新しい時代のインフラ・マネジメント考

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2024.07.16

④60%に上る評価Ⅱの橋梁群

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ゴミを減らして世界を変える 土木の人財不足を福祉と共Doで解決

3.リスク低減化への取り組み 

(1) 橋梁マネジメントの立案と実行

 富山市の維持管理の基本方針は平成27年度に策定した、「橋梁マネジメント基本計画」の方針に基づき実行していくものとしている。大きな、今後永遠に続くプロジェクトに対しては、何か基本の根幹となるものが必要であり、それを示したものである。つまり「戦略」である。もちろん、数年に一度はその時の状況を鑑み修正・改定している。造り放なしは良くない。どんどん遅れて行ってしまう。新たに得られた知見などを入れ世の中の儒教も鑑みなければ意味がない。可能な財政の中でのリスクを極力少なくする取り組みである。

 本市が管理する橋梁は、2,300橋あり、その多くが高度経済成長期に集中的に整備され、架設後50年を迎えることから、今後一斉に老朽化の進行が加速することが明らかとなっている。また、明らかに工事当初からの施工不良により、劣化の進行が早まっている例も多々あり、完成検査時の受け入れ検査の厳格化や、精度も含めた意味での品質向上により、少なくとも、新規完成時には、弱点の無い状態であることも、今後重要なことである。このためには設計終了時、工事完了時には「鬼の検査官」が必要である。全体を通した、構想、戦略が必要であると言うことである。

(2) 橋梁トリアージ(何度も書いているので、求められない限りこれを最後とする)

 限られた資源で持続的に橋梁の維持管理・更新に取り組むには、順次、維持修繕や更新を実施するといった、従来の一律の維持管理から転換していく必要がある。

 そのため、橋梁の社会的な重要度やまちづくりの方向性等を踏まえ、機能維持・向上を優先すべき橋梁を明確にする「橋梁トリアージ」を実施し、使用制限や橋梁の機能適正化も視野に入れた、適正な管理区分・管理方針を設定することで、戦略的な維持管理・更新を推進していく。

 老朽化対策は、甘い考えは大きなリスクにつながり、すべてを守るということは不可能であるという事実を見つめなおさないとならない。妄想を追っても、結果は出ない。よほど、管理数が少ないか、潤沢な財政がある自治体は正攻法で可能である。それほどに厳しい状況なのである。

 富山市においては点検結果や補修の実績などから、複数のシミュレーションを数パターン実施しているがどのパターンにおいても厳しい状況である。これを乗り切るには、相当に厳しい状況を覚悟しなければならない。

 安易なポピュリズムによる判断のブレは、大きな損失につながることを意識しなければならないが、自治体の職員においては、これが、大きな課題となるだろうと、感じている。予防保全、長寿命化に関しては条件付きで可能ではあるが、恐らく今後多くの自治体は無理である。そしてこの時代はすでに過ぎた。これは議論ではない。判断であった。その判断ができなっかったのだから仕方がない。

(3) セカンドオピニオンとマネジメントカンファレンス

 点検・診断は、措置の方向性を決定するための重要な業務であるが、点検による損傷度や診断による健全性の評価においてコンサルタントの成果における品質や精度が十分でなく、必要な成果が得られていない状況が明らかである。

 そのため、まず、構造物や業務の難易度によって、委託するコンサルタント等のレベルも分けて考えている。これには、各企業の調査も必要であり、資格要件の明確化や過年度の業務評価も重要となってくる。さらに、実施した点検結果・診断結果に対し、「セカンドオピニオン」として、点検・診断精度を確実に確保していくことを目的に実施している。業務を担当した、職員と業者に加え、他の職員や私が協議に入り全数チェックし、再調査の提案や、詳細調査の判断を実行し、職員の技術力強化のためにも実施している。

 近年、コンサルタントの構造物に対する実力が落ちており、その後の判断を誤らないためのものである。事実これまでに、セカンドオピニオンを実施し、重大損傷を改めて発見し、通行止め等の措置を、実施し安全対策を図っている。また、これにより、地元の、その橋に対する、依存度合いや重要性が見えてくる場合もあり、通行止めの措置も、新たな方針を得るための手法でも有ると考えている。

 診断結果が評価ⅢもしくはⅣの橋梁で、撤去を検討すべき橋梁に関しては、職員の判断の負担軽減のために、「マネジメントカンファレンス」会議と言うものを設定した。個別の橋に関して、第三者の有識者にアドバイス願う仕組みである。


カンファレンス会議での現場視察


 現場の確認も実施し、技術的根拠と社会的根拠で判断を行い、将来の撤去へ向けて、意見を議論している。

 我が国においては、第三者のチェックがあまり行われていない。公平な目で確認することによって、より説得力のある判断材料を示せることになり、職員の負担軽減を目指している。

