コンクリート打設は失敗から学ぶ

コンクリート打設は失敗から学ぶ
2024.09.10

③寒冷地の現場

Tag
コンクリート打設は失敗から学ぶ 生産性向上 維持管理
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低騒音・低振動コンクリートはつり装置 AUTOCHIPPER Build the Culture 人がつくる、人でつくる
>平瀬 真幸氏

株式会社ファインテクノ
コンクリート品質改善部
部長

平瀬 真幸

はじめに

 私は田舎で育ちましたので、子供の頃は未舗装の砂利道が多くそうした道路の多くは凸凹だらけで雨が降ると水たまりとなりました。さらに道路は狭く曲がりくねっていましたので、今にして思うと車で走るには大変だったと思います。そうした環境で育ちましたので、舗装された道路の有難さは身にしみており感謝が尽きません。子供の頃、新しい道路工事が始まると「いつ完成するのだろう」と楽しみで、現場を通る際、進捗や施工状況を見学していましたので、現場関係者に近づかないよう注意される事も度々でした。

 学区内または周辺で、砂利道がアスファルトで舗設された、新しい路線が開通したと聞くと友達と自転車で確認に出向き、走りやすさを体感しつつ羨ましく感じたことは今も憶えております。道路が新設される、または舗装される事が少年時代にどれだけ嬉しい出来事だったか、そうした気持ちを共有できる世代は私より上の世代であるほど、そして中央から遠く予算が少ない地域であるほどに強く共感いただけると思います。

 そうした幼少時代を経験しておりますので、当然インフラに対する有難さや重要性の認識もそれなりです。

 私は子供の頃から現場をよく見る方でしたが、加えて学生時代の恩師から、「造られたモノがどのように壊れていくのか、原因を理解した上で設計から施工までを考えなさい。」と教えられました。携わった現場において、建設時はもちろんですが経年変化について可能な範囲で確認するように心がけています。また、そうした現場に加えて、気になる構造物を見つけては車を止めて確認、可能な限り追跡するようにしております。そこで今回は、寒冷地の現場を回った一部について、関係者以外に特定されにくいよう紹介したいと思います。

高耐久・塩害に強い塗装により長期防食が可能な補修塗装 コンクリートを”はつる” 短支間の橋おまかせください

寒冷地の現場をめぐる

 (写真-1)(写真-2)においては錆び汁が確認できるかと思います


(写真-1)全景 / (写真-2)正面中段


 (写真-2)を拡大したものが(写真-3)です。


(写真-3)シャブコンの横流し痕の打重ね線(赤線)


 少しの遠近や角度の違いで印象が変わる事、初期欠陥の見え方も大きく違う事を理解いただけると思います。写真でも印象が随分違いますが、実際現場へ行くとさらに良く分ります。(写真-3)の打重ね線においては緩やかな傾斜で打重ね線が残っております。

 この駆体には残留気泡(写真-4)が多く、雨上がりで濡れた箇所の乾きが遅い(写真-4)のでコンクリートには空隙が多いと推測でき、施工時の締固め時間は5秒以下相当と考えて良いと思いますが、こうした緩やかな打重ね線を見ますと使われたコンクリートはスランプ12cm程度か上限要求もしくは加水しており、JIS規格外の疑いもあります。こうした推測は、現場でスランプ試験を確認し、実際の締固め状況を観察、脱枠状況をつぶさに見ていれば感覚的に分ってくるかと思いますので、そうした視点で現場を監督していきますと経験値は高くなると思います。知識は机上でかなりの高いレベルまで習得可能と思いますが、技術力は現場経験が不可欠ですので私は可能な限り現場へいくように心がけております。


(写真-4)端部にブリーディング集積、残留気泡が多く水を吸収し乾きが遅い


 (写真-3)で横流した痕跡を指摘しましたが、軟らかいコンクリ-トは比重の軽いモルタル成分が駆体の端に流れて集積されやすいので、そうした部分は強度も極端に低くなりやすく、物質移動抵抗性も同様に悪い傾向となり、加えて水を吸収しやすく乾きにくい(写真-4)ので劣化因子も侵入しやすく時間と共に壊れやすいと思います。そうした脆弱なブリーディング層が打重ね線として残ると横割れに進展(写真-5)する可能性が高いので、流動性の高いコンクリートにおいては材料分離させないような配慮が不可欠です。


