識者連載
高専発、インフラメンテナンス人材育成・KOSEN-REIM(高専レイム)の挑戦
~実施している人材育成講習会の紹介 その2~
舞鶴高専のiMecおよび文科省事業により2019年~2023年の5年間で構築した人材育成システムについて、前回は図-1の右側に示す最上位の橋梁診断とそれに必要な4つの専門特修講座について紹介しました。今回は、図-1の左上側の橋梁点検技術者育成課程と、橋梁以外の講座について紹介したいと思います。
まずは、橋梁点検に係る講座として、導入編、基礎編、応用編の3段階のステップアップ型講習会があります。導入編は、基礎編を受講する際の知識の凸凹を解消するために橋梁点検の基礎知識を学ぶ内容で、eラーニングのみの講座となっており、受講が必須ではなく希望者のみ受講してもらっています。
【図-1 KOSEN-REIM事業で実施している橋梁メンテナンスのステップアップ型講習会】
【写真-2 導入編受講の様子、この導入編のみ受講者の自主判断での受講となり、eラーニングのみで完結します。】
基礎編は、橋梁点検に必要な知識と経験を学修してもらう講座です。対面講座では、対象を桁橋に絞って、コンクリート橋と鋼橋の維持管理について座学+フィールドワーク+グループワークによって事前学習で修得した知識の定着と点検に必要な技能を修得してもらいます。高専の学生(4年生以上)、自治体職員の方はもちろん、異分野から参入している点検員や、点検調書の整理・作成を行っている内業の方、点検車両やドローンのオぺレータなど様々な立場の方に広く受講してもらっています。基礎編の学修到達度確認試験に合格すると「准橋梁点検技術者」として認定され、これが次のステップの応用編を受講するための資格となります。
【写真-3 基礎編受講の様子、社会人枠に余裕がある場合は学生を混入させて講習会を実施しています。この時は私の研究室の学生が社会人に混ざって受講しました。】
応用編は、基礎編の合格と1年以上の橋梁に関する実務経験のある方に受講資格があります。基礎編の桁橋に加えて、トラス橋、アーチ橋、吊橋、斜張橋などの橋梁も点検対象とできる知識の獲得と、点検調書作成(損傷図の作成、所定の様式作成、点検調書のプレゼン)能力を修得できる内容になっています。到達度確認は、選択式問題、記述式問題と作成した点検調書の3項目について採点を行い、合格者には「橋梁点検技術者」として認定を行います。高専機構が発行する「橋梁点検技術者」は国土交通省の民間認定資格、橋梁点検の鋼橋&コンクリート橋(品確技資第170号、183号)が付与されます。この応用編の合格によって、次のステップである診断編の受験資格を獲得できます。
【写真-4 応用編の様子、応用編は実践的な点検調書の作成を課しているため、直轄国道の橋梁点検を長年実施している実務家教員を招聘して講習会を開催しています。】
以上の橋梁点検に係る講座の他に、「コンクリートの品質管理」と「地盤と斜面」の講座を実施しています。コンクリートの品質管理では、コンクリ―トの構成材料、フレッシュコンクリートの物性、硬化コンクリートの物性、初期欠陥の事前学修を受講したうえで、対面の実習では品質管理の学修、墨だし、鉄筋組立、型枠組立、打設、脱型までを4日間かけて実施します。学生、自治体職員、コンサルタント、点検技術者などコンクリートの打設経験の無い方に受講していただいています。点検対象のコンクリート構造物がどのような段取りで形作られていくのかを体験できる貴重な講習会となっています。
【写真-5 コンクリートの品質管理の様子、写真は舞鶴高専の学生が参加したときの様子。授業で開講しているコンクリート材料実験でもここまではしていないため、学生には好評。】
地盤と斜面の講習会は、地元の自治体からの強い希望があったため、岐阜大学の沢田和秀教授にお願いして開講しています。地盤と斜面では、斜面安定の基礎、京都府北部の地質・地形、斜面防災、道路のり面工・土工構造物調査要領などの事前学修を踏まえ、対面講習会では、土質工学、地質・地形、斜面防災に係る構造物などの座学の後、現場研修(グランドアンカー、落石防護柵、急傾斜地崩壊施設、表層崩壊箇所)を行いワークショップとプレゼンテーションを実施します。さらに、福知山市で実際に発災した地すべり事象を教材に緊急対応、現地確認、調査項目と観測機器の選定などの演習を実施します。
【写真-6 地盤と斜面の様子、この講習会では、岐阜大学のメンテナンスエキスパート(ME)の斜面部会の皆さんに座学・現場実習の講師をお願いしています。】
以上、多数の講習会を準備しております。いずれも10名程度以下の少人数制で講師から隠れることの出来ない状況での受講となり、受講生は主体性を持って講習会に参画してくれています。5高専とも同様なのですが、舞鶴高専の場合は、京都府北部社会基盤メンテナンス推進協議会を開催し、地域の自治体や業界団体の皆様からのニーズを集約した結果を基に講習会の企画や開発を進めてきました。今後も地域における新しい課題に応じた人材育成のコンテンツを継続的に開発していきたいと考えています。