 橋梁の撤去に関しては、なかなか、市民の理解を得ることは困難であり、感情的になってしまう場合もあるので、冷静な判断と粘り強い説明が必要である。当局側が「撤去」の判断を下しても、実際に実行に移せるのには、非常に時間がかかり、落橋や第三者被害への危険度は増加していくことになる。「セカンドオピニオン」と「マネジメントカンファレンス」は点検精度を上げ、将来の方針を合理的に決定するような手法であると考える。

(4) 先進的技術の採用実証試験(補修オリンピック等)

 今後、点検等の効率化・高度化を実行していくためには、先進技術の検証も重要と考えている。いわゆる新技術の導入である。現在の近接目視の精度を確保しつつ、先進機器を活用した、点検手法も随時実証していく。モニタリングシステムの活用や、3Dレーザースキャナーなど、現在、複数の民間企業等と共同で実証試験を行っており、今後はその評価に入りたい。(補修オリンピック)また、今後の橋梁マネジメントにおいて、新たな技術やノウハウを積極的に取り入れることを目的に、国立研究開発法人土木研究所や、京都大学、大阪大学などと研究協力体制を取っている。

 さらに、今後予想される、財政難においては、民間資金の導入等を目的にした、「維持管理のためのコンソーシアムの確立の検討」などを実施し、PPP/PFIの可能性、維持管理分野における官民連携の可能性の検証、「包括管理導入検討」等も積極的に行っている。

 今一番足りないのは補修技術である。この評価がされていない。本来であれば国などの公的機関が、評価を実施し、自治体が安心して使えるようにしなければならないであろう。これまでのように、安易に採用し早期劣化を起こす技術は会計検査などで、積極的に公表してほしい。

 いまや、NETISが推奨されているが使う側、採用する側とすれば、かつての「技術審査証明」のような、保証が必要である。補修オリンピックをやると申し上げた時に、だいぶ馬鹿にされたが、馬鹿にする前に技術を評価する仕組みを構築する必要が本来あるのだ。しかしこれももはや遅い。


補修オリンピック


(5)技術力とマネジメント力

 これは、官民双方に言えることであるが、構造物などに関する知見と全体を見通しインフラ政策を立案できるマネジメント力、この二つが重要である。最近見ているとどうもこの辺に不安がある。

 結局実際に本格的に、モノを作ったことのない方々が、机上で物事を言っている。知識はあるのかもしれないが見識が無い。絵空事なのである。さらには、マネジメントもしたことのない方々が能書きを言っている。これも残念だ。

 自分に見識が無いとこれらを信じてしまいかねない。個々が私が最も危険視するところである。

私たちがもとめるもの それは豊かな未来を支える確かな技術です。 never-ending challenge キレイに、未来へ

4.将来への布石

 富山市において、インフラのメンテナンスを考えてきたが、課題は大きい。最も不足しているのは、人材と財源であろう。この問題は、全国共通の課題であるが、目をつぶってきたと言う事実がある。

 措置のための判断が下せることが自治体の技術職員にとって今後重要となってくると考えている。そして、修繕だけではなく、架け替えや撤去を行っていく必要がある。この判断ができる職員を育て上げる必要がある。

 そのためには、今まで以上に、インハウスエンジニアの人材育成が必須である。的確な判断ができるインハウスの技術者教育と技術継承が必要となってくるのではないだろうか。とはいえ、長年の「造る時代」の慣習の中で、新たな考え、新たな取り組みをしていくのは、非常に困難である。 自治体の場合、知らず知らずのうちに「消耗戦」としてしまえば、すぐに財政破綻への道をたどることになる。インハウスエンジニアを育成する必要を強く感じ、「植野塾」と称し、若手技術職員を中心にした、意識改革のための勉強会を、月1回ペースで開催し、60回以上実施してきた。「人財(あえて材ではなく)こそ持続可能な自治体を支えることが可能である。」将来に期待したい。

 1つ疑問に思うのは、モニタリングの重要性があまり認識されていないことである。管理者は文字通り管理責任がある。修繕できないのであれば監視することも考えなければならない。最悪何か問題が起きた時に、何もしていなかったのと「監視していた」と言うのでは罪の重さが変わる。もっと、モニタリングシステムを導入すべきであると考えている。

 そのような考えから、今年度から(一社)国際建造物保全技術協会の技術委員会の下に「モニタリング部会」を設置し、興味のある会員企業を集め、検討を開始している。モニタリングに関する研究会などは複数あるが、自治体等で設置できるような、簡素で安価なモニタリングシステムの検討を実施している。次に、補修材料、補修技術そのものの部会も設置予定であり、実際の補修に関する技術の啓蒙に役立てたいと考えている。


初期不良はどうする?