(写真-5)打重ね線がひび割れ(赤線)に進展


 次に、ブリーディングが集積される天端や駆体の端において、そうした所に水がかかった場合、寒冷地でどのような損傷が生じていたか紹介します。(写真-6、7、8、9)においても濡れたコンクリートが乾きにくい状況、そして錆び汁や剥落が確認できます。この地域の過去の最低気温はマイナス25℃程度の記録があるようです。そうした環境下でブリーディングが集積して固まっている脆弱部に水が浸入し凍結融解を受けて損傷しております。


(写真-6)正面中段天端付近 ブリーディング跡が剥落


 (写真-6)ではブリーディングの部分に水が浸入し凍結融解の作用で剥落したと推測しております。(写真-7、8、9)は同様にブリーディングの影響ですが、(写真-3)の山なりになった打重ね線で分るように、駆体中心部に筒先を挿入し、高スランプコンクリートを横流ししているため、端部のブリーディングは水セメント比が高くなって強度が低い脆弱層に見えますので、コンクリートの空隙体積も大きく吸収した水の体積も大きくなるので、劣化損傷は施工時に起因しているかと思います。


(写真-7)端の損傷1 / (写真-8)端の損傷2

(写真-9)端の損傷3

コンクリート標準示方書の記載の理解も遵守もせず、悪い意味で逸脱

 こうした粗雑な駆体で共通しているのは、施工を直接見た訳ではありませんが、コンクリート標準示方書の記載の理解も遵守もせず、悪い意味で逸脱している事は間違いありません。

 少なくとも言えるのは、コンクリートが不当に軟らかいまたはJIS規格外、施工においてはコンクリートの横流し、ブリーディングを捨てていない、振動時間が短い、振動間隔が守られていない、再振動を実施していない、天端仕上げが粗雑なのは間違いないと思います。そもそも、技術力が低くても、基本事項を守るだけでこうした不具合が起きる訳がありません。

 施工が未熟な事と手抜き工事では、両者は似たように見えますが全く違います。紹介した現場は手抜き工事ですが、もし、手抜きではなく施工が未熟な技術者が一生懸命に取組めば、打重ね線は並行であり、ブリーディングの集積はあり得ず、仕上がりは似て非なるモノとなるのですが、そうした事が現場で観察され、原因を推測でき、対応を指示できる技術者が少ないのでこうした劣悪な駆体が出てくるのだと思います。

 こうした初期欠陥は、関係者に悪意がある訳ではなく、全プレイヤーが多忙を極め、現場へ出る時間も限られ、書類に追われ、立会は遠隔臨場で済ませてしまうくらいですので必然で、今後さらに技術力低下は加速するのは間違いないと思います。我が国のインフラは世界最先端の技術が多くあるかと思いますが、コンクリートの施工に限っては途上国と大差がないのだろうと想像しております。

 何故そのように思うのかについての根拠ですが、コンクリートの耐久性に関わる密実なコンクリートとするような施工現場や技術者の言葉を見聞きする事がないこと、私の知る限りで、ほとんどが高スランプコンクリートで白く綺麗にする程度にとどまっているからです。対して途上国の技術者は、私が少年時代に感じたインフラの大切さを感じつつ、人手をかける事も可能で、もし施工の善し悪しでコンクリートの寿命が大きく変わる事を知ればそれなりの対応をすると考えるからです。

 そうした事を尊敬する技術者、富山市政策参与の植野芳彦さんに意見を聞いていただいた事があるのですが、植野さんが「途上国の官僚から言われた質問として、

 途上国官僚:「日本の国の支援はありがたいことだが、橋梁の寿命が短すぎる。欧米は50年たっても健全だが日本の橋は50年もたない。なぜなのか?」

 植野さん:「その現物を見てないので何とも言えないが、ヨーロッパの橋など構造物は、かなりの長期間を想定し、設計、施工し管理していくという長スパンでの志向が昔からできているが、日本では、イニシャルコストさえ安ければよいという設計思想の場合が多いからなのではないだろうか?つまり、薄ぺらな脆弱な品質の悪いものを作っているからということではないか。」
というやり取りをしたそうです。

 基本的に支援をしてもらう途上国からそうした質問があるという事は、我が国のコンクリートの耐久性は欧米ほどに信用されていないと私は感じました。

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