。

 (1)カネ ⇒ 財政(予算)

 最大の理由は財政(カネ)の問題である。多くの自治体もこれを、課題として真っ先に上げる。地方自治体の財政は決して潤沢ではない。市民の方々などから、いただいた税金と国からの交付金を原資に、限りある予算を多くの部署で分配し各事業にあてがっている。そのような状況で、現実を直視すると、建設部の中の「維持管理」としての橋梁修繕費で、当該年度内に補修工事が実施できるのは、現在の予算ベースで言えば、せいぜい、10橋から15橋程度ではないか?(富山市の例)

 管理する橋梁が多いか少ないかと言う問題もある。現状で点検と修繕で苦労している現実の中で、架け替えなどの費用も発生することになる。カネの問題とともに、「数」のリスクが大きく、かかわっていることをまず認識する必要がある。数が少なければ少しは救われる。今後は修繕が間に合わず「通行止め」が増加していくこととなる。なので、トリアージを行って、数を減らす努力や、荷重制限などの対処を有効に行うことが重要であったのだが、それができない現実があるし、恐らくもう手遅れである。トリアージがしっかりできていない中で考え方も違い、順番も変わってきている。


通行止めの橋梁、今後増加するであろう


(2)「モノ」⇒対応するための手法や技術

  「モノ」とは、対象物と思われるかもしれないが、対象物はもちろん、マネジメント戦略的に考える「モノ」とは、老朽化対策に必要な、補修技術、補修材料、点検手法であり、手助けをしてくれる外部の委託先(建設会社、コンサル)などに当たると考えている。この「モノ」がどれをとっても、不足しているのが大きなリスクである。

 そして最近は「新技術の導入」と言うことが盛んに言われだした。しかし、この有効性の評価は自治体にとっては荷が重い。核技術に対しコンサルタントなどがきちんと実証評価しているかと言うとそうではない。現状の日本のコンサルに、それを望むのは無理である。やっていないのではなく、無理なのである。開発者は自己満足に近い物であり、「実装のための実証」が不足している。これは公共事業にとっては大きな問題である。早期再劣化や場合によれば事故にもつながり税金の無駄遣いとなっていく。よく、NETISを取得したからと持ってくるがNETISは。「技術登録制度」であり、技術を認証したものでは無い。技術を認証するには「技術審査証明」を取得する必要があることは何度も書いている。民間側がこれを理解できていないのは情けなく、官側が知らないのは犯罪に近い。(言いすぎか?)

(3)ヒト ⇒維持管理への理解
 結局は官も民も勉強不足である。技術に関してはもちろんであるが世の中の仕組みや制度も理解しなければならない。設計法や配筋法、施工時の課題なども大きく影響する。多くの職員をはじめ、建設業者、コンサルタント、一般市民、議員までも、いまだに過去の幻想を追って居る。「造る時代」の思想が深く根付いており、新しいものを造る時代の思考法が捨てきれていない。すでに「造る時代」は終わり、「守る時代」になってきているわけである。縮小社会であり、発展よりも「持続可能性」を求める世の中になってきている。社会資本インフラの整備・管理においては、適切な維持管理レベルを設定し、既存ストックの適正な維持管理・更新に取り組むなど、「選択と集中」の考え方による戦略的な取組みを推進していくこととが重要であるはずである。とにかく、「持ちすぎ」「造りすぎた」のである。しかも脆弱なものを。

 そして最近「国土強靭化」と言う課題も出てきた。誰もが考える通り、健全な構造物でなければ災害での被災は大きなものとなる。我が国の欠点は(イニシャルコスト重視による)脆弱な構造物を作ってきたところに有る。真のライフサイクルコストでの判定ができるような考え方も必要である。結局脆弱な構造物は、極端に言うと人命軽視に当たると思う。この脆弱な構造物を作ってきておいて、長寿命化、予防保全と言うのは何か矛盾している。
 また施工の問題もある。しかし今は言うのはよしておこう。最近の設計ミスや施工不良を見ていれば気が付くはずである。

(4)その他

 自治体において、その実態を体験した中で、課題の一つが、「技術力」である。これは官も民も惨憺たる状況である。いつの間に、我が国の橋梁などの構造物に関する技術力が官も民も失せてしまったのだろうか?かつては、「日本の土木技術は世界最高である」と言うことが言われた。しかし、現在はどうであろうか?

 多くは単語は知っているがその根本は分からないと言うのが本質ではないだろうか? おおざっぱには分かるが、と言うところである。これはこれで、問題は無いと思う。しかし、プロはダメ。民間の技術者は、しっかりした技術教育を組織で受けていないといつまでも中途半端なままである。どうしても教科書には出てこない事項や、世の中の仕組みなど、実社会で教えてもらわないとならないものが有る。これがわからないと、いつの日か失敗する。

 例えば、北陸地方には「ASR」(アルカリシリカ反応)の問題が存在し、これは維持管理において大きな課題である。現在有効な補修材料も補修方法も確認されておらず、これを下手に補修すると再劣化がすぐに起きてしまい、完璧に直すには打ち換えもしくは再構築しか現状ではなく、膨大な予算を必要とする。しかし、職員もコンサルも点検結果において、原因不明なものは安易にASRで済ましてしまう傾向にあり、これは、安易な選択肢であることに気づいていない。結果的にASRであれば、対処はできないに等しい。これも様々な意見があるが、費用対効果の問題もある。

 発注者側の技術力もさることながら民間の技術力は、いかがしたものか?各組織でしっかり技術者教育をしていただくしかない。

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