 しかし人材の育成は難しい。簡単ではない。世の中でいろいろ言われているが「やってから言え」。

5.まとめ

 トリアージとは将来くるべき厳しい社会を示したものであった。甘い考えでは、対応できない。「ゆっくり時間をかけて」とは言うが、財政的にそんな余裕は無いであろう。私が言い始めて10年たってしまった。官側が悪者になる覚悟が必要である。使命と責任において。どっちみち悪く言われるのだから。

 インフラメンテナンスは点検・診断を、単純にやればよいというものではない。しかし、「やった感」を出すには点検を実施したということも重要であるがそれで終わってはいけない。劣化原因を検証するのは簡単ではなく、様々な要素が絡み合っている。幅広い高度な知見と判断力が要求される。インフラメンテナンスにかかわる技術者の価値の見せ時である。構造物の基本、設計の考え方、現場の状況判断さらには、非破壊検査技術や解析技術も理解していなければならないし、モニタリング技術などのセンサー技術への理解も重要である。

  検を的確に行い、診断をし、有効な管理法を導き出すためには、本来は、設計、製作、施工、材料、維持管理、非破壊検査技術、架設、撤去等の幅広い経験と知識が必要である。しかし、現在は官も民も促成された技術者が、かかわっている。これは、技術の継承と教育が十分でないからである。掘り下げると、技術者教育に有る。これではよい成果は出ない。まずは、構造物の基本は、わかっていないと、事故を起こす可能性も高いことも最後に述べておく。
新技術の導入やDX、AI等、技術者の道具となる技術も進歩していくが、その運用法や判断は技術者がしなければならない。そして、管理するインフラ全体を俯瞰的に長期的にどうしていくかと言う、マネジメント技術も必須である。

妙に細かいことを言う技術者が居るかと思えば、マネジメントを連呼する者もいる。そういう方々は似非技術者である場合が多い。コンサルタントは、役割は何なのか再認識すべきである。「顧客の課題解決」なのである。発注者ではないし意思決定者でもない。だからといって卑屈になる必要はないが、相手がわかるように説明しないといけない。相手のレベルが低ければそれに合わせて、そこそこであればそこそこの説明を行い、意識を共有できてこそ課題解決ができる、はずである。このへんは、研究者とはまた違うはずであるが、それが同も理解できていない方々が居る。

 協議などで話していると「この人は研究者にあこがれているな。」と思う時が有る。それはそれで結構なのだが立場と責任が違うことをわきまえないと、問題である。研究者にあこがれるならば、そうなる努力をしてなってから好きなことを言えばよい。

 最近、いくつかの自治体の様子を見て話をしていると、何等かの工夫をして対処しているのがわかる。これは大事なことだ。しかし、何もしていないところがあるのも事実。さらには、コンサルなどの言いなりでやっているところも感じられる。的を得ていれば問題は無いがそうでもない場合も見受けられる。よくよく考え、自分たちは何をやるのか? を十分考えて実行しなければすべてが徒労と散財で終わる。いわゆる税金の無駄遣い。今後、「包括管理や群管理」などが推奨され進めていくと、そういうところが出てくる。自分たちの課題は自分たちで解決しなければならない。そして、信頼のできるアドバイザーを味方につけることである。それも、自分たちで選んで決めなければならない。

 インフラマネジメントを行うには構造物に関する知見は必須である。これがある程度ないと、物事は進まないし判断を誤る。官庁の方はもちろん、民間のコンサルにおいてもそれは顕著である。ここで矛盾しているのが、インフラマネジメントの話をしていると、「技術」に関しては語る人たちが多い。しかし、長期の視点がない。これはマネジメントではない。比較的現状は分かりやすいが将来を予測しなければならないのだ。長期にわたるリスク分析も重要である。よくLCCの議論がある。しかし、ほとんどが「帯に短し、たすきに長し」。完ぺきなLCCの算出を見たことが無い。

 酷いものになると鋼構造物のペンキの塗り替えコストで、RCやPCに決まっている。それは当たり前だ。わざわざ算出する必要はない。こういう時代になれば維持管理や、撤去、リサイクルまで考慮すべきである。

 ここで一つ言っておきたいのは、地方へ行くとやたらRCやPCの橋梁が多い。これがなぜそうなっているのかは、わかってはいるが、あえて言わないようにしよう。撤去やリサイクルは大変だと思い気の毒である。

 インフラマネジメントにおいて、的外れな検討やマニュアル作りをいくら行っても解決はしない。まあ、何もしないよりはその過程での議論は参考になるだろうしかし。「目的」と「目標」を示さなければ意味がないことを理解しなければならない。やってる感を出せばよいと言う考えは、これからの厳しい世の中では通用しないであろう。(次回は8月16日に掲載予定です)